V-153 商談
商談の落としどころは、この島の施設の維持と従業員の給料というところで良いだろう。
ネコ族のお姉さんが運んでくれたグラスを手に取り、1口飲んでみると少しアルコールがきつい。まあ、商談には丁度良いか……。
「大きな島ですし、保養施設の客室が100室と聞いています。出来れば私達の方で、もう少し簡易な宿泊施設を作りたいと思っています……」
規模は同じ位の部屋数を確保したいらしい。2つの宿泊施設を使えば200家族はこの島に滞在できる。
「150室を私共に使わせてください。この保養所の半分の部屋になります。50室はヴィオラ騎士団専用としてキープします。10日前に利用が無ければ私共で、キャンセル待ちの人達に提供したいと思います」
2つの保養所をフルに使うつもりのようだ。だけど、それだけの集客効果があるのかな?
「あまり景観を変えないようにお願いする。桟橋はちゃんとした物を作った方がいいだろうな」
「それでは、我々にこの島のリゾート開発を任せて頂けると?」
「こちらこそお願いしたい。細かな契約内容はこちらのマリアンと詰めて欲しい。こちらから望むのは、施設の維持と従業員の雇用だ」
「分かっております。利用料に着きましては十分納得出来る額を提示させていただきます」
後は、マリアンに任せよう。
俺は、マリアンの最中を軽く叩いて交渉を引継ぐ。
すると、バッグから小さな端末を取り出して具体的な商談に入っていく。
相手方と話しながらスクリーンの数字が変わっているから、ドロシーがバックアップしてるのかな?
ドロシーはローザ達と狩りに向かったけどだいじょうぶかな? ちょっと心配になってきたぞ。
マリアン達は、互いに端末を使って表計算をしているみたいだな。
それでも、30分も経たずに互いに握手を交わしたぞ。
「大枠は,これで良いでしょう。但し、新規施設等をこの島に設置する際は事前審議を要するという事は納得いただけましたか?」
「計画段階で説明いたします。では、アトラクション用に島の川とジャングルを使わせて頂くことも了承していただけますね?」
まだ少し残ってるのか? 再度話し合いを始めたぞ。
「後は、小さなことばかりね。今日、決められ無かった事項は後日協議として纏めたらどうかしら。基本的な事項は合意が出来てるんでしょう?」
カテリナさんの言葉に商談中の皆が渋々頷いている。
このまま進むとどれだけ時間が掛かるか分かったものじゃない。基本契約を交わして詳細は別途でも問題は無いだろう。俺達としてはこの島の維持管理で十分なくらいだ。
「ところで、この島の警備はどのように?」
「いちおう、ギルドに声を掛けているわ。この保養所に拠点を置くでしょうから、うまくやってちょうだい」
ギルドって、トリスタンさんのところから人を出して貰うのだろうか?
カテリナさんが直ぐに返答してるところをみると、既に裏取引が終了してるんだろうな。
「それでは、3日後に再度打ち合わせるという事で、基本合意が出来ましたので、互いに細目を明日の夕刻に交換しましょう。それを元に3日後に打ち合わせて契約を結びたいものです」
「よろしく」
簡単に挨拶をして彼らが退室するのを見送った。
「どう? なんとかできそうかい」
「休暇中の数人をここに呼びます。それで何とかですね」
俺の言葉にマリアンが頭を傾げながら答えてくれた。
フレイヤ達にはちょっと無理がありそうだからな。申し訳ないが中継点の事務方には頑張って貰わねばなるまい。
「それでも、この島を手に入れられたのは嬉しい限りです。安上がりなリゾート暮らしを経験できますからね。最終的には国民への解放でよろしいですね」
「ああ、そうだね。上手く計画してくれよ」
咄嗟に言いつくろったものの、その考えは無かったな。確かにヴィオラ騎士団専用ではなく、ヴィオラ騎士団領の国民全体で利用出来るようにすべきだ。
静かなリゾートも一部作ってくれれば良い。後は皆で楽しむ島にしてもらえれば言う事は無いな。
マリアンと分かれて俺達はカンザスへと帰ってきた。
リビングのソファーに座るとカテリナさんがコーヒーを入れてくれた。何となく気になる展開だが、今日はガネーシャを連れて来てるからいつものようにはならないだろう。
「ガネーシャは知っているわね。彼女に高緯度用ラウンドクルーザーを設計して貰おうと思っているの。一月ほど前に彼女に伝えたんだけど、結構迷っているもたいなのよ。リオ君も考えているんでしょう?」
なるほど、概念を1つにしたいという事だな。悩むよりも相談するのは良いことだしね。
「俺も少し考えてみたんですが、ちょっと見た目がね……。アリス、この間のスケッチを出せるか?」
『端末のスクリーンを展開します。少しアレンジしてみましたが、やはり問題がありますね』
端末が自動的に立ち上がり仮想スクリーンが展開するのをガネーシャがポカンと口を開けてみている。
「前に言ったでしょう。リオ君のお友達がバックアップしてくれてるの」
「アリスと言っていましたね。私はまだそのお嬢さんを見ていませんが?」
「見たはずよ。凄く美人だから知ってる人は多いんだけどね」
カテリナさんの話を聞いて首を傾げているけど、アリスを戦姫だとは思っていないみたいだな。
確かにアリスは戦姫の形態を取っているだけで、本当は別な存在なんじゃないかと思うときもあるけどね。それに、アリスだってフレイヤ達と同じ存在だと思われて悪い気はしないだろう。
『これが、前にマスターが描いたラウンドクルーザーです。少し、力学計算にあわせるために修正しましたが、私にも良い出来とは思えません』
スクリーンに展開した画像を見て2人が溜息を漏らす。
「これではねぇ……」
「ナイトを考えた人物の作品とは……」
かなりな言われようだけど、団子虫とゲジゲジだからな。
「それなりに考えたつもりなんですけどさすがにこれではね。現在検討中です」
「考え方は理解出来るわ。でも、美しさも必要よ」
それは理解出来る。だが、ランドクルーザーの美はどこにあるのだろうか? 先ずはその辺りから考えていかねばなるまい。
「私が考えたのは……」
そう言って、ガネーシャがスクリーンに投影したのは、……蛇?
