第二章 召喚獣のざわわな夏休み。〈8〉
よしんば、アレストリーナ姫の抱いたモッケイモンキーがグラゴダダンの召喚獣だったとしても、アレストリーナ姫がグラゴダダンへモッケイモンキーをかえすことはあるまい。
召喚師が召喚獣を力づくでしたがわせることは決してできない。
召喚獣を手にした召喚師がまずはじめにやらなければならないことは、愛情をもって召喚獣との信頼関係を築くことである。
街の中でもA~B級召喚獣を2体つれて歩くことができるのは、召喚師と召喚獣とが一緒にいる時間を長くつくることで信頼関係を強固にすることが目的だからだ(逆に云うと、オレがB級召喚獣なのは、アレストリーナ姫を信用していないからだと云えよう)。
おそらくは、あたえるエサの質と量で懐柔したC級召喚獣ランスリカオンを使役して、か弱いB級召喚獣を追いまわすグラゴダダンの非道をアレストリーナ姫は許せないのだ。
ふつうのB級召喚獣なら、どれほどアレストリーナ姫の豊満でやわらかな胸の感触が心地よくても、自分の召喚師のところへ還るはずだ。
しかし、グラゴダダンの姿を目にしたモッケイモンキーは、ことさらにおびえてアレストリーナ姫へすがりついている。
モッケイモンキーがグラゴダダンを「我が飼主」と認めていないことの証左である。なおさらグラゴダダンへモッケイモンキーをわたすことはあるまい。
「どうしたっちゃ、グラゴダダン殿下? まっとうな申し開きができないのなら、ウチとしては不本意だっちゃが、おまえを拘束してしかるべきところへひきわたすことになるっちゃけど?」
……このバカ姫さま! 相手の逃げ場をなくしてどうする!? こう云う時は相手に逃げ場をあたえて、こちらに優位な落としどころで折衝するのが駆けひきの基本だろがいっ!?
(今日のところはおとなしくひき下がれば不問にふす)
とでも云えば、これ以上ことをあらだてずに済んだのに、これじゃあ逆ギレ、窮鼠、猫を噛むのパターンにおちいりかねんぞ。
……と思っていたら、案の定そうなった。
「召喚ッ! いでよ、クンネドラゴン!」
このままではグラゴードリス皇国の面汚し恥さらしとなり下がるグラゴダダンがやけくそ気味に吼えて、まさかのG級召喚獣を召喚した。
アホのグラゴダダン殿下はこの場の召喚獣戦闘に勝利し、アレストリーナ姫のプライドを打ち砕くことで、ここでの一部始終をなかったことにするつもりのようだ。
〈ヴァーデルンの屈辱〉で汚点をのこしたアレストリーナ姫が、非公然の召喚獣戦闘での敗北を自ら吹聴するはずもないと高をくくったらしい。まるっとゲスな発想である。
しかし、アレストリーナ姫の使役するF級召喚獣サンドロバルバドスは、グラゴダダンの召喚したG級召喚獣クンネドラゴン同様、体長5mのドラゴンであり、人間召喚獣である。
サンドロバルバドスは敵のクンネドラゴン召喚のタイミングにあわせてサンドロレーザーを照射した。高出力レーザー光線だ。
一撃でクンネドラゴンを戦闘不能させることはムリでも、半分以上のライフポイントをうばうことはできる。
決まったか!? と期待したが、相手は腐ってもG級召喚獣である。野生の勘でサンドロバルバドスの攻撃をかわし、直撃をさけた。
そうは云っても、無警戒な召喚直後に頭部右半分を高出力のレーザー光線で灼かれたクンネドラゴンが無事で済むはずもなく、ぐらりと左側の壁面へよろめいた。
間髪入れず突進したサンドロバルバドスがクンネドラゴンとがっぷり四つに組んだ。クンネドラゴンのあごと首を自分の肩で固定して、口から炎やレーザー光線をだせないようブロックしている。
ふつうの召喚獣戦闘でドラゴン同士のとっ組みあいなぞ見る機会はない。怪獣映画でしか見たことがないようなスゴイ迫力である。こんな時に云うのもなんだが、召喚獣戦闘に新競技「ドラゴン相撲」を提案したいところだ。
クンネドラゴンがサンドロバルバドスをひきはがそうともがくが、逆にサンドロバルバドスはクンネドラゴンの足をひっかけて相手を床へ押し倒した。タックルからグランドにもちこむ総合格闘家のような技のキレである。
ブラボーッ! と快哉をさけびたいところだったが、オレとグラゴダダンは別の意味でさけんだ。
からみあうドラゴンたちの巨体がオレたちのいる方へ向かって倒れてきたからだ。
オレは床面すれすれをとんでかわし、グラゴダダンは自分のでてきた細い路地へとびこんだ。
召喚獣戦闘関連施設は呪術的防御がほどこされているため、地下迷宮が召喚獣の攻撃でくずれることはないと云うが、すごい衝撃でパラパラと砂煙が舞った。……ホントに大丈夫か!?
「……がるるっ?」
グランドへもちこみマウントポジションをとったはずのサンドロバルバドスが砂煙の中でいぶかしんだ。
ぼんやりとともる光は召喚獣が戦闘不能あるいは帰還する時のものだ。あの程度の攻撃で戦闘不能することはないはずなので、グラゴダダンが意図的にクンネドラゴンを帰還させたと考えるのが妥当だ。
「しまった! 逃げられたっちゃ!」
アレストリーナ姫がほぞを噛んだ。細い路地へ逃げられては使役できる召喚獣が制限されてしまう。
グラゴダダンは最初から召喚獣戦闘でアレストリーナ姫を打ち負かすことより、逃げる機会をうかがっていたと云うことだ。……卑怯者はどこまでも考えることがセコイ。




