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V-187 競売前日


 ヴィオランテに向かうのはしばらく振りだな。

 念の為にカンザスで乗り込んできたけど、島の三分の一ほどの開発が終っているようだ。ジャングルは手付かずだから、ギガントも安心して暮している事だろう。まあ、海洋レジャーを楽しむ為の島にしているから、わざわざ内陸を目指す連中はいないはずだ。カヌーによるジャングルクルーズが人気らしいけど、サーフィンや釣り、それにダイビングも楽しめるのが人気らしい。それに、プライベートアイランドってことが王国の若者達の密かな人気を集めているって聞いた事もある。そんなヴィオランテの離着陸場にカンザスを泊めたのだが、1km四方の離着陸場が狭く感じるな。


 「さあ、着いたわよ。一応、ホテルに部屋を取ってあるわ。特例を使って全ての部屋は招待客用に借り上げたけど、どうしてもこの島で過ごしたいという連中もいるから、小さなホテルまでは借り上げていないの」


 確か、本館の客室だけでも100は越えるんだよな。一体どれだけ集まって来るんだろう。

 ヒルダさん達は王族用のプライベートアイランドからやってくるようだけど、入り江には数隻のプライベートヨットが既に停泊しているようだ。一際大きなヨットが浮かんでいるから、あれが王族のヨットなのかも知れないな。


 ドミニクの案内で俺達はホテルへと向かった。

 俺の手荷物はエミーとローザがスポーツバッグに入れてトランクの上に乗せて運んでくれるのだが、俺は大型のジュラルミンケースをカートに乗せてゴロゴロと転がしている。今回の競売は100kg。原石はピンキリだし、カットしなければならないから実際には数kgにも満たないんじゃないか?

 荒くカットしておいた方が運ぶには良かったかも知れないけど、俺達にはどんな感じにカットすれば良いか分からないから、そのまま競売に掛けなければならない。

 そんな俺達の前後を屈強なトラ族の兵士が銃を持って護衛している。なんか、VIPになった気分だな。


 ホテルのフロントに着くと部屋の手続きを行なう。最上階を全て俺達だけで押さえている。トリスタンさんの話では、いまだに盗賊団はいるらしいのだ。屋上に1分隊の兵士を配置しておけば早々遅れを取る事もないだろう。


 スイートルームに入ったところで、ジュラルミンケースをワイヤーロープで部屋にあった大型のテーブルの足に結んでおく。1本の足だけではないから、持ち去るには苦労するだろう。最後にロープの端をしっかりとロックしたところでソファーに座った。


 「ご苦労様。バッグは寝室に置いておいたわ」

 そう言って、俺に備え付けの冷蔵庫から取り出した缶ビールを渡してくれた。

 エミーも席に着いたところで、フライヤが缶ビールを渡すと、プルタブを引いてゴクリと飲み始めた。

 一口飲んでみると、やはり、南国にはビールだな。冷えたビールが喉に心地よい。できれば、甘いビールを飲んでみたいんだけど、1度砂糖を入れたら泡が勢い良く立ったからな。半分以上無くなったし、砂糖はあまり溶けなかった。今度はガムシロップで試してみるか。


 「それで、どんな具合に競売に掛けるの?」

 「会議室に陳列するらしい。俺達は持ってきた原石に番号を付ければ良いと聞いている。V001からヴィオラ騎士団用で、各自の名前2文字に2桁の番号が個人の出展だ。10個までだからね」

 「分かった。皆に知らせてくるね!」


 フレイヤがそう言って部屋を飛び出していく。

 個人で10個だけど、8人で出すからそれだけでも80個だ。俺が運んで来たヴィオラ騎士団としての原石は200個を越える。全部で300個近い原石が1度に競売に掛けられるのは、ウエリントン王国でもここしばらくは無かった事のようだ。ヒルダさんが最初に見せて欲しいって言ってたぐらいだからな。時間の空いているお后様達を連れて来ると言ってたけど、お土産ぐらいは持たせてあげようと、アリスに俺の手持ちの原石を人数分選んで貰っている。価値はアリスの鑑定でほぼ同じ物を選んで貰っている。1個ずつバンダナに包んであるが、これだけでお后様達が満足してくれると良いんだけどね。


 部屋に荷物を運んだ連中が、リビングに集まってきた。それぞれバッグを持っているから、その中に原石が入っているんだろう。

 ライムさん達が俺達にコーヒーを運んで来た。ホットだけど、少しは少し頭を冷やそうかな。

 

 「明日は千人以上集まるわよ。3王国の共同通信社もやってくると言ってたわ」

 「今日は、これで終わりなんですか?」

 「もう少し経ったら、警備の主任が原石を受け取りに来るわ。事前に準備を進めるそうよ。明日は9時に出展する原石の鑑定を行なう為に宝石商達がやってくるわ。その鑑定でセリを行なう予定みたい」


 カテリナさんにもあまり分からない事もあるようだな。要するに価値を事前に確認するという事だろう。傷ものだってあるみたいだしね。

 やがてやってきた警備主任はどこかで会った人物だった。

 

 「リオ公爵の役に立つなら、喜んで全能力で勤しむつもりだ。覚えておらぬか? 前に戦って敗れたカリムだ。手加減すら出来なかったとは俺に対する最大の評価だと皆が言ってくれる。おかげでこのような場面にも部下を率いてこれるようになった次第だ」

