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V-188 お妃様へのおみやげ


 俺とエミーを7人のお后様達が取り囲むように坐っている。ウエリントン王国のお后様は3人らしいから、4人が他の2王国のお后様という事だろう。


 「とんでもないほどの原石を手に入れたとか? そんな噂を聞いてやってきましたの」

 「明日はゆっくりとお見せして頂けると思っていましたが、出来るなら経緯をお話して頂いた方がおもしろそうという事で、ディナーにお誘いしたのですよ」


 優雅に紅茶を飲みながら、そんな話をしてくれた。

 早い話が暇潰しに違いない。さすがに王族ともなると、相手を誤魔化す話術は俺達を遥かに凌いでるな。


 「そうだ! ……色々とお世話になっていますから、お土産を持参しました。確か、3カ国のお后様の数は10人と聞きました。どうぞ、これを1つずつ収めてください.ここにいらっしゃらなかったお后様の分は、お持ち下さってお渡ししていただけると助かります」


 そう言って、バッグからバンダナに包んだ原石を10個取り出してテーブルの上に並べた。選ぶのはお后様達だから当たり外れがあっても俺には責任はない。


 「あら? リオ公爵がお土産とは珍しいですね。では、私はこれを頂きますわ」

 ヒルダさんが手を伸ばすと、次々にお后様達がバンダナの包みを手にする。2つ持っていったお后様は、ここには来れなかったお后様に渡すつもりなのだろう。


 「皆で集めた原石は、200kgを軽く越えています。1度に市場に出せば値崩れを引起しかねません。とりあえず300個程度を競売に掛ける事にしました。俺が集めた半分は騎士団に供出していますが、残りはパレスの飾りにしています。その中で、程度の良さそうな物を選んで包んであります。明日の競売の参考にしてください」


 俺の言葉に驚いてお后様達がバンダナの結びを解いて中身を確かめ始めた。

 「まさか、原石そのものを頂けるとは思いませんでしたわ」

 そんな事を言いながら、侍女を呼んで何事かを告げている。


 「なるほど、リオ公爵は自分が手に入れた原石をテーブルに置いただけ、その原石を選んだのは私達ですから、原石の価値が多少違ってもお恨みすることは出来ませんわ」

 小さな笑みを浮かべながら、原石を天井のシャンデリアにかざして何人かが眺めているぞ。


 「もうすぐ、王国の鑑定人がやってきます。宝石としてカットされたものなら私達にも価値がある程度判りますが、原石となると専門家でなければ無理ですね」

 ジッとガラスの破片のように見える原石を眺めていたヒルダさんが呟いた。皆が頷いているのを見ると、他のお后様達も同じなんだろうな。もっとも俺にだって価値が判らないけどね。まあ、アリスが選んでいる以上、それ程値段に違いは無いだろうと思ってる程度だ。


 「エミーも出品するの?」

 「ええ、それで私達の国の生活保障を行なう資金源にします」

 

 エミーの課題は俺達の国に生活保障制度を作ることだったらしい。もちろん怠け者に与えるような安易な制度ではないはずだ。それでも、国民が増えればそれだけ資金が必要になる。ある程度余剰金があれば良いのだが、新興国である俺達にはそんな資金は無い。エミーが喜んで参加したわけだな。

 

 侍女が、数人の男を案内して来た。

 「お呼びと聞いてやってきましたが?」

 「ファランドル、ヴィオラ公爵から秘蔵の宝石の原石を頂きました。たぶん明日の競売にはこれとほぼ同等の原石が出展されるはずです」


 そう言って、ヒルダさんが手に持った原石を彼に手渡した。歳の頃はガレオンさんよリも上に見えるが、それは彼の仕草や服装からだ。顔立ちはアレクとそれ程違いが見えないな。


 「これは……」

 そんな事を言いながら、服のポケットから拡大鏡を取り出して、天井のシャンデリアにガラス片に見える原石をかざした。


 「ダイヤ……。カットすれば小さくなりますが、10カラットが1つに3カラットが3つは取れるでしょう。問題はその中に金属元素を取り込んだ部分があることです。ウエリントン国王の王冠にあるトリケラをご存知ですね。あれと同じようなものです。荒いカットをしなければ何とも言えませんが……」

