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V-195 移動要塞


 新たな依頼が出てきたけど、南国の島での暇つぶしには丁度良い。

 昼は、フレイヤ達と釣りを楽しみ、ローザ達と海に潜る。

 獲れた魚はネコ族のお姉さん達が美味しく調理してくれる。それでも、俺達全員で食べるには多すぎる感じなのだが、お姉さんの話だとこれでも半分なのだそうだ。俺達が獲った魚の半分は冷凍して中継点のお土産にすると聞いては、ローザ達が俄然張り切りだした。

 

 「領民の為とあらば努力せざるを得まい!」

 そんな事をちびっ子を交えて力説してる。まあ、王族の関係者たちだからねえ……。頑張ってもらう事にするか。

 

 次の日。フライヤのお母さんは、のんびりと浜辺で油絵を描いてるし、ソフィーはローザ達と一緒にはしゃいでいる。

 フレイヤ達は桟橋でのんびりと釣りを始めた。

 俺はのんびりとハンモックで朝寝を楽しむ。関係する女性が多いのも問題だな。アレクも2人で手いっぱいなんだろう。

 

 しばらくして、ゆさゆさとハンモックが揺らされる。

 薄目を開けるとカテリナさんがハンモックを揺すっていた。


 「理解できない事はたくさんあるわね。あなたに睡眠が必要な理由もその一つよ。擬態してるのは良いんだけど、そこまで似せる必要はあるのかしら?」

 「その辺りは俺にも分かりかねますが……。何か?」

 

 ゆっくりとハンモックを降りる。急ぐと昨日のようにひっくり返るからな。

 カテリナさんが俺の手を取ると、近くのテーブルセットに連れて行く。

 隣同士に席を取ると、用意されたクーラーからビールを2本取り出した。


 プシュ! と音を立てて、乾いた喉にビールを流し込んだ。タバコをバッグから取り出して火を点けると、カテリナさんが話を始める。

 どうやら、国王達が移動要塞に乗り気らしい。まったく困った国王達だな。


 「2年で完成させたいと言ってたわ。リオ君の方はどうなの?」

 「そうですね。概略仕様をまとめればアリスが設計を始めてくれるでしょう。やはり、詳細設計グレードまで仕上げなければいけませんか?」


 「必ずしもそうではないわ。概略設計があれば、方向性は見えるし、王国のラウンドクルーザー設計も、それなりの技術は持ってるわ。動力炉と反重力装置をブラックボックスにして設計を進め、建造段階で捕りつける事は可能よ。私の方だって、外に急ぐものはあるんだから」


 あまりリバイアサン建造の邪魔をされたくないって事かな。とは言え、移動要塞だって規模はリバイアサンクラスになりそうだ。

 待てよ……。リバイアサンも移動要塞に似たところがあるな。設計を流用しても良さそうだぞ。それでかなり設計を短縮出来るんじゃないか?


 「アリス、設計条件から概略の形状を3D画像にしてくれ。先ずは横幅600m、長さ900m。高さは120mで、ブリッジは軸線上から右に寄せて5階建てぐらいだ」

 『おおよそ、このような形態です。外形は白鯨を参考にしました。外壁は50mmの傾斜合金。骨格はルビニュウム鋼で作ります。重量およそ250万t』


 外形はともかく、重量がとんでもないな。戦艦50隻分位はあるんじゃないか?

 

 「なるほどね。それなら、ブラックボックスの動力炉と反重力装置を使う必要があるわ。数はどれぐらい?」

 『重力アシストブラックホールエンジンが6基、3次元メビウス回路を使用した反重力装置が10基と言うところでしょうか。設計の進捗で更に増える可能性がありますが、2割とみています』


 それだけでも10万tを超えるんじゃないか? それにその巨体を動かすのは多脚式走行装置になる筈だ。下面に何列取り付けることになるんだろう?

 

 『走行装置は多脚式を使いますが、列配置は検討しなければなりません。場合によっては円周状に配置しても良いのではと推測しています』

 「なるほどね。横に大きいなら横スライド移動も出来るでしょう。でも、この移動要塞を制御できるのかしら?」


 重力バランスも悪そうだし、この形状だと、重巡洋艦クラスのラウンドクルーザーなら飲み込めそうだ。そうなると反呪力バランスを一定に保つなんてことは至難の技になる。ましてや、多脚走行装置を円周状に配置するとなれば、足を前後に動かすのではなく、360度方向に動かせることが必要だ。


 『ドロシーのいとこを作ります。残りのナノマシンを培養して、重ゲルナマル鋼で骨格を作れば、比較的少ないナノマシンで自立型制御装置が作れるでしょう。移動要塞が移動するとき、及び戦闘状態でのみ使用すれば問題はないと推測します』


 もう1体作れるのか? さぞや、ヒルダさんが可愛がることだろうな。ローザが焼きもちをやかないか心配だ。


 「それしか無さそうね。概念設計では武装は省いていいわ。固定式武装の総重量で良いでしょう。一時保管されるコンテナ量は2千t以上として頂戴。王都の中規模な工廟のドワーフは約300人だから、運航するための宿舎及び生活区域も考慮する必要があるわ」

 「ある意味、町1つと言うところでしょうか。総勢では3千人を越えそうな気がしますね」


 「商会の代表者の事務所も必要になるわ。桟橋の左右に分けておいた方が良いかもしれなわね。王族達なら、軍の一部を持ってきそうだし、民間人とのいざこざは避けたいでしょうね」

 

