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V-206 戦わずに殺す方法


 本当は戦闘の真っただ中なんだけど、俺はちょっと暇を持て余している。

 リバイアサンから射出した岩塊の速度が遅すぎるんだよな。まだ有効範囲に入るまでに1時間近くありそうだ。

 攻撃型巡洋艦は、10分程前に閃光を放って爆発してしまったが、それでも戦姫はリバイアサンへの攻撃を止めようとしない。32機中2機が荷電粒子砲の直撃を受けたが、仇を討つべく闘志を燃やしているようだ。


『ドローンが空母に向かって移動を始めました。どれ位で気付くか楽しみですね』

「俺達も近付いてるんだろう? 戦機が引き返して来たら巴戦になるぞ」

『大丈夫です。敵の出撃可能時間に制約があります。戦姫の動力は十分に持ちますが、パイロットの生命維持装置、酸素供給時間は4時間程度です。すでに1時間以上経過してますから、後1時間もしないうちに、空母に引き上げなければなりません。空母は相変わらず同じ宙域で停止していますから、戦姫が戻る以外に方法がありません』


「パイロットを窒息させるのか?」

『敵の用兵次第です。敵のパイロットが宇宙服を着ているなら、何も問題はありません』


 俺達は1時間を単位としたボンベを運用している。アリスには搭載されていないが、全ての宇宙服の活動時間は最低でも1時間だ。作業に応じてボンベを増やすことになるのだが、敵の戦姫を葬った時にパイロットがそんな装備をまるでしていなかったことに驚いたものだ。

 人間の命が軽いのだろうか? だが、戦姫は個数が限定されているから、その運用を行うパイロットも大事にするはずなんだが……。ひょっとして、戦姫に絶大な信頼を置いているのだろうか? 戦姫に登場している限り安全だということか。だが、それはアリスでくつがえされているはずだ。


『ドローンが1万kmに接近しました。減速を開始しています。岩塊は1万kmまで接近。機動爆雷モドキは岩塊の後方500km程に位置しています』

「まだ、戦姫は帰還しないのか?」

『すでに3機撃墜されていますが、29機はいまだ攻撃を継続中。いえ、攻撃の隙を伺いながら、リバイアサンの周囲を旋回しています』


 弾丸が尽きかけてるんじゃないか?となれば、もうすぐだな。

 

『砲弾を埋めた岩塊が空母の近くを通ります。岩塊爆散!』

 15個の岩塊が炸裂する。空母の連中はさぞや驚いてるだろう。問題はこの後だ。


『かなり岩塊の破片が空母に当たっているようです。戦姫用の誘導ビーコンアンテナに損傷を受けたようです。広帯域レーダーのパルスも途切れがちです』

「帰ってこれるのか?」

『座標はそれ程ずれていませんから、今なら帰還が可能でしょう。リバイアサンの周囲を旋回中の戦姫、後退を始めました。ドローン5機、ロケット弾発射を確認。40mm爆轟滑腔砲を空母に連射して帰還するようです』


 俺達を乗せた小惑星も、敵空母から1万kmに接近している。

 ドローンの攻撃をかわしても、俺達がいるからな。これで、チェックメイトになるだろう。


『空母が移動を開始しました。ミサイル攻撃は無効化します。砲撃は散布界が広いですから、1発ぐらいは当たるかも知れません。敵の戦姫最大速度で接近しています』

 それでも時間が掛かりすぎる。すでにドローンは大きく迂回してリバイアサンへ進んでいるから、ドローンを追って撃墜するのは時間が掛かりすぎるな。

 

「敵の空母麻生美している固定武装は?」

『30mm連装機関砲が、左右の舷側に5門ずつ装備されているようです。空母の甲板に動きがあります。50mm速射砲がエレベーターで甲板に装備されました』


 それで全部だろう。散々俺達を邪魔してくれたからな。これからその報いを受けて貰おう。


「戦姫の駐機エリアが推定できるか?」

『閉鎖型の空間でしょうね。エレベーターをエアロックとして使っているとなれば、空母の前方向になるでしょう』

「駐機区域とエレベーターを全て破壊する。行くぞ!」


 次元のひずみを利用するまでも無い。

 レールガンの弾丸並みの加速で空母に迫ると、レールガンで空母の真ん中から前方に駆けてミシン掛けするように弾丸を叩き込んだ。


『空母の戦術電脳にハッキング。……ハッキング完了。戦姫の駐機エリア及びえれべーター並びにエアロックの破壊確認。戦姫の収納は困難です』

「よし、空母のブリッジに接近。志向してくる兵器は全て破壊しろ」


 まだ敵の戦姫は3万kmも彼方だ。数が26機に減っている。リバイアサンの防備は完璧だな。

 ブリッジの手前50m程の距離でレールガンを構えブリッジに照準を合わせる。

 ブリッジ内はあわただしく士官達が動いているようだ。


『敵空母より広域帯で通信が入っています。出られますか?』

「ああ、出てみよう。どんな命乞いをしてくるか楽しみだ」 


『こちら管理局恒星系内防衛艦隊の指揮官だ。これだけの事をしてくれたんだ。どう責任を取るつもりなんだ!』

「別に責任はない。条約はそれなりに守られるべきだ。その約定を破ったそちらは俺達にどのように責任を取るのだ?」


『もう直ぐ、戦姫の大編隊が帰って来る。たった1機で何が出来る』

「弾の尽きた戦姫が何機来ようとも問題はない。それより、戦姫の生命維持装置は後何時間稼働するんだ。宇宙服も着ずに戦をするとはよほど戦に自信があると見える」


『パイロットを窒息死させるつもりか?』

「さて、俺は空母を攻撃しただけだ。窒息するもしないも俺には分からん事だ」


 指揮官が黙ってしまった。相当頭に血が上ってるんだろうな。

 戦姫26機を今から失うんだからな。


「ところで肝心な事をまだ言っていないぞ。降伏するのか、それとも戦闘を継続するのか? 返答は1分以内に、カウントダウン信号はこちらで出そう」

『待ってくれ、戦闘終了の条件について会談したい』


 おもしろくなってきたな。この期に及んで条件を決めようというのか?

