V-160 輸送船?
「それにしても、一時は覚悟を決めたんだぞ」
「そうですよ。これからどんな事が起こっても、俺達なら切り抜けられそうな気がします」
ヨットはエンジンで王都の港を目指している。
5日間のクルージングがもうすぐ終ろうとしている。ささやかなパーティを甲板で開いているんだが、話題は荒海を乗り切った話で、尽きる事は無い。
「船室も大変だったのよ。ソファーになんて座ってられなかったから、船首の船室に避難してたわ。ヨットが横になったときなんてもうだめかと思ったんだから……」
中は中で大変だったようだ。だけど俺達なんか1度ヨットから投出されてるんだぞ。
まったく、ちゃんとツアーは選んで欲しいものだ。
それでも、フレイヤ達が行きたかったバリントンランドには次ぎの日には到着したし、島でのレジャーもそれなりに満喫できた。
真っ黒に焼けた肌はそんな俺達の姿を思い出させるのだが、やはりあの嵐の海の出来事には敵わないな。
ウエリントン王国の桟橋でヨットを引き渡した後は、それぞれ別行動で王都でのショッピングを楽しんで、3日後に騎士団の連中とホテルのロビーに集合する。
次々と集まってくる騎士団の面々をタブレットに表示されるリストで確認しているのはフレイヤ達だ。確認が取れ次第、ジェリル達がエレベーターで屋上の高速艇に案内している。
「また、退屈な日々が始まるんですねぇ」
相変わらず火の点いていないタバコを咥えたベラスコが嘆いている。
「まあ、そうなるな。それは、諦めるしか無さそうだが、次ぎのツアーが楽しみでもあるな」
「こんなツアーだと困ります。フレイヤには十分注意するように言って置きますから」
そんな俺の言葉に2人は笑い出しながら、首を振っている。それなりに楽しかったのかな?
そんな俺達を見つけて「オーイ!」って叫んでいるのはローザ達ご一行だ。後ろからリンダ達が疲れた表情でカートを曳いている。
何となく同情できるな。どっちもどっちだったらしい。とは言え、ドリナムランドには命の危険が無い事は確かだ。
ローザと一緒にドロシーが大きなぬいぐるみを抱えている。今度はネコのようだな。ぬいぐるみの顔のほうがドロシーの顔よりも大きいぞ。
「あれ? ローザ達はカンザスじゃなかったのか?」
「カンザスにも操舵手はおる。ドミニクとレイドラがいれば十分じゃろう。戦闘状態にならぬならドロシーが離れていても問題はないとのことじゃ。それに、万が一の場合は衛星回線で介入できるとカテリナ博士が言っておったぞ」
それで、俺達と帰りが一緒と言う事だな。とは言え将来的にはドロシーの簡易型をカンザスに搭載しないと不味いような気がするぞ。
高速艇組が全員揃ったところで、俺達もエレベーターを使って高速艇に乗り込んだ。明日の朝には中継点に着くだろう。
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「それは大変だったわね」
食事を終えた俺達がいつものようにソファーでくつろいでいた時に、フレイアが俺達のツアーのビデオを披露したのだ。
ある意味、死に損なった感じなんだけど、見てる連中には好評なんだよな。
カテリナさんの先程の言葉も、笑いながらだから同情心の欠片すらない。
「次にヨットに乗るときには我等も一緒じゃぞ。こんなイベント一杯なら我等もこっちにすべきじゃった!」
ローザの言葉はドリナムランドに向かった連中の半分が肯定し、半分はガックリと首を落としている。
まあ、あんな嵐がそうそう来ることもないから、次ぎに出掛ける時にはローザ達も連れってあげよう。船室にいれば先ずは安心だ。タンコブぐらいは作るかも知れないけどね。
「それが、その日焼けのゆえんね。こっちは休暇を使って艦長を探してたわ」
「見付かったの?」
「3人という事でしたから、私の後輩を何とか……」
レイドラの言葉に一応全員が頷いている。後輩と言うからにはメイデンさんのような過激派ではない筈だ。レイドラの後輩なら、おとなしく清楚な感じがするぞ。
俺達の欲しい艦長は、冒険心よりも慎重派という事なんだろうな。
「来春の卒業と同時にやって来るわ。ヴィオラに搭乗させてクリスに指導して貰うつもりよ」
「能力に問題はないよね」
「だいじょうぶよ。ヨット部のキャプテンとサブキャプテン、そしてマネージャーだから」
俺に答えたドミニクの言葉に皆が感心している。それならツアーを来年にすべきだったぞ。ってその前に、サブキャプテンはいい。だが、マネージャーってだいじょうぶなのか?
「それで、船長の数は十分になるわ。……で、ラウンドクルーザーをどのように分配するのかしら?」
「それが、今後の課題です。戦機を3機手に入れたアデルは同盟期間前だけど、別行動を望んでいるわ。ベラドンナでは戦機は4機がいい所よ。新に購入した大型駆逐艦を改造してゼロを4機搭載する計画らしいから、この中継点に来るのはそれ程苦労しないと思うわ」
いつかは分かれる騎士団ではあるが、3年足らずで分かれる事になるのか。ならば……。
「ゼロ4機は、俺達からの贈り物にしたいね。いくら古い騎士団でも、ラウンドクルーザーを購入して更にゼロでは大変だ」
「ありがとう。私もそのつもりよ。現在8機のゼロの半数を引き渡す事を考えているわ。ムサシを譲って貰ったようなところがあるし、そのお返しよ」
あの一件だな。確かにアデルの番だったからな。それで、貸し借りなしとして付き合えれば十分だ。
だが、ベラドンナがいなくなると鉱石探索範囲が狭まるんじゃないか? その辺りのことも考えているんだろか?
