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V-198 騎士団領を訪ねる者達


 カテリナさんの話では、後、3か月でリバイアサンが完成するらしい。もちろん、オルカ達の完成も一緒だ。

 今は雪が降り積もる酷寒の地に俺達はいるのだが、春になれば季節のない世界に飛び出すことになる。

 その前に、ガリナムⅡとバシリスクⅡがメイデンさん達に引き渡されるはずだ。メイデンさんがとんでもなくご機嫌で、この前騎士団領に寄港した時には、旦那さんの前なのにいきなりキスされてしまった。

 よほど、360mm砲を気に入ったに違いない。元のガリナムとバシリスクは若干の改修を行ってローザが指揮を執るアンゴルモアと行動を共にするということだ。国王達の思惑を飛び越えて、3王国共同の艦隊が出来たことになる。

 おかげで、起動要塞の建造が急ピッチで進められているらしいが、カテリナさんが協力してあげない限り移動は出来ないという事を忘れてるんじゃないのかな?


 フレイヤとドミニク達は白鯨に乗り込んで、リバイアサンの操縦を物にしようとしているらしいが、重力の束縛があるのとないのではだいぶ違うんじゃないかな?

 まあ、努力していることは認めなければなるまい。俺だって、来客がなければ出掛けてるところだ。


 「バルゴ騎士団のラウンドシップが桟橋に着きました。さすが重巡洋艦を改造しただけあって大きいですね」

 エミーが端末をテーブルに戻しながら教えてくれた。どうやら、ラズリーからの連絡だったらしい。

 

 「そうなると、来訪は2時間後ってことかしら。リオ君の準備は出来てるの?」

 「準備も何も、訪ねて来る目的さえ知りませんよ。表面上は表敬訪問ですからね」


 そう言って、カテリナさんに顔を向けたが、確かにそれは表向きだ。たぶん中継点に係わる相談だろうと考えてはいる。

 

 「一応、中継点の建設に係わるアドバイスが欲しいんだろうという事位は分りますが、何を悩んでいるのかまでは分りかねます」

「リオ君には悩みが無いから……」


 そんな事を言いながら、何本目かのタバコに火を点けている。灰皿のほとんどがカテリナさんの吸い殻だぞ。俺は2本目だからな。


 「結構悩んでますよ。何時も皆に良かれと心を砕いています」

 エミーがカテリナさんに言い返してくれるが、それぐらいではカテリナさんはへこまないぞ。

 とはいえ、ある程度の想定QAはアリスと一緒に考えている。必要に応じてアリスが耳打ちしてくれるだろう。


 一旦席を立って、制服を着替えるとソファーに戻って、ライムさんが運んでくれたコーヒーを飲みながら、バルゴ騎士団の到着を待つ。


 しばらくして、バニィさんがバルゴ騎士団の到着を教えてくれた。

 パレスの大会議室に案内したという事だが、何人でやってきたんだ? まあ、行けば分かるんだろうけどね。


 「さて、出掛けましょうか? あまり待たせるのも感心しませんからね」

 エミーとカテリナさんを連れて、リビングから大会議室に向かった。


 大会議室に入ると、10人以上の男女が席を立って俺達を迎える。

 「どうぞ、お掛け下さい。俺も騎士団の騎士の1人ですし、隣のエミーもそうです。カテリナ博士は団員ですけどね」

 「それでは失礼して……」


 全員が椅子に座ったところで、テーブル越しに俺の前に座った女性2人は副騎士団長のアニーさんに副官のベリューさんだったな。


 「今回は大勢で押しかけてきました。筆頭騎士のカルミア、それに騎士のガドネン……」

 どうやら、騎士団の主要人物を全て連れてきたようだ。ドワーフが2人にネコ族の男も3人いる。騎士団長は老齢だったからな。バルゴ騎士団を支えているのは正しく俺の目の前の連中らしい。


 「生憎と騎士団長達は高緯度地方に出掛けています。訪問の知らせを受けたのが出掛けた後だったので、俺が応対することになりました。申し訳ありません」


 そんな俺の言葉をカルミアさんはにこにこしながら聞いている。


 「噂には聞いております。何でも国王方のご依頼で移動要塞を作るお手伝いをしているとか。その話を聞いて、誰もが唖然としたものです。

私共が訪れたのも、その設計をしたのがリオ公爵と聞いたからです。私共も中継点は持っていますが、果たしてそれと同じ構造とした場合に、私共が計画している場所で対応が出来るか……。これに答えられるのはリオ公爵だけだと気が付きました」


皆が一斉に俺を見つめる。

丁度良い具合にライムさん達がコーヒーを運んでくれた。これでちょっと考える時間が取れるな。


 「冷めないうちにどうぞ。ここでは喫煙は自由です。ご遠慮なく。……それで、先ほどの回答ですが、それほど難しく考えなくとも良いのではと考えます。

 中継点の設置場所は北緯55度。ウエリントン王国の王女であるローザ姫が指揮する艦隊に守られた中継点の北、約2千kmの地になります。我らの騎士団領とは4千km近く離れていますが……」


 仮想スクリーンを大きく作って、地図を表示する。現在の中継点、コンテナターミナルをそこに映し出して、位置関係を彼らに説明した。


 「この位置に中継点を作るとなると、最前線基地になるんでしょうが……。移動要塞が完成すると、移動要塞はこの付近を遊よくすることになるでしょう。移動要塞を守る艦隊は巡洋艦3隻ですが、6体のナイトと12機のゼロが付属します。先ずは巨獣に対して万全と言えると思います」

