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V-192 パレスでのんびり


 「困った人達ね。ヒルダもとんだ災難だわ!」

 パレスに戻って、リビングで仮想スクリーンを睨んでいたら、カテリナさんとガネーシャさんがやってきた。


 何も映っていないスクリーンを見て理由を聞いてきたから、ヒルダさんの依頼の件を話したところ、そんな言葉が返ってきた。


 「でも、長い目で見たら、それも必要なのかも知れません。ガリナム艦隊は中継点を中心に行動半径を3千km程に設定しています。その先には王国の機動艦隊が3つ。さらに先にはローザ達がいますが……」

 「さらに先に中継点を設けた場合に騎士団を援護する艦隊がいないという事ね。たぶん次の中継点は海岸近くに出来るんでしょうね。そこまでは3王国の機動艦隊の1つを派遣することで足りるでしょう。でも、ローザ達の中継点の次は北に寄る形になるわ。ローザ達をそちらに派遣すると、既存の中継点を残りの機動艦隊2つで守護する形になるのね」


 「そうです。出来れば1艦隊は船体の点検と乗員の休養を取らせることで長期間の勤務を可能としたいところです。12騎士団の一つに委任するという事も可能でしょうが、それなりの見返りも必要でしょうね」

 「新たな騎士団がそれにあたると?」


 カテリナさんに頷きながら、タバコに火を点ける。そこに、ライムさんがコーヒーを運んできてくれた。

 とりあえずは喉を潤し、一服を楽しむ。カテリナさんも俺の箱から1本取り出してテーブルの上のライターで火を点けた。

 

 「でも、そんな安易な考えで騎士団を作るなんて!」

 「そうでもないのよ。元々騎士団なんて山師の集まりだし、初期の騎士団は荒くれ揃いだと聞いたことがあるわ。いろんな騎士団がいるし、貴族の中にも真似事をしている者達だっているのよ。王族が趣味で始めても何もおかしいことはないわ」


 決して有難迷惑にはならないだろう。小さな騎士団ほど歓迎するんじゃないか? それに鉱石採掘はしないはずだからね。となると、大型の地中探査装置を搭載する必要がなくなるな。


 「鉱石採掘をしないで、救援目的の騎士団でしょうから、本拠地はいるでしょうね。丁度ローザがいる中継点を使えば半径3千km以上に恩恵を与えられると思いますよ」

 「各国の国王達も、作るんじゃないかしら?」

 

 「歓迎するべきですね。何といっても実戦を経験できます。そんな騎士団が後2つも出来ればさらに大陸西部の鉱石採掘が進むはずです」

 

 待てよ。確か3艦と言ってたな。

 常時2艦で活動すれば、1艦は休息が可能だ。いくらなんでも長期的に国王や王妃様達が不在では王国の施政も心配だ。2か月活動して1月休むぐらいで良いのかも知れないな。


 「それで、どんな船にするの?」

 「重巡を改造しようと考えてます。大口径砲は必要ありませんから、その分小型砲を多数搭載できます」

 「重巡洋艦なら主砲は250mmか、300mmって事ね。まさか、88mmにするの?」

 「120mm連装砲辺りまででしょうね。直接照準が可能で速射出来なければ騎士団の守護にはとても無理だと思います」


 ローザ達が乗船しているアンゴルモアは巡洋艦だから、それ以上に武装は強化出来そうだ。そういえば、ローザ達も改造費用が目的で宝石の原石を探してたんだっけな。どんな改造をするんだろう?


 「カテリナさんはアンゴルモアの改造の中身を聞いてますか?」

 「ええ、聞いてるわよ。核融合炉の換装と多脚式走行装置の増設と材質変更で速度をさらに上げると言ってたわ」


 巡洋艦の速度は通常なら時速40km程度だ。50kmまで高めてさらに哨戒区域を拡大するのかな? そうなるとガリナム艦隊の哨戒エリアと重複するから、俺としては喜ばしいけど、意外とあの2人は張り合うからな。重なるエリアには小型巨獣さえ奪い合って倒すんじゃないか?


 「あまり、色物はやめた方がいいわよ」

 最後にそう言ってカテリナさん達は部屋を出て行った。カテリナさんには言われたくなかったぞ。

 

 気を取り直して、ラフなイメージを固める。

 口径120mmなら、榴散弾なら25mm砲弾が60発は入る筈だ。スコーピオ、プレートワーム等の数を相手にすることも十分に考えられる。射程距離が長い120mm砲ならかなり使い道があるだろう。思い切って3連装、前に砲塔2つを背負い式に付けて、副砲は88mmの2連装。ブリッジの後ろに88mm2連装。ブリッジの舷側に50mm長砲身砲を単装で4門……。4階建てのブリッジを中心位置より艦首方向に置く。後部が大きく空いているから、ここに装甲甲板を設ければ良い。戦機用の大型エレベーターを2つ付けて……。これで、どれぐらいの速度が出るんだ?

