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V-172 白鯨


 あくる日、全員揃って朝食を終えると、俺達一人一人にローザ達が握手をして部屋を出ていく。ドロシーがローザに取りがっていたが、そんなドロシーの目線までローザが膝を折って優しく慰めていた。

 フレイヤが貰い泣きしているのに気が付いて、ハンカチを渡してあげる。


 ローザ達が乗り込んだ大型巡洋艦の停泊した桟橋にヴィオラ騎士団全員が整列して出航を見守る。

 火器管制所の外部回廊に出て来たローザ達にドロシーが大きく手を振っている。

 俺は騎士団の礼儀に習って答礼を行なう。

 これが最後の別れにはなるまい。危険な任務だがローザ達はちゃんとコンテナターミナル、さらには西の中継点の守備をキチンと行なうだろう。


 「行っちゃった……」

 「行っちゃったけど、ローザはずっとドロシーのお姉さんだ。ローザだって離れてた場所で暮らすけどドロシーを忘れる事は無いさ。端末をカテリナさんから貰っただろう。あれで毎夜、ドロシーが1日何をしてたか連絡すれば良い。お姉さんも喜ぶんじゃないかな?」


 俺の言葉にちょっと涙ぐんだ顔を見上げて頷いた。

 中継点と外部を繋ぐ連絡通路のエアロックに巡洋艦が消えたところで、俺達も桟橋を離れた。


 カンザスのリビングに戻り、放心した表情でライムさんの入れてくれたコーヒーを飲む。1度に仲間が離れてしまったからな……。何となく脱力感があるんだよな。

 そんな俺達の中で、レイドラにピタリとドロシーが張り付いている。嬉しそうなレイドラとそれを見てムッとしているフレイヤが対照的だ。

 

 「そんな顔をしてられないわよ。白鯨を使った鉱石採掘の試験航海を始めるんだから」

 「ところで、もう1隻のデンドロビウムの船長は決まったんですか?」


 白鯨の集めた鉱石を運ぶ輸送艦の製作は終ったようだが、船長の名を聞いてなかったんだよな。


 「デンドロビウムの艦長は、ヨット部のベンチウオーマーです。操船理論は読書で十分身に付いたと話してくれました」


 レイドラが教えてくれたけど、全員ヨット部ってことだな。だけど、ベンチウオーマーは無いんじゃないか?

 かなり不安になってきたけど、他の連中はうんうんと頷いてる。どこに説得力があるんだろう? 


 「クルーは全て揃ってるわ。私達も乗れるから、皆で出掛けられるわよ」

 「そんなに乗れるんですか?」

 

 クリスが思わず大声を上げる。

 皆にジロリと見られて慌てて口を両手で押さえてるけど、自分も乗せて貰えるとは思っていなかったみたいだな。


 「このリビングの人達なら問題ないわよ。2隻あるしね。でも、試験運用だから1回5日ぐらいよ」


 カテリナさんの言葉に皆が頷いている。ちょっとした休息という事になりそうだな。

 まあ、4隻の乗員も決まっているし、たまには他の船に乗るのも良いんじゃないか。何ていっても同じ騎士団なんだからね。

                  ・

                  ・

                  ・


 早朝、俺達は隠匿桟橋に集合した。目の前の白鯨は想像よりも大きく見える。座布団の角の1つを引き伸ばしたようにも見える船体の上部には5つの気嚢があるそうだ。ヘリウムの浮力を利用しているらしいが、それよりは反重力装置の出力の方が大きいんじゃないかな。

 移動は後部に付いている2重反転プロペラ4基によって行なわれるが、針路変更は翼に付いている推力方向が可変できるプロペラを使うようだ。翼の両端には出力の小さな反重力装置が内臓されており、2つの装置によって重力勾配を小さいながらも作る事が出来るようだ。

 最初の設計と完成品を比べるとかなり違った形に見えるな。



 そんな白鯨の乗船口にタラップが伸びていく。

 連結を確認すると、ぞろぞろと俺達は白鯨の中に入っていった。


 入った場所は、テラスのようになっている。大きな気嚢が数m上にあるぞ。そのテラスから通路が延びていてその先から白鯨の前後方向に通路が長く伸びている。補修用通路みたいだな。


 「こっちよ!」

 

 カテリナさんの案内でテラスからエレベーターに乗って下りる。エレベーターのボタンは1、2、3とあるから入口が3階なんだろう。1の表示が点灯してエレベーターの扉が開くと、そこは通常の船と同じような船内通路になっていた。

 

 「2階は船室なの。後で案内して貰えるわ。先ずはブリッジに行きましょう」


 まあ、俺達は付いて行くしかないけどね。

 『艦橋』と表示のある扉を開くと、そこはカンザスのブリッジのような簡素な作りの部屋だった。それでも左右に広がった部屋は教室2個分はありそうだ。

 

 1段高くなったコンソールが艦長席だ。隣にテーブルほどの大きさのスクリーンがある。航路地図盤のようだ。

 最前面の大型の窓近くに舵輪型の操縦装置が付いている。

 これから出発だから操舵手が舵輪を握っているぞ。3mほど後方に通常の操縦席がある。隣は機関長の席らしい。

 更に右側に2つのコクピットのような構造体がある。2人が席に着いているから、あの2人がギガントを操縦するってことだな。

 

