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V-190 大口径の艦砲


 「大変良い品を取引させていただきました。値段の上限をあのように決めて頂き、私達も予定以上の品を確保できたことを喜んでいます。中小の宝石商もかなりの原石を手に入れたようですから、今度は加工業者の奪い合いになるでしょうな」

 

 そんなことを言って宝石ギルドの男が笑っている。

 同行してきた数人の男女の機嫌も良さそうだ。俺達も用意してきた全ての原石が売れたことを喜んでいる。マリアンも税金の額に騎士団領の施政庁で喜んでいるに違いない。

 フレイヤ達は少し不機嫌だったが、それでも10億を超える金額を手に入れたはずだ。各自の必要な計画を実行出来るに違いない。

 ん? ……ひょっとしたら、一番喜んでるのは、拠点の商会かも知れないぞ。大型工事や設備の受注が舞い込むんだからな。


 「原石を扱う騎士団と比べてはるかに安い値段となりましたが、このような機会が度々あるとは思えませんから、それらの騎士団の恨みを買うことも無いでしょう。我らの取引は継続しますからね。とはいえ、ヴィオラ騎士団が保有する残りの原石に興味があることも事実です。一度鑑定にお伺いしたいのですが……」

 「いいですよ。ヴィオラ騎士団のウエリントン王国にある支所と日時を調整してください。俺達は常に騎士団領にいるとは限りません。本業の鉱石採掘がありますから」

 

 そんな俺の言葉を頷きながら代表者が聞いているぞ。

 それにしても、かなりの金額だな。一気に領内の施設建設が始まりそうだ。

 そういえば、ベレッド爺さん達の砂金採取はどうなったんだろう?

 

 『総額で7千万Lとの報告を受けています。半分は国庫に入りますが、残った金額でドワーフ住宅の環境整備と住宅建設に使用すると聞きました』

 それなら、全額を当てたら良さそうな気がするぞ。酒をタルごとたくさん仕入れるのかと思ってたからな。

 会談が終わったところで、俺とエミーは会議室を後にする。明後日にはアレクやローザ達もこの島に集まってくるはずだ。たった3日間だが今のローザ達には、それ位の休暇もたまに取れるぐらいに忙しくなったのだろう。

 ガリナム艦隊をたまに派遣してやるか。残り2つの王国の機動艦隊が出来れば少しはローザ達も余裕が出来るだろう。それまでの期間ならそれ程俺達の警備体制に穴が空くことにはならないはずだ。


 ホテルで荷造りを終えたところで、リビングでコーヒーを楽しむ。

 今日の夕方にはカンザスに戻らなければならない。ホテルの1フロアを借り切っているのは、いくら自分達の施設ではあってもコスト的に問題だ。

 カンザスなら宿代は掛からないし、食堂のメニューだって俺好みだ。


 「リオは用意が終わったの?」

 「元々あまり持ってこなかったぞ。ところで夕食はカンザスってことだよね?」

 「やはり、私はセレブにはなれないわね。少しずつ出てくる料理なんて私には合わないわ」


 それは同意出来る。一度に持ってくれば済むことを1品毎に運んでくるんだからな。食べた気がしないのは俺だって同じだ。

 みんなでカンザスに戻ってくると、ホッと一息ついたような表情を見せる。高額な宝石の原石の取引を終えたから肩の荷が下りた感じだ。見かけはガラス破片の古びたやつにしか見えないのが1千万Lを超えるんだからね。やはり俺達には金属鉱石の方が生にあっている。


 たっぷりと盛られた夕食を見て俺達の目が輝く。やはり料理は量も大事だ。アレクやローザ達が明日にはやってくる。またバーベキューを浜辺でやることになりそうだ。ネコ族の連中もそわそわしてるからきっと楽しみに待ってるに違いない。


 「これで、皆さんの資金が揃いますね。私もこの資金を保健医療に使用できます」

 「領土の監視用ギガントが10億だからな。3台は必要だけど何とかなりそうだ」

 「私はパンジーの小隊を作るの。円盤機は偵察が主で攻撃が従でしょう。攻撃が主で偵察を従にすれば拠点とガリナム艦隊が万全になるわ」

 「サラマンダーの2番艦を作ります。現在のサラマンダーをローザ様が買い取ってくれると言っていますから、パンジーとゼロを搭載する母艦の設計をお願いします」

 

 レイドラの課題は艦隊編成らしいな。通常の母艦ではなく、攻撃専用の母艦ってことか。ガリナムのパワーアップを考えるとやはり速度は優先されそうだ。

 「姉さんから、リオにガリナムの改造を頼んでほしいって言付かったわ。でも、あれ以上改造できるの?」


 「少し考えてみるよ。でも概念設計までだぞ。後は、ガネーシャさんに頼んでほしいな。もっとも向こうも何か考えてるらしいから、その辺は調整が必要になるぞ」

 

