V-193 概念設計は結構おもしろい
アレク達は4回目の鉱石採掘から帰ってきたところらしい。
中々、おもしろい巨獣がいるようだ。
「レイトン博士がいつも休憩所にいるよ。偵察用円盤機と俺達の画像を2人の部下と一緒にいつも編集してるし、俺達から聞き取りもやってるぞ。1年もあれば立派な論文が出来るんじゃないか?」
「やはり、博士って感じですね」
アレクの話に俺がそんな事を言うと、シレイン達が頷いている。レイトン博士を嫌う人はいないけれど、カテリナさんの同類だけのことはあるな。
「何といっても、騎士団以外で戦機を見つけた初めての人だからね。白鯨のクルー達も、何となく戦機が見つかるんじゃないかって、目で見ているわ」
「そんなに簡単に見つかったら、それで贅沢な暮らしが出来るよ。あの戦鬼だって、俺達に快く引き渡してくれたからね。その報酬が温室の建設だったし、出来た野菜や果物だって格安で提供してもらえたよ」
「ああ、今ではイゾルデ母さんと、レイバンが温室で働いている。かなり自動化されてはいるが、収穫は手作業だから大変だとこぼしてたな。さらに温室が増設されるらしい。30人程が働いているそうだ」
レイトン博士をカテリナさんが連れてきてくれたのは、中継点にとってかなりの寄与になるだろうな。生物学の権威らしいけど、俺達にはそんなそぶりさえ見せない。結構楽しい人だというのが俺の印象だ。
「あの頭のギガントがね……。あれを見るたび、ドロシー達を思い出すのよ」
そんな事を言って、サンドラが小さく笑い声を上げる。
ヴィオランテから何匹か持ち出してるんだったな。どんな研究だか分からないけど、ノンノ達もその内欲しがりそうだ。お姉さんであるドロシーの頭にも乗っかってるからね。
「金貨3枚以上するらしいよ。どこが良いのかわからないけど、まあ、動くアクセサリーって感じかな」
サンドラがびっくりしてるけど、欲しがるならアレクに頼むんだな。
そんなアレクは一人でグラスに酒を継ぎ足している。
「まあ、今のところは安全に採掘している。やはり巨獣の接近が分かった段階で上空に逃げられるのが一番だな。無理に戦う必要はない」
「やはり、巨獣は多いですか……」
小さくアレクが頷くと、サンドラが端末にクリスタルを挿入する。仮想スクリーンが開いて、何種類かの巨獣が映し出された。
「レイトン博士が大まかに分類してくれた。やはり博士だけあって、その形態から大まかな特徴をその場で教えてくれるのはありがたい限りだ」
そんな前置きをして、アレクが巨獣の説明をしてくれた。映し出されたのは十数種類だったが、鉱石採掘を続ければさらに種類が増えるんだろうな。
巨獣は大きく5つのタイプに区分されてる。チラノタイプと呼ばれる肉食巨獣とトリケラに代表される草食タイプだ。それ以外の分類では海生タイプや無足タイプに多足タイプとあるのだが、さすがに海生タイプはいないようだ。
高緯度地方の探索で新たに雑食タイプと言う分類を起こしたみたいだな。草食タイプから分岐しているけど、肉食タイプからも点線が引いてある。
「気づいたか? 何でも食う奴だ。形は小型のトリケラなんだが、牙を持っている。10頭以上の群れで行動しているようだな。チラノタイプ1頭ならこいつらの餌食になる。一応、フォックスと命名した」
哺乳類の部類なんだろうか? キツネには似てないけど、何でも齧る雑食性なのが似ているな。
チラノタイプの巨獣は頭が一回り大きいぞ。あの亀の甲羅に噛みついたのはこいつなんだろうな。名前がメガマウスだから、そのまんまのネーミングだ。
「奴らは保護色というか、周囲の色に体の色を変えられる奴が多いな。偵察用円盤機のセンサーで採掘場所から10km以内にまだ近づいたのはいない。ちょっと俺達の出番はしばらくなさそうだな」
だが、それが一番だと思う。無理に戦う必要はない。今まで高緯度地方の鉱石採掘に挑んだ騎士団は足場の悪い斜面を進んだんだから、それほど速度を出せなかったんだろうな。あんなチラノタイプがいたら、確かに全滅しそうだ。
「でも、誰も成功させていないだけのことはあるわよ。鉱石がごろごろ転がっている感じだわ」
「だけど、無理はしないでくれよ。誰が欠けてもヴィオラ騎士団の損失だ」
「それは艦長も十分に気を付けてるわよ。鉱石採掘の間中、円盤機を飛ばしているし、私達も半数はスタンバイ状態になってるわ」
ヨット部だけあって危機管理は十分って事だな。次もヨット部から団員を募るか? ドミニクに相談してみよう。
「まあ、そんな訳で、明日からヴィオランテで休暇だ。のんびり釣りを楽しむぞ」
「お邪魔したいですが、こっちも色々と忙しいです。船に乗っていた方が気が楽ですよ」
そんな俺の言葉に3人が笑みを浮かべる。
アレク達の高緯度地方の採掘は、まだ始まったばかりだ。これからどんな事態に遭遇するかは分からないけど、アレクなら冷静に対処出来るんじゃないかな。何ていっても、あの大波を一緒に乗り切った仲だ。