 「単にカラット数で値段を決められぬという事ですか。それはおもしろい原石を頂きました」


 「次ぎはこれですね。……サファイヤです。20カラットを作れます」

 次々とお后様達の原石を鑑定していく。


 「たぶん宝石商も同じ鑑定を下すと思われます。これだけ品質の良い原石は近頃目にしていません。値段的にはナルビク王国のフェダーン王妃の持つエメラルドが品質と取れる宝石の大きさから最大でしょうが、他のお后様の持つ原石もその半値以下になることはありません。2割程度の差になるでしょう。原石の状態でこれだけ値段を合わせられるのもヴィオラ騎士団領に良い鑑定士がおられるに違いありません。1度お話をうかがいたいものです」

 「そこにおいでになる公爵様が無作為に選んだようですよ。第2離宮の庭を美しく感じる者であればの事だと私には思えます」

 「とは言え、ヒルダ様のダイヤの原石はある意味値段を付けることが不可能です。そのような金属イオンを取り込んだ原石は珍しいのですが、ある意味、宝石の輝きを損ねるものでもあります。カットでどのようなことが起こるか……。それが、トリケラのような意味をなす形となれば、軽く10倍の値が付くでしょうし、輝きを損ねるだけなら、その大きさの1割程度の値段となります。出来るなら私にそれを任せて頂けないでしょうか? 王宮の工房でじっくりとカットしたいと思っています」


 ヒルダさんは彼に原石を預けた。果たしてどうなるのかな? あまりパッとしないようであるなら、別の原石を内緒で渡してあげよう。


 「それにしても、これ一つで1000万Lを超えるという事ですか。こんなお土産を頂いても、私どもには何もしてあげられませんわ」

 「まあ、まったくの下心が無いわけではありません。できれば少しバックアップしていただきたいんです」


 そんな前振りをして、人材確保のお願いをする。

 各国の学府の卒業生を20人程。さらに可能であれば俺達の王国に作る学府の先生を頼みこんだ。


 「エルトニアの教育者を縁故を頼んで何とか来て貰う事になっています。ですが、先生が足りなければ教育は進みません」

 「その資金を競売で確保するという事ですか。確かに新興国ならではの苦労があるでしょう。私達も協力を惜しむつもりはありません。現在の公爵領の教育者からヒルダを通して具体的な科目を教えていただければ最適な教授を紹介しますわ」


 これで、俺の課題に目途が付いて来たな。教育はある意味システム的なところがある。設備だけ立派では意味が無いのだ。ソフトである教育者が充実していなければ話のほかになりかねない。


 クルーザーで一泊して、次の日は朝食を早々に済ませると、挨拶もそこそこにホテルに引き上げた。ぐずぐずしてると、ドロシーをいまだ諦めないヒルダさんに理由を付けて俺達から引き離されそうだ。それに、昼から競売だからな。午前中は何かと忙しいに違いない。

 ホテルに着くと、俺の来るのを待っていたかのようにフレイヤ達が集まってきた。


 「いい、後30分後に宝石ギルドの代表がやってくるわ。高緯度地方で採取された原石に興味があるみたいだけど……。それ以外にも何かあるみたい」

 「俺一人で会見するのか?」

 「私達は、午後の予定があるから、暇なのはリオだけなのよ。1楷の応接室を予約してあるわ。礼服は急いでクリーニングに出すから私服で良いわよ」


 俺だって、のんびりしたいぞ!

