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V-173 伝説級


 南西方向に丸1日。コンテナターミナルまで1000kmは無いんじゃないか?

 そんな場所で白鯨の性能試験が始まった。

 俺とカテリナさんはブリッジにお邪魔してるし、フレイヤ達は休憩所の前列で見てるんじゃないかな。

 上空500m程をゆっくりと西に向かって進むその真下では、2隻?のギガントが鉱石を探索している。

 2隻の間隔は30m程だな。あれだと60mの横幅で荒地を探索していることになる。


 「もう1隻欲しいですね」

 「そうね。無人だから簡単だわ。探索範囲は少しでも広げた方が良いでしょうね」


 そんな事を言いながらタブレットに手書きしているぞ。

 しばらくは西に進むだけだったが、ブリッジ内にグリーンのパトライトがクルクル回りながら点灯し、パウパウと言う警報音が鳴り響いた。


 「鉱石発見! 警報リセット」

 「警報リセット完了。監視用円盤機を発進。採掘準備開始!」

 「円盤機01号発進。監視映像は2番に表示されます」


 「白鯨降下開始しました。地上30mで停止します!」

 「獣機士は至急獣機に搭乗せよ。採掘用重機の移動は?」

 「獣機のエレベータへの移動完了! 採掘用重機も専用エレベータへ移動完了!」


 「ナイト1班は出動待機!」

 「ナイト1班出動待機完了! 2班は5分前待機状態です!」

 

 次々と指示が飛んで、その報告が帰って来る。この部屋に10人もいないから忙しそうだな。ガネーシャがドロシーの妹を欲しがるわけだ。

 

 獣機を乗せた大型エレベーターが地表に下りると、先行して下りていた採掘用重機を引き出して直ぐに鉱石の採掘が行なわれる。

 次ぎのエレベーターに小型のコンテナが数台乗せてあるから、あれで白鯨に運び込むんだろう。

 今のところ、まったく問題が無いように思えるな。

 探索用の地表図を見ても100km以内には他の騎士団も巨獣もいない。

 部屋でのんびりと過ごすか……。一応、カテリナさんに断わって提督室へと向かう。

 

 部屋には誰もいないようだ。奥の床窓を開いて下の様子を覗いて見る。獣機は全て新型だから、扱う重機も少し大きいようだ。

 自走バージに積まれた小型のコンテナが次々に鉱石で満杯になっている。

 まあまあの速度で採掘が行なわれている。これなら高緯度地方でも何とかなりそうだ。


 新型獣機の獣機士達はトラ族出身だから、本格的な鉱石採掘はこれが初めてなんだろう。ヴィオラに搭乗する獣機ほどには作業がはかどっていないようだ。

 領地内で練習はしたんだろうが、こればっかりは慣れていくしか方法が無いからな。

 ブリッジではさぞかし艦長が気を揉んでいるだろう。

 鉱石採掘を生業とする俺達騎士団の一番の弱点は鉱石採掘の最中だからな。

 上空を偵察する円盤機からの映像と採掘作業の映像を見比べているに違いない。


 気嚢に水素を使っていないから、タバコが吸えるのも嬉しい。

 先に運ばれた俺のバッグから缶ビールを取り出して、温くなったビールを飲みながら一服を楽しむ。

 カンザスのように飛行しているわけではなく、ただ空に浮かんでいるのもおもしろいな。荒れた大地を吹く風で船体が少し動いているのが感じられる。乗り物に弱い人は酔いそうだぞ。

 その辺りの対策も考えてはいるんだろうけど、何と言っても初めての試みだ。色々と不都合が出ないわけが無い。


 一番の問題は水になるな。

 これは、白鯨の水タンクが小さい為だろう。確か補給艦があるんだから、そっちから給水する事も可能なんじゃないか? 同型艦のはずだから、ナイトを積まないだけでも余裕があるはずだ。

