V-191 新たな騎士団
「とんでもないものを搭載したわね。……1つ教えて頂戴。船体は持つでしょうけど、多脚式走行装置は衝撃を吸収出来るの?」
「通常なら2列に設けるのでしょうけど、ガリナムⅡは3列に設置します。360mm2連装砲塔の総重量は3千tを超えますよ。それでも戦艦の総重量から比べれば遥かに軽いですから船体が発射時の衝撃吸収を行えます。ガリナムⅡの総重量は1万3千tですから、発射時の衝撃は多脚式走行装置に伝わり、走行装置の破損や目標のズレを生じるでしょう。ですから、ガリナムⅡには白鯨と同じ反重力装置を組み込み、発射時には浮上した状態を取ります。精々地上10mを30秒程度ですけどね。また、発射ガスの一部は、艦体側面にあるガス排出口から放出します。弾丸の初速は秒速500m程度に落ちますが、発射時の衝撃を10分の1まで低減出来ますから乗員や船体の受けるダメージを軽減できます」
「でも、命中率が悪そうね。それに射程も短かそうだわ」
「まあ、それは我慢してもらうしかありませんね。それでも、射程は10kmですから騎士団のラウンドクルーザーであれば、十分な飛距離と言えるでしょう」
タバコを咥えたまま火も点けずにジッと仮想スクリーンを眺めてるぞ。
ふうっと溜息を付くと俺に顔を向ける。
「この艦がスコーピオ襲来の時にあればね……」
「中盤までは戦えたでしょうね。ですが、補給の問題がありますよ」
スコーピオ戦ならば、巡洋艦の走行甲板に3連装の125mm砲を多数設ける方が効果的だろう。万能軍艦なんてないからな。何かに突出した艦にならざるをえない。
「こっちの母艦はゼロ用ね。だいぶ横幅があるわ」
「ゼロ8機の標準運用回数を5回としました。偵察用円盤機3機を合わせるとこんな形になりますね。武装は貧弱ですが、時速50kmまで巡航速度を上げられました」
多脚式走行装置を1列追加しただけだで2割以上速度を上げることができた。これも重力アシスト核融合炉で莫大な電力が供給できるからに他ならない。その上従来の小型核融合炉よりもコンパクトだから、動力炉区画が半分以下になってるし、三次元メビウス機関による反重力装置も出力は通常のメビウス機関より数倍の出力がある。これを両艦とも搭載しているから色々と遊べたことも確かだな。
「カンザスを改造したくなってきたわ。リバイアサンの次はカンザスの改良ね」
「やはり、資金があれば色々と楽しめますね。でも、カンザスを改良して終わりにしましょう。どこまでも際限がありません」
「まだまだよ。そこで終わればそれっきりになるわ。常にリオ君には前を見ていてほしいわ」
そう言って俺にキスをすると、端末に画像をダウンロードして自分の部屋に歩いて行った。
そういえば、まだ夜中だった。明日は休んで、その次の日には鉱石採掘に向かうんだったな。残りのワインを一息に飲むと、自分の部屋に戻る。
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艦隊は3つあるのだが、ガリナム艦隊は俺達を必要としないから、カンザスと白鯨に交互に乗り組むのが俺達の仕事になってきた。とはいえ、上手く2つの艦隊の中継点への寄港が合うはずもなく、3日から5日ぐらいはパレスで油を売ることになる。
そんな時間を利用して、各人の課題がドロシーから告げられるから、現場職から事務職に転向した気分になる。
こんなことなら白鯨を作らねば良かったと後悔しても既に遅し、早くリバイアサンが出来上がるのを待つしかなさそうだ。
ドミニクとレイドラは艦隊運用を立案する大型管理装置の設計をガネーシャさんと共同で取り組んでるし、フレイヤはパンジーⅡ型のダメ出しを行っている。エミーは宝石の売値を使って福祉施設の教育施設の充実を考えているようだ。
残った俺は、ヒルダさんの呼び出しを受けて、1人ウエリントンの第2離宮に飛び立った。
内密とのことなので、アリスの裏技を使って一気に第2離宮の庭に下り立つ。
突然出現したアリスに離宮のネコ族のお姉さん達が騒いでいたけど、出てきた俺の顔を見て、直ぐにヒルダさんのところに案内された。
いつものリビングに通されると、ヒルダさんと歓談していたお妃様の一人が俺に軽く頭を下げる。恐縮して深々と頭を下げる俺にヒルダさんが席に着くように促してくれた。
「リオ殿は、仮にも3つの王国と同列なのですよ。私どもに頭を下げる必要はあません」
「はあ……。あまり自覚がありませんもので。それで、急なご用件とは?」
俺のストレートな言葉使いに、2人のお妃様が笑みを浮かべる。
「こんなに早く来てくれるとは思いませんでした。どちらかと言うと、ちょっとした頼み事なのです」
「ナイトを見せてもらいましたわ。来年には4体が納入されるはずです。その内の1体を戦姫に似せて作れませんか?」
ん? 王国用にはどちらかと言うと、騎士の鎧を着せたケンタウルスの姿にした筈だ。戦姫というなら、女性フォルムになるのだが……、ひょっとして、お妃様が乗るつもりなんじゃ?
