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V-164 人材不足


 パレスの会議室に関係者が集まったところで、俺とエミーは部屋を出た。

 最初から待っていた方が良いと思うんだけど、こういうのは威厳も必要らしい。その威厳というのが皆が揃った後で会議室に向かうと言うんだから、俺には威厳はいらないような気がするぞ。まったく無駄な時間に思えるんだよな。


 会議の準備が出来た事を告げに来たバニイさんが俺達の前を歩く。ちゃんとメイド服を着込んでいるのが場にあっている。そんな俺達は騎士の礼装だから、これも何とかしたいものだ。


 「公爵様がまいられました」


 会議室の扉を大きく開けると、室内に向かって一礼したバニイさんが静かに告げる。

 バニイさんが1歩室内に踏み込んで横にずれたところで俺達2人が会議室に入る。

 皆は席を立って俺達に深々と頭を下げて一礼した。

 会議室の上座は壁に大きく騎士団の旗が額に入れられて飾られている方らしい。一際立派な椅子がある。

 隣の椅子を引いてエミーを先に座らせると、俺も席に着いた。


 「皆、ご苦労。坐ってくれ」


 俺の言葉で全員が椅子に坐る。テーブルを挟んで俺の対面はザクレムさんだ。その左右に中継点をつかさどる部局の責任者が並んでいる。

 このテーブルだってかなり高そうだぞ。1枚物の木材だし、天井のシャンデリアも小振りではあるが、テーブルの長手方向に3つも付いている。

 俺が坐る椅子だって彫刻が見事だ。部屋の角には小さなテーブルが2つあり、ライティングデスクを兼ねているようだな。


 「前に、この中継点が新たな国になったと皆に話したはずだ。各部局でそれぞれに資材が不足しているだろうが、その辺りの優先権の選択は、この国の宰相であるザクレム氏に任せる事にする。さらに人材不足を考慮して、3王国の王立学園より卒業生を募集することにした。3王国から20人ずつを考えている。この辺りから、今日の会議を始めたい」


 「現在我が国に在住している住民の子弟達も戻ってくるでしょう。更に、移民も審査を行なって迎え入れています。それでも、仕事量が多いのが現状です。その他に迎え入れる計画はおありですか?」

 「強いて言えば、防衛部隊への王国軍退役者の編入ってところだな。自動化システムをうまく使えば退役者でも務まるだろう。生きの良い若者がいれば長期的に任せられるが現状では数年単位で交替せざるおえない……」


 警備隊は国防軍に昇格することになっても、ガレオンさんの駒は少ない。ウエリントン王国から1個小隊を借りているけど、建国したんだから返さないと問題だよな。だけど返してしまうと、20人位しか残らないんじゃないか?

 少しずつ増やしてはいるようだけど、思い切って、退役軍人に新兵訓練を頼んでもいいかもしれない。


 「ガレオン司令官に相談だ。10人程退役軍人を招いて100人程新兵から叩き上げられないか? 10年はウエリントン王国軍の一部が進駐してくれてるんだが、新しい国を作ったとなると、他国の軍が常駐してるのは問題がある」

 「そうだな。少し伝手があるから、その線で行くか……。だが、少なくとも来年は王国軍の兵を返せないぞ。再来年を目途にして欲しい」


 「新国家、そうですな。今まで通りにヴィオラ騎士団領という事にしましょう。その国家の人口は約1万5千人程です。税率が安い事をPRすれば更に人口は増えるでしょうが、無能な人材を増やすことは避けねばなりません。移民条件は、技能と能力検定を行う事が条件となっていますが、これはこのままで良いでしょう。毎月30家族ほど移民があります」


 「その移民を受け入れる宿舎が足りなくなる可能性があります。居住区を増やす必要があるのですが、既に桟橋の区画には居住区がありません。入居可能住宅は100戸を下回っています」


 それは、俺も危惧していたことだ。

 だけど、2人の博士から良い話を聞かせて貰ってる。


 「居住区は屋外に作る。尾根の上のある高速艇の発着場、それに温室に隣接して作れば将来的にも増設が可能でしょう。電力不足は新に動力炉を設けてもいいだろう」

 「職場と居住区が近いと便利ですな。発着場をの拡大計画と温室の拡大計画にあわせて居住区を増設出来るでしょう」

 

 「我等は工場の奥に居住区を作る事にするぞ。これ以上中継点の洞窟内を広げる事は無かろう。西に100戸を我等で作る」


 ドワーフ族ならそれも可能だろう。あまり他種族とは係わらない連中だからそれでもいいのかも知れないな。


 「商会の方は特に問題はありません。新しい居住区用桟橋に教会を作りたいと思っています。許可をお願いしたいのですが?」

 「教会なら問題ないと思う。それに銀行事業は教会が取り仕切ってるんだから、是非と必要になるんじゃないか?」


 教会は魂の安らぎ場所だ。騎士団の中にも敬虔な教徒はいるんだけど、いったいどんな神なのかは俺は知らないぞ。それでも、教会が出来れば出掛ける連中は多いだろう。それに、商会の連中にはもう1つの思惑がある。教会の銀行としての機能だ。

 今は出張所に近いものだが、教会があれば銀行も大きなものになるんだろうな。それだけ、扱える金額が増える事になるから俺としても願ったりだ。


 「離着陸場も少し拡張して欲しい。高速艇の運航と円盤機の同時発着が出来るようにしたい。格納庫と兵員室、それに防衛用のゼロを置けば居住区が屋外にあっても安心できる」

 

 ガレオンさんの言葉にザクレムさんが頷いている。居住区を外に出すというのはやはり冒険になるのだろうか?