「ベラスコ達も、5日後には合流出来る予定だそうだ。いくら、ガリナム艦隊がいると言っても、直ぐには救援に来られないからな。奴も緊張して採掘を見守っている事だろう」
最初は、巨獣が出るのを楽しみにしていたけど、この頃は責任の重圧を受ける立場になったようだ。だが、戦鬼2機と戦機が4機ならば彼も心強いだろう。ヴィオラのカーゴ区域を改造してゼロを4機積んでいるから、よほどのことが無い限り巨獣に後れを取ることはないだろうな。
ボトル1本を飲み終えたところで、アレク達は帰って行った。
明日から休みとは羨ましい限りだ。俺達の休暇はどうなってるんだろう? それも皆が帰ってきたら聞いてみることにするか。
・
・
・
「そうね。確かにしばらく休暇とは縁遠かったわ。アレク達と一緒の休暇は取れないかもしれないけど、マリアン達を誘ってみるわ。彼女達もしばらく休暇を取っていないでしょうし……」
「いくら給与が良くても、休めないのは問題だと思うな」
そんな俺の言葉に、皆が頷いてくれた。今度こそ、ハンモックで一日昼寝が出来そうだぞ。マリアン達が一緒なら長くは休めないだろう。精々5日程度だろうが、それでもマリアン達は喜ぶだろうな。
「ローザ達も誘ってよろしいでしょうか?」
「ああ、誘ったほうが良いだろうな。向こうも毎日、中継点の警備に勤しんでるんだ。心配ならガリナム艦隊を向かわせても良いんじゃないか?」
「そうね。良い考えだわ。ガリナム艦隊が鉱石探査をしているようなものだから、中継点までの探索で次の採掘場所を決められるから無駄にはならないでしょうし」
俺には、獲物を探しているようにしか見えないんだけど、ちゃんと探索もやってるんだよな。いくら戦闘狂のメイデンさんでも、ヴィオラ騎士団の団員と言う自覚は持ってるようだ。
端末を使って両者に確認を取ると、どちらもOKのようだ。ガリナムⅡがいたくメイデンさんは気に入ってくれたみたいだな。やはり巨砲の魅力ってやつなんだろう。
問題はカテリナさんやガネーシャが他の制作をしていることだ。船体の改造だけでもウエリントン王国の工廟に頼んでおくか……。反重力装置と動力炉だけを後から追加する形にしておけば問題ないかも知れないな。ヒルダさん達の重巡洋艦と合わせて作ればあまり目立たないような気もするぞ。
概念設計が出来た段階でその辺りの手筈は考えないといけないな。
仮想スクリーンにビオランテの全景を映し出すと、いつの間にかいろんな施設が出来てるぞ。最初1つだったホテルも今では4つも建ってるし、浮き桟橋は固定した桟橋に変わって長く伸びている。カタマランのクルーザーは俺達のものらしいが、それより大型のクルーザーが2隻停泊しているのは、レジャー客なんだろう。トカゲを探した川には数席のカヌーが岸に置いてある。その傍にある小さな小屋は管理建屋なんだろう。
バギー車が通る道が海岸付近に作られているのは、この島のツアーがマリンスポーツを目的にしているからなのだろう。ギガント達が生息している深い森はそのままだから、絶滅危惧種の保護はキチンとなされているようだ。
入り江の一部に桟橋が出来たけど、波の無い入り江ではかなりの人達で賑わっているようだ。まあまあ、レジャー目的の島として人気があるようにも見える。
だが、あの島って俺達の飛び地になるわけだから、入国審査なんてやってるのだろうか?
「ビオランテって、俺達の領土だよね。他の国から遊びに来るとなると、パスポートが必要になるのかな?」
「パスポートまではいらないけど、事前申請で済ませてるみたい。過去の犯罪歴が無ければ許可するとソフィーが言ってたわ」
パスポートよりも審査が厳しいんじゃないかな? 犯罪歴の調査なんて俺達の事務所が出来るとは思わなかったぞ。たぶん、トリスタンさんと裏取引してるような気がするけど、その対価はいったい何なんだろう。かえって気になることが分かってしまった。
「それで、また真珠を狙うの?」
「今度は、色々と楽しむつもり。兄さんに釣れるんだから私にだって釣れるはずよ!」
釣りにチャレンジしようと考えてるようだ。
そんなに簡単ではないと思うけど、フレイヤは負けず嫌いだからな。
「カテリナさんやガネーシャ達も同行するみたいよ。ソフィー達も母さんと来るて言ってたわ」
ソフィー達も今では騎士団の一段だから資格はあるわけだ。事務所の労働条件がどんなものかは分からないけど、ちゃんと休めるようなら問題ないだろうな。
カテリナさん達は暇なんだろうか? とても休暇を取れる状態じゃないと思うけど、仕事にメリハリを付けるのは困難な仕事を進める上で必要な事かも知れないな。
そんな話でしばらく盛り上がる。
夕食を取って、今夜は早めに休もう。肉体的には疲れなくとも精神的には結構疲れるんだよな。やはり一介の騎士でいられたらどんなに暮らしやすいか、そんなことをつくづく考える今日この頃だ。