「ひょっとして……?」
「私が乗るつもりです。ヒズラディに乗れるなら、戦機を駆っていた私にも可能なはず。それを使って……」
「ちょっと待ってください! ヒルダさん、ひょっとして国王も何か考えてるって事は無いですよね。場合によってはトリスタンさんも!」
はあ……。と深いため息をヒルダさんが漏らすところを見ると、図星のようだ。
ネコ族のお姉さんが新たなお茶を2人のお妃様に持ってきた。俺にはマグカップのコーヒーが出てきた。早速、砂糖を3杯入れて良くかき混ぜる。
「リオ殿の考える通りですの。まったく困った人達ですわ。新たな騎士団を作って、西に向かう騎士団の守護をするんだと言って……。まあ、国政は王宮から離れてもそれなりに可能だとは思っていますが……」
子供じゃあるまいし、困った連中だな。だけど、考え方は悪くない。国政を代理出来る者がいれば、遠隔地にいても問題は無いだろう。
「ところで、現国王には王子がいるんですか? 王女が沢山いることは分かってますけど」
「3人いるわ。長男はリオ殿よりも年上よ。軍の1つを束ねているわ。次男は学府で「教授をしています。三男は来年学府を卒業して、博物学を専攻すると聞いています」
万が一の時にも王国が乱れることは無さそうだ。
「ならば、国王の名代として長男を使うことができますから、国王の道楽と言うか民を思う心と言うか、それを満足することは可能でしょう。何かあればいくらでも衛星回線を使って相談できますし、後見人をおいてこの際に将来の国王を教育することも可能でしょう」
「リオ殿もそう思いますか……。ならば、4機の内2機を戦姫のフォルムで作り上げてください」
「ひょっとして……」
俺の言葉に、ヒルダさんが笑みを浮かべて頷いた。
エミー達は何も言ってくれなかったけど、国王の3人の妃の内、2人が騎士だったようだ。
ローザが戦姫を駆れるのも、それが原因なのかもしれないな。
「国王達には騎士団がどんなものかなんて、まるで分かっていません。軍の巡洋艦を持ち出そう等と相談しているのが聞こえてきます。フラグシップを含めて、リオ殿に設計を依頼したいのです」
「ヒルダさんには色々とお世話になっていますから、それなりに協力は惜しみませんが……。俺達の隠匿桟橋はリバイアサンの造船で塞がってます。詳細設計まででよろしいですか?」
「十分です。王国の軍用造船場で建造出来るでしょう。概念が出来た段階で一度お話をお聞きしたいですわ」
丁度いい暇つぶしになりそうだ。何といっても、コストを気にしなくて良さそうだからな。ここは思い切って常識破りの艦隊を作ってやろうかな。
「国王達には、俺が了解したと伝えておいてください。でないと、碌でもないことを始めそうです」
俺の言葉に頷いているところを見ると、事態は俺が思う以上に深刻なようだ。まあ、分からなくもないけど、新たな騎士団が出来るまではちゃんと仕事をしてほしいって事だな。
「そうそう、やはりリオ殿には知らせておいた方が良さそうだわ。前に頂いた原石ですけど……。どうやら、2例目になりそうですよ。ウエリントンの至宝になりますわ」
確か、金属イオンが入ってるって言ってたやつだな。喜んでいるところを見ると、値段も付けられないって事かな。
「それは、何よりです。俺としては、ヒルダさんにはこの離宮で暮らしていて欲しかったのですが……」
「時代が急速に動いています。のんびりと過ごすことは王族として如何なものかと。それに、娘達も頑張っているのであれば、私だけここにいるのもはばかれますわ」
まあ、それは分からなくもないが、俺としてはこの風情のある離宮に来るのが楽しみだったんだけどね。
「そうだ! 一応確認しますけど、戦機は搭載せずにナイトと新型獣機それにゼロでよろしいですね。騎士や運航部、保全部の要員は俺達から割くことがことが出来ませんけれど当てはあるのでしょうか?」
「国王は12騎士団と調整をするようです。戦機を動かす騎士を必要としないことから調整の余地があると見ているようです。場合によってはヴィオラ騎士団と接触する可能性もありますから、あらかじめお話をしておきます」
12騎士団と言っても、現在は11なんだよな。新たに王族達が騎士団を作って12番目に入るってのも予定調和の1つになるのかもしれない。それに、鉱石採掘をしないというのも、彼らの仕事を邪魔することにはならない。かえって、12騎士団として迎えることで、西の騎士団防衛を行えば12騎士団全体を民衆が評価してくれるだろう。
どちらかと言うと、道楽ではなく真剣に対応してほしいところだな。
「向かう場所は西でしょうから、単艦とはいきません。巡洋艦2隻を基本に考えます。操艦は自動化できるでしょうが、ある程度のクルーを集めることは必要でしょうね」
「出来れば、3艦としていただけませんか? 他の王国も乗り気なのです」
困った国王達だな。まあ、ウエリントン王国が動けば自国領の騎士団擁護のために王族が動くことは容易に予想できる。
となると、物見遊山ではなく、本格的な救援艦隊として考える必要がありそうだ。
俺達や、ローザの艦隊の仕事を肩代わりして貰えると考えてもいいだろう。きちんと考えて設計を進めよう。