 そういう意味では、倉庫代わりに使えるかも知れない。白鯨の資材がどれ位の余裕を持っているかは分らないが、そんな融通性を持たせる事も必要だろうな。


 「アリス。そんな事をカテリナさんに伝えといてくれないかな?」

 『了解です。メール文にして送っておきます』


 ナイトの積載区画にアリスとムサシも専用ハンガーに収まっている。

 アリスも何か気が着いた事だろう。それも一緒に送られているはずだ。


 最初の鉱石採掘は、ドミニクの評価では60点というところらしい。一応合格点らしいがまだまだ騎士団としては努力すべきところがあると言う事だろう。

 それでも、夕食後に再び採掘が行なわれたときには、前回よりも短時間で採掘がなされた事は俺の目にも分かるほどだった。


 「やはり、訓練時間が少ないせいね。急がずに一ヶ月ほど鉱石採掘の訓練をした方が良いわ」

 「彼らなりに頑張ってると言う事でしょうね。訓練で腕が上がるなら賛成よ」


 ドミニクの呟きにフレイヤが追従する。

 まあ、採掘時間が上がるならその方が良いだろう。艦長だって、1回の採掘に掛かる時間が安定しないんでは判断に苦しむだろうからな。

 

 俺達は比較的広い待機所のソファーでくつろぐ。アレク達は遠慮して少し離れたところで酒盛りの最中だ。

 どこからか調達してきた冷えた缶ビールを飲みながら、俺達は今日の試験採掘を話し合う。

 鉱石採掘自体に大きな改善点はない。強いて言えば、ベルトコンベアーでコンテナに乗せるのではなく、自走式バージの荷台に鉱石を積み込んでいるのだが、3台の自走式バージの動きが鉱石採掘を制限しているわけでは無さそうだ。

 

 白鯨は次の鉱石を探して移動するが、既にギガントがその場所を見つけている。探索と採掘を分離する試みは意外と使えそうだな。

 宇宙でも有効な気がするな。部屋に戻ったら、アリスと考えてみよう。


 皆と別れて部屋に向かう。

 俺が部屋に入ると、その後ろから現れたのはエミーだった。

 寝る前に風呂に入りたかったが、問題はシャワーの使用量が2ℓというところだ。

 結局、2人でシャワーを浴びる事にする。2人ぶんなら4ℓだからな。どうにか2人で体を洗うことが出来たぞ。

 ベッドを壁から倒して、横になる。部屋の床の窓から暗い地表が見える。荒地が光って見えるのは地表を照らすライトのせいだろう。この部屋の関節照明になるな。


 「緊急通報。緊急通報。ナイト乗員は騎乗せよ! ナイト乗員は騎乗せよ!」

 

 大きな音声に目を覚ますと、天井の一部から赤い回転灯が露出して部屋の内部を赤く点滅させていた。

 急いでエミーを起こすと、衣服を身に着けてブリッジへと向かう。

 シュッと自動ドアが開いて中に入ると、航路図と天井部のスクリーンを皆が眺めている。


 「巨獣ですか?」

 「ああ、リオ君。来てくれたのね。これなのよ……」


 航路スクリーンの画像に北西部から近付いてくる物が映し出されている。

 円盤機が捉えたものは、グールイーターだ。蛇のように体をうねらせながら何かから逃れようと必死で荒地を移動している。

 チラノタイプでもいるのかな? そんなことを考えながら逃げてくる方向を映しているスクリーンを見た。 ……ん? 何も見えないぞ。


 「カテリナさん……」

 「ええ、分かってるわ。たぶん地中を進むタイプのようね。騎士団の言い伝えみたいなものなんだけど、画像は無いわ。遭遇したと思われる騎士団の生存者がいないの。名前はサンドドラゴンと古い騎士団の中で囁かれているわ」


 カテリナさんが自分の近くに仮想キーボードを出現させる。そのキーボードに指を走らせると、俺達の前に大きなスクリーンが出現した。

 

