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V-163 次ぎの課題は国作り


 55mm短砲身砲のカートリッジを交換すると直ぐに西南西に移動し始める。

 加速して時速100kmを超えようとしたとき、


 『マスター、スタッグの群れが移動方向を変えました。真直ぐカンザス方向に全速力で移動しています。後ろをチラノタイプ20頭以上が追跡しています』

 「何だと! カンザスに送信『巨獣約数十が突進している。俺達は間引きを開始!』以上だ」


 『了解。……送信中。……受信確認! さて、レールガンに換装します。群れに平行して先頭から狩れば良いでしょう』

 「そうだな。行くか!」


 アリスは殆ど上半身を地に付けるようにしてUターンをすると最初の巨獣に向かって疾走する。

 問題はもう1方のチラノタイプだが、ローザ達とアレクがいれば問題は無いだろう。ちびっ子達の戦姫の扱いもスコーピオでだいぶ自分の物にしたはずだ。


 『カンザス手前2kmで群れから離脱せよと連絡がありました』

 「88mm砲は強力だからな。6発の連続射撃で最後は殲滅させるつもりなんじゃないか?」


 新型獣機は、もう一方の群れの方に向けているのだろう。ゼロは温存するつもりのようだ。それとも西のチラノタイプを牽制しているのだろうか?

 

 『スタッグの群れから500mで速度を合わせました。照準とトリガーはマスターに委ねます!』

 「了解。手前から倒していく!」


 トリガーを引くと軽い衝撃がジョイスティックに伝わってくる。

 全周スクリーンには土煙を上げて転倒したスタッグが映し出されている。既にターゲットマークは次ぎの獲物にロックされている。俺はゆっくりとトリガーを引いた。

 

 10分も掛からずにスタッグの群れを刈り取ったが、数頭のレグナスが後方からやってきた。チラノタイプはレグナスだったらしい。

 

 『残り1kmで2km地点に到達します!』

 「分かった、2kmて前で左に針路変更。でないと、88mmの徹甲弾が飛んでくるぞ!」


 レグナスを拡大してターゲットマークを合わせるとロックを掛ける。これで、もうどんなに方向を変えてもアリスはレールガンの照準を追従させる。

 直ぐにトリガーを引いて、狙った獲物が転倒したことを確認する。次ぎの獲物にトリガーを合わせ……。


 全身に強いGを感じると視界が左に流れる。

 2kmラインギリギリまで来てしまったようだ。


『88mmの射撃圏内に入ったので進路変更を行ないました。カンザスには離脱を連絡済みです』


 アリスの言葉が終って直ぐに、走り去ったレグナスの周囲に砲弾が炸裂する。12発の砲弾が4回炸裂した後には、レグナスの亡骸が横たわっているだけだ。

 

 「ローザの方は?」

 『3機で連携して倒しています。ラウンドクルーザーの手前3kmで全て狩ったようですね』


 こりゃ、帰ったら一言ありそうだな。

 そんな事を考えながら、俺達はカンザスへ向かって速度を上げる。


 「まったく、レグナス10頭に時間を掛けて、尚且つ、艦砲に助けられるなど我等戦姫の筆頭たるリオ公爵の名が泣くぞ!」

 

 カンザスのリビングに戻ってきた俺に浴びせられた、ローザの言葉が耳に痛い。

 まあ、事実ではあるんだが……。ここで弁明しようものなら、倍になって戻ってきそうだ。


 「ああ、ちょっと油断したな。なるべく戦闘を避けようとしたんだが、群れの移動方向を変えられなかった」

 「大方、そんな事じゃろうと思っておったが、兄様は優しいからのう……。心を鬼にすることはできんかったか」


 「それがローザの兄様なのです。同じ荒野に生きる者。出来れば互いに戦う事を避けようとするのがリオ殿なのですよ」

 

 エミーが俺に代わってローザを諭してくれる。

 その通りだと俺も思うな。明確に俺達に敵対しない限り彼らを狩らないようにしたいものだ。

 特に巨獣の生態は分からない事が多すぎる。レイトン博士がカテリナさんの誘いに乗ったのも、そんな巨獣の生態に興味を持ったからなんだろうと思うな。


 ライムさんが運んでくれたマグカップのコーヒーを飲んでいると、大きな窓から見える荒野の風景が少しずつ右に移動し始めた。

 鉱石の採掘が終了して再び鉱石探査の旅が始まるのだ。


 順調に鉱石を採掘して中継点に戻ってきたのは10日後の事だ。

 3日間の休養を取って、次ぎの鉱石採掘に向かう。


 そんな鉱石採掘は3回続けて10日前後の休暇を取るのが俺達のサイクルだ。

 3回目の鉱石採掘の旅は例によって、休暇の過ごし方が話題に上る。まあ、俺がツアーを選べる分けではなく、フレイヤ達が中心になって企画を話し合っているようなのだが……。


 「リオには雑用をして貰うわ。エミーを残していくから、交渉は上手くやってね。母さんにも頼んであるから力になってくれるでしょう」


 要するに、10日間は中継点にいろってことか?