 「G-1とG-2は既に出航しています。白鯨出航の準備は全て完了しております。提督、出港の命令をお願いします!」


 艦長席からの声に、思わず自分を指差してしまったぞ。


 「そうねぇ。公爵と騎士だけでは不足よね。これからは公爵で提督で、騎士になりなさい」


 笑いながらドミニクが俺に言った。

 皆もクスクスと笑ってるぞ。

 まあ、イベントだと思えば気は楽だ。


 「提督命令、白鯨、出航せよ!」


 フワリと浮揚感が襲って来たかと思うと、ゆっくりと白鯨が隠匿桟橋から離れて地価ホールから地上に向かって進んでいく。


 「後ろの壁際にベンチがあるわ。飽きたら坐っていて頂戴。現在は時速数kmだから反重力装置による重力勾配を利用して進んでいるわ。原理はムサシと同じね」


 そんな話を聞かせてくれるんだけど、皆は窓際に張り付いてるぞ。ちゃんと聞いてあげないと怖いんだけどな。

 船体が全て地中から姿を現しても、まだゆっくりと進んでいる。艦長と航海士の正副が航路地図盤とオーバーヘッドスクリーンを交互に見ている。3つあるスクリーンの1つは上空に浮かんだ円盤機によるものらしい。確かに全体を上から見る目が無いと安心できないよな。


 「提督、現在隠匿桟橋から5kmの地点です。今後の指示をお願いします」

 

 俺だって、どうしていいか分からないぞ。

 だけど、試験航海なんだから、それなりの試験項目は決まってるはずだ。


 「よし! 試験計画にそって白鯨の運航試験を開始する。以後の試験運用の全権を艦長に移管する。以上だ」


 艦長が俺に綺麗な答礼をすると、副官の持つ試験スケジュール表を見ながら艦内に指示を出し始めた。


 「白鯨上昇。上昇速度、秒速1mで地上200mまでに上げよ。続いて対地速度変更。時速5kmから時速50km。30分後に時速100kmに変更予定。以上!」


 通常のラウンドクルーザーは2次元の平面を動いているが、白鯨は3次元を動く事になる。少し操艦が面倒に思えるな。


 「さて、船室に案内するわ。客室が6室あるから、2人ずつになるわ。リオ君は特別に提督室が提供されるわよ」

 

 カテリナさんがどこかに携帯で連絡すると、ネコ族のお姉さんが5人ブリッジにやってきた。2人ずつ案内していくようだ。最後に残った俺にカテリナサンが微笑んできた。


 「こっちよ」

 そう言って俺の手を引いてブリッジを出る。エレベーターで2階に上がり最初の部屋が提督室らしい。対面の部屋は艦長室との事だ。


 自動扉が開くと、教室ぐらいのワンルームだ。数人が座れるソファーと豪華な机がある。ベッドを探すとどこにも無いぞ?


 「ベッドは壁に収納なの。こうやって引き出すのよ」

 

 カテリナさんが実演してくれたけど、引き出すんじゃなくて壁を倒す感じだな。キングサイズはあるぞ。

 

 「あの壁にある扉の向こうがサニタリーよ。ジャグジーは無し。シャワーで我慢なんだけど、2ℓしか流れないから注意してね」


 2ℓで体が洗えるのか?

 これは試さないといけないな。確かに白鯨は浮遊体だから大量の水を運ぶわけにはいかないのだろう。将来の宇宙探査を思えば良い練習になるんじゃないかな。


 「この部屋の窓なんだけど、このスイッチで開くの」

 

 カテリナさんがソファー近くの壁にあるスイッチを押すと、部屋の奥の床が開いた。近くに寄ってみると床から1mほどの高さまで窓がついているのが分かる。通常はシャッターで覆われているらしい。どうやら地上200m付近を水平巡航しているようだ。

 

 「中々おもしろい仕掛けですね。食堂や休憩室はどうなってるんですか?」

 「そうね。そっちは端末にデータを送ってあるから、それで分かるわよ。食堂は小さいから食事は3回に分けるらしいわよ。決められた時間内に来ないと食事抜きになるから注意してね。休息室の飲み物も1日の回数が決められてるわ。ブレスレットのコードで管理されるから注意してね」


 中々厳しいな。アレクは堪えられるんだろうか?

 そんな事を考えながら、部屋を出ると、腕時計の端末をナビ代わりにして休息室に向かう。たぶんアレク達がいるはずだ。


 休息室は、2.5階という中途半端な場所にあった。

 探すのに骨が折れたけど、その部屋は格別だった。白鯨の最先端に設けてある。その上、体育館の半分程もある大きな部屋の前方半分は床が透明な樹脂で出来ている。

 まるで空間に浮かんでいるような気がしてきたぞ。


 「リオだな。こっちだ!」


 アレクの声に一番前方にあるソファーセットに足を運ぶ。そこには、数人の男女が坐って飲み物を飲んでいる。


 「まあ、坐れ。こっちは知っているな? 俺達が白鯨のナイトを駆る獣機士になる。新型獣機の連中も気の良い奴ばかりだ。これで長くここにいられるぞ」

 

 そう言って、空いてる場所に俺を坐らせると、サンドラがグラスを渡してくれた。アレクが注いでくれた酒は、何時もよりも上等だ。嬉しいのかな?

 

 「高緯度地方の鉱石採掘には俺も同行します。アリスとムサシが一緒です」

 「それにナイトが6機とゼロが4機ならばかなりの戦力だ。荒地で試験しなくてもそのまま高緯度地方に出掛けても良かったんじゃなかったのか?」


 スペックの通りなら問題は無いだろうな。だが、連携をある程度練習してからでないとどんな危険があるか分かったものじゃない。

 人命を預かる以上、危機管理は常識だからな。 


 「獣機の収容とナイトの出撃が同時になりますから、その辺りの演習は何度でもやっておく必要があります。それにアレク達だってまだまだナイトを自分のものにはしていないでしょう?」

 「確かにバージンだな。1度巨獣相手に戦っておく事は必要だろう。バンター達も訓練は積んでいるが本物の巨獣は見た事が無いそうだ」


 そんな話で、会話が盛り上がる。少し酒も手伝っているようだな。


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