 「サンドドラゴンを真近に見て、命からがら逃げ帰った騎士も何人かいるわ。それこそ、同僚を見捨てて逃げ帰った騎士だからその後は悲惨な運命だったみたい。その騎士達の証言で書かれたのが、この画像よ」


 画像はラフスケッチだが、思わず後ろに引いてしまったぞ。

 ラウンドクルーザーを襲っている画像だが、その船と比べて巨大な姿に描かれている。良く見ると、砂虫の特徴が色濃いが、体に上下左右の区別が無いぞ。殆ど体の太さと同じに見える口は3つのクチバシで閉じられるようだ。

 そのクチバシの中には、口内に沿って無数の牙が林立している。

 

 「太さは20m。長さは体を全て地表にあらわした事が無いけど、推定では500mと言うところかしら」

 「移動速度は?」

 「地中を時速30kmで進むそうよ。地表は時速50km程度にはなると思うわ。ラウンドクルーザーを破壊するんですもの」


 とんでもない生物だ。これも巨獣の分類に入るのだろうか?

 だが、時速50kmなら、ナイトで撹乱できるんじゃないか?


 「伝説クラスってこと?」

 ドミニク達がブリッジに入ってきた。

 チラリとスクリーンを眺めると、航路スクリーンを眺めている。


 「ギガントの退避完了しました。後方15kmに移動しています」

 「この方向だと、かろうじてコンテナターミナルは外れるわね」


 「ですが、コンテナターミナルに向かって4つの騎士団が移動しています。2つは進路を変更しました。ですが依然として2つの騎士団がコンテナターミナルに向かっています」


 巨獣は比較的足の速い奴でも時速40kmほどだから、バージを切り離せばラウンドクルーザーは一時的に時速40km以上出す事が出来る。船によってはかつてのガリナムのように時速50km出せるものだってあるのだ。

 たぶん航路を変えない騎士団はそんな船に乗っているのだろう。

 だが、サンドドラゴンは地表を時速50kmで移動できるのだ。かなりまずい状況だぞ。


 「ローザに連絡した方が良いでしょうね。それと、ガリナム達はどこかしら?」

 「アンゴルモアに連絡完了。コンテナターミナルの北西200kmで待機するそうです。ガリナム艦隊はアンゴルモアの東50kmを目指して航行中です」


 ドミニクの言葉にレイドラが即答した。

 ローザ達の乗る船は巡洋艦だが、通常の巡洋艦と比べて機動性を重視したから、搭載砲の口径が小さい。騎士団と同じ88mm連装砲塔が3基だ。ガリナムと併せれば88mm砲が18門になるし、戦姫3機の機動は伊達じゃないからな。

 

 「バシリスクのゼロは8機なのよね?」

 「コンテナターミナルにも4機いるはずだ。だけど、もしサンドドラゴンだとすればゼロよりも大口径砲を搭載した巡洋艦が欲しいね」


 確認するようなフレイヤに俺が答えてたけど、やはり大型巨獣には大口径砲が合ってる気がするな。


 「そうでもないわよ。リオ君忘れたの? ゼロの爆弾吊下装置にオプションでロケット弾を交換出来るわ。例の弾種よ」


 カテリナさんが俺を見て笑い顔で教えてくれた。

 ノイマン効果弾ってことだな。標準装甲300mmを余裕で貫通出来るからな。確かに忘れたてぞ。


 「ドミニク、バシリスクのゼロにカテリナさん謹製の『R-1』を装備させてくれ。爆弾や40mm砲よりも効果があるはずだ。それと、メイデンさんやローザとも通信状態を維持した方が良いんじゃないか?」


 レイドラとフレイヤが予備の操作卓に坐って通信回線を開き始めた。

 カテリナさんは、ブリッジ後方のベンチに腰を据えて自分の周囲を仮想スクリーンで囲んでいる。

 ドミニクは艦長と一緒に航路盤のスクリーンを覗いている。

 逃げようって考えないんだよな。

 相手が伝説級であろうとも、騎士団に害なすものならば排除せねばなるまい。


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