V-155 コンペの結果
オオトカゲは、大人5人とちびっ子4人が協力して何とかしとめることができた。
と一言で言えば簡単だが、その実はかなりハードな狩りだったぞ。
リンダ達の小型拳銃では歯が立たず、俺達が持つ9mm弾も威力不足。槍を投げれば跳ね返されるような硬い革の持ち主だ。
まるでトカゲというよりはワニの表皮のような感じだったが、逃げ場を失って向かってきた奴の口に俺の投げた槍が上手く刺さったのが致命傷になったようだな。
ローザが奴の目に拳銃弾を打ち込んでとどめをさした。
終ったところで全員が溜息を漏らしたぐらいだから、その手強さが分かると言うものだ。
意気揚々と捕らえたオオトカゲを丸太に縛り付けて俺達が交替で担ぎながらボートに戻って今夜のバーベキュー会場に運び込んだ。
カンザスのシェフが驚いてたけど、直ぐに大きな包丁を運ばせて解体を始めたところをみると、やはり食べられるみたいだな。
あちこちに散って遊んでいた連中が、再び集まってビールを飲みながらバーベキューを楽しむ。
こんな集いが俺達の結束を確かなものにするんだろうな。
アレクの隣で酒を飲みながらそんな事を考えた。
あくる日は、エミーやフレイヤ達と真珠貝を探し、その次ぎの日にはベラスコと魚を追い回す。
のんびりしている暇が無いのが俺としては問題なのだが、皆楽しそうだ。
そんな日が10日続いて、俺達は拠点へと買える事になった。
「これは、持ち帰ってもだいじょうぶじゃろうか?」
リビングのソファーで出発を待っていた俺達にローザ達が確認しにきた。
ローザ達を見ると、頭の上に大きなカブトムシが乗っている。どこで捕まえたんだろう? そういえば、ドロシーが虫取り網を持っていたな。あれで捕まえたのか?
「ギガントね。だいじょうぶよ。帰ったら、ウエリントンに育て方を教えて貰うといいわ」
カテリナさんの言葉に、ローザ達は笑みを浮かべて部屋を出て行った。
「だいじょうぶなんですか? それにドロシーが生物を飼うのも……」
「情操教育には、生き物を育てるのも役立つわ。それに、あの甲虫は貴重種よ。王族が飼うには丁度いいわ」
それなら余計にダメじゃないか。だけど、周りの連中はそう思ってはいないようだ。
ローザ達に簡単に捕まるようでは、あの島にかなり生息してるってことなんだろうけどね。
「後で生息状況を調べた方がいいかも知れないわね。ローザ達が手に入れたのを知れば、直ぐに買いたいと言ってくる連中が出てくるわ」
「商売になるんですか?」
「あの大きさなら、金貨数枚ぐらいになるでしょうね」
カテリナさんの言葉に俺達は顔を見合わせた。そんなに高いカブト虫だったとは思いも寄らなかったぞ。
「ウエリントン博士に相談してみます」
「数匹の捕獲許可を与えれば喜んで協力してくれる筈よ。いいわ、私が交渉してあげる」
たぶん、ローザ達を連れてウエリントンさんの所に行くんだろうな。博士の驚く顔が目に浮かぶぞ。だけど、上手く運べばこれも俺達の国の新たな産業になりそうだ。
『カブト虫あります。値段は時価!』
そんな看板を出してみようかな。
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中継点に到着すると、次ぎの日から鉱石採掘の旅が始まる。何と言っても本業だからな。怠けるわけにはいかない。
7日間で200tコンテナ8台に鉱石を採掘して帰る途中に、ちょっと閃いた。
例のコンペの探査専用ラウンドクルーザーの形状についてだ。
リビングにはエミーがいるだけだから、邪魔はされないだろう。早速、アリスに連絡を取る。
「例の地上用の艦体だが、ギガントをモデルにできないか?」
『ドロシーの頭にいる甲虫ですね。3体節に空を飛ぶ翅それに6本足ですか……』
端末が自動的に立ち上がり俺の前に仮想スクリーンが展開する。ギガントがモデリングされ、鉱石探査に必要な機器と動力炉、走行装置等が、組み込まれていく。それによって大きさを決めているようだ。
「アリス。少し仕様を変えたい。ツエッペリンからの遠隔操作と一時的な飛行を可能にして退避を考えたい。武装は40mm滑腔砲が2門」
『無人化するなら、かなりコンパクトにできますよ。仕様変更了解しました』
スクリーンに次々と画像が浮かんでは消えていく。かなり難しいのだろうか?