 「我らの中継点が出来る前に移動要塞が動き出すという事か?」


 ドワーフのぶっきらぼうな質問に頷くことで答えた。途端に部屋が騒がしくなる。

 コーヒーを一口飲んだところで、タバコに火を点けた。


 「ですが、移動要塞が機能を果たしても、以前巨獣の脅威は残ります。このような岩窟があるとも思えませんし……」

 「どれぐらい拠点を守れる時間がありますか? 全て、そこから始まります。4日あればローザ姫がアンゴルモア艦隊を率いて来るでしょう。戦姫3機は2日もあれば十分です。3日あれば機動要塞から3隻の巡洋艦が派遣されますし、ヴィオラ騎士団のカンザスは10時間で到着します」


 更に場が騒がしくなってきた。どうやら今までは自分達だけで拠点を守護しなけれあならないと考えていたらしい。

 せっかく物流をコンテナ輸送でネットワーク化したのだ。巨獣の襲来があれば、騎士団だって、持てる戦力をネットワーク化して、集中させることも出来るはずだ。


 「申し訳ありません。少し勘違いしておりました。中継点の維持を全力で行う事であれば、誰が鉱石を採掘するのだという事に対して答えられませんでした。……他の騎士団を頼れば良いのですね。盲点でした」

 「カンザスはそのために作られたようなものだし、この中継点の外側をガリナム艦隊が遊よくしているのも似たようなものだ。ガリナム艦隊は鉱石採掘は出来ないが、鉱石を探すことは出来る。その位置をヴィオラ艦隊が採掘するから無駄ではないんだ」


 「前に、退団した人達も騎士団領に参加していると聞きました。具体的には、どんな役割を担っているのですか?」

 「拠点の維持管理と防衛かな。ラウンドクルーザーにはあまり乗っていない。すでに数万の人口を抱えているから、結構人手が足りないんだ。防衛なら、昔の経験だって活かせるし、皆喜んで参加してくれたよ」


 数人がタブレットを開いてメモを取っている様だ。リストを見ている者もいるな。


 「武装を聞いて驚いたのだが、88mmを多用しているとは本当なのだろうか?」

 「やはり使い良さで88mmを使ってますが、この中継点の尾根には120mも使われてます。長射程が魅力ですからね。後は、40mm長砲身砲、と50mm砲ですか……。そうそう、もう直ぐ360mm砲を積んだ駆逐艦が完成しますよ。ガリナム艦隊のフラグシップです」


 駆逐艦に360mm砲と聞いてあきれた顔をしてるけど、誰だってそうなるよな。ちゃんと前に砲弾が飛び出すまでは俺だって不安だぞ。

 

 「40mm長砲身砲塔を積んだタグボートがあれば、巨獣の危険をかなり軽減できますよ。予算的にも廉価ですしね」

 

 戦車モドキになるだろうな。1個中隊12機もあればゼロを使うより安いんじゃないか? 中継点の守備に使っている75mm長砲身砲よりも使いやすそうだ。新型獣機とセットではなく、小型タグボートとの組み合わせも良いんじゃないか? 概念設計をやってみて商会にデモを見せてあげれば喜ばれそうだ。


 「大きさよりは利便性と緊急避難に耐えられるように作りべきでしょう。スコーピオ戦の折にタイラム騎士団の中継点に立ち寄らせていただきました。主要な施設を地下に作ると言うのは良いアイデアだと思います。そうすることで、地上施設は荷役用とラウンドクルーザーの停泊桟橋で良いことになります。コンテナの保管場所は地下に設けることが出来ますし、コンテナ構造であれば地上で砂嵐に合ってもさほど問題ではないでしょう。私が作るとすればこのような形態になると思います」


 仮想スクリーンを立ち上げると、俺の思考を追って、アリスが3Dの概念図を描き出し始めた。


 「地下施設を作りための竪穴作りはこのような円筒を埋め込むことで短時間に工事の足掛かりを作ることから始めます。2つ作って、その後はこの円筒を利用して掘り出した土砂を使い中継点の土台をかさ上げします。出来れば20m以上としたいですね。大きさ1km程の中継点に3つの桟橋を作ればラウンドクルーザー数台は停泊できるでしょう。

 入口と出口は斜路を作り事になりますが、20mの土砂で作った土台を打ち破る巨獣はいないでしょう。土台の周囲に回廊を作れば、タグボートに乗せた長砲身砲で中継点の防衛が出来ます。対角線に監視台を作れば中継点の周囲50kmは監視できるでしょう。基本的には防衛する戦機とラウンドクルーザーは必要ないと考えます」


 俺の話を聞きながら、話に合わせて変化していく中継点の概念図を食い入るような目で皆が見ている。

 俺の話が終わっても、誰も言葉を発することなくまだ見ているぞ。

 

 アニーさんが大きくため息をついた。

 「まったくリオ公爵には驚かされます。話をしながらこのような精密な概念図を書き上げるとは、王都の工廟の設計技師でさえ出来ないでしょうね。ところで、この概念図を頂くわけにはいきませんか?」

 「どうぞ持ち帰ってください。ちょっと追加しておきます。桟橋の設備は全て二重化しておきます。片方が動かなくとも、もう片方が動けば問題はないでしょうし、点検しながらでも似の積み下ろしができますからね」

 

 端末から、アニーさんのタブレットに概念図を伝送して、俺達の会見は終了した。

 もっとも、中継点を作りはじめれば何度か来ることになるんだろうな。騎士団は中継点の経営を得意としないから、その辺りのノウハウを学びに来る可能性が高いと思う。



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