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V-162 高緯度地方に使えるのは


 「ドロシー、イエローⅡの原因は何なんだ?」

 「北西30kmにチラノタイプが確認されました。現在の探索コースをこのまま進むと30分後に距離15kmまで近付きます」


 それ程危険は無さそうだな。

 停船していなければだいじょうぶだと思う。

 たぶんレイドラが警報を発したんだろう。レイドラは慎重派だからな。


 「のんびりしててもだいじょうぶなのかにゃ?」


 マグカップにコーヒーをライムさんが注ぎ足してくれた。砂糖を2杯入れてスプーンでかき混ぜる。


 「航行中ですから、問題はないでしょう。鉱石採掘の最中だとちょっと問題ですけどね」

 「分かったにゃ、レイムが心配してたから教えてあげるにゃ」


 裏稼業もできる人達なんだけど、そんな心配もするんだな。自分ではどうしようもないことだから、かえって心配なのかもしれないぞ。


 しばらくすると、ローザ達も戦闘服姿でリビングにやってきた。

 皆でカード遊びを始めたみたいだな。賑やかな声がソファーまで聞こえてくるぞ。

 

 エミーが俺の隣にやって来ると、端末を操作してなにやらリスト作りを始めた。チラリと覗くと、3つのラウンドクルーザーの戦機の割り振りを考えているようだ。

 西に中継点ができれば、ローザ達はそちらに出掛けてしまうし、アデルも自分たちで頑張るみたいだからな。戦姫が3機に戦機が5+3で移動する事になりそうだ。ドミニクも頭が痛いだろうな。だけど、その前にアレク達の後継を探す事も大切な気がするぞ。

 後2年でアレク達は戦機からナイトに乗り換えるからな。


 「騎士達が足りないんじゃないか?」

 「そうなんです。ドミニク団長から戦機と新型獣機、それにゼロの割り振りを見直して欲しいと相談を受けたのですが、4人ほど騎士が足りなくなりますね」


 俺達の騎士団は戦姫が1機、戦鬼が2機、それに戦機が5機ある。アレクの戦機にはジェリルが乗るんだろうな。そうなるとジェリル、サンドラ、シレイン、カリオン達の乗った戦機の騎士を探さねばならない。

 

 「基本はヴィオラ騎士団にゆかりのある騎士になるな。レイドラと相談すればいいと思うよ。それと、高緯度地帯の鉱石採掘には戦機は必要ないだろう。アリスとナイトそれにゼロと新型獣機で十分だ」

 「戦機無しで高緯度地方に挑むのですか?」


 驚いたように俺を見る。

 戦機あっての騎士団だからな。だが、いずれは戦機を持たない騎士団になるはずだ。持っていたとしても、自分達の中継点の奥に飾る事になるだろう。戦機が発掘でのみ得られる以上、その数には上限がある。


 「いずれは戦機は飾りになる。それにカテリナさんが考えている船では戦機がそもそも必要ないんだ。高緯度地方の鉱石採掘にはすばやく動けるナイトとゼロで対応出来るよ。それでもダメなら上空に逃げられるからね」

 「鉱石採掘手順の模索するように聞こえましたが……」


 「ああ、その通りさ。挑んだものが帰ってこないのでは、本末転倒だからね。騎士団員の安全が確保された状態での試行錯誤は覚悟している」

 「--となれば、ヴィオラとカンザスに安定した収入を期待しなければなりませんね。それで戦機を置いていくという事になるんですね。了解しました」


 戦機の起動は巨獣を対象に作られたと言う話だが、大型巨獣を相手にできないとはちょっと問題だな。

 それとも、大型巨獣を相手にする戦機は別に存在するのだろうか?

 戦鬼を越える戦機がこの大陸のどこかにあるのだろうか?


 しばらくして警報は解除され、リビングに皆が戻ってくる。

 ほっとした表情なのは、しばらく巨獣との戦いが起きていないからなのだろう。季節はそろそろ冬だから巨獣の群れも冬越しの場所に移動したのかも知れないな。


 「出発して2日めじゃが、今回は鉱石が見付からんようじゃな」

 「そんな時もあります。1日で3箇所も見つかる時もあるんですけどね」


 フレイヤがローザに説明してるけど、こればっかりは誰にも分からないからな。

 その時、カンザスの進路が大きく変化する。


 「ほらね。何か見つけたようですよ」

 「そうじゃな。ドロシー、火器管制所に行くぞ。あそこが一番眺めが良い!」


 ちびっ子達を連れてローザが部屋を駆けて行った。

 全く行動的だな。そんなローザが部屋を出て行くのを笑みを浮かべてエミー達が見ている。

 

 「飽きないのかしら?」

 「そうみたいだね。まあ、王都では見られない事も確かだ」

  

 たぶん、お姉さんぶって、戦姫を駆る2人のちびっ子に説明してるのだろう。その光景を思い浮かべると自然に笑みが浮かぶな。

 タバコに手を伸ばして火を点ける。

 これが俺達の騎士団の日常だ。こんな暮らしをローザは2年近くしているのだが、西の拠点防衛に向かえばそれもできなくなる。

 今の内に精一杯の想い出を作ると良い。想い出は人生の宝だ。自信を無くした時は、その想い出の中に解決策を見出せる時もあるだろう。


 「どうしました?」

 「ああ、ローザ達の将来を考えてたんだ。西の拠点防衛は大変な任務だろうけど、ローザ達なら何とか出来るだろうってね」


 エミーが顔を曇らせる。妹達を心配してるのは分かるが、何時までも過保護ではダメだぞ。まあ、目の見えない時代が長かったから、妹を心配することが出来るのはつい最近からだろうから仕方がないのかも知れないけどね。