「多関節構造と多脚走行装置を使うところは同じです。ですが、足を長くする変わりに関節を多くしました。……これも、あまり好評は得られませんでした」
美的センスは同じぐらいありそうだ。となると、全く新しい艦体を作らねば見た目が悪いものになりそうだな。
「どう?」
「どう? と言われても、今考えられる事は既存に捕らわれずに艦体を考えるべきだと思いますけど……」
俺の話を聞いて面白そうにカテリナさんがタバコに火を点けた。
「リオ君ならそうなるわね。ガネーシャ、それが答えよ。既存の枠に捕らわれているようではまだまだ科学者としては半人前よ。固定観念を持ったらお終いと思いなさい。常に世界は変わってゆくの」
「でも、ラウンドクルーザーは、1千年以上前に完成されています。改修はありますけれど基本は変化していません!」
「でも、今のラウンドクルーザーは、荒地の鉱石採掘を前提に考えれれたものよ。斜度のある土地で、尚且つ深い谷があるような場所で鉱石を採掘する事を考えれば、既存のラウンドクルーザーの限界がやはり見えてくるわ」
要するに既存の考えに囚われるなという事か? 確かにそうだな。高緯度地方の採掘に要求される用件をもう1度整理して考えてみるか。
「ガネーシャ達とリオ君でコンペをしたら? そうね。商品は私が出してあげるわ。期間は10日間。この島で遊びながらゆっくりと考えれば良いでしょう?」
商品はいらないから干渉しないで欲しいと思うのは俺だけだろうか?
まあ、何にも無いよりはやる気が出るな。
2人が帰ったところで、アリスと高緯度地方での採掘用件を1つ1つ確認していく。
結構、色々あるな。未確認の大型巨獣にどう対処するか。集めた鉱石の運搬をどうするか……。必ずしもゲジゲジや蛇型では対処しきれるとは思えないな。
いっそ、空を飛んでいくか?
ん?? 空を飛ぶ? 地上を離れるってことだよな……。
「アリス。ヴィオラの巨体を硬式気球と反重力装置の併用で浮かせる事は出来るか? 出来る場合はどんな形態になりそうだ?」
マグカップにコーヒーを注いで戻ってきても、まだスクリーンに画像は現れない。一服しながら待っていると、スクリーンに画像が映し出された。
『これが、完成予想図になります。収納コンテナは200t標準型を6台。搭載する戦機は6機、獣機は16機になります。全長250m、最大部は直径60m。重量3万トン。飛行速度最大時速150km。航続距離3万km。上空へ離脱出来ますから武器は装備しておりません』
ツエッペリン型の硬式飛行船そのままだな。
これは美しいと言えるだろう。これを元にアリスと考えていくか。
携帯の時計を見ると16時前だ。そろそろ海岸でバーベキューが始まるころだな。
「アリス。ナイトとゼロの搭載が可能か検討してくれないか? それにゼロの大型化あ可能だろうか? 出来れば60mm滑腔砲も考えておきたい。高緯度では何が出てくるか分からないからね」
『了解です。ガネーシャ達の様子も偵察しておきますね』
そこまで必要はないと思うけど、アリスが気になるのかな?
その辺りは任せておいて、バーベキューの会場に向う事にした。靴は止めてサンダルに履き替えると、カンザスを出て浜辺を歩いて行く。
直ぐに会場が分かったぞ。簡単なテントと大きな焚き火、それにバーベキューのコンロがいくつも横に伸びている。
早速炭火に乗っているものがあるのを見ると、大漁だったのかな? さぞかしライムさん達が喜んでいるだろうな。
「リオ! こっちだ!!」
大声で手を振りながら俺を呼んでいるのはアレク達だな。
片手を上げて了承を伝えると、砂浜を走っていった。
大きなコンロの金網の上に、沢山の魚や貝、それに海老が乗っている。アレクとベラスコが忙しそうにトングで獲物をひっくり返している。
先に来ていたエミーの隣に座ると、直ぐに缶ビールが渡された。
先ずは一杯飲んでおけってことか? 冷たい缶ビールを飲み干すと、アレクとベラスコの自慢話が始まった。