V-157 ヴィオラパレス?
「いや~、あの島を手に入れられたのは嬉しい限りですよ。ラボを1つ作ってよろしいでしょうか?」
カンザスのリビングでのんびりとくつろいでいたら、いきなり扉が開くとウエリントンさんが入ってきた。
「それはかまいませんが、俺達の保養所にしようと思っています。それとガチンコになりませんか?」
「う~ん、困りましたね。私はあの森をそのままにして欲しかったのですが、貴重種が数種類確認出来ました。開発で彼らの聖域が無くなるのはかわいそうです」
何となく理解出来る話だな。それに、そんな貴重種の研究もしたいんだろう。大きい島だから周辺だけの開発にしても良さそうだ。
「たぶん島の一部を保護区域として入域制限を掛けることは可能だと思います。それは開発業者と調整して貰えませんか? たぶんあのギガントを養殖するためだと言えば彼らも納得すると思いますよ」
「確かに金貨数枚ですからね。かなりの生息数ですよ。概略の生息地域は分かってますから、それを中心に保護区域の設定を図ってみます。年間10匹程度なら、生息数に変化はないと思います」
そう言って部屋を出て行った。あとはウエリントンさんの交渉能力次第だな。だめなら俺から言えばいいか。
それにしても、ちょっとした収入源になりそうだな。
一服しながらにこにこしているところに、ローザとドロシーがやってきた。頭の上に相変わらずギガントが乗っているけど、戦姫に乗るときは誰かに預けておいた方が良いだろうな。
「どうしたのじゃ。イヤに機嫌が良さそうじゃが?」
「ああ、ローザ達のおかげで毎年の収入源が1つ増えたようだ。その頭のギガントだよ」
「これか?」なんて言いながら、ギガントを触っている。
俺にはどこがかわいいのか分からないけど、まだまだ子供だからな。昆虫が好きなのも理解出来るぞ。
「ところで、次ぎの休暇はどうするのじゃ?」
「まだ決めていないけど、フレイヤ達がそろそろ決めるんじゃないかな。ひょっとしたら、またドロシーに決めさせようと考えてるかも知れないぞ!」
ローザの隣にいるドロシーにそう言うと、目をパチクリさせている。
「それなのじゃが、我等は次ぎは別行動じゃ! まだまだドリナムランドを制覇したとは言えぬからのう」
ちびっ子達で出掛けるのか? それもおもしろそうだな。だけどちょっと危険かもしれないから誰かを連れて行って欲しいな。
その辺は、エリーから諭して貰おう。ライムさん達が一緒なら安心なんだけどね。
「それじゃあ」と言ってリビングを出て行ってしまった。
全く行動的だな。俺もあんな時代があったんだろうか? 自分を振り返って考えてしまうぞ。
端末を立ち上げて仮想スクリーンにコンテナターミナルの工事状況を映し出す。
そこにはあらあらの姿が見え出したターミナルの姿があった。
さすがは3カ国の工兵師団の工事は早い。来年には開業出来るんじゃないかな。ターミナルが出来ればいよいよ西の拠点作りが始まる。それが出来るのは早くて3年後になりそうだ。
ローザもお年頃になるな。姉さんと別れても寂しくないとは思うんだけどね。
携帯に着信がある。取り出して相手を確認するとドミニクだった。直ぐにスイッチを入れて交信を始める。
「リオ、ちょっと来てくれないかしら?」
「かまわないけど、どこに行けばいいんだ?」
「パレスよ。ベレッドが完成したと言ってるから、一応皆で確認したいの」
そう言えば、貴族並みの物を作ってやると言ってたな。
拠点にそれらしいものを作っておけば、皆が勝手に想像してくれるという事だろう。それに、一国を持っている以上、来賓をホテルに泊めるのもどうかと思うしね。
端末に送られてきた地図を見ると、どうやらヴィオラ騎士団専用桟橋の北の端に作ったらしい。
待たせると皆が煩そうだから、直ぐに出掛ける事にした。
カンザスを降りて桟橋を歩いて行く。1.2kmの桟橋の中央にカンザスが泊めてあったから、数百mは歩かねばならない。
何時になったらできるか分からないプール用地を越えると、東方向に岩壁を掘りぬいた建物が見えてきた。
建物の正面から10m程が彫刻のように切り出されている。
見た目は、まるで古代の神殿にしか見えないな。
横幅が20mは超えそうな階段を10段上ると、10本近い円柱が屋根を支えるように意匠された玄関口がある。そこには扉が無い。そのまま中に入ると体育館ほどのホールがあった。
正面には横幅5mほどの階段があり2階に続いているように見える。
この左右に彫刻や絵画があれば、何となく貴族の館に見えそうだな。
「こっちよ!」
2階のテラスからフレイヤが手を振っている。階段を上ってフレイヤの後について館の奥へと足を進めた。
「絨毯は商会に頼んであるわ。ちょっとした貴族趣味のインテリアも込みでね」
そんな話を歩きながらしてくれるけど、その代金はどこから出るんだろう? 俺にはアパートでも十分なんだけどな。
「左右に2部屋づつ客室があるわ。一番奥の左右が控え室よ」
