表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
207/217

V-207 それなら太陽へ


 リバイアサンの展望デッキよりも遥かに強い重力だ。地上の重力に近いんじゃないかな? この重力を得るために、第2惑星の捕獲ターミナルにある管理局の居住エリアはかなりの速度で回転しているようだ。


 第2惑星の管理局管理官であるミレーネさんに連絡を入れて、急きょこの会議室で会談という事になったのだが、かなり下出に出ているな。ちょっときついことを言ったり、実行したりしたから、どんな出迎えを受けるかと思っていたがいささか拍子抜けの感じだ。


 丸いテーブルを囲んだのは俺とミレーネさん。それに初めて見る初老の男性と、20代後半に見える女性が一緒だ。


「わしは、この恒星系の航路を管理している管理局の理事の1人ハインドという者だ。こちらは恒星間航路の管理をしているジェネス女史。だいぶ派手にやったようだな」

「失礼して、タバコはよろしいですか?」


 ミレーネさんが席を立ち、入り口近くの小さなチェストから灰皿を運んできた。

 早速、タバコに火を点けるとハインドさんもパイプを取り出した。


「管理局でもあまり知る者はいないが、かつて惑星探査用に色々な機体が開発された。戦姫もその一つ。5型まで作られたようだ。地上の戦姫は3型、我らの戦姫は4型だが、それは量産型のシリーズの呼び方でしかない。5型だと思っていたが、まさか先行試作型であったとはな……。4型では歯も立たずに散って行ったろう」

「先行試作型はどれ位作られたんですか?」

「まったく分からん。それぞれに特化した仕様だと伝えられている。そんな機体が下の惑星に埋められてたとはな」


 自分を責めているのか? まあ、艦隊全滅に近いからな。


「これで、惑星の宇宙への進出を抑えるものがいなくなります。各国ともに宇宙船を建造することになります。管理局の黄昏ですわ」

「そうかな? それ程簡単じゃないぞ。俺達は鉱石を採掘するがそれを他の惑星に運ぼうとは考えていない。惑星間の物流を制御できるほどの運用技術も経験も無いからな」


 俺の言葉に3人が驚いたような顔をしている。

 

「お前達の宇宙進出を阻害する艦隊が無くなってもか?」

「少なくとも、俺達はそんな考えは持っていない。鉱石採掘が上手く行かねば、再び地上で鉱石を採掘するつもりだ」


「それでは、本当に!」

「約定は守るべきものだ。俺達騎士団は条約が出来ればそれに従う」


 ハインドさんが軽く舌打ちをする。「全くあの男は……」と呟くのが聞こえて来た。

「どうやら、ワシらの中に問題児がおるようじゃな。責任は取って貰おう。管理局の兵士1200名の命は軽くはないぞ」

「すでに関係者を拘束しております。後は裁判を待つだけかと」


「でも、これで終わるのかしら? あなたの国の意見もあるでしょう」

「全権を委ねられました」


 ジェネス女史の問いに答えたけど、実際は丸投げされたんだよな。

 

「確か、宇宙に出たくて新しい国を作ったと聞く。それ程までに宇宙に行きたいものなのか?」

「そこに宇宙があり、行くための手段があるなら何とかして行きたいとは考えませんか?」


 俺の答えをおもしろそうな顔をして聞いている。

「まあ、そうなのだろうな。若者はまだ見ぬものに憧れる。老人は今を何とか保とうとする。それが今回の事件を生んだのだろう。ところで、お前達から見れば我らは約定を破ったことになる。それに対して責めることはしないのか?」

「その報いは空母に取って貰いました。全速力で太陽に向かっています。搭載した戦姫はその後ろを押しているはずです。すでに戦姫のパイロットは亡くなっているでしょうが、空母の乗員は生死は不明です」


「巡洋艦1隻だけでは無かったのか?」

「巡洋艦2隻に空母が1隻。会談を申し込んで騙し討ちを考えるような者は、それなりの報いが必要なのでは?」

「最大船速で移動しているとなれば、他の船での救助は不可能です」


 ミレーネさんがため息をついてるぞ。少しやりすぎだと思っているのかも知れないが、やられたらやり返すのが俺達の流儀だからな。


「一応、約定の範囲で対応しています。信義が俺達の一番尊ぶものですから。それを違えたとなれば、争うことになります。ましてや、手心を加えようと相手の望む会談に向かって行きなり拘束して、簡単に殺さんと言われれば、相手にもそのようにすべきなのでは?」

「自分達に非は無いというのだな?」

「全く思い浮かびませんが? どこに非があるのか後学のために教えて頂きたいくらいです」


 そう言って2本目のタバコに火を点けると、男性が部屋に飲み物を運んできた。

 渡されるままに一口飲むと、3人が俺に向かって微笑んでいる。

 毒でも盛ったのか? 

