V-174 4つの艦隊を指揮する者
「「伝説級ですって(だと)!!」」
休息室に集まったアレク達にカテリナさんがサンドドラゴンの話をすると、一斉に声に出して驚いてる。
大型巨獣の上を行く存在らしいから、まあ驚くのは無理も無い。
「いくらなんでも、いきなりとはな。それで、俺達でやれるのか?」
「それで集まって貰ったの。私はそんなに無謀じゃないわよ」
そんな事をカテリナさんが言ってるけど、誰も信用して無いな。俺も信用出来ない1人だぞ。
「後学のために教えてください。伝説級が最大なんですか?」
「まだ上がいるわ。神話級というクラスが、竜人族の伝承にあるわ。他種族なら笑い飛ばすけど、竜人族となると信用に値すると思う……」
更に上があるのか。世の中広いと言わざるおえないな。
となると、俺達の目指す高緯度地方には、少なくとも伝説級の巨獣はいるのだろう。ならば答えは1つじゃないのか?
そんな俺の表情に気が付いたアレクは苦笑いをしながらグラスを空けている。
「まあ、前にいるんじゃ蹴飛ばすしか無さそうだ。それにナイトの速度は短時間なら時速80kmを越える。50mm滑腔砲を試すチャンスじゃないのか。それに、このまま進めば他の騎士団の迷惑にもなりそうだ」
そんなアレクの答えに、王族達も力強く頷いてる。やや遅れてサンドラ達もだ。
「俺達だっているのだ。例の新兵器が本当に役立つかはこれで分かる。先鋒は任せてくれ」
俺達の後ろで聞いていたトラ族の男達が「「オウ!」」と言いながら片腕を高く上げてる。士気は最高だな。
「となると、ローザ達が悔しがるな」
「呼んで上げれば? ドロシーも嬉しいよね!」
フレイヤがレイドラの足にピタリと張り付いているドロシーの頭を撫でている。
後で、チクチクと言われるよりは良いかも知れないな。レールガン3基が増えればそれだけ勝機も生まれる筈だ。ヒットエンドランに徹していれば危険性は少ないだろう。
「サンドドラゴンの始末はリオに委ねるわ」
ドミニクが宣言してくれた。これで、対応は俺の考え次第となる。
「アンゴルモアに連絡。『戦姫3機の援護を請う。至急、白鯨に合流願う』で良いだろう。作戦はローザ達が合流してからだ。ガリナムとバシリスクはコンテナターミナルに一時退避。ガリナムのブリッジ側面ジェットをパージした後、コンテナターミナルの北100kmで待機。バシリスクのゼロはイエローⅢで待機だ」
俺の言葉をフレイヤとエミーが端末を使ってそれぞれの艦隊に連絡している。
そんな俺を頼もしそうな目でアレクが見ているけど、アレクだってナイト6機の筆頭なんだぞ。
「中々の提督振りよね。伝説級を前にしてまったく動じないんだから」
「将来は4つの艦隊を指揮して欲しいわね」
そんなカテリナさんの言葉に「えっ?」という顔に周囲が変わったぞ。
「あら、言ってなかったかしら。北緯50度付近を活動拠点にするカンザスとヴィオラ艦隊。騎士団領周辺の安全維持を図るガリナム艦隊。高緯度地方を活動拠点にする白鯨艦隊は皆知ってるわね」
「最後の白鯨がこれだろう。全部で3つの筈だが?」
「今、隠匿桟橋で作っているのがこれになるわ」
端末を操作して俺達の前にある小さなテーブルに上にスクリーンを拡大すると、そこには宇宙船が表示された。
「白鯨の2番艦ね。荒地から活動範囲を高緯度地方にするって事かしら?」
「違うわ。白鯨をこのスクリーンに映すわよ」
「この小さなのが白鯨なの! 縮尺が同じならこの船は600mを越えるわ!!」
「全長800m、横幅は400mよ。全長で白鯨の約2倍の大きさになるわ。体積比なら5倍以上になるわね。これには、このオルカとドルフィンがギガントと獣機の変わりを務めることになるわ」
「海から採掘するのですか? それなら、もっと船らしく作れば良いと思うのですが?」
「海……。中々の感性ね。でも、この船『リバイアサン』の活動拠点は、宇宙になるわ。星の海にこの船は行けるのよ」
「ちょっと待ってくれ。王国の船に積まれた反重力装置はカンザスをどうにか100mほど地表から離す事が出来るだけだ。宇宙では飛行船というわけにはいくまい。それに、こんな大きなものではマスドライバーで上げる事はできないぞ!」
「待って! ひょっとして、あの宇宙船?」
「そうよ。反重力装置の小型化と大幅な出力上昇が得られたわ。その動力源は戦姫の動力源に近い物だわ」
「戦姫だって! あの動力炉を俺達が作れる分けが……。そういうことか?」
「そういうこと。でも、このリバイアサンには6基の動力炉が乗っているわ。5基は新しく作ったものよ。この白鯨の動力炉と同じものだけどね」
「本当に行くの? それで、新しい国を作ったのね!」
「たまたまリオ君と思いが一緒になっただけよ。でも、これで私の望みが叶うわ」
そんな事を言うから、皆の視線が俺に向いたぞ。
俺はおもしろそうだから協力しただけなんだけどな。それに、この惑星だけに縛られるのもイヤだという気持ちがあるだけだ。
