V-167 忙しいのは公爵だからか?
「プライベートアイランドを持つと言うのは、やはりステータスではあるわね。できれば、私達の利用にも便宜を図って欲しいわ」
俺達の貰った島は『ヴィオランテ』なんて名前をフレイヤが付けたけど、触手をウネウネさせてる肉食植物を、最初に聞いたときには思い浮かべたぞ。
そんなヴィオランテにヴィオラ騎士団の連中がまとめて休暇を楽しんでる。
アデルのベラドンナ騎士団は、もうすぐ同盟を解消するから、ドミニク達は最後の休暇をここで楽しみたかったんだろうな。
「私か、クリスに連絡してくれれば良いわ。アデルが一緒の時に貰ったものだから、利用する権利は十分あるわよ」
「ありがとう。中古だけれど、軍の大型駆逐艦を入札できたし、改修設計はリオ公爵に手伝って貰ったから、ゼロを4機詰めるわ。75mm単装砲塔が2基でもスコーピオ戦でゼロの活躍は十分知っているから、中緯度地帯で頑張るつもりよ」
ベラドンナ騎士団の2番艦はローレライと俺が名付けた。
歌で船人を惑わす人魚だと教えたら、アデルが気に入ってしまった。これで船長が男なら問題だが、長い亜麻色の髪を持った華奢な女性だったな。
岩の上で歌わせたら、そのままローレライになれそうな人だった。
ローレライは上部の走行甲板を広く使うため、武装は貧弱だがゼロを活用できるから十分に役立つだろう。小型の円盤機を2機搭載しているから、余裕を持って鉱石採掘が出来るはずだ。
「でも、何かあれば声を掛けて欲しいわ。戦機3機の恩は忘れないわよ」
「早々にあるとは思えないけど、頼りにさせてもらうわ」
そんな会話を波打ち際のパラソルの下でしているというのが問題だな。
日差しは強いけど、ちょっと日陰に入れば涼しく感じる。
彼女達から、少し離れてタバコを楽しみながらアイスコーヒーを飲んでいるのだが、そろそろお昼寝中のエミーを起こして海を楽しんでこようかな。
「リオ! まだここにいたのか? ここは魚影が濃いぞ!」
そう言って、50cmはありそうな大きな魚を持ち上げた。
俺も専用の釣竿を用意しておこうかな。アレクで釣れるなら俺ならもっと大きな奴が釣れそうだぞ。
俺の隣に腰を下ろすと、サンドラが担いできたクーラーから缶ビールを取り出して、俺達に配ってくれた。大物が釣れたから機嫌が良いのかな?
海に視線を向けると、ベラスコ達がちびっ子達を引き連れて浜辺を目指して歩いてくる。全員の水中銃の先に魚が刺さっているから、確かに魚影は濃いみたいだな。
「姉様はねておるのか? まったく夜遅くまで起きているからじゃ!」
ローザがそんな事を言って、獲物でエミーの顔を撫でている。
もぞもぞと顔を動かしていたが、パッと目を覚まして「キャァー!」っと叫び声をあげたのは、まあ、仕方の無いことだろう。
ローザに色々と小言を言い始めたのは、やはりお姉さんだからなんだろうな。
「昼食の用意が出来たそうです!」
スクール水着を着たドロシーが林の東屋の方からやってきて教えてくれたところで、俺達は体の砂を払ってぞろぞろと東屋に移動することになった。
東屋の傍らでは、ネコ族の娘さんがニャアニャア言いながら、魚を焼いている。どちらかと言うと娘さんの方が多いから、俺達は遠慮しておこう。
ベラスコ達には艦内のコミュニケーションを円滑に行う為にも、午後も頑張って貰わねばなるまい。
ネコ族のお姉さんに「こっちにゃ!」と言われて案内されたテーブルには、何故かウエリントン国王と3人の妃、それにトリスタンさん夫妻がいた。
「まあ、そんな顔をするでない。折角の休みなのだからな」
「俺達は休みでも、国王はお忙しいのでは?」
そんな俺の言葉を笑い飛ばしている。
「ローザからここでギガントが取れたと聞いたので、妃たちが欲しがってな。代金は中継点に振り込んでおいたぞ」
貴重種だから、ある意味ステータスってことになるのか。それなら言ってくれれば送ったんだが。
「カテリナ殿からおもしろい話を聞いたぞ。何でもクジラ作っているとか?」
「もうすぐ完成します。例の高緯度地方の鉱石採掘専用ラウンドクルーザーです。色々と噂が飛び交っていますので、ライデン放送局に特番の打診をしたんですが……」
「そこで、1つ依頼があるのだ。ヒルダの娘達は十分に活躍しておる。だが、ワシには後2人の妃がおるし、その子供達もいる。エルールとラトニーの娘を預けたいのだ」
「そして、もう1人。俺のところの次男だ」
新に3人か。人材不足ではあるが王族となるとどうなるんだろう?