『リバイアサンから通信です。全てをマスターに託すそうです』

 丸投げって事だな。向こうは邪魔者がいなくなったからのんびりと鉱石採掘でも始めるんだろうか?

 タバコも楽しみたいし、行けばコーヒーぐらい出るかも知れないな。

 

「アリス。俺をブリッジに転移出来ないか? もちろん帰りも回収して欲しいんだが、最悪、宇宙空間に投げ出されそうだが……」

『マスターの現在の形態なら何ら問題はありません。生身で宇宙空間を移動できます。私がこの状態で待機しているなら早々攻撃は出来ないと思いますが、私に対する攻撃は反撃してよろしいですね?』


「ああ、良いぞ」と呟いた途端に俺は空母のブリッジに出現した。

 士官達が驚いているが、やがて正気を取り戻して俺に拳銃を向け始めた。


「指揮官はどこだ。会談と言うからやってきたが?」

「黙れ! これだけ囲まれてるのだ。直ぐに外の戦姫の武装を解除して我々の指揮下に入るのだ!」


 奥の方から壮年の男が顔を真っ赤にして怒鳴っている。彼が指揮官のようだな。

 腰のバッグからタバコを取り出すと、ジッポーで火を点ける。

 ここで吸うなら問題ないだろう。アリスのコクピットは吸えないからな・


「ブリッジでタバコが吸えるのは指揮官の特権だ! 何をしている。早く拘束するんだ」

「会談と言うから来たものを、俺を捉えるというのだな?」

「当たり前だ! これだけの損害、直ぐには殺さんからな。覚悟しとくが良い!」


 何人かの士官がタックルするように俺に迫ってきた。

 俺に飛びつくと押し倒そうとするが、生憎この体は戦闘モードに変化している。拘束された腕を一気に広げると腕を抱えていた士官の腕が引き千切れた。


「要求された会談は相手から一方的に破棄されたと記録されたようだ。邪魔をしたな。ゆっくり死んでくれ。……アリス、会談は俺に対する攻撃の為だった。戻してくれ!」

 ぐにゃりと視界がひずむと、次の瞬間にはアリスのコクピット内にいた。

 これで、言葉質は取ったぞ。


「ハッキング出来たんだよな」

『空母の制御はこちらが握っています』

「太陽への突入コースに乗せて、全力加速。戦姫の電脳のハッキングは出来ないか?」

『アルゴリズムの解析は終了してます。後を追わせますか?』

「加速を手伝わせろ。かつての戦よりは穏便だ。まだ30機以上の戦機が残ってるんだからな」

『了解です。空母、加速を開始しました。戦姫のハッキング開始。……終了です。戦姫の帰還コース変更を確認。これでリバイアサンに帰れますね』


 10万kmも離れているのだが次元のひずみを利用すれば、直ぐにリバイアサンの駐機エリアに帰り着く。

 何か疲れたな。無人の通路を歩いて展望デッキに向かった。

 エアロックを通ってっデッキに入ると、かなり騒いでるな。ベルッド爺さん達も離れた場所で騒いでるぞ。

 早速、採掘を始めたのかと思ったけど、先ずは戦勝祝いが先のようだ。


 エリー達のいるソファーに向かうと、直ぐにワインのカップが渡されたけど、やはりストローが付いている。


「ご苦労さま。管理局の攻撃艦隊を葬ったから、邪魔をスル者がいなくなったわ」

「空母はどうしたの?」


 そんな質問に、出撃した後の経緯を放すことになったんだけど、ミトラさんがしっかりと録音しているぞ。後で問題にならなきゃ良いけど。

 

「でも、何故やってきたんでしょう? リオ様が相手なら勝てるわけはないと思いますが?」

「信じなかったんでしょうね。それだけ自分達の戦姫を信頼していたに違いないわ。かつて一度戦って敗れた相手だと、たかをくくっていたに違いないわ」


 まさか破れるとは思ってなかったんだろうな。性能が良いと言っても32対1の戦いだからな。だが、連中にも色々と問題があるぞ。


「今度は管理局ですね。とりあえず片付けましたから、相手の話を聞いてみましょうか?」

「アリスとリオ君なら直ぐに行けるでしょう? 場合によっては、会談をして来て欲しいわ。私達は、ほら、色々と忙しいのよ」


 そうなのか? 来るたびに飲んでるような気がするぞ。

 だが、こっちから出掛けた方が良いのかも知れないな。いくら条約違反で向こうから仕掛けて来たとはいえ、かなりの犠牲者が出たことに変わりはない。

 その辺りの事もきっちりと話し合っておいた方が良さそうだ。


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