『アルカロイドの一種が検知されました。無味無臭ですから、気が付くことなく【1時間程で通常であれば死んでしないます。管理局を根絶やしにしますか?】

『それは後で良い。とりあえず俺に問題が無いんだな?』

『戦闘形態ですから、通常の薬剤反応は起こりません』

 交渉に使えそうだな。

 俺も、3人に微笑みを返す。


「約定から見れば全く非はない。だが、人間的に非があるのではないか? 巡洋艦2隻に空母をそのような形で葬るとは、全く信じられん」

「お言葉ですが、俺も管理局の人間性に疑問はありますよ。戦姫に宇宙服を着ずに乗り込むとはどういう人間軽視の思想なんですか? 更に空母の電脳を書き換えただけでいまだに太陽に向かって飛んでいます。電脳が暴走した時の乗員の訓練はしていないのですか、それに脱出艇の発進さえしていない。どんな指揮命令系統で戦をしたのかを「反省すべきですね。それと、大変美味しいコーヒーでした。もう1杯頂けませんか。出来ればアルカロイドよりも砂糖がありがたいですね」


 俺の言葉に3人が入口の男に目を向けた。男が銃を取り出すよりも早くミレーネさんが拳銃を撃った。

 片腕を射抜かれながらも俺に銃を向けて発射した。

 この体、防弾性能がハンパじゃないな。胸に弾丸が潰れているぞ。

 拳銃の発射音に慌てて警備の者が部屋に飛び込んでくると、男を拘束して出て行く。

「全く、どいつの差し金なんだ? ミレーネ、必ず確認するんだぞ」


 改めてコーヒーが運ばれてくる。今度は問題なさそうだな。砂糖をスプーンで山盛リ2杯分を入れてゆっくり味わうことにする。


「至急、医務局に向かいましょう。のんびりしてたら命が危ないでしょうに!」

「通常で1時間位でしょう。俺には効きませんよ。心配無用です」

「サイボーグという事ですか? まだそこまでの技術を持ちません。いつの間にか地上は科学が進みましたな」


 そう思って納得するならそれで良い。



「さて、話を元に戻しましょう。今回の不幸な出来事は、管理局の一部の狂信者の仕業と考えますが、それでよろしいですか? そのような者達に責任が取れる訳は『ありませんから、当方からの要求はありません』

「そうして下さると我らも助かる。当然、狂信者は最後の1人まで追跡して拘束するつもりだ。2度と宇宙船に乗ることは無いだろう」


「1つよろしいですか? あの大型採掘船、リバイアサンの動力炉と反重力装置を開示して頂けませんか?」

「前にも言いましたが、貴方達に制御できるとは思いません。空母の戦術電脳は航法電脳と共用化されてましたが、あのような電脳では暴走させてしまいます。少なくとも人間を超える電脳が出来た時にはお知らせください。評価して問題が無ければ開示したいと思います」


 恒星圏内ならともかく、恒星間の飛行を考えると理想的な動力と推進システムになるだろうな。アリスのような推進方法は無理でもね。


 とりあえず会談は終了だ。互いに相手に新たな要求はしない。一部の狂信者の行動とすることで責任を互いに放棄する。

 食事をご馳走になり、3人の見送りを受けて、アリスに搭乗してリバイアサンへと戻ることにした。


 裏技を使うことも無く、リバイアサンに倍する速度で小惑星帯に戻って来ると皆に報告しておく。

 互いが被害者だという事で纏まれば特に問題は無いはずだ。


「でも、戦姫が26機よ。もったいないよね」

「誰も操縦できないぞ。ローザ達がようやく動かせるんだ。貰っても飾りにしかならないぞ」

「そういう事ね。戦機の代わりになる獣機の強化を図る方が騎士団の為にもなりそうね」

 

 珍しくカテリナさんがまともな事を言ってるぞ。何か閃いたんだろうか?

 一連の戦闘映像はクリスタルでいくつもダビングしてあるから、帰ったらウエリントン国王達に1個進呈しよう。かつての戦で苦い思いをしている筈だから、さぞかし喜ぶんじゃないかな。


「ところで、鉱石採掘は順調なの?」

「すでに、3個のカプセルに鉱石が積み込まれてるわ。残り2個で戻るわよ。やはり、リオ君とアリスの設計は素晴らしいわ」


 思惑通りって事なんだろうか?

 全然採掘の様子を見てないけど、結構順調に進んでいたみたいだ。


「宝石ギルドの連中も、次も乗り込むと言ってたわ。発見した宝石の専売権を要求されたけど、半分を専売する形で合意したんだけど、すでにトランク1つ分になってるわ。一番大きなものは、原石サイズで頭程もあるダイヤよ」


 エメラルドの玉座は冗談では無くなりそうだな。管理局に売ることも視野の内とギルドの連中が言ってたから、ますます交易は活発になりそうだ。


「となると、帰ったら休暇を過ごしながら今回の反省ですね。色々調整しなければならないですし、カテリナさんもリバイアサンの改造が見えて来たんじゃありませんか?」

「そうね。ヴィオランテで先ずはゆっくりしましょう。このままリバイアサンで下りても大丈夫よ。島の近くに浮かべておけば良いわ」


 休暇と聞いてフレイヤ達の目が輝きだす。

 早速、ドロシーと相談を始めたけど、ドロシーの事だからローザと妹達との調整もするんだろうな。

 アレク達やベラスコ達も呼び寄せようか。結構頑張っているみたいだし、たまにはヴィオラ騎士団全員で休暇を楽しむのも良いんじゃないか? その間の中継点の警備は王国の機動艦隊の頼むのも良さそうだ。色々と便宜を図ってるんだから、たまには恩返しをねだてみるか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