「出来れば3人を高緯度地方の採掘に……」
なるほど、ある意味子供達の肩書き作りと言う事だな。ならば、白鯨の船内で適当な仕事を与えておけば良いことになる。
「騎士ではありませんよね。それと、軍事訓練などはしていないでしょうね」
「良く分かるな。特殊戦術訓練の卒業生だ。3人とも同期で成績は上から1、2、3番だ。そのまま兵役に付かせても良いのだが、国王がお前を思い出してな」
ある意味トリスタンさんの方は被害者になりそうだな。
これは、少し考慮の余地があるぞ。
「即答は出来ませんが、ご依頼は対応出来ると思います。ただ1つ、条件があります。俺達は、個人戦闘はあまり得意ではありません。巨獣には騎士団全員が一丸となって対応しています」
「協調性がない人材は必要なしという事だな。それは娘達に十分言い聞かせて育てたつもりだ。トリスタンも一緒だろう」
国を治める上で、協調性は重要になる。そういう事はちゃんとしつけをしているようだ。それに特殊戦術訓練というのがどんなものかは分からないけど、軍事訓練ならば協調性を度外視する事は無い。意外とありがたい援助なのかも知れないな。
「今夜、皆と相談しています。返事は……」
「明日で良い。あのコテージに宿泊しておるからのう」
そういえば、少しでも収益を上げようと商会に連中に運営を依頼していた。その枠を使ってやってきたと言うわけだな。
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「という訳で、新に3人がやってくる」
「ヒズラディ、サハネイの姉様達じゃな。それとバンターというところじゃろう」
ローザが具体的な人名を呟く。
エミーが頷いているところを見ると、合ってるってことだろう。
「問題はエミー達のように協調性があるかどうかだ。個人プレーに走るような人物では高緯度地方の採掘に困難をきたす」
「でも、騎士ではないのよね。特殊戦術って何なの?」
「獣機の操縦見たいなものよ。新型獣機で一躍脚光を浴び始めたわ」
カテリナさんがグラスを傾けながら教えてくれた。
「ナイトが使えそうね。特殊戦の出身者なら安心して任せられるわ。アレク並みにはなれないでしょうけど」
そんな会話が続いているけど、誰も断わろうとは考えていないらしい。
「返事を明日にする事になってるんだけど、一応、了承で良いよね」
ガヤガヤと話していたドミニク達が一斉に俺を見て頷いた。
まあ、これも彼女達のコミュニケーションなのだろう。結果が分かればそれで良い。俺はテーブル席を離れて、ソファーに腰を下ろす。
タバコを取り出して一服を始めた。明日の午後にはもう1つの課題がやってくるのだ。
交渉を俺任せにするのは問題だと思うけど、今は休暇の最中だからな。皆遊ぶのに忙しいみたいだ。
俺の休日が始まるのは明後日以降からになるのかなぁ……。
次ぎの日。
東屋で休む国王に了承を伝えると、満足そうに頷いている。
「鍛えてやってくれ。長男は世襲だから問題はないが、才能のある子供達には夢を与えたいからな」
「早速、呼び寄せましょう。そのまま、3人を連れて戻ってください」
子供達にも都合があるんだろうが、その辺りは気にしないらしい。
国王達に中継点の暮らしを話して午前中が終る。
昼食を終えると、今度はホテルのような保養施設に足を伸ばす。
