V-176 新しい艦長達とドロシーの妹達
サンドドラゴンという伝説級の巨獣であっても、俺達の力で倒す事が出来たようだ。
一晩様子を見たが、動かなかったからな。
アレクやローザ達が口をこじ開けて太い牙を手に入れたようだ。ナイフの柄にするんだと言っていたが、確かに希少価値はあるだろう。
俺は、レイトン博士へのお土産にするために、口の後ろに付いている感覚器のような短い触手を切り取ってケースに納めた。冷蔵庫に入れておけば数日は持つだろう。
最後はムサシが何箇所かで胴体を輪切りにしたところで、俺達とサンドドラゴンの戦いは終了した。
「やはり、大陸の西には思いも寄らぬ巨獣がおるのう。じゃが、我等3人がいる限り安心じゃ」
そんな事を言いながら白鯨の休息所でジュースを飲んでいる。
俺達は、アレクの用意したワインだがかなりの上物だ。ナイトの初陣祝いって所だろうな。
「でも、過信はしないでくれよ。俺達は直ぐに飛んでこれるからね」
「分かっておる。更に先の中継点に将来は行くのじゃ。我等3人と4機の戦機で不足と感じたなら、直ぐに救援を依頼するつもりじゃ」
隣の2人もローザの答えに頷いている。1年ちょっとだけど、だいぶたくましくなったな。アレク達もローザ達に真面目な顔で頷いているぞ。
帰ったらお土産にリンダが吃驚するに違いない。しっかりと記録映像もダビングしたものを持たせてある。伝説級を倒したんだから、自慢しても良いはずだ。
そんなイベントがあったけれど、白鯨の鉱石採掘試験は順調にこなされていく。当初、問題視していた鉱石採掘の時間も、回数を追って短くなってきた。やはり慣れは重要だよな。
水タンクの増設は既に手配済みだそうだ。それでも、シャワーの量は1日5ℓに制限するらしい。
中継点のコンテナ桟橋に鉱石を満載したコンテナを卸して、白鯨は隠匿工場の桟橋に無事横付けされた。
俺達は桟橋に下りて、カンザスに向かう。
やはり住み慣れた場所が一番だな。ライムさんの入れてくれたコーヒーを飲みながら、とりあえずタバコに火を点けた。
「もう、数回荒地で訓練すれば問題なさそうね。元ヨット部のキャプテンだけあって操船の指揮も中々だわ」
「ルビナス艦長なら十分でしょう。輸送船のデンドロビウムの艦長のフレシアは今回同行しませんでしたが、王都との資材輸送で経験を積ませています」
デンドロビウムは副部長らしい。ギガントの操縦はマネージャーとベンチウオーマーらしいけど、ちゃんと操艦してたから問題ないだろう。さすがはヨット部だな。
ソファーに皆が集まってくると、夕食まで時間があるから次ぎの話題になる。
4つの艦隊をどのように指揮するか。それと各艦の艦長を誰にするかと言う事だ。
「思い切って、副艦長を艦長にしない?」
「私達はどうするの?」
色々としがらみがありそうだな。俺は乗ってれば良いから気が楽だ。
「リオを提督とするんでしょう? なら、私達はその参謀になれば良いわ」
そんな事を、カテリナさんが言い出した。
「必要に応じて、各艦に乗り込めるでしょう。ヴィオラ騎士団はドミニクが騎士団長なんだし、皆だって色んな場所に行きたいわよね」
「そうね。となると、各艦に部屋を作らなくてはならないわ」
「カンザスはこのままで良いでしょう。作るなら、白鯨とリバイアサンになるわ」
「その辺りは、試験航行のダメ出しでどうにでも出来るわ」
「ヴィオラの艦長は私の副官のフィーネになるのね。でも、カンザスは誰にするの?」
「操舵手のコロンにするわ。殆ど彼女がカンザスを動かしてるようなものよ」
もう1つの問題を忘れてるぞ。ドロシーは1人だ。2人の妹を作るとカテリナさんは言ってたけど、中継点と白鯨の操艦をアシストをする事になる。レイドラに張り付いてるドロシーがカンザスに付くとなると、誰がリバイアサンをアシストするんだ?
「リバイアサンは誰が艦長になるの?」
「そうね……。私とレイドラで行なうわ。問題はオルカだけど、トラ族の参加を打診してみようと思うの」
宇宙での操艦は3次元の動きだ。地表での操艦に上下の機動が加わる。今までのラウンドクルーザーを操艦するのとは、だいぶ勝手が違うだろう。ならば、初心者の方が上手く動かせるかもしれない。
「シミュレーターを作って学ばせるのも手だと思います。リバイアサンについても同様だと思いますよ」
「そうね。いきなり宇宙は大変よね」
カテリナさんがそう言って頷いてたけど、ひょっとしていきなり宇宙に出掛けるつもりだったのか?
船外活動用の宇宙服や、生命維持装置なんかも作らなくちゃならないんだけど、まだ気が付いていないのかなぁ?
