VE1-4 シャイタンを倒す方法は?
ガリナムⅡに搭載する砲は、200mmレールガンらしい。
それでも艦長のメイデンさんは口径が小さくなる事に反対しているようだ。攻撃力では比較にならないと思うんだけど、やはり大砲は大きい方が良いのだろうか?
『マスターは、半ばあきらめてますよ。大口径砲にはそれだけのメリットもあるんです』
アリスお姉様もあきらめてるみたいだな。ついでにヨルムンガンドの振動抑制の対策を教えて貰ったら、ものの数秒で制御プログラムを修正してくれた。
予測制御アルゴリズムの変更と言っていたけど、私にはまだそこまでの知識が無い。ウエリントン学府の通信教育ではそんな制御方式について教えて貰っていなかったし……。
『通信教育が全て済んだら、私が個別指導してあげます。ヨルムンガンドはシグが全てを制御出来るんですから、頑張るんですよ』
アリス姉様はいつでも私達にやさしくしてくれる。小さく頷いて姉様に答えた。
私達は窓際にあるソファーに移動していた。そのソファーは丸くベンチシートが作られているから、10人程度はいつでも座れる。
片側にリオ様とその幕僚が座り、丸い小さなテーブルを隔てて、私の両側にフェダーン様とヒルダ様が座っているのだが、たまに国王達が状況を確認しにやってくる。
いつも丁寧にリオ様が説明しているけど、リオ様と国王の立場は同等と言うことらしい。
「なるほど、状況が分りそうなのは深夜ということだな。此方も1つ朗報があるぞ。エルトニア王国から電磁力学の重鎮がやってくる。カテリナ博士とはあまり仲が良くはないが、リオには必要になるだろうと思ってな」
「問題もありそうですが、この状況ですからね」
そんな話をしながら時間だけが過ぎて行く。
夕食を取り、皆で軽い飲み物を飲んでいるが、これから作戦が始まるのに大丈夫なんだろうか? 1人ジュースを飲みながらテーブルの面々を眺めてしまった。
リオ様が何かに気付いて、仮想スクリーンを開いた。
指向性の通信を誰かとしているみたいだが、うんうんと頷いているだけで通信内容はうかがい知れない。
「大至急実行してください。第2次投下は明日の1000時でお願いします。第3次は2100時ですか……。了解です」
そう、指示を出すと、リオ様は通信を切って私達の顔を眺めた。
「振動センサーを100個投下するそうです。直径2千km範囲ですから。最初はかなり雑になりますが、明日も2回投下するそうですからそれなりの効果が期待できそうです」
50kg爆弾の信管と炸薬を抜いて振動センサーとGPSを組み込んだらしい。高速艇から投下された爆弾は地中2m程まで潜るらしいから、そこで周囲の振動を捉えることになる。
「上手く行くのでしょうか?」
「でないと困ります。かなりの大物ですから、地中を進むのに振動を起こさないわけはありません。動いてくれれば検知出来ますよ」
2時間程過ぎたところで、仮想スクリーンに表示された進入禁止区域に沢山の緑の輝点が現れた。
ラウンドクルーザーが破壊された地域の周辺に半数ほどが集中して、100km程距離を隔てて円を描くように振動センサーが落とされたようだ。
「これで、待つことになります。新たに明日投下するのは、この円周状に投下された外側に投下します。俺達が監視していますから休んでください。明日は色々と分ってきますよ」
・・・ ◇ ・・・
翌日。朝食を終えた私達は、VIPルームにフェダーン様と向かった。レモンさんは操船ブリッジで待機すると言っていたけど、今の機動要塞は時速数kmで移動しているだけだから、フェダーン様が無理やり連れて来てる。お姉さんが苦手なのかな?
リビングの大きなテーブルには、昨日と同じ場所にリオ様達が座っていた。
窓のブラインドを下ろして、仮想スクリーンを窓に大きく展開している。その画像をジッと見ている。
「マクシミリアン将軍旗下の、長距離高速爆撃機が予定のコースで接近してる。投下時間は1000時で変更ないよ」
「了解だ。後、10分ってことだな」
ドロシー姉様の言葉にリオ様が頷いている。
いよいよ、シャイタンの現在地が分かるかも知れない。
リオ様の見つめる仮想スクリーンには、ラウンドクルーザー襲撃地点を基準に16方位に基準線が引かれている。また、100kmごとに円が描かれているから、この映像を見ながらこれからの作戦を考えるのだろう。
昨夜、投下された振動センサーは100kmの円周状に配置されているようだ。50km地点にも何個か投下されている。
振動センサの表示は黄色の輝点で表示されている。
ドロシー姉様が1000時を告げると、黄色の輝点が襲撃地点から200kmの円周状に広がっていった。
「2回目の振動センサー投下終了。リバイアサンの通信回線を一部使って、全ての振動センサーをリアルタイムで解析出来るよ」
「3回目は500km付近にばら撒きたいな。まだ回線の裕度はあるんだろ?」
「単純だから、後、2千個ぐらいばら撒いても大丈夫」
リバイアサンの電脳はある意味補助電脳を数個組み合わせて作られているらしい。それらの電脳の上位に立つ演算システムとしてドロシー姉様がいるのだ。この場にいながら、ヴィオラ騎士団の全ての動きを知るぐらいは簡単みたい。