 「ああ、あの時の! トリスタンさんも最適な人物を送ってくれた」


 そう言ってカシムと手を握り合う。

 テロリストは来ないだろうが、彼がいるなら安心できる。

 彼が引き連れてきた部下に原石を渡すと、一安心したように皆の顔の緊張が取れていくのが分かる。


 「確かに預かった。連れて来たのは10人だが、いずれも警備業務は十分にこなせる者達だから安心してくれ」

 そう言って部屋を出て行く。


 「これで、私達の銀行残高が増えるのを待つだけになるのね」

 ドミニクが身も蓋もない事を言ってるけど、確かにそうなるのかな? 取引は全て現金らしいけど、直ぐに銀行がそれを預かると言ってたからね。


 「後は、夕食を食べて明日の昼からが勝負ってことね」

 「そうね。競売は明日1日だけ、その後5日間はヴィオランテで休日を楽しめるわ。明後日にはアレクやベラスコ、それにローザ達もやって来るそうだから、また皆で楽しみましょう」


 そんな事を言ってるけど、アレクは魚釣りだし、ベラスコはダイビング、それにローザ達は探検に出掛けるんじゃないか?

 休日の過ごし方なんて人それぞれだからな。俺としては夕食のバーベキューだけを皆で楽しめれば良いと思うんだけどね。


 夕食には間があるし、さてどうやって時を過ごそうかと皆で考えていると、俺の腕時計型携帯に通信が入った。小さく仮想スクリーンに映し出された人物は、ヒルダさんだ。

 どうやら、俺達を夕食に招待してくれるという事だが、フレイヤ達が思い思いにダメのサインを出している。確かにちゃんとしたフルコースの料理を食べられるようには俺達は出来ていないからな。


 「でも、王族の招待を断わる事は出来ないわ。リオ、エミーを連れて行ってきなさい」

 ドミニクの一言で俺達は入り江に浮かんだ大型ヨットに出掛ける事になってしまった。

 「たぶん、明日の出展予定の事じゃないかな? なるべく早く帰って来るよ」

 「ドロシーも連れて行きなさい。ナンナ達は明後日来るから、その事も知らせたら良いわ」

 

 俺のテーブルマナーをドロシーでカバーさせようというのか? そんな事ならナンナ達も最初から連れてくるべきだったぞ。

 30分後に迎えが来るという事で、急いで部屋に戻って礼装する。マントと刀は良いだろう。一応、拳銃を持っていけば良い。

 俺が終ったところでリビングでタバコを楽しみながらエミーを待つ.フレイヤとレイドラで急いで着替えさせているけど、髪型がどうとか言ってたから、しばらくは待つようだろう。

 

 「その袋は何なの?」

 「ああ、お土産ですよ。俺の見付けた原石を1個ずつお土産という事で、3カ国のお后様に渡そうと思っています」

 

 「喜ぶわよ」と言いながらカテリナさんが笑っている。一応、全部本物だよな? 1個でも違ってたら、飛んでないことになりそうだ。ちょっと心配になってきたが、ここはアリスの鑑定眼を信じよう。


 エミーの準備が出来たようだ。ピンクのビキニはおとなしめだな。薄いシースルーのドレスは蒼なんだが、殆ど色が分からない。

 

 「それじゃあ、行って来るよ。何かヒルダさん達に伝える事はあるかい?」

 「特に無いけど……。そうだ! 来春の学府卒業生をまた各国20人程お願いしたいと言っておいてくれないかしら?」

 「まだまだ施政庁の人材が足りないって事だね。分かったよ」


 人材不足は慢性的になっているようだ。ドミニクに頷いて俺達は部屋を出た。既に専用の円盤機がホテルの前で待機しているらしい。

 エミーが転ばないように手を取って円盤機へと急ぐ。

 エミーの片手はドロシーの手を繋いでいるから、傍目では親子に見えるんじゃないか?

 円盤機で5分と掛からずにヨットの後甲板にある離着陸場に着くと、侍女の案内で船内に向かう。

 ヨットと言っても大型のクルーザーだな。一応、ヨットと呼ばれてるけど、俺には帆で帆走するのがヨットとずっと思っていたんだが……。


 船内通路をかなり歩いたような気がするけど、ようやく目的の部屋に着いたようだ。というより通路の一番先端の部屋だな。

 コンコンと扉を叩いて開けると、中は大きなホールになっていた。

 

 「ようやくお出でくださいましたね。どうぞ、こちらに!」

 ヒルダさんが奥のソファーから腰を上げて俺達の方に歩いてきながら、早速、エミーの手からドロシーを奪い取ったぞ。

 俺達を置いてドロシーだけを連れて行くのもどうかと思うけど、その後をちょっと気後れしながらエミーと歩いて行った。


 「さあさあ、ここにお座りなさい。 そっちのお嬢ちゃんが噂のドロシーね。小さい頃のローザそっくりね」

 どのお后様がどの王国のお后様かさっぱり分からないぞ。見たことがある人物も何人かいることは確かなんだが……。


 ワイングラスが渡され、一口飲んでみる。やはり王族だけあって、俺達よりも上物だな。1本500Lって事は無さそうだ。ドロシーは侍女が持ってきてくれたオレンジジュースを美味しそう飲んでいる。


 「お招き下さってありがとうございます。本来は全員でやってくるべきでしょうが、生憎と明日の準備でてんてこ舞い。そんな訳で俺達だけになりました」


 そんな俺の挨拶を聞いて笑っているところを見ると、どうやらお見通しらしい。

 という事は、最初から俺が目的ってことだな。


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