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V-156 高緯度地方探索への布石


 隠匿工場の一角で動力炉の試運転を行なおうとしている。

 目の前の一辺が10mほどの立方体を前に、俺とカテリナさんそしてカテリナさんの一味、さらにドロシーが立っていた。


 マイクロブラックホールを利用した動力炉なんてかなり胡散臭いものだし、取外すために一旦動力を停止しているから、既に内部にはブラックホールはなくなっているはずだ。再起動なんて出来るんだろうか?


 「リオ君。アリスはスタンバイしてるのよね」

 「だいじょうぶです。この試験を見守っている筈です」


 そんな俺達の会話にガネーシャさん達はキョロキョロと辺りを見渡している。

 まだ、アリスが戦姫だと分からないみたいだな。カテリナさんも教えてはいないようだ。


 「それじゃあ、ドロシー始めてくれる。アイドリング状態で出力を安定して欲しいわ」

 「了解しました。制御用プログラムは理解しています。起動、5秒前、4……3

……2……1……起動!」


 ドロシーの高い声が工場に響いた途端に、立方体が淡く光り始めた。


 「カテリナ博士。アイドリング状態です」

 「……そう? ガネーシャ、データは取れた?」


 あっけない起動だったな。それと、淡い光を出してるんだが、有害な光じゃないよな?


 『シンクロトロン軸射光が漏れているようです。この光自体は有害ではありません』

 

 アリスの言葉に仮想スクリーンを見ていたカテリナさんが微笑んでいる。ガネーシャ達は周囲を見渡してるぞ。

 

 「意外と簡単みたいね。この大きさで核融合炉10基分の出力が得られそうよ」

 「ですが、一旦マイクロブラックホールは消滅している筈です。そんなに簡単にブラックホールが出来るのですか?」


 「可能なようね。重ロデニウム1tが転化したみたいよ。あの時間でね。これで、動力炉の目途が立ったわ。アリスもありがとう!」


 「もちろん貴方もよ」と言いながらドロシーの頭を撫でている。

 でも、これだとドロシーがカンザスから切り離されてしまう事にならないか?

 再度、カンザスの電脳を整備するんだろうか。だとしたらそっちも同様に進める必要がありそうだぞ。


 『カテリナ博士。この動力炉を簡易化することが可能ではありませんか?』

 「この動力炉の構造をアリスは理解出来るのね。それで、どの程度の出力が得られそうなの?」


 『既存の核融合炉の2倍程度を目の前の大きさに収めることは可能です。起動シーケンスのクロックを100分の1に落として、通常の電脳で制御が出来ることをシュミレーションで確認しました』


 その話を聞いて、ガネーシャさんがますます周囲を気にしだした。


 「待ってください。それが可能なら私に資料を頂けないでしょうか?」


 そう言って、周囲を見渡している。

 そろそろ教えてあげた方がいいのかも知れないぞ。


 「そうね。ガネーシャの試作艦で試してみるのも良いかも知れないわ。アリス、設計情報をラボに送ってくれない?」

 『了解です。……「ゴブリン」のコードネームで転送してあります』


 「博士。私に彼女を紹介してくれませんか? できれば直に合って話が聞きたいです!」

 「そうね。でも前に言ったとおり、貴方も彼女を見たことがあるのよ。でも、直接話は出来ないかも知れないわね。メールを送りなさい。文章で会話を行なうなら、リオ君も許してくれるわ。リオ君が承知しないとアリスは見向きもしないわよ」


 確かにそうだろうけど、それだと俺がアリスをどこかの部屋に閉じ込めているような印象を与えるぞ。俺を見るガネーシャさんの目がちょっときつくなっているんだが……。


 「どうしても合いたいというなら、後でベレッドのところに行ってみれば案内してくれるわ」

 

 そんな事を言うから、ガネーシャさんが走っていったぞ。

 たぶん驚くだろうな。イタズラが成功したようにカテリナさんが微笑んでいる。


 「さて、私はこの動力炉の複製を作るわ。やはり1基では足りないし、冗長性も持たせたいしね」

 「出来るんですか?」


 俺の言葉にカテリナさんは小さく頷いた。

 

 「動力炉を構成するパーツの部材と寸法の根拠を調べたわ。全く同じであればそれ程苦労しないわよ。でも、制御が問題ね。アリス専用の制御システムを設計できる?」

 『可能ですが、人間の知覚速度を制御速度が上回りますよ。それをどのように伝えるかが課題です」


 「人間を無視してかまわないわ。結果が得られれば問題は無いでしょう。入力と結果。それが分かれば、途中の制御はシステムに委ねても問題はないと思うけど?」

 『それなら、可能です。後ほどラボの電脳に転送しておきます』


 そんな会話が終ったところで、動力炉を止める。

 カテリナさんと別れて、ドロシーの手を引いて久しぶりにヴィオラの待機所にやってきた。


 「あら、いらっしゃい。ドロシー、お姉さんの隣が空いてるわよ」


 サンドラが早速ドロシーを自分の隣に坐らせる。シレインもアレクの隣を離れてッドロシーの隣に引っ越してるぞ。アレクが苦笑いしながら俺にグラスを渡してくれた。


 「珍しい取り合わせだな。ほら、グイっといけ!」


 なみなみと注がれたグラスに顔を持っていって一口飲んだ。


 「カテリナさんのお手伝いを言い付かりまして、今終わったところです」

 「今度は何ですか? この間の4本足の獣機は凄かったですね」


 「ナイトと名付けたんだ。3つの王国が早速注文してきたよ。ところで、ベラスコの隣のお嬢さんは?」

 「ジェリルと言います。ベラスコさんとペアを組んでいます」


 ジェリルか……。帰ったらフレイヤ達に教えておこう。

 そんな彼女の自己紹介を相変わらずタバコを咥えてベラスコが微笑んでるぞ。

 