私も、おなじようなところがあるけど、ヨルムンガンドの全てを統率出来るだけだから、性能差は歴然としている。
「さて、炙り出してみますか。シグちゃん偵察用円盤機を発進させてくれないか? 場所は、ポイントゼロを起点に50km地点で良いだろう。ドロシーはオルカを100km地点に配置してくれ。最後にフレイヤは予定通り、ポイントゼロに1t爆弾を投下だ」
フレイヤさんが席を立って、足早に部屋を出て行く。
私は指示通りに通信室にメールを送り、偵察用円盤機を発進させることにした。
「それで、爆弾投下はいつごろに?」
「予定では1030時になります。バンカーバスターですから、地中20mで爆発します。それで相手が動いてくれれば良いんですけど……」
数分後に北に向かって偵察用円盤機とオルカが飛び立った。オルカは本来宇宙空間用の鉱石採掘支援艦らしいけど、反重力装置が強化されているから、大気圏内でも使用出来るらしい。
少し遅れて、偵察部隊の後を追っているのがフレイヤさんの愛機であるパンジーなんだろう。大型爆弾を搭載でき、40mm滑腔砲は爆轟カートリッジだ。中型巨獣なら単機で倒せるだろう。
そんな私達に紅茶が配られる。レモンさんもライム姉様達のお手伝いをしている。リオ様だけは大きなマグカップに砂糖たっぷりのコーヒーが渡されている。
「後、数分ですね。ゆっくり待ちましょう」
リオ様はタバコに火を点けた。そんなリオ様を見てフェダーン様もタバコを取り出している。
『マスター、カテリナ様から評価結果の報告書が届いています』
「ありがとう。仮想スクリーンに表示してくれ」
ドロシー姉様が端末を操作すると新たな仮想スクリーンが表示される。
文章が長々と続いているが、リオ様が拡大表示したのは評価の一覧表だった。
「アリスのライフルで撃ち出しても50cmは貫けないか……」
『同一材質の重ガルナマル鋼弾芯でさえ、40cmが限度のようです。戦艦の20cmレールガンならば1mに達したということは……』
「戦艦クラスってことになるな。リバイアサンの小惑星破砕機では?」
『2m近く溶融出来ます。戦艦、リバイアサンどちらにしても機動力が不足しています』
リオ様が考え込み始めた。
「パンジーより入電。準備完了。爆弾を投下するそうです」
「さて、どこにいるかだな……」
仮想スクリーンから表が消えて、パンジーからの撮影画像に切り替わる。
すでに爆弾が投下されたらしく、地表に向かって小さくなっていく爆弾が映し出されていた。
次の瞬間、地表に大きな爆煙が上がる。土砂も広範囲に吹き飛ばされているようだ。
「ドロシー、どうだ?」
「解析中……、この辺りかも!」
大きなスクリーンの一角が赤く点滅した。大きさは10km四方もありそうだ。
「もう少し絞りたいな。フレイヤに予想地点を再度爆撃して貰おうか」
「了解しました。連絡をメールで発信……。リバイアサンに戻って爆装後に出撃するそうです。監視している円盤機並びにオルカは現状カ所で待機を指示しました」
「それなら、このシャイタンの推定位置を重点監視して貰いたいな」
「了解です!」
リオ様と2人離れた場所に座っているドロシー姉様がシャイタンの位置を更に絞り込もうとしている。
そんなところに、フェダーン様の副官であるカディスさんが1人の男性と共にリビングに入って来た。
フェダーン様に軽く挨拶をすると、テーブルの端の席にカディスさんが案内する。
「リオ様。エルトニア国王が召喚した、ガウシャン博士です。専門は電磁力学でしたね」
「いかにもそうだが、この部屋に行けば召喚理由が分かると言うだけで、他には何も聞かされておらん。いったいこの老いぼれに何の用だ?」
研究途中で呼び出されたんだろうか? あまり機嫌が良くないみたい。
そんな博士をジッとリオ様が見ていた。
「リオと言う騎士です。俺の疑問に答えられるのは、博士だけではないかと……。これを見てください」
先ほどの表が仮想スクリーンに表示される。
「これは……。レールガンの性能と言うところか。標的を重ガルナマル鋼としたのでは、こんな物だろう。戦艦のレールガンは分かるが、小口径のレールガンは……、まさか戦姫! 最後の小惑星破砕機と言うのがどのようなものか分からんが、かなりの兵器だな」
「戦姫のレールガンでは不足です。かといって戦艦は動きが鈍すぎますし、小惑星破砕機は荷電粒子砲ですから、制約がありすぎます。これらを踏まえて疑問が1つ。破壊力は、質量に比例し、速度の2乗にも比例します。レールガンで、厚さ1mの重ガルナマル鋼を撃ち抜く事は可能なんでしょうか?」
ガウシャン博士がおもしろいものでも見るように、リオ様を見て微笑んでいる。
他の面々は興味深く2人の顔を見比べていた。
「はい・いいえと言う答えで良いなら、はいと答えるぞ。可能ではある。だが、かなりの問題もあるのだ。リオが聞きたいのはたぶんその問題という事になるだろうな」
博士の言葉にリオ様が大きく頷いた。
何となく、出来の良い生徒を手に入れた先生のような表情をして博士がリオ様を見つめている。最初の憮然としていた表情がいつの間にか消えていた。




