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V-161 宇宙に出るのは大変だ


 改めてガネーシャは専用の輸送船を設計するようだ。

 俺に頭を下げると部屋を急いで出て行った。


 残ったのはカテリナ三だけだが、ローザ達が近くにいるから変な事態に発展する事は無い。

 そこで、カテリナさんの状況をたずねてみた。


 「あら、そういえば教えていなかったわね。かなり異質な反重力装置と動力炉が手に入ったから、思い切った設計が出来るわ。でも、何でもできるとかえって選択できなくなるわね。リオ君、良いアイデアない?」


 「どの位の大きさを考えてるんですか?」

 「そうね……。カンザスの2倍は欲しいわ。もっと大きくても問題ないわよ」


 大きさに制限が無いという事か。なら、いっその事形を持たない船でも良いんじゃないか? 別に誰に見せるでもなし、機能的ならそれで良いような気がするな。

 コアとなる駆動装置と動力炉それにブリッジと居住区域、船外活動をする獣機も必要だ。それに採掘した鉱石の保管方法も考えなくてはなるまい。

 ちょっと待てよ。アリスは宇宙空間でも活動できるが、戦機や獣機はどうなるんだ?


 「ちょっとした確認なんですけど……。どうやって鉱石を探して、探した鉱石を船に積むんですか?」


 ポカンとカテリナさんが口を開けたぞ。やはり、何も考えていなかったようだ。

 やはり行きたいのが先になってるからだろう。商業ベースとしての設計がまるでなっていないぞ。


 「ここはリオ君に頼むことにするわ。そうね……、ちゃんとお礼はするわよ」

 「俺の考えなんてあまり役に立たないと思いますけど」


 「だいじょうぶ。ゼロやナイト、それに母艦の考え方も斬新だわ。ガネーシャが感心してたわよ。でも、彼女にはキチンと説明してあるからだいじょうぶよ」

 どう、だいじょうぶなんだか説明して欲しい気がするけどね。

 まあ、鉱石採掘の暇潰しには丁度いいだろう。ダメでも俺に責任は無いと思うし……。

 あいまいに笑顔を見せておく。了承はしないでおこう。


 3日休んだところで、鉱石採掘に出掛けた。

 今度もかなり山裾に近い場所だ。西に進路を変更して2時間お経たずに最初の鉱石が見付かったようだ。

 3隻のラウンドクルーザーが曳くバージのコンテナは200tが12台だけど、この調子で行くなら10日も掛からずにコンテナを満載にできるだろう。


 周囲は円盤機が哨戒をしているから、俺はのんびりとソファーでタバコを楽しめる。

 ローザ達はテーブルでいつものようにゲームをしているし、エミーやライムさん達も一緒に楽しんでいる。

 

 一服を終えたところで、カテリナさんの宿題でも始めようかとアリスを呼び出した。

 自動的に端末が起動して俺の前に仮想スクリーンが展開した。


 『どこから始めましょうか?』

 「宇宙船本体、鉱石探索の手段、鉱石採掘方法だな?」

 

 『その他にも色々ありますけど、先ずはそこからで良いでしょう』

 「ところで、不定形な宇宙船を考えているんだけど……」

 

 不定形と言っても、俺の考えているのは小惑星をくり抜いて中に必要な区画を設けると言うものだ。金属質の小惑星ぐらいあるだろう。外郭構造を惑星本体に任せられるから大きさの割にはコストを低減できるんじゃないかな?


 『それは大きな問題がありますよ。金属を主体とする小惑星はあるでしょうが、そこまでどうやって行くんですか? それと、加工方法も考えないといけません』


 ガーン! という擬音が頭の中で木霊してる。

 確かに、俺とアリスだけなら十分に宇宙に行けるだろう。アリスが昔言ってたからな。手に数tの荷物は持って行けるだろうが、それでは大掛かりに小惑星を改造する事は不可能だ。

 

 『ここは先行して作り始めた飛行船型を踏襲して作るべきでしょうね。船体の形はそのままに外壁を金属体で作りあげれば区画の考え方等設計を流用する事が可能ですよ』


 元々は俺達のアイデアだからな。パテントには引っ掛からないだろう。

 

 『円盤機を外宇宙で使えるようにするのは比較的簡単です。10t近くの荷役能力を持たせなければなりませんが、新型獣機とワイヤーで何とか出来るでしょう』


 それって、宇宙空間用の獣機を作るって事か?

 コクピットは密閉式だが呼吸用のエアーは外気からフィルターを通して供給してるんだよな。それに宇宙では移動するのに前後左右に噴射口のあるバーニアが必要になるぞ。背中の水素タービンエンジンも使用できなくなるな……。


 『先ずは円盤機からです。パンジーの躯体が使えますね。動力は燃料電池になるでしょう。駆動は反重力装置による重力勾配がそのまま使用できます。与圧装置とエアロック室。酸素循環装置に航法用電算機。簡易な休息室と制御室、それに鉱石曳航用のワイヤー射出装置。……武器は必要ですか?』

 「そうだな、簡単なものでいいから一応載せておこう。惑星間の交易管理を行なっている連中がどう出てくるか分からないからな」


 仮想スクリーンに表示されたパンジーの姿が少しずつ変化する。円盤の厚みが増して、直径が小さくなってきた。背中に剥きだしになっていた水素タービンエンジンが無くなり、直径1.5mほどの正方形のハッチが姿を現す。