 まあ、裏の仕事があるから退屈はしないだろうけど……。


 「万が一の時は、裏技で飛んでくればだいじょうぶだと思うけど、少し南を探すから、そんな事はないと思う」

 「どんな場所にも危険はあるさ。だが呼んでくれれば飛んでいくよ」


 そんな言葉を交わして俺とエミーはカンザスを見送った。

 

 「パレスを使えと言われました。専属の侍女はライムの妹と聞いてます」

 

 そんな事を言いながら俺の腕を取って桟橋を歩く。

 北に向かって結構な距離なんだが、何かここに作りたかったな。大型プールは民生用として西の桟橋内に製作中らしい。屋内だから温度管理が楽になるだろうと、商会の連中が話してたな。


 どう見ても、俺にはそぐわない神殿のような外観が岩に刻まれている。

 数段の階段を上がると、片面2mはありそうな扉にある10cmほどの金属板に俺とエミーがブレスレットをかざす。

 地上1.2mほどの高さだから、ネコ族の少女では高すぎるかな?

 それでも、届かない高さではない。

 金属製の音を立てながら扉が内側に開く。


 ホールの階段を上がって2階へと歩く。奥に続く扉を開けて通路を歩くと、先に来た時には無かった調度品が左右に並んでいる。

 彫刻、絵画、写真……、魚拓まであるぞ。

 正面の扉の左右にはプレートアーマーが飾ってあるけど、どっからこんなのを手に入れたんだろう? この国にこんな中世の歴史があったんだろうか?


 プライベートルームの扉の鍵をブレスレットで開錠すると、中に入っていく。

 同じように通路が延びているがこの左右は俺達の個室だ。

 正面の扉を開くと、前回来た時は体育館の印象を受けたんだが、今回は違ってた。

 正面の大きなガラス窓の外に広がる庭園はそのままだが、窓際に10人程坐れるように丸くソファーが据えられている。

 数人が座れるカード専用のテーブル。さらにはビリヤードまであるぞ。

 なぜか中心部の10m四方には何も置かれていない。

 

 いつの間にか暖炉が作られ、中には火が焚かれているようにちろちろと揺れる炎が見える。イミテーションだろうけど雰囲気があるな。

 数人が座れるソファーがあるから、ちょっとした内緒話にはいいかもしれない。

 暖炉の煙突には騎士団のエンブラムが飾られて、その左右には剣と銃が2本交差して飾られている。

 

 そんな中、壁の1つに紋章が飾られている。

 俺の紋章を囲むようにエミーやフレイヤ、ドミニク達の紋章がある。紋章は個人に属するものらしいから、エミーの紋章はウエリントン王国の紋章ではない。だけど、エミーのリンドウの花の紋章の隣にはしっかりウエリントン王家の紋章が刻まれていた。これは降嫁したとはいえエミー個人を現すものだかららしい。

 

 窓際のソファーに腰を下ろす。ソファーのクッションにイニシャルが刺繍してあるから、たぶんここが俺の席に違いない。

 隣はエミーだった。

 エミーが端末を操作すると、窓の一部がスライドする。

 直ぐに、庭から虫の音が聞こえてくる。


 「第二離宮の夜の庭からサンプリングした虫の音なのですが、まるで窓の外で鳴いているように聞こえますね」

 「ああ、そうだね。俺達には心静まる音なんだけど、果たしてこれを音楽として聞くことができる人がどれだけいるのか……」


 無理なものには無理だからな。無理強いはしないでおこう。

 

 そんな俺達のところにお茶のセットを運んで来た娘さん2人がライムさんの妹なんだろうか?


 「やっと来てくれたにゃ。姉さんに色々と教えて貰ったにゃ。ここは私達が世話をするにゃ。私がバニィでこっちがタニィにゃ」


 カップを配りながら挨拶してくれた。

 エミーと同じ位の歳じゃないかな? エミーにしてもライムさんの妹なら安心出来るだろう。

 ケーキを最後に置くと、手を振って帰って行った。

 

 「ある意味、セキュリティ対策と言っていました。このパレスが2人の仕事場となるようです。来客が多いときには姉さん達が手伝うと言ってました」

 

 ライムさんはかなりの使い手らしい。その妹さんもそうなのか? ひょっとして、ライムさん達の家系はそんな仕事を稼業としているのだろうか?


 「それで、俺達の予定は?」

 「建国の状況報告と課題。それに今後の計画ということになります。やはり、いろいろと問題が出てくるようですね。一番の問題は人ですね」

 「人材不足か……。それで、ドミニクはこの問題にどうしろと?」


 「公爵様に任せると言ってましたわ」


 そう言って微笑まれても俺は困るんだけどね。

 丸無げされたか……。となれば、俺の一存でどうにでも出来るってことだよな。

 優秀な人材なら王都の学園を毎年卒業している筈だ。中継点の立ち上げ時にもかなりの人を回して貰ったけど、ザクレムさんの話ではかなり有能だと話してくれた。

 となれば、人材不足は3つの王国の卒業生をあつめれば良いんじゃないかな?

 警備には、王国の軍を退役した人物を雇う事も可能だろう。

 

 「ちょっと、エミーの伝手を使って調べてみてくれないか? 来年の王立学園の卒業生で貴族の長男長女以外の人物だ」

 「雇うという事ですか? 稼業を継げない人物にとっては嬉しいことでしょう。どれ位集めるのですか?」


 「ザクレムさんと相談だけど、50人は必要になるんじゃないかな? 各国から20人というのはどうだろう?」

 「卒業生は学部ごとに100名はいるでしょう。全体で3千人を越えます。新しい国作りにそんな求職依頼を王立学園に送れば、とんでもない騒ぎが起こりますよ」


 それは希望でもあるんだろうな。

 後は部署ごとの人材必要性をどうやって決めるかがもんだになりそうだ。どの部署も人手不足を訴えるだろうし、雇える人数にも限りがあるだろうし……。

 

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