  

 『アンゴルモアの改装を取り入れれば、時速50km程度ですね。搭載する戦機はナイトが4機に新型獣機が6機。それにゼロを4機と多目的円盤機が2機になります』

 「概念設計とコストを出してくれないか? 早めにプレゼンテーションをしておいた方が良さそうだ。詳細までは俺達で、残りは王都の工廟が担当する」


 改めてコーヒーを頼むと、次を考える。

 周辺監視用のギガントは制作を頼んでいるから、……そうだ! 中継点用の乗り物も考えておく必要があるな。

 桟橋を繋ぐのがモノレールだけだし、屋外施設に向かうにはさらにエレベーターを使わなければならない。結構時間が掛かるから潜在的なニーズはありそうだぞ。

 多目的円盤機を縦に伸ばしたような形状で、武装はいらない。乗員は操縦者込みで6人を考えればいいだろう。

 狭い範囲だから、速度よりも安全重視でいこう。燃費も問題だな。


 「これはどうだ?」

 『例のタクシーですね。了解です』


 アリスの電脳なら同時並行に作業を進められるだろう。

 まだ誰も、帰ってこないからもう少しのんびり出来そうだ。


 仮想スクリーンを拡大して、ヴィオラ騎士団領の状況を眺める。

 セキュリティ対策で、誰もが全体を見ることが出来るとは限らない。騎士団長のドミニクでさえ、カティの研究室とガネーシャラボの2つの区画は見ることが出来ないし、隠匿桟橋は全体像のみが見られるだけだ。

 ところが、カテリナさんからコンペの賞品としてもらった腕時計型の端末は、その禁断の区域さえ映し出すことが出来る。

 その趣味があるなら、それこそ覗きのし放題になるのが問題だけど、俺にはそんな趣味は無いぞ。

 

 隠匿桟橋ではリバイアサンの骨組みが出来つつある。その隣では、小型のデンドロビウムが船殻を貼っている。ガラは大きいけど中身はスカスカだからな。既存の動力炉に反重力装置を組み合わせて、訓練用の輸送船を先行させたらしい。

それでも、100tコンテナを3台載せられるし、最大速度は時速150kmという事だ。荷役と操縦をそれで学ばせるつもりのようだ。

俺達のところは元ヨット部の連中が動かしてるところをみると、それほど操船に難があるとは思えない。とはいっても事故は怖いからな。訓練で安全が買えるならそれに越したことはないし、中継点に生鮮食料を運べるはずだ。訓練と同時に商売も出来る。

 隠匿桟橋はカテリナさん達が頑張っているみたいだな。

 

 前は中継点事務所だったけど、今は施政庁と運航管理センターに分かれている。施政庁は、新たに建屋をホールの奥に作ったけど、外見に目立った特徴はない。ここで、ザクレム宰相が指揮を執っている。役人と言うか官僚と言うか微妙な役割の人数は500人を超えていないようだから、慢性的な人手不足だな。そんな人員を遣り繰って2万人を超えた国民の暮らしを守っているのだ。

 以前の事務所にはラズリ―達が30人程で中継点を中心に300kmの範囲で移動してくるラウンドクルーザーの運航と荷役の管理を一手にしている。商会からも常時5人ずつ担当者を置いてくれているそうだから、合計数十人の規模になっているようだ。何となく、どこかの航空管制センターを思い出すようなところだから、ちょっと俺の興味が沸くところではある。

 桟橋には5隻のラウンドクルーザーが停泊し、後1時間もすれば2隻増えそうだ。1隻あたり200名は騎士団員がいるだろうから、商会は賑わうだろうな。中継点の出入り口がある谷間の両側には長さ3kmにも及ぶバージ用桟橋がある。これは全て商会が運用しているから俺達は荷を下ろすだけで立ち入ることはない。

 

 居住区に作られた民生施設である大型プールは満員御礼のようだな。やってきた騎士団員もここで羽を伸ばしているに違いない。

 そんな中にフライヤ達の姿が見えた。打ち合わせじゃ無かったのか? そういえば、俺は一度も行ったことが無かったな。何事も無ければ明日は出掛けてみるか。


 ガレオンさんのところは、少ない部下を使って中継点の治安維持と領土の巨獣からの防衛を図っているようだ。

 2小隊に満たない兵士だから、イザと言うときには俺達も防衛に参加しなければなるまい。その意味では早期発見と巨獣の進行方向を常に監視しなければならない。ラズリーのところは半径300kmの運航管理を行っているようだが、ガレオンさんのところは500kmにも達している。巨獣に関する情報は常時ラズリーのところに送っているようだ。ここに3隻のギガントが本格運用されたら、少しは巨獣の早期発見に寄与できるだろう。


 「アレク様達がやってきたにゃ」

 ライムさんが来客を告げると、その後ろからアレク達がぞろぞろと入ってきた。

 仮想スクリーンを閉じて、席を立って出迎える。


 「初めてですよね、ここに来るのは。歓迎しますよ。どうぞ、こちらに!」

 やってきたのは、ヨットで遭難しそうになった同志達だ。

 ソファーに座ると、その柔らかさに驚いているぞ。


 「さすがに侯爵の屋敷ね。ほんとに貴族のようだわ」 

 サンドラがそう言ってるけど、その言葉、矛盾してないか?

 「まあ、上には上があるだろうが、体面は保てそうだな。リオが貧乏性なのは、あの放送で皆が知ってる。だがケチとは誰も思っていないようだ。その違いは大きいぞ」

 貧乏性ってのは褒めことばなのか? なんか微妙だな。

 そんな雑談が弾んでいるところに、氷の入ったグラスとボトルが運ばれてくる。

 一口飲んだアレクが、採掘の終わりには寄らせてもらおうなんて言ってるぞ。


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