表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/217

V-189 競売の最後はサイコロ勝負


 競売当日、日中を原石の展示として競売人を10人程のグループに分けて4つの会議室を巡らせる。

 会議室にはカリムの部下が2人ずつ張り付いて警備をしているし、1部屋毎に数台の監視カメラが原石と競売人の動きを見ている。少しでも不審な動きがあればカシムが駆け付けるに違いない。3か国でも指折りの宝石商とその加工職人が数人ずつ原石を一つずつ手に取ってその品質を確認している。

 場合によっては拡大鏡や特殊なライトを当てて調べているぞ。小さなタブレットに出展番号と見比べて評価を書きこんでいるようだ。

 部屋を出る時に、必ず原石を見て溜息を付いているのは微妙だな。良い方向に考えておこう。


 「中々の評価のようですね。今晩の競売が楽しみです」

 「そうかな? 皆部屋を出る時に呆れたように溜息を付いてるぞ」

 「あれは、品質の良さを評価してるのでしょう。母様のところに、大勢の商会が会見のお膳立てを願い出ているようですよ」


 だけど、ヒルダさんはそんな陳情を軽く笑いながら聞き流してるんじゃないかな。資産運用にこだわっているようなところもあるけど、王国の維持には色々と入用なんだろうな。俺達も国を作ってそれが分かったようなものだ。とかく国はお金が掛かる。

 まあ、長期的計画でも立てればそれ程必要とはならないんだろうけど、新興国だし、作った場所の緯度が高いからな。低緯度というか、赤道付近の王都から比べれば国防費は馬鹿にならない。


 「宝石ギルドとの調整窓口が出来てるからな。今回は競売に参加する人達に販売するが、残りは宝石ギルドと話し合って買い取ってもらおう。個別に原石を売るのはこれが最初で最後だ」

 「私達が個人的に所有している原石もですか?」

 「そこまでは規制しないさ。だけど、手放すのは年間1、2個で、出来れば所領にいる商会を通した方が良さそうだ。商会には色々と便宜を図ってもらってるし、少々安値でも十分だろう?」


 個人が持っている原石まで使い方を云々するつもりはない。だけど、皆個人的な事にはあまり使わないんじゃないかな? 何かあった時や、自分で対処しなければならない時に、国庫からではなくその原石を使うと思うぞ。

 国庫の金庫番であるマリアンは使途に厳格だからな。ちょっとお金が足りないぐらいでは出してもらえない可能性が高い。ある意味裏金なんだろうけど、それも必要悪ということで黙認してもらおう。


 宝石商への閲覧が終わると、今度は一般の金持の登場だ。その前にカリムの部下が全ての原石をガラスケースで覆っている。ケースには振動センサーが付いているらしい。不特定多数の来客となる以上、手に取って眺めるという訳には行かないのだろう。


 そんな作業が一段落すると、展示場である会議室には大勢の貴婦人を伴った金持が、ぞろぞろと入ってきた。

 ガラスケースの中の原石を眺めているんだけど……、鑑定出来るんだろうか? かなり疑問だな。取引のある宝石商を同行させている連中もいるようだ。ガラスケース越しに拡大鏡で覗いている。何組かの客は警備員と何やら話をしている。少し話をしてムッとした表情で立ち去るところをみると、ガラスケースを開けるよう懇願したんだろうな。

 一応、宝石ギルドの代表者の鑑定結果は全てオープンされる。20人近い専門家の評価は少し変動があるようだけど、アリスの意見では偏差内に収まっているとのことだ。


 ドミニク達が部屋に戻ってきた。たぶん買い物なんだろうけど、拠点で待つ連中にも何かお土産を買っていかねばなるまい。遊んでからだと忘れちゃうからな。

 

 「夕食は1600からになるわ。1900から競売を始めるそうよ」

 「競売はトリスタンさんのギルドに任せて良かったのか?」

 「あのギルドなら安心できるわ。宝石ギルドに任せようとしたんだけど、買い手だからと断られてしまったの」


 彼らの信用問題にも係わるわけか。それにそれだけ彼らも原石が欲しいという事なんだろう。


 「リオは侯爵なんだから、ちゃんと正装するのよ。私達も全員正装だからね」

 フレイヤがどこからか聞いてきた内容を俺達に告げる。

 刀をマントで巻いていくか? あのマントを着るのはどうも抵抗があるんだよな。

 

 ドロシーも付いていくみたいだ。ドロシーの正装は、あの探検隊ルックらしい。まあ、無難なところだ。同じ服装でライムさん達2人が一緒のようだから安心できる。

 16時になったところで、2組に分かれて食事をとる。トリスタンさんに不特定の来客時には、食事は全員が同じ時刻で取らないように厳命されている。そこまでする必要があるかどうかは別にして、こういう事は専門家の言う通りにしておいた方が良いだろう。

 食事が終わり、軽くシャワーを浴びて着替えると、既に開催30分前だ。

 コーヒーを飲みながら仮想スクリーンで会場を眺めると、小さなテーブルに数個の席が100セット程作られている。その上にベンチシートが20個程用意されているようだ。

 競売の席は一段高く作られ、その右手には少し大きなテーブルが用意されている。どうやら俺達の指定席らしい。その隣のテーブルは3か国のお妃様達の為だろう。公的な力関係で席が決められているらしい。