 そう言いたいけど、フレイヤ達はエミーとドロシーを連れてサッサと自室に帰って行った。礼服が1つというのも問題だな。向こうはちゃんとした格好で来るんだろうしね。

 

 とりあえず部屋のバッグからスポーツウエアを出して着替えると、礼服を畳んでリビングに向かった。

 ライムさんが手を差し出したので礼服を渡す。30分も掛からずにクリーニングが終わって届けられるんだろうな。

 ベルトのホルスターと小さなバッグを確かめると、部屋を出る。最上階だから、エレベーターで1階に向かうにも時間が掛かる筈だ。

 フロントによって、応接室を確認すると、既に待っているらしい。フレイヤが俺に告げた会見時間には5分ほど間があるから、大事な話らしいな。それとも、待たせるのが嫌な性格かもしれないな。


 軽くノックをして、応接室の扉を開けると、数人の男女が席を立って俺に頭を下げる。

 「これは、リオ侯爵様。我ら3王国に商いをする代表です。このたびは我らの願いを聞き入れ会見に臨んで頂きありがたく思っております」

 「堅苦しい挨拶はいらないですよ。騎士団の騎士と思っていただければそれで十分です。どうぞお座りください」


 彼らが席に着いたのは俺が席に着いて、一呼吸を置いてからだ。たぶん王侯貴族を何時も相手にしているんだろうな。それが普通に出来るんだからたいしたものだ。


 「それで、俺にどんな用なんでしょう?」

 ホテルの従業員の運んできたコーヒーは、いつも飲んでいるコーヒーよりも香りが良いな。砂糖2個を入れる俺の姿を見て、末席の女の子が笑みを浮かべている。


 「今まで、北緯50度以北で宝石の原石を探そうとしたものはおりません。巨獣の脅威を考えるとあまりにもリスクがありすぎます。古い文献では北緯47度で原石を採掘した記録がありますが、8割の採掘要員の命を失ったようです。2つ教えてください。

1つは、どれだけ採掘できたのか? もう1つは、リスクは無かったのか?」


 ふむ。少しは時間が潰せそうだな。フレイヤ達が俺にこの仕事を押し付けたんだから、彼らと時間を過ごす分には、手伝えない理由に出来そうだ。

 タバコを彼らに示して、頷いたところを見て火を点けた。


 「俺達は素人ですから、原石の見立てが出来ません。これも原石と判定してはいるのですが、何の原石かは分かりませんし、その値打ちすら分からないのが正直なところです」

 バッグの中からバンダナに包んだ握り拳半分位の原石を取り出して彼らの前に置いた。

 「拝見します」と言いながら、バンダナごと原石を手に持つとスーツのポケットからルーペを取り出してジッと眺めはじめたが、その顔に表情が無くなってきた。

 コトンとテーブルに原石を戻したが、放心したように俺を見ているぞ。

 その原石を隣のご婦人が取り上げると、「あっ!」と小さな声を上げて、恥じ入ったように顔を赤くした。

 

 「ブルーダイヤの原石よ。これで2度目だけど、この原石の方が質が高いわ」

 隣の若い男に原石を手渡しながら、小声で教えている。


 「原石の採取量は200kgを超えています。その内の一部を今回持ってきました。何分、懐が寂しい国家ですから、このような事もしなくてはなりません。もう1つの答えですが、かなりの戦機を揃えましたよ。大河には巨獣が付き物ですからね」


 俺の答えにやはりという表情を見せる。

 大規模騎士団ならやれるんじゃないかな? だけど、どれが原石なのか分からないからそれなりに苦労しそうだ。俺達にはカテリナさんが作った判別装置があるのも幸いだったな。 


 「これからも採取を続けるのですか?」

 「2度としないでしょうね。国作りの為に一時的に資金が必要になっただけですし、採取した量も多すぎました。この後2、3回は出来そうですが、今回のご縁で個別に調整出来そうです」


 俺の言葉に少しホッとした表情を見せる。

 「それはありがたいお言葉です。出来れば、残りの原石を一度拝見させて頂きたいですな」

 

 そういう事か。どうやら、昨夜お妃様達に渡した原石の質にびっくりして会見を臨んだということだな。俺達が無尽蔵に原石を競売に出せば市場価格が暴落する。

 それに騎士団なら、俺達と同様に原石を手に入れることができるならばそれも問題だが、リスクがありすぎると言うことで納得したようだ。

 3か国の宝石類を扱うギルドとしては避けたい事態だろうが、俺達が値崩れを起こしたくない事を知って安心したというところだろう。


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