「騎士団なら自由の筈だ。変なしがらみに捕らわれたくないし、星の海にも鉱石はあるだろうしね。無ければ戻ってくれば良いことだし……」
「そうなると、誰がどの艦隊に配属になるか揉めそうだな? まあ、俺はこの白鯨で良いぞ」
「そうね。私はリオと一緒のつもりだけど、全員が行けるわけではないのよね」
ちょっと寂しそうにフレイヤが呟く。
その辺りの人員編成は恨まれそうだからドミニク騎士団長に任せよう。
「戦姫3機が最大速度でこちらに向かっています。到着まで230分。バシリスクのコンテナターミナル到着連絡来ました。ガリナムはアンゴルモアとターミナル北100kmに布陣完了です」
レイドラが淡々と報告してくれる。ローザ達の到着は4時間後らしいが、少し遅れるに違いない。時速150kmを連続で保つのはかなり緊張が強いられる。途中で何回か休憩しないとグランボードから振り落とされるぞ。
「少しは余裕があるんじゃないか? コンテナターミナル方向に向かってはいるが、なにぶん距離がある。20時間はあるだろう。それに、姿が見えないのも問題だ。出来れば、逃げてるグールイーターの方向を修正したいものだ」
「確かに有効な手段ね。ゼロで爆撃してみる?」
「まだ、やらない方がいいな。皆が揃ってからで良いと思う。今姿を現すとそのまま殲滅戦になりそうだからね」
ローザ達が全速力でこっちに向かってるんだ。皆が揃ったところで作戦を考える時間は十分にある。姿を現さない限り、地中を進む速度はそれほど速くない。
ナイトに騎乗している獣機士達を降ろして、明日の朝までは睡眠を取らせる。俺達も部屋に戻ってベッドに入る。まだ4時間は眠れそうだからね。
一眠りした後、簡単な朝食を取って休憩所にやってくると、関係者が一同に会している。ローザ達もサンドイッチを食べながら俺を見ているぞ。
「伝説級となれば我等が参加せざるおえまい。ナイトも強力じゃが、倒しきれなければ我らのコンテナターミナルが危うい。姉様達には申し訳ないが、参加させて貰うぞ!」
「ああ、頼りにしてるよ。ところでサンドドラゴンの概要は分かったかい?」
「カテリナ博士が教えてくれたのじゃ。大きいのう。ドレスダンサー並みじゃ」
ドレスダンサーはそれ程危険じゃなかったな。触手だけ気をつければ全体の動きは緩慢だ。だが、サンドドラゴンは地表を時速50kmで駆けるのだ。かなり素早いと見て間違い無いだろう。
俺達が揃ったところで、カテリナさんが仮想スクリーンを大きく広げて状況の解説を始める。
「これが現在の位置よ。白鯨の真下から北西に160km。コンテナターミナルへは更に400km以上の距離があるわ。相変わらずグールイーターを追っているけど、グールイーターの進行方向は昨日のままよ。このまま時間が過ぎれば10時間後にはサンドドラゴンが追いついて捕食するでしょうけど、そのまま立ち去らなければ、コンテナターミナルが破壊されないとも限らないわ」
なるほど、今日中には何とかしなくちゃならないって事だな。一番簡単なのはグールイーターの進行方向を変えることだ。だが、場合によっては変わった方向に他の騎士団が活動してるとも限らないんだよね。
「提督の決断は?」
カテリナさんの言葉に全員が俺に視線を向ける。
俺が作戦を考えるのか?
「そうね。艦隊の総指揮官は提督ですもの。そのぐらい考えて貰わないとね」
ドミニクの言葉は俺に丸投げだ。本来なら騎士団長のドミニクが考える事じゃないのか?
そんな疑問を目で確認したんだけど、ドミニクはまるで相手にしてくれない。
仕方が無い。ここは正攻法で行くか。
「殲滅するにしても時間はたっぷりある。弾薬も3回分はあるはずだ。ここは正攻法で行く。
先ずはイオンクラフトの爆撃でサンドドラゴンを地表に出す。40mm砲で奴の背中を体表に沿って銃撃してくれ。これで、どの程度俺達の攻撃が有効か分かる筈だ。
次に、ローザ達で奴の側面を斜めに銃撃して欲しい。1カートリッジ分撃って欲しい。
その結果を元に総攻撃の方法を考えよう」
「ゼロ、出撃!」
艦長の指示でトラ族の男達が足早に休憩所を去っていった。
「我等も出掛けるぞ。10km程離れて待っておる。リオの合図で攻撃をするのじゃ!」
ローザ達も元気が良いな。
残った俺達は、仮想スクリーンで様子を見守る事にする。サンドドラゴンの地表での機動がどれぐらいか分からない以上、アレク達を出すわけには行かない。それに、戦姫が3機だからな。上手く行けば、ここで終るかも知れないぞ。
「白鯨、降下開始!」
少しずつ巨体が地表に近付いていく。ローザ達を降ろすには地表から少なくとも20mまでは降下しないといけないだろう。
「ゼロ、発艦しました。爆撃ポイントまで約20分です」
「搭載した爆弾は?」
「120kg爆弾を1個ずつです」
都合、4個という事か。果たして地表に出てくるかどうかだな。
サンドラ達が運んできたコーヒーカップを受け取って、タバコに火を点ける。これで、ゼロがどの程度まで使えるかが分かる。ばあいによってはナイトの有効性が証明出来そうだな。