長い通路は天井高さだけでも5mはあるぞ。横幅だって3mはある。50mほど奥に1枚板の大きな扉がある。通路の左右にも少し小振りの扉があるが、これが控え室という事だな。
「さあ、入って!」
フレイヤが片手で扉を開く。
その中はカンザスのリビング程の大きさだ。
「この部屋がエントランスになるわ。右に2つ扉があるでしょう。1つがサニタリールームで、もう1つが侍女の控え室や台所があるの。真直ぐ先が公爵のプライベートルーム。左が会議室よ。簡単な食事会はここで行う事が出来るわ」
左側の扉を開くと暖炉と長テーブルがある。椅子の数は20脚もあるな。大きさだけで教室2つ分は優にある。
「さて、いよいよプライベートルームよ」
そう言いながら嬉しそうに扉を開けた。通路が奥に伸びている。
右に等間隔で7つの扉があるが、左には2つの扉だけだ。
「右は私達の部屋よ。左の扉はリオの個室とプライベート会議室になるわ。奥に行くわよ」
通路の置くには前と左右に扉がある。
「右が食堂よ。ここでも調理出来るけど、騎士団の事務所の食堂からカプセル移送出来るわ。左がジャグジーよ。そして、この正面がリビングになるわ」
正面の扉を開けると体育館並みの空間が広がった。
奥はガラス張りだ。地下に窓なんか作る意味が分からんな。そう思って窓の外を眺めると、そこは庭園になっていた。
石庭のようだが、緑もある。観葉植物の中で日照量が少なくても育つ種類を使ってるんだろうな。
落着いた庭は、ワビサビの世界だ。虫の音までが聞こえてくるぞ。
「虫の音は王宮の庭からサンプリングしたそうよ。リオが好きだと、エミーが言ってたわ」
「中々だな。落着くよ」
俺の言葉を聞いて呆れた表情をしている。
フレイヤには、この庭園の良さが分からないのかな?
「今のところは調度品が無いんだけど、次ぎの鉱石探索が終る頃には届く筈よ。私達に任せておきなさい」
「ああ、よろしく頼むよ」
どうせ、俺の趣味は生かされないからな。フレイヤ達の趣味に付き合ってあげれば良いだろう。
そうだ、俺の部屋は俺の好きにさせて貰えるんだろうな?
「俺の部屋は?」
「エミーが担当してくれるそうよ。シンプルに纏めると言っていたわ」
シンプル……。それは比較論だな。エミーの元の部屋は確かに簡素だったな。それなら期待してもだいじょうぶだろう。貴族趣味のキラキラした部屋だけは願い下げだ。
窓際にある古ぼけたソファーに座ると、フレイヤが冷えた缶ビールをどこからか持ってきた。
「中々でしょう。皆自分の部屋のレイアウトをどうするか悩んでいたわ」
「これが居城って事になるんだろうな。この部屋に招く人もいるのかも知れない。だけど殺風景な感じも俺は好きだな」
「そうも言っていられないわ。あくまでブラフに近い形だけど、それなりの形にしておくことが必要よ。私達はラウンドクルーザーの部屋で十分なんだけどね」
地位は形にしなければならないという事だろうか?
だけど俺には無駄遣いにしか見えないんだよな。
それに、俺達の行動を考えると、このパレスを利用する機会は少ないんじゃないかな。鉱石探索が仕事だし、長期休暇は殆どツアーに出掛けてるからな。
「そういえば、今度のツアーはどうするの? ローザ達はドリナムランドの完全制覇を目論んでるから俺達と一緒に行けないと言ってたぞ」
「ドミニクやクリス達は昔の友人と過ごすらしいわよ。残りは私とリオそれにエミーになるわ」
3人ならいろんなツアーがあるんじゃないかな。当然、選択はフレイヤに期待しておこう。
「他の人達の動向も気になるところよね。まあ、私に任せておいて!」
そう言って俺を立たせると、ジャグジーに向かって歩き始めた。
部屋の扉を開けると、パウダールームがある。脱衣場を兼ねているようだな。
服を脱ぐとフレイヤを抱き上げジャグジーに向かう。
大きなガラスドアが自動的に開くと階段が下に向かって続いている。10段ほどの階段を降りると直径3mほどの円形のジャグジーがあった。カンザスよりも一回り大きく思える。
スープ皿のようなジャグジーに入るとお湯が入ってくる。
周囲はガラス張りでリビングから眺めた石庭がま近に見える。丁度、斜め下にあるから、リビングからはジャグジールームは見えないみたいだな。
「広いでしょう。やはりこの位は欲しいわ」
「まあ、庭が見えるのが良いね。でも、そっちは?」
「あれはカテリナさんのリクエストで大型スクリーンよ。音声入力らしいけど、ジャグジーに浸かりながら設計をしたいと言ってたわ」
まあ、カテリナさんだからねぇ……。何となく納得してしまうのが怖いな。
たまには2人でこうしてのんびりと過ごしたいな。
1時間程でジャグジーを出ると、2人でカンザスに買える事にした。姿は見えなかったけど、ドミニク達も来ていたらしい。自分の部屋のコーディネートで忙しいんだろうな。だけど、閑散とした空間に調度品が運ばれたら、ちょっと心安らぐ空間とは言えなくなりそうだ。必要悪とはこんな物を言うのかもしれない。