「何を始めたのですか? 大型の甲虫を使った領内警護システムでしょうか?」
「それも考えられるな。だけど、これは高緯度地方の鉱石採掘用に考えてるラウンドクルーザーなんだ。カテリナさんのラボの連中と開発を競ってるんだよ。そろそろカテリナさんに報告しなくちゃならないんだけど、なかなかいいのができなくてね」
そんな弁解をする俺に、エミーがコーヒーを入れてくれた。
エミーにはどうでもいいような話なんだろうな。だけど、新たな風景を見ることが出来るのは歓迎するってところだろう。
タバコを1本吸い終わった頃に、スクリーンの画像が停止する。
そこに描かれていたのは、どう見てもギガントそのものだ。ただし、大きさは全長が50m程もある。
『概念設計まで終了しています。胴体下部に多脚式走行装置を持っていますが、6本の足が大きいですからあまり目立ちません。20m以内であれば6本の足を使って崖を上る事が可能です。超壕能力は25m以内。最大時速60km、鉱石の探索時は時速30km以内。一時的な飛行距離は約5kmになります』
「製造コストは?」
『タナトス級並みと試算しました。これは王都の工廟を使用した場合ですから、隠匿工場で製作するならば70%程度にコストダウンがはかれます』
「ありがとう。先のツエッペリンと一緒にデモ用のCGを作ってくれないか。そろそろコンペが始まりそうだ」
『了解です』
これなら問題ない。とはいえガネーシャさんの船はどんなんだろうな。前が蛇だからな。俺のゲジゲジよりは良かったと思うし、ちょっと気にはなるな。
「変わった形ですね。ギガントですか?」
「ローザの持ってたカブト虫を参考にしたんだ。前のゲジゲジよりはすっきりしてるだろう?」
「例の高緯度地方の探索ですね。まだ成功した騎士団がいないとカテリナ博士から聞いたことがあります」
「中緯度と同じように考えては問題があり過ぎる。出現する巨獣はあまり知られていないようだし、探索する土地も緩やかな斜面なんだ。となれば、当然ラウンドクルーザーの形も変わる必要がある」
俺の言葉を感心して聞いているけど、エミーの操るムサシには期待しているぞ。
そんな会話をしながら中継点に戻ってきた。
3日ほど休憩して、再び鉱石を探す。
これが俺達の本来の姿だからな。中継点があるから、王都を利用していた時代よりも収入が遥かに増えているという事だが、騎士団員の数も増えているから必ずしも給料の増加には結びつかないみたいだ。
そんな中関係者を集めたコンペの発表会を行なった。
さすがカテリナさんの薫陶を受けた連中の提案したラウンドクルーザーは凄い。形がトリケラとは思い切った姿だな。
ガネーシャさんが得意げに概要を伝えてくれるのだが、それを見ているドミニクやアレク達はポカンと口を開けて聞いているぞ。
「なるほど、考えたわね。これも将来的には販売が出来ると思うわ。課題は最大時速が40kmとなるところね。バージを放棄することも考えにはあるんでしょうけど……。次ぎは、リオ君の番よ!」
会議室の壇上に上がると、大型スクリーンにアリスがCGを映し始める。今度はカテリナさんまでポカンと口を開けてしまったぞ。
「……という事で、俺の考えたラウンドクルーザーの概要説明を終えます」
「どこがラウンドクルーザーなの! これって殆ど上空に浮かんでいる事になるじゃない!」
「ラウンドクルーザーが地面に足を付いていなければならないという制約はない筈だ。地上での鉱石探索はギガントが行い、採掘はツエッペリンが降下して新型獣機を下ろして行なう。コンテナはゴンドラに収納している200tコンテナ6台だ」
「正に発想の転換ね。いいわ。これでいきましょう。概念設計はアリスが終えているのよね。ガネーシャこの設計を引継いで完成させなさい」
「私でよろしいのですか?」
「トリケラですら現在の常識を超えているわ。貴方なら、リオ君の考えた高緯度地方の探索船を完成させることができるわ」
カテリナさんの言葉にガネーシャさんが感極まってハンカチで涙を拭いているけど、カテリナさんは自分が作るのが面倒なだけじゃないのかな?
それとも、宇宙船の開発で手一杯と言うところなんだろうか? だとすれば、しばらくは俺達の邪魔はしないだろう。
そんなコンペの発表が終って、カンザスのリビングでくつろいでいるとカテリナさんが小さな箱を持ってやってきた。
「やはり、リオ君の発想は素晴らしいわ。これが約束のものよ」
受け取った小箱の中に入っていたものは、腕時計?
「ガネーシャとはお揃いになるけど、機にしないで良いわよ。通信機能をたかめてあるから、アリスを経由しないでも携帯と通信が出来るわ」
何となく、俺には無用のようにも思えるが、貰える物は貰っておこう。
「ありがとうございます。ところで、例のカブト虫はどうなったんですか?」
「早速、出かけたみたい。ドロシーの頭を見たとたんに飛び上がって騒いでたわ。数匹と引換えに、島の生物相を調査してくるとラボの連中を率いて出掛けたわ。一月は帰ってこないと思うわよ」
生物学者って言ってたからな。やはり貴重種の呪縛は凄いということだろうか?
「それで、彼のいう事では飼い方は難しくないそうよ。ドロシー達のマスコットになりそうね」
話を聞いてみると、昆虫ではあるのだが、知性があるのだそうだ。飼い主を見極めるし、簡単な言い付けを理解出来ると教えてくれた。
なら、ローザ達も満足だろうな。子犬を飼うよりも安心できる。
「それで、リオ君にお願いなんだけど、例の動力炉の起動試験を行ないたいのよ。明日、アリスを貸してくれないかしら?」
「アリス、だいじょうぶかな?」
『問題ありません。ですが、起動制御はドロシーに任せてください。私はバックアップします』
「了解よ。ドロシーには、ぬいぐるみで協力を取り付けてあるわ」
あまり甘やかすと、カンザスの運用に報酬を要求してくるかもしれないぞ。
だけど、見かけが幼女だからかな。皆、色々と与えて手なずけているような気がする。