 場合によっては、根本的に見直しした方が良さそうだ。メイデンさんの気性も分かったし、乗組員もメイデンさんに感化されてるからな。


 「私の資金はプールしておくわ。これから長く拠点を維持しなければならないでしょう。あまり無駄遣いは出来ないと思うの」

 ドミニクの意外な言葉に皆が考え込んでいる。でも、それはドミニクだけでなく俺もそうだ。原石はいつでも売れる。それまでは何もないパレスの壁を飾ってもらおう。


 皆がホッとした表情で眠っている。やはり緊張していたに違いない。

 そんな彼女達のベッドを抜け出して、リビングで一人缶ビールを飲み始めた。まだ、眠気が訪れない。こんな時はアリスと一緒に設計をするのも楽しいに違いない。


 『突撃艦というのは、この世界では初めてになるでしょうね』

 「前に頂いた駆逐艦はガリナムよりも大型だったな。領土の防衛艦になっているけど、あれを改造した方が良さそうだ。ガリナムは兵装を削減して代わりに使えばいい」


 『空は飛ばなくても良いでしょう。それだけ地上速度を上げれば良いのですから』

 「だが、強度を増すには装甲版を厚くしなけれならない。重量は増加するんだよな」

 

 極端な例が戦艦だ。巡航速度は時速30kmも出ない。出来れば通常の駆逐艦よりも装甲を厚くしたいんだが……。


 『部分的に厚くすることは可能です。艦首、側面を補強することで全体重量は1割程度の総重量増加に抑えられます。多脚式走行装置を3列に配置すれば側面防御用に外側の足を使えますよ』

 「大口径砲を積めないか? 軸線上に1門あると色々と役立ちそうだ」

 『連射は出来ませんが、数発なら出来そうですね。船体補強で発射時の衝撃にも耐えられますよ』

 

 そんな会話を楽しみながら設計デザインが纏まってくる。ゼロの母艦になるサラマンダーⅡ型はゼロの搭載量を8機に増やす。作戦可能回数を3回から5回に増やして、武装は40mm連装砲塔をブリッジの前後に付ければいい。

 設計項目を次々と決めていくと、それに従って仮想スクリーンに映し出されたラウンドクルーザーの形が変化していく。

 新たなガリナム艦隊は、大型駆逐艦を改造したガリナムⅡと既存のガリナム、それにサラマンダーⅡの3隻になるな。払い下げられた大型駆逐艦を改造するから、改造費用は20億L前後だろう。既存のサラマンダーをローザ達が買い取ってくれれれば、費用は削減することができる。動力炉と反重力装置を白鯨と同じものを使うことで、最大速度は時速80kmに近い数字だ。今のガリナムよりも早くなるから、空を飛べなくてもメイデンさんは満足してくれるだろう。

 

 簡単なメール文に3隻の概念図を添えて、メイデンさんに送っておいた。不満があれば直ぐに返事をくれるだろう。


 次は、ギガント型の監視船だ。既に概念設計まで終了しているから詳細設計に進むようにアリスに伝えておく。

 ミニバーでインスタントコーヒーを入れて、仮想スクリーンに映る中継点の様子を見る。桟橋の工事は一段落したけど、その桟橋に工事中の建物が数棟あるようだ。区画図を見ると新たなアパートと商店街のようだ。住民区画にはそんな商店も必要なんだろうな。

 一番西の桟橋には2隻のラウンドクルーザーが停泊している。こうこうと照らされた照明燈の下で、数組のドワーフ達が忙しそうに働いている。24時間体制で点検整備を行っているのだろう。

 現在、中継点に設置された桟橋は、一般用が3つにヴィオラ騎士団専用が2つの5つにも増えている。東から番号を振っているから点検整備中の桟橋は5番桟橋だ。ここは東側だけが使用可能で西の壁にはドワーフ族の住宅や工房が控えている。4番桟橋は居住区や学校、大型プールまである住宅居区画だし。3番桟橋は商業区域に行政庁が作られている。2番桟橋はヴィオラ艦隊の停泊区画であり、ヴィオラ騎士団の居住区と少し離れてパレスが立っている。1番桟橋は隠匿桟橋だから中継点から直接行くことができない。入り口さえ尾根を1つ離れた場所になる。

 3番、4番桟橋には6隻のラウンドクルーザーが停泊している。

 明りが半分落ちているから、補給と休養に訪れた騎士団なんだろう。3番桟橋の商会のビルはまるで昼間のように人通りが多い。24時間体制で店を開いているんだろうか?

 施政庁のビルも明りが灯っている。

 まだまだやるべきことが多いようだからな。ザクレムさん達には頭が上がらなくなりそうだ。

 

 「あら? まだ起きてたの」

 振り返ると、カテリナさんが立っていた。いつ帰って来たんだろう?

 俺に微笑みかけると、ミニバーに行ってワインのボトルとグラスを2個手に持って俺の隣に座り込んだ。


 「メイデンさんの依頼を考えてたんですけど……。どうにか、概念を纏めました」

 そう言って、仮想スクリーンにガリナムⅡを映し出す。


 「やはり、空は飛ばないのね?」

 「短時間ですが時速80km程で移動することで、何とか納得してもらいたいですね。高速駆逐艦より速いですよ」


 「でも、制動用スラスターを艦首に付けたんでは、納得してくれないんじゃなくて?」

 ワインのコルクを抜いてグラスに注ぐと、俺に1つを渡してくれた。

 軽くグラスを合わせて一口飲む。さっぱりした甘さだな。


 「この部分ですか? これは360mm砲の砲口ですよ。軸線上に固定してますが、アリスの計算ではこれ以上の艦砲では船体が持たないと……」

 俺の言葉にカテリナさんは声も出ないようだ。ジッと概念図を眺めている。

 そんなカテリナさんを見ながらタバコに火を点けた。

 


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