「そうなると、3隻で鉱石採掘を行なうのも後わずかね。明日には出発するんでしょう?」
「そうなるわ。山裾を西に向かうことで調整が取れてるから、明日8時には出航するわよ」
俺達の本業だからな。遊んだら稼ぐ……、これは大事な事だ。
次ぎの朝、俺が起きたのは10時前だ。既にカンザスは中継点を離れて西に向かって疾走している。
朝食を食べていると、エミーが昼過ぎに鉱石の探索を始めると教えてくれた。
朝食を終えると、ライムさんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、ソファーで一服。窓の外には荒地が広がっている。
エミーはローザ達とテーブルでのんびりゲームを始めた。あの教室ぐらい広いスゴロクなんだが、この旅が終る前に終るんだろうか?
そんな事を考えていた時に、カテリナさんがガネーシャを連れてやってきた。
高緯度地方のラウンドクルーザーを設計していた筈だが、問題でもあったんだろうか?
「こんにちは。あの話は中継点でも噂になってたわよ。さすがは騎士団だけの事はあるって感心してたわ」
そう言って笑みを浮かべたところを見ると、必ずしも好意的とは言えないようだな。
「反省してます。ヨットは戦機と違う事ははっきり分かりました」
「そうね、かなり違うわ。……でもね。あれだけのうねりと横波を受けて冷静に対処できたのはさすがだという事よ。どんな事態でも騎士は冷静だと感心してる人達は、その噂を広げるわ。私は悪い事ではないと思うわよ。でも、少し無謀だった事は確かね」
そんな事を言いながらライムさんが運んで来たコーヒーを飲んでいる。
「それで今日は?」
「詳細設計が上がったわ。後はダメだしをした後で施工設計を行なって組み立てる事になるわ。少し付き合ってくれない?」
俺が頷くと、ガネーシャが端末を操作してスクリーンを展開する。
かなり形が変わってきたな。先ずは緒言を聞いてみよう。
「よろしいですか? これが全体像になります。全長250m、横幅60m、地上高は50mです。下部のゴンドラに200tコンテナが6台収納可能。操船は先端下部に設けた艦橋で行ないます……」
反重力発生装置は5台設置される。その動力炉は地底湖の眠っていた脱出艇の動力炉、ブラックホールエンジンの簡易版だ。
2基設置されているのは万が一に備えてだろう。緊急停止させても、予備があれば問題ない。
武装は左右に伸びた胴体に付いている砲塔だ。2連装に見えるが、50mm滑腔砲と88mm長砲身砲だ。
船体内の大型カーゴ区域に戦機と獣機、それにゼロが格納される。その総数は30機を越える。
飛行船の移動は、船体の後部にある2重反転式のプロペラを使用するみたいだ。プロペラの直径だけでも6mもあるのが3セットも付いている。
「……操船系統は全て2重化してあります。戦機の出し入れは簡易エレベーターを6基使用することにしました」
「問題は無いんじゃないか? 少なくとも俺にはそう思えるんだが……」
スクリーンを眺めながら俺がそう言うと、カテリナさんが俺の言葉に頷いた。
「私もそう思うわ。でも、アリスがダメを出したの」
何だと? 一体どこに問題があるんだ?
もう1度良く全体像を眺める。特に問題は無いと思うのだが……。
待てよ、これには2隻の小型艇、ギガントがセットになる。それとの連携の問題だろうか?
だが、それも問題になるとは思えない。となると……。
「アリスは教えてくれたんですか?」
「それが、直ぐに分かるはずだと言うだけで……」
なるほど、やはりって感じだな。
「ダメ出しと言うより、もう1隻作るようにという具申ではありませんか?」
「そうです。どこが問題で予備機を必要とするのかが分からなくて……」
もう1隻を予備機と取ったからだな。
「どこにも問題は無いと思います。そうですね。全体像をもう1度見せてください。
この画像から、武装を外して移動速度を落として、積載するコンテナを5台。カーゴには獣機が10機にゼロを4機にした簡易版を作ればアリスの答えになるでしょうね。アリスはこのラウンドクルーザーが中継点に戻る時間を削減したいんだと思います。コンテナの輸送船を作れば、この船で長期的な活動が出来ると考えたようです」
「アリス。そうなの?」
『マスターの言葉通りです。ラウンドクルーザーの動きは速いのですが、ギガントの動きが追従しきれません。結局はギガントの移動速度に合わせる事になります。それなら同じような船をもう1隻作って補給船とすれば長期活動ができます』
その言葉を聞いて2人が呆れたように俺を見ている。
俺は2人の疑問に答えただけだぞ。
アリスにからかわれたのかな? だけどそれだけ2人の設計が上手く出来てるってことだと思うな。