眺めの良いテラスの一角にターフが張られている。
放送局との打ち合わせは、このターフの中だ。既にミトラさんともう1人の娘さんが俺を待っていたようだ。
「こんにちは。中々良い島ですね。噂ではギガントが生息しているとか?」
「ありがとうございます。よくおいでくださいました。まあ、ギガントはその内、近くで見る事が出来ると思いますよ」
俺がテーブルに付いた事を見計らって、冷たい飲み物が運ばれてきた。
「どうぞ、そして失礼して一服させて貰いますよ」
一応断わっておくのが礼儀だろうな。
タバコに火を点けたところで、ミトラさんが口を開く。
「上司より、急いでこの島に行くように言われたのですが、どのようなご用件でしょうか? 確かに新しい保養地として、この島の噂は王都に広がってはいるのですが……」
「それぐらいではおもしろくないでしょう。ところで、俺達にまつわる噂がもう1つあるのはご存知ですか?」
「クジラ……」
同行してきた娘さんが小さな声で呟いた。
「この島にクジラが来るのですか?」
「ミトラ、そうじゃ無いのよ。ヴィオラ騎士団が高緯度地方探索の特別なラウンドクルーザーを作ったという話は、騎士の友人から聞いたことがあるわ。その船の名前がクジラらしいのよ」
ミトラさんの顔が驚きに変わる。
どうやら、俺が招待した理由が理解できたのかな?
「公爵様は私達に、そのラウンドクルーザーを見せてくれると!」
「普通のラウンドクルーザーなら、ニュース性も特番に使えそうにも無いけどね。かなり変わってるんだ。中継点の俺達専用の工場で作ってるから、結構噂が広がって偵察にやってくる連中が多いのも確かだ。それなら、思い切って皆に披露しても良いんじゃないかと考えた得た。前に特番を組んでくれたミトラさんに判断してもらえばいいだろうって、ラウンドクルーザーと鉱石採掘の装備品を簡単にまとめてきた。先ずは見てほしい」
「既に出来上がってると……」
「ああ、来春には高緯度地方の先行試掘に出掛けるつもりだ。騎士団内部のプレゼンテーション用画像だけど、概要は分かるだろう」
端末を取り出して2人の前に仮想スクリーンを展開する。
画像の説明はアリスによるものだ。
20分ほどの映像だけど、食入るように2人が見てるのは職業柄なんだろうか?
映像が終って仮想スクリーンが消え去っても、2人の視線は仮想スクリーンのあった場所から動かない。……深い溜息が聞こえた。
「この特番を私達に任せると?」
「お願いしたいんだが……」
「これなら、前回の2倍……いや3倍の時間を特番にすることが出来ます。本当に私達に任せてくれるんですね?」
「前回の特番は良く出来てたよ。騎士団の連中の家族も喜んでいた。条件は前と同じで、撮影機材を事前に申請して欲しい。それと、騎士団のプライベート区画の撮影はこちらの承認を得て行なって欲しい」
「撮影クルーは前回の倍の6人を予定したいのですが?」
「一ヶ月後を目安で良いかな。こちらの窓口はフレイヤという事でお願いしたい」
2人が立ち上がって俺に手を伸ばす。
握手をする彼女達の顔は嬉しそうだ。たぶん彼女達の功績として評価されるんだろう。
その最初が俺達の特番を作ろうとしたことからなんだから、やはりミトラさん達の先を見る目は確かなんだろうな。