 「ジェリルも話すのは初めてか。コイツがこの騎士団領の当主、リオ公爵様だ。だが、公式の場以外はリオで良い。コイツも騎士の1人だ」

 「スコーピオ戦でリオ様の戦姫を初めて見ました。王族だけが戦姫を操れると言うのは本当なんですね」


 その言葉にベラスコとジェリル以外の連中が笑い出した。


 「コイツは元々王族なんかじゃない。荒野にあの戦姫と一緒にいたのをヴィオラ騎士団が保護したんだ。だが、今では俺達の仲間だ。だからそんなに気を使わなくて良いぞ」


 そうなんですか。と顔に書いてあるな。

 ジェリルにあいそ笑いをすると、アレクの方に顔を向けた。


 「カテリナさん達が新型のラウンドクルーザーの設計を始めました」

 「2年は掛かるか?」


 「斬新過ぎますから、もう少し掛かるかと。アレクさん達が戦機を降りる時が即ち新型の完成になりそうです」

 「ナイトだったな。あれなら文句ない。安心して次ぎの世代に戦鬼を譲れるよ」


 そう言って、自分のグラスに酒を注ぎ足す。

 ここなら、安心してタバコを楽しめるな。サンドラ達はドロシーを連れて待機所を出て行ったけど、食堂に行くのかな? ここのパフェは有名だからな。


 「高緯度地方への進出ですよね。そうなると、このヴィオラはどうなるんでしょう?」

 「その辺はドミニクが考えてるさ。だが、カンザスにヴィオラが既にあるんだ。3隻目の艦長を探しているのかも知れないな」


 アデルはベラドンナ騎士団を率いてやがて同盟を離れる事になるだろう。既に戦機は3機手に入れている。安心して中緯度の鉱石探索を行なえるだろう。クリスは現状のヴィオラの艦長だ。ガリナム騎士団は解散してヴィオラ騎士団に所属している。

 メイデンさんはガリナムの船首にガトリング砲を装備してご機嫌だし、サンディはバシリスクをメイデンさん並みに過激に運用しているようだ。

 皆、自分の艦を気に入っているみたいだから、やはり艦長が足りないな。


 「クリス並みなら良いんですが、メイデンさんのような艦長だと……」

 「ハハハ、心配するな。メイデンは過激だがそれなりに信頼できる。乗りたいとは思わんが誰も悪く言う奴はいない。それだけ艦長としての実力を皆はかっているんだ」


 確かに、乗りたいとは思わないな。

 

 「誰が艦長になっても俺は高緯度地方に出るつもりだ。誰も成功していない。ならば俺達が先駆者になっても良いと思ってる」

 

 タバコに火を点けると美味そうに煙らせている。

 母親も中継点に来年には来る事になるだろうし、少しは自分の将来を考え始めたという事だろうか? それならフレイヤ達も安心するんだろうけどね。

 だけど、冒険心を忘れないのは良い事だと思う。それがあるからサンドラ達もアレクに付いてくるんだろう。


 「騎士団を2つに分けるなんてことになりませんよね。結構気に入っていますから、このままずっと皆と一緒にいたいです」

 「それはだいじょうぶだ。だが、2つの騎士団に分かれるのではなく、2つに分かれて行動する事はありうるぞ。現状のラウンドクルーザーは高緯度地方では問題がある。ならば、高緯度すれすれの場所で採掘するグループと高緯度地方に出掛けるグループに分かれて活動することは十分に考えられる」


 ベラスコの疑問にアレクが答えている。あれだけ飲んでも酔わないんだからたいしたものだ。

 そんな話をしていると、ドロシー達が帰ってきた。

 俺は、アレクに別れを告げると、ドロシーを連れてカンザスに引き上げる事にした。ここに何時までもいると、どれだけ酒を飲まされるか分かったものじゃないからな。


 カンザスのリビングに戻ると、心配そうに待っていたローザにドロシーを返して、ソファーに座り込む。

 フレイヤ達がドロシーに起動試験の様子を聞いているぞ。

 タバコに火を点けた俺にライムさんがマグカップでコーヒーを出してくれた。

 やはり、酒よりもこっちが良いよな。

 

 「何とかなりそうなの?」

 

 ドミニクの質問は、宇宙船の方なのか、それとも高緯度地方用のラウンドクルーザーなのか分からないぞ。

 だが、宇宙船は遙か将来の話だ。たぶんツエッペリンの方だろう。


 「動力炉の開発に目途が立ったようだ。アレクが新しい艦長を心配してたよ」

 「さすがね。探してはいるんだけど、まだ見付からないのよ。それで何時頃出来そうなの?」


 早くて3年と答えると、溜息をついている。でも、3年あれば良い艦長が見付かるんじゃないかな。

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