『後で、メールを入れておきます!』
アリスがそっと俺に囁いてくれた。
「参謀室と個室を作れば良いのよね。ベレッド爺さんと調整しておくわ」
フレイヤの言葉に皆が頷いたから、決定事項ってことになる。
そうなると、次ぎは鉱石採掘になるな。
ヴィオラからベラスコ達が移って来るから、カンザスには4機が収容される。残りの4機はヴィオラに収容しているが、基本は同一行動だから問題は無いだろう。
このリビングがそのまま参謀室になるようだ。ドミニク達も通常はこの部屋で待機することになる。
予定ではそろそろなのだが、まだ顔を出して来ないな。
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ヴィオラとカンザスが横に並んで荒野を進む。
中継点で1日休養して、俺達を乗せたカンザスは鉱石採掘に出掛けた。アレク達は、中継点で改造を行い、今度は長期の航行試験を行なうようだ。次に一緒になる時は、ビオランテでのバカンスになる。
良く働き、良く遊ぶ……。それが俺達の望むものだ。中継点の人達も、俺達の出掛けている間を利用してビオランテの休日を楽しんでいるに違いない。
「やはり、ここはゆったりしてますね。ソファーのクッションもこちらの方が良い感じです」
そんな事を言いながら、新しいマグカップでコーヒーを飲んでいる。どうやら、ベラスコ達にライムさんが新しく購入した物らしい。
ベラスコの隣に座ったジェリルも嬉しそうだ。でもにこにこしているのは、ジェリルの隣にドロシーが座っているのが原因かも知れない。レイドラの傍にいるのだが、ドロシーの反対側にはフレイヤが坐ってるからね。
扉が開いて、カテリナさんが入ってきた。
アリスのメールを見て慌てていたようだけど、どうにかしたみたいだな。
空いている席に坐ると、俺達に笑顔を見せる。こんな表情をするときは、ろくな事が起きないんだよな。
「ドロシー、妹が出来たわよ。今日からお姉さんなんだから、色々と教えてあげてね。さあ、入ってらっしゃい!」
俺達が驚いてるのを気にせずに、扉に向かって声を掛けた。
扉をあけたのはエミーだった。開けた扉からトコトコとリビングに入ってきたのは、3人の女の子だ。ドロシーよりちょっと幼い感じに見えるから、なるほど妹なんだろうな。でも、3人の顔がまるで一緒だぞ。三つ子って感じなのかな。顔はどこと無くドロシーに似てるけど、ローザとはちょっと違う気がするな。
「三つ子なの?」
「そうよ。ナンナにネンネ、それにノンノという名にしたわ。カンザスにナンナ、白鯨にネンネ、中継点にノンノを置くわ。これで、ドロシーをリバイアサンに乗せられるわよ」
早速、フレイヤとクリスが立ち上がると、ジェリルとドロシーを連れてエミーともう1人の女の子を連れてリビングを出て行ったぞ。たぶん食堂に行ったんだろうな。
「3人とは、カテリナさんの発案ですか?」
「アリスよ。リバイアサンの操艦はドロシーに任せるべきだと言ってたわ」
能力的にはそれ程差が無いんだろうけど、ドロシーには感情があるからな。あの三つ子もいつかはドロシーのように感情が育つのだろうが、それには時間が掛かりそうだ。ローザのように常に面倒を見てあげる者がいれば良いんだけどね。
カンザスが進行方向を変える。どうやら鉱石を見つけたようだな。
「周辺に巨獣はいないようですね。アレクさんからサンドドラゴンの話を聞きました。まだまだこの辺りにも大きいのがいたんですね」
「ああ、俺も驚いたよ。油断は出来ないな」
「それ程多くは無いけど、目撃例はあるわね。西に向かえば更に増えるかも知れないわよ」
俺達の会話に、カテリナさんが教えてくれた。
そうなると、類別した図鑑が欲しくなるな。今度レイトンさんに相談してみるかな。
鉱石採掘が終ったのはその日の夕方近くだった。食堂から帰ってきたフレイヤ達はローザ達と一緒にスゴロクで遊んでいる。
今回の鉱石採掘の航行は巨獣に邪魔されずに8日で終える事が出来た。いつもこうなら良いんだけどね。
中継点の外でコンテナを降ろすと、専用桟橋に2隻が停泊する。
これで、3日の休養が取れる。
休養と言っても、やる事は多い。
国政の殆どは宰相に任せているとは言え、俺の承認が必要な書類もあるようだ。事前にドロシーが受け取って、アリスが仕分けてくれているから、殆どがサインするだけで済むのがありがたい。
ひたすら自室でサインを続けて半日が過ぎる。
昼食にリビングのテーブルに着いたのは俺だけだった。
ライムさんに聞いてみたら、やっと完成した大型プールに出掛けたらしい。
ようやく出来たんだな。
あれから、3年は過ぎてるんじゃないか? 娯楽は生活よりは後回しになってたが、やっと出来たという事は、それなりに拠点経営が上手く運んでいる証だと思う。
ザクレムさんを紹介してくれたヒルダさんには感謝のしようがないな。
とは言え、誘ってくれたって良いんじゃないか?
少し腹が立ってきたところで、食後のコーヒーを飲んで心を落着かせる。
そんな所に、リビングの扉が開いてカテリナさんがやってきた。
カウンターにいたライムさんからコーヒーを受け取ると、俺の隣に腰を下ろす。
「皆は、早速出掛けたみたいね。明日、リオ君に会って欲しい人が王都からやってくるのよ。私も同席するけど、会って交渉してもらいたいんだけど?」
「はあ、まあ、とりあえずの書類は片付けましたから良いですけど……何方ですか?」
俺の言葉をコーヒーを飲みながら聞いている。そんなカテリナさんを見て、俺はタバコに火を点けた。
「運航管理局よ。私達の話を王族から聞いたみたいね。どんな条件を出してくるか楽しみだわ」
いよいよなのか? こっちから出向かねばならないと思っていたが、向こうから来てくれるなら丁度良い。
条件と言うよりは、難癖を付けて来るに違いないけど、これはちょっと作戦を考えないといけないな。