 

 「格納庫は3つ欲しいですね。ゼロを8機。それに新型獣機を5機置けばトリケラクラスなら十分阻止できます」

 「将来的には隔壁を作れば良いのですが、まだまだ優先する土木工事が多そうですね。これは長期的に考えねばなりません」


 王都のように隔壁を廻らせるなら、更に安心できるだろう。だが、それには多大な資材が必要だ。少しずつ作っていくしかなさそうだな。


 「短期的な課題は今までの話である程度先が見えました。農業も来年度には更に5つ増設出来るでしょう。一部に畜産を行ないたいとの希望があるのですが、これも農業との併用が考えられます。レイトン博士がこの問題に取り組んでくれていますから、きっと良いものが出来るはずです。

 次に長期的な課題は、娯楽施設の欠如が上げられます。比較的作るのに苦労しない大型プールと周辺施設は、現在設計が終了し、建設場所を探しているところです。長期的に考えていた整備工場は一部が稼動中です。少なくともラウンドクルーザーの定期点検、消耗部品の交換位は今年中に可能となるでしょう」


 いよいよ娯楽施設が出来るのか。ローザ達が喜ぶだろうな。

 後は、これの施設群の交通ネットワークになるのだろうか? それ位は分かっているから俺には報告しないのだろう。

 

 「ところで、新に年間金貨数十枚の商売が出来そうだ。売り上げは南の島の設備拡充に使用したいが、問題ないか?」

 「中継点の経営は黒字です。先程の事業を展開するに何ら問題はありません。ですが、鉱石と一緒に宝石か、金塊を見つけたのですか?」


 「あの島にギガントが生息している。レイトン博士の調査では年間10匹程度なら種を維持出来るそうだ」

 「ギガントですと!」


 商会の連中が血相を変えた。

 欲しいのかな?

 

 「ギガントならば最終販売価格が金貨10枚は下りません。生息場所は厳重に管理されて我等は姿を見る事もかなわないのです。出来れば、それを我等に商いさせていただきたい。商会は7つですが、各商会で毎年1匹、さらに持ち回りで2匹とすれば我等にわだかまりはおきません。どうか、我等に任せてください」


 呆れた話だな。

 あのカブト虫のどこに人気があるのか分からないけど、貴重種というのが値を吊り上げているのだろうか?

 隣のエミーだって呆れ顔だ。

 とはいえ、商会の代表者は俺の事をジッと見据えている。ダメなんて言ったら、何を始めるか分かったものじゃない。


 「分かった。レイトン博士から渡して貰おう。今年は既に10匹近く採取しているから、無理かもしれないが1度レイトン博士を訪ねてくれ。俺からも経緯は説明しておく」


 ホッとした表情で商会の代表者が席に着いた。

 これで会議は終るのかな?

 

 そんな事を考えていると、バニイさん達がコーヒーを運んで来た。

 どうやら、基本的な議事が終って、雑談になるようだ。

 タバコを取り出すと火を点ける。

 テーブルに灰皿が所々に置かれているから、喫煙は可能なようだ。


 「ところで、噂ではヴィオラ騎士団がいくつかに分裂すると……」

 「ああ、いくつかに分かれるのは事実だ。だが、ヴィオラ騎士団は3つの騎士団の同盟した姿に王国からの中継点維持にかかわる援助部隊で構成されている。この内、戦機を探す目的で同盟を組んでいた騎士団が来年離れることになった。戦機3機にゼロを4機引き連れていくから、中緯度での鉱石探索は容易になるだろう。たまには帰って来るだろうけど、その時は専用桟橋を使うにやぶさかではない。それと、ローザ達戦姫3機に戦機4機と駆逐艦2隻が中継点を去って、新しい西の中継点の守りに付く事になるだろう」


 「そうなると、この中継点の守りが薄くなりませんか?」

 「だいじょうぶだ。戦機並みの獣機が仕上がっている」


 俺の言葉に不安そうな顔をした皆が、先程の答えに驚いている。

 戦機が都合10機いなくなるのだ。俺達の国が高緯度地方ともいえる土地にあっても、安心して住んでいられるのは、戦機による効果であると一般の人達は思っているだろう。

 決して、戦機は万能ではないのだが、一般人はそうは思っていない。

 騎士団の駆る巨獣専用兵器。それが戦機への思いに違いない。


 「今、これを作っている。戦機のように発掘兵器ではないが、チラノタイプを相手に出来るぞ」


 アリスにお願いして会議室の一角に大型スクリーンを展開して、ナイトを皆に見せる。

 戦機と異なり無骨ではない。神話の姿を実在のものとしたかのような、全身甲冑で包んだケンタウルスの姿に一同声すら出ないようだ。


 

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