 既にベンチシートは空きがない状態だ。最後尾には立って競売が始まるのを待っている人達もいるぞ。

 TV局のカメラマンとリポーターがリハーサルを何度も繰り返している。

 何か、一大イベントのように思えるな。この競売の視聴率が気なってきたぞ。


 スクリーンを見ながら途方に暮れていると、続々と皆が集まってきた。

 「さて、出掛けるわよ。銃は持ってるわね。何も無いでしょうけど、私達はやられたら反撃出来る騎士団なんだから!」

  

 かなり物騒な事をドミニクが告げたところで、俺達は部屋を後にした。

 大ホールのある2階までエレベーターで降りると、専用通路を使って会場に向かう。途中、何組かのトリスタンさんの部下が警備している。彼らに軽く頭を下げてねぎらいながら、会場へと到着した。

 

 既に、テーブル席も埋まっている。俺達の登場で会場が拍手に包まれるが、あまりそんな行為になれていないから、少し顔を赤らめて軽く会場に片手を上げて小さく頷いたところで席に着いた。

 「中々良いわよ。結構威厳があったわ」

 そんなフレイヤの言葉を聞いてエミーも小さく頷いてくれた。


 再び会場に拍手が沸く。お妃様達の登場だ。俺達も席を立ってお妃様の来場に敬意を表す。

 全員が席に着くと、会場が鎮まる。軽い飲み物がテーブルに運ばれ、タバコを楽しむ客も出始めた。

 いよいよ競売の開始になる。


 カリムが3人の男と共に、中央奥の扉から会場に入ってきた。

 一人が競売の担当でもう2人は補佐って感じかな。カリムは会場警備の責任者として後ろに控えているようだ。この会場にも数人の警備員が目を光らせているのだろう。


 インカムを装備して小さな木槌を手に、競売用の特設台の前に立つ。

 会場の全員が各自のタブレットを手にした。俺達も自分専用のタブレットを取り出して、エントリー番号順に並んだ原石とその品質、評価額と偏差値を眺める。


 「エントリー番号、V-001番、サファイヤ原石。評価額の半値から開始します」

 その声と共に競り人の頭上高く。最初の金額が提示される。その下にその金額での購入希望者数が表示された。

 警備員がうやうやしくワゴンに乗せて、最初の原石を運んでくる。

 最初の値が600万L。その値での購入希望者は800人を超えている。値段が100万L単位に上昇して、800万Lで20人を切ったようだ。

 1000万Lで10人が残り、その登録番号が表示される。全て2桁数字だから、名の知れた宝石商なんだろうな。

 1300万Lで2組が残る。次の数字は小刻みな数字だ。1440万L、これで2組とも下りない場合は、その2組で2個のサイコロを振り、合計数字の高い方を落札者とすることであらかじめ調整をしてある。

 その道のプロが評価した額の標準値を1割超えた額。それが俺達が定めた価格だ。

 無駄な投資を防止して、大店おおだな以外の参入も可能とするということで仲間達と合議はしているし、宝石ギルドの了承も取ってある。

 どうやら2組とも下りないようだ。補佐が2組の登録番号を読み上げ、俺達のテーブルの上で2個のサイコロを振りあった。


 「落札は登録番号27番!」

 会場に拍手が起こった。

 そんな感じで、次々と原石が競売に掛けられる。やはり評価額の2割が上限という形では単独の落札者は中々出なかったが、逆にサイコロ勝負の方が会場の受けが良いのが面白い。さすがに評価額が数百万以下の原石には大きな店は参加せず、中小の店の競りを面白そうに眺めながらグラスを傾けている。

 時間は既に深夜を過ぎているが、誰も席を去ろうとしないのが不思議なくらいだ。お妃様もたまに競りに参加してサイコロを振っているのが微笑ましく感じられるな。


 「ドロシー、現段階でいくら位になってるんだ?」

 「50億Lを超えてるよ。このままいけば100億Lを超えるかも?」

 

 色々作らなくちゃならないからな。初期投資額的には何とかなりそうだ。運営費は残りの原石を年間数個ずつ手放せば良いんじゃないかな。


 最後の原石の競りが終わった時には午前3時を過ぎていた。

 全て現金払いが原則だが、それは教会の銀行が隣室で手続きを簡略化している。支払者の口座残高から、その場で俺達の口座に送金手続きがなされるのだ。約束手形や小切手は一切扱わない。ある意味現金取引と同等になる。中小の店の中には実際に現金を持参した者もいたが、支払いの後の現金は直ぐに口座に落としていたらしい。やはり高額の現金を持っているのはストレスがあるようだな。


 「で、いくらになったの?」

 「ヴィオラ騎士団としては120億ってところらしい。皆のところもそれなりだけど税金は取るからね。個人だと6割、公共目的に使用するなら2割だな。マリアンからお達しだ。ローザのところにはそのまま金額を転送する。数億ずつになりそうだけどローザ達もアンゴルモアの改造費とするそうだ」

 

 個人的に使えばそれでも途方もない金額だけど、全員不機嫌なんだよな。

 まあ、税金が6割だと聞けば残りの原石をホイホイ手放さないだろう。問題はカテリナさん達が何というかだよな。中間の4割にしたいけど、公共性を主張するんだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