 「そう、心配する事はないと思うぞ。イザとなれば俺とエミーだけなら瞬時に助けに向かえる。それもあるから国王達に具申したんだ」

 「あの時のように、時間を掛けずに空間を移動できるのですか?」


 俺の頷きを見てエミーの顔が明るくなる。

 エミーを俺と一緒にアリスのコクピットに入れて、アリスがムサシを抱えれば次元の断層を越えて一瞬でローザのところに向かえるはずだ。

 だが、ちょっと気になるのはローザが俺達を呼ぶのを躊躇することだ。それはよくよく言って聞かせておかねばなるまい。


 突然、時計が振動する。

 何だ? と時計を見ると、ドミニクの姿が文字盤に浮かんだ。

 カテリナさんが通信に使えるって言ってたのはこういうことか。これなら携帯は必要無さそうだ。


 「リオ、偵察用円盤機が巨獣を確認したわ。距離は60km先だけど、どうやら3つの群れが移動しているようなの」

 「了解だ。群れの位置をアリスに送っておいてくれ」


 「行ってくるよ」

 「お気をつけて!」


 立ち上がった俺に、エミーが軽くキスしてくれた。

 ミニバーの反対側の壁のスイッチを押して壁をスライドさせると、中のカプセルに身を横たえる。手元スイッチを押すとカプセルが勢い良く船首方向に滑っていく。


 カプセルからマットに放り出されると急いでアリスの元に駆け寄った。


 「55mm短砲身砲と2個のカートリッジを持たせている。群れが3つだそうだが、まだまだ採掘は終りそうにない。上手く誘導してくれ」

 「やってみます。ダメでもアレク達がいますからね。防衛は可能でしょう」


 「ガリナム達は千kmほど南西じゃ。ゼロでも間に合わん。やはりガリナムは中継点の周辺で警戒させるべきじゃと思うぞ。……頑張れよ!」


 ベレッド爺さんに励まされながらコクピットに滑り込む。胸部装甲版が閉じると、アリスは昇降装置に向かって歩き出した。


 『伝送されてきた映像ではチラノタイプが2つに未確認の中型巨獣です。チラノタイプが未確認の巨獣を襲うために近付いているように見えます』


 全周スクリーンの一部にその映像が映し出される。

 確かにアリスの言葉通りに見えるな。だけど、この巨獣は始めてみるぞ。草食獣のようだが、頭が小さくて防衛用の角がない。その代わりに太く長い尾の先に棘が付いている。あれをモーニングスターのように振りますのだろうが、当たれば戦機でもタダでは済みそうに無いな。


 「あの草食獣、仮にスタッグと名を付ける。スタッグを移動させれば、チラノタイプも向きを変えるだろう。スタッグの南から55mm砲を放ってみよう」

 『了解です。巨獣は西北西ですから、一旦、南西に移動して北上します』


 「それと、ドミニクに連絡だ。ローザ達を戦姫で待機させる。暴走したら、ローザ達が頼りだ。その間にアレク達を出動させる事ができる」

 『了解です。……送信中、……送信中、送信終了。受信確認済です』


 アリスが荒野を滑るように移動する。ローザは悔しがってるかな?

 だが、群れが3つだと、状況次第では早期に迎撃態勢を取る必要があるからな。それにはヒットエンドランの戦いができるローザ達3人がいるかどうかでかなり作戦が変わってくる。俺としては控えとしてカンザスにいて貰いたいな。


 『これより北に進路を変更します。接触まで残り4分』

 「了解。先ずはスタッグの手前に55mm砲を全弾発射して様子を見る。カートリッジ交換は迅速にしてくれ。場合によっては2檄する必要があるかもしれない」


 アリスは俺に了解を告げると短砲身の55mm砲を取り出して両手で構えた。

 時速100km以上で荒野を突進しているから、直ぐに相手が見えるだろう。


 前方に10頭以上のスタッグが見えてきた。直ぐにスクリーンにはターゲットスクリーンのT字型のマークがスタッグの手前に動き始めている。

 マークの色はまだ黒色だ。これが赤に変化すれば射程に入った事になる。砲身を切り詰めているから有効射程は数百mになっている。最大射程は3kmほどあるのだが、命中することはほとんど無いだろう。

 マークが黄色に変化して、直ぐに赤になった。

 俺はアームレストに一体化した操縦スティックのトリガーを引く。

 鈍い衝撃が立て続けに起こると、アリスは右手に旋回しながらカートリッジを交換する。

 

 『あまり変化ありませんね。かなり知能が低いのでしょうか?』

 「次ぎは直接2、3頭に砲弾を当ててみるか」


 『先程の砲撃でチラノタイプの1群が速度を速めました。直ぐに再攻撃を始めた方が良いと推測します』


 再度北上しながら、ターゲットマークを確認すると、今度はスタッグの胴体にマークが映し出されている。

 マークが赤に変わったと同時にトリガーを引いた。

 2頭の胴体に55mm砲の砲弾が炸裂したようだ。今度は頭を上げてのそりと反対方向に移動を始めた。


 『スタッグの群れにチラノタイプが接触します。接触まで、20秒……10秒……接触しました。後のチラノタイプとの接触まで1分です』


 ここで止まってくれれば問題はないのだが……。

 

 『カンザスから緊急通信です。西にチラノタイプ20頭、至急対処せよ。とのことです』

 「忙しいな。カートリッジは、もう1つあったな。それで方向を変えられるか、やってみよう。だめならレールガンで殲滅する」


 忙しくなってきたな。たぶん円盤機が先行爆撃を開始してるんだろうが、真直ぐ突進しているようだ。アレクやローザ達も迎撃準備を始めたに違いない。



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