 前方の窓は少し小型になったが厚みは増したようだ。後部に銛のような鉱石の固定用冶具とワイヤー巻き取り装置が取り付けられる。

 

 「あまり代わり映えしないな」

 『元々空中監視用ですから、飛行装置はそのまま宇宙空間で使用可能です。空力特製は無視できますから、厚みを増して、反重力装置は大型化しています。本体重量10tになりますが、鉱石の曳航は20tまで可能です』


 「中は与圧してるんだろう? 宇宙服を装備しても操縦はできるのか?」

 『もちろんです。基本は普通の円盤機と変わりません。3日程度船内活動が継続できます』


 3日は必要ないだろうが、それでも1日は継続しなければなるまい。安全性を考えるなら3倍をみておけば十分な筈だ。


 これをベースに概念設計を開始するとアリスが俺に伝えると、仮想スクリーンの画像に新型獣機が映し出された。


 『獣機の宇宙空間での使用はかなり問題です。動力源は燃料電池で良いと思いますが、体の中に余裕代がありません。空間での移動は背中にバーニアを着ければ解決できますが、噴射時間は連続で20分を下回りそうです』

 

 低引力下で作業をしてたら直ぐに宇宙に飛び出しかねないな。

 バーニヤの作動時間も問題だ。移動してたら直ぐに無くなってしまいそうだ。それを避ける為には、足の構造を変えれば良いんじゃないかな? 足の指を長くして掴むことが出来るようにすれば良いんじゃないか。そうすれば鉱石を含んだ小惑星にしっかりと自分を固定することができる筈だ。

 一番の問題は獣機の駆動エナジーの供給だ。マイクロウェーブで伝送する分けにはいかないのだろうか?


 『マイクロウェーブ伝送では、受信部を複数設けることで可能性はでてきます。ですが、この世界の技術力では伝送距離は精々10kmほどの距離ですよ』

 「パンジー型円盤機を伝送用に使えないか? 場合によっては切り離しが可能な小型宇宙船を載せる必要が出てくるな」


 非常用の燃料電池は搭載する必要があるだろうが、それで獣機の活動が出来るなら問題ないだろう。ギガントに搭載する簡易型ブラックホール動力炉ならば十分にエナジーを供給できるんじゃないか?

 動力伝送用の宇宙船は、電力が豊富に使えるから反重力装置に合わせてイオンエンジンを搭載する事も可能だろう。


 『……後者の考え方に同意します。その方向で設計を始めます』


 俺の思考を読みながら、概念設計のコンセプトを理解したという事か?

 それなら、後は出来上がりを待つだけだな。


 「1つ、良いか? 戦機は宇宙で使えるんだろうか?」

 『戦姫なら可能です。デイジーも反重力駆動を行う事が出来るでしょう。ですが、戦機、戦鬼では反重力装置を駆動できるだけのエナジーが不足しています』


 連れて行けるのはアリスだけになるのか……。まあ、これが現実と言うものだろう。ベラスコ達には地上で頑張って貰うしかなさそうだ。

 

 「どうしました? だいぶ長い間、スクリーンを睨んでいましたが」

 「ああ、次ぎの鉱石採掘の方法を考えてたんだ。カテリナさんもおぼろげな案を持っているだけみたいだけど、何れはという事を望んでるみたいだね」


 そんな俺の話をおもしろそうに聞きながら、エミーがコーヒーのマグカップを渡してくれた。自分のカップを持って俺の隣に座るとスクリーン上の獣機を見ている。


 「獣機は採掘だけだと思っていましたが、汎用性は高そうですね」

 「確かに。……戦機はそうもいかないんだよな。形を自在にできるのが獣機のいいところだ。戦機はこの世界の科学力では未だに作れないそうだしね」

 

 エミーはそんな話を聞き流しながらコーヒーを飲んでいる。

 確かにそんな事はエミー達にはどうでも良いことかも知れない。だけど、少なくとも残りの人生は100年を遥かに越えている。これからどんな暮らしが待っているか分からないぞ。


 「1つ、気になるのですが……。ローザとドロシーはあのままでよろしいのですか?」

 「早ければ3年後には分かれる事になるだろうね。その頃にはローザも18歳になるだろう。妹よりも男の子が気になる歳になるんじゃないかな? ウェリントンで唯一の戦姫を動かせる姫だ。良い相手をヒルダさん達が選ぶんじゃないかと思うよ」


 それでもドロシーがなついてローザに着いて行くなら、改めてカンザスの電脳を再プログラミングすればいいだろう。


 『緊急連絡。イエローⅡ発動!……繰り返す。緊急連絡。イエローⅡ発動!』


 いつものドロシーではなく、少し大人びた声が聞こえてきた。

 確か、いつでも出られるようにだったな。

 

 「コンバットスーツ着用でいいだろう。もうすぐフレイアがやって来るはずだ」


 俺の言葉にエミーが部屋へ走っていく。

 ローザ達も部屋に戻って行った。後にはドロシーが4匹のギガントを体に付けている。預かったのかな?

 そんなドロシーにライムさんが木箱を渡している。どこから手に入れたか分からないけど、大きさ的には丁度いいな。

 ドロシーだって、カンザスが臨戦態勢になればブリッジに向かわねばならないからな。ちょっとしたライムさんの心遣いが嬉しいな。


 ドロシーが1匹、1匹丁寧に木箱の中にギガントを入れると、ライムさんに小さくお辞儀をして部屋を出て行った。

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