 俺とカテリナさんの雑談に合わせて、仮想スクリーン上に描かれた移動要塞が次々と変化していく。内装構造も、居住区を中心に組み上がっていく。ブリッジはそれ程変化はしないけど、カンザスの2倍以上ありそうだ。

 

 『簡単ですが概要を纏めました。カテリナ様の端末のメモリーに転送終了です』

 「ありがとう。王族達がこれにコメントを付けたら、アリス宛に送っておくわ。中継点の電脳で良いのよね」

 『問題ありません。マスターに連絡していただければ、私の方から取りに行きますが……』

 

 勝手にカテリナさんの端末にアクセス出来るって事か? あまりやらない方が良いような気もするぞ。

 だけど、あの国王達だからな、どんなコメントを返してくるか少し気にはなるな。


 温くなったビールを飲み終えたカテリナさんが俺の手を取って席を立たせる。

 「皆、海にいるのよね。こっちに東屋があるの……」

 

 その言葉に、辺りをきょろきょろと見渡してみる。確かに誰もいないぞ。

 「そうですね。時間もたっぷり余ってます」

 カテリナさんの腰に手を回すと、ヤシの葉影の奥へと2人で歩いて行った。

                  ・

                  ・

                  ・


 その夜の、浜辺での一騒ぎを終えた俺達は、ホテルのテラスでのんびりとビールを味わう。

 ローザ達は不満そうにソーダを飲んでるけど、明日の遊びの計画で忙しそうだ。どうやら、フレイヤ達から竿を借りて釣りを楽しむようだが……、ちょっと心配だな。リンダが付いているから、桟橋から落ちたら浮き袋ぐらいは投げて貰えると思うけど……。


 「そうすると、3か国の国王達が新たな中継点を作ってその守備を請け負うということかしら?」

 「ああ、国王達の暇つぶしだとは思ってるけど、その効果は計り知れない。バルゴ騎士団がローザ達が守護する中継点の北北西に中継点を作る。それに国王達は中緯度の西を拠点に活動するだろう。今、王国で建造中の工作船が完成すれば、かなりの範囲で騎士団が活動できるだろうな」


 俺の言葉に皆が興味をそそられたようだ。身を乗り出して真相を聞こうとしている。


 「私達は、このままでいいの!」

 叫ぶようにフレイヤが言ってるけど、俺達には別の場所があるじゃないか。

 

 「一応、大陸西部の鉱石採掘はカンザス艦隊とガリナム艦隊が行う事になっているわ。規模から言えば大規模騎士団の上を行くわ。ガリナム艦隊が先行して鉱石を探してくれるから、順調に収入は増えているわよ。白鯨も無難に採掘しているわ。質も高いし、まずまず高緯度地方の採掘は成功と言えるでしょう。更に、星の海にはどれだけ鉱石が眠っているのか、想像すらできないのよ」


 ドミニクの言葉にレイドラが頷いている。騎士団としては順調という事だろう。

 騎士団領の維持も今のところ問題はない。中継点の有毒ガスを巨獣達は知っているようにも見える。一番接近した巨獣でさえ中継点の境界から100km程のところで引き返している。

 レイドラの深層意識共同体から導き出された、俺達の中継点はある意味巨獣の聖域のようなものでもあるんじゃないかな。

 たぶん伝承には残っていないが、あの地で何かが起こったのだろう。人工的でなければあれほどの地下ホールは作れないだろ。洞窟奥の更に地下に流れる溶岩流も気になるところだ。


 「私達って、儲かってるの?」

 「リオを騎士団に加える前から比べると2倍以上になっているわ。3倍を超えるのも時間の問題よ」

 

 フレイヤに答えるドミニクの答えは明確なのだが、俺達の給料はそれ程上がっていないような気がするな。

 その金はどこに消えてるんだ? ちょっと気になるぞ。


 「一応、将来に備えて貯金してるから安心して頂戴。でも、数年前から比べれば3割以上報酬が伸びているはずよ。あの宝石の原石だった、半分は手持ちしてるでしょう。売れば6割の税金を取るけど、騎士団の為に使うなら無税にしているわ」


 そんなことを言って、新たな缶ビールのプルタブを開けている。俺はまだ1本目だけど、皆は既に2本目から3本目に移ってるな。 

 ビールの取引業者を決めたのだろうか。前と違って美味しく感じる。


 「学園の方は順調ですよ。最長15年の教育が可能です。鉱石探索科を作りますから、小型のラウンドクルーザーを欲しがっていました」

 「その話はマリアンから聞いてます。近場の鉱石探索なら軍払い下げの駆逐艦クラスで十分でしょう。改修作業は王都の工廟で進んでいるわ」


 それで得られた鉱石は学園の維持に回されるのかな? でも、少しは還元してあげないといけないだろうな。

 だけど、そんな学生の教師は誰が着くのだろうか? ヴィオラ騎士団の関係者だけでは破綻しそうだぞ。

 

 「レイドラル騎士団が人材を分けてくれると言ってるわ。騎士団の多くが西を目指しているのが気になるようね。やってくるのは現役引退組だけど、ちょっとした事務所ぐらいは作るかも知れないわ」


 俺達の中継点に他の騎士団が事務所を作るのは初めてになるだろうが、仮にも12騎士団の一つだ。訪れる騎士団達の模範となってくれるだろう。

 あの宝石原石の売り上げで、中継点の設備が色々と整ってきたな。

 あまり急ぎすぎるのも問題だが、無いよりはマシだ。少しずつ領民も増えてると言っているから、さらに課題が出て来るかもしれない。その時は、パレスに飾ってある原石を売れば良いだろう。……そういえば、宝石ギルドの連中が訪ねたいと言ってたな。


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