V-152 頂いた島に行ってみよう
3王国から独立と言っても、体制が整わないのはどうしようもない。
一応、一年後に独立宣言を出すという事でザクレムさん達が奮闘することになった。貴族社会にはしないようにとの指示を出しておいたからだいじょうぶだろう。かなりの人材を3つの王国から集めるらしい。それに伴い移民も増やすとは言っているのだが、産業基盤が無いから働き口が足りないような気がする。その辺りは商会が2つの整備工場を誘致してくることで何とかしてくれるそうだ。
フレイヤの母親も農場を手放してこの地に移ってくるらしい。
そうなると、西の桟橋工事が途端に忙しくなる。俺とエミーは鉱石採掘から外れて、マリアン達の中継点の改修計画を基に岩盤を削る日々が続いていた。
「だいぶ大きな桟橋になりましたね」
「全体が居住区になるらしい。閉鎖空間だけど公園を作るって言ってたよ。天井に穴を開けて太陽光をガラス繊維で導入するらしい。日光浴ができるとマリアンが喜んでたな」
作業を終えて事務所の食堂で夕食を取る。
賑やかな食堂は、作業を終えた連中で混んでるな。子供の声もするから家族連れの連中も多いようだ。
今の状況では家族単位で料理を作るという事がまだ困難だ。
一括して作り、必要であれば配送することで対応している。それなりに商会がレストラン等を経営しだしたから、食堂の混雑は少しは緩和しているらしいが、何と言っても安くて量が多いからな。普段は食堂に人が流れてしまう。
「新しい居住区には簡単な調理が出来るみたいだ。計画では2千家族が入居できると言っていたけど、場合によっては更に増やさないとね」
「将来は外に建設したいですね」
食事が終り、お茶を頂きながらエミーが呟いた。
それは理想だな。だけど何もしなければ夢で終ってしまう。安全性を考えて作ってみるのも良いかも知れないな。
工兵隊が隠匿桟橋を作るついでに俺達の住居を作ってくれたのだが、生憎と内装工事はこちらで行なわねばならない。
ベレッドじいさんが知り合いのドワーフ達に任せているけど、終るのはもう少し先になりそうだ。
「王宮とはいかぬが、貴族並みの部屋を作ってやるぞ。もっとも見かけだけじゃがな」
そんな事を言っていたけど、貴族並みというのがクセモノだな。
広いリビングと応接室、それに客室ぐらいで、後は普通の部屋って所だろう。たまにやってくるヒルダさん達もいることだし、いつもホテルに泊めるわけにはいかないだろう。
ヴィオラ騎士団専用の居住区に戻って、シャワーを浴びるとエミーと一緒に横になる。
明日も早くに仕事に掛からねばなるまい。
独立に向けてやる事は沢山あるのだ。
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鉱石採掘から戻ってきたカンザスのリビングで、久しぶりの休暇を過ごす。
ヴィオラの定期点検をするらしく、少し長目の休暇を過ごすらしい。ソファーでコーヒーを飲みながらタバコを楽しむ俺を気にもせずに、フレイヤ達が休暇の過ごし方を話し合っている。
俺に聞いてくれないのが寂しい気もするけど、今度はどこに出掛けるつもりなんだ?
「……じゃあ、それで良いわね。まだ、着陸施設は出来ていないようだけど、カンザスなら問題ないわ。保養所は100室あるそうだから、カンザスを使えばヴィオラ騎士団の半数を同行できるわ」
「何も無いんでしょ。色々運ばないといけないわね」
どうやら、頂いたプライベートアイランドに出掛けるみたいだな。
まだ、何もない筈だから今度こそ椰子の木にハンモックを吊って昼寝が出来そうだ。
今度も、通路にまで人が溢れてるぞ。
どれだけ乗ったか分らないが、王都にも高速艇2機で休暇に向かっているはずだ。
中継点の守りはメイデンさん率いる機動艦隊がいるから十分過ぎるだろう。
今回は、王都による事も無く島に直行する。15時間ほどの旅だから、一眠りすれば俺達の島になる。
「今回は海で魚を取りますよ。水中銃も用意しました」
「まあ、期待はしとくぞ。おれはのんびりと釣りを楽しむつもりだ」
ベラスコとアレクは互いに張り合うつもりのようだ。ライムさん達がにこにこしてるのは美味しく頂けるという考えが浮かんでいるに違いない。
「我らは、この島のジャングルを探検するのじゃ! 野生の豚がおるらしい。何とか捕まえて浜で丸焼きを作るのじゃ」
ローザの話に柄を輝かせているのは、戦姫の2人とそのお付の騎士達だ。やはり野生の獣を追うというのは心惹かれるものがあるらしい。
フレイヤ達は前回の真珠に味をしめたらしく、真珠貝を狙うということだ。これなら俺はのんびり昼寝が出来そうだな。
「そうそう! リオにお願いがあるの。明日、クルーザーが届くわ。その船を回航してくる時に旅行代理店の人がくるみたい。リオと話をしたがってたわ」
「この島の利用について話をしたいそうよ。交渉次第ではこの島の運営を任せられるかも!」
昼寝はそれが済んでからだな。10日もあるんだから、1日ぐらいは、がまんしよう。
「マリアンが付き合うわ。でも手を出しちゃダメよ」
これ以上増やしてどうするんだ? 俺はハーレムを作りたいわけじゃないぞ。
「制服じゃなくていいんだよね?」
「サーフパンツにTシャツで十分よ。私達は休養に来てるんだから」
俺だけ休養じゃないような気がするんだけどな。
それに、この場にカテリナさんがいないのも何となく気にはなるぞ。
そんな話をしながら皆はワインを飲んでいる。俺もいつの間にかマグカップからワイングラスに変わっていた。
「後、1時間で島に到着です。皆さん準備は良いですか?」
そんな艦内放送で俺達は目を覚ました。
適当に顔を洗ってテーブルに付くとサンドイッチをコーヒーで頂き、直ぐに各自の部屋に帰って着替えを始めた。
サーフパンツに黒のTシャツを着ると麦藁帽子にサングラスを掛ける。小さなバッグには、拳銃と防水ケースに入ったタバコとライターを入れておく。コインケースも必要だろうな。
そんな感じでリビングに戻ったんだが……。
ローザとドロシーはお揃いのインディアンルックに弓矢を持ってるぞ。後ろのリンダ達も似たような服装だ。その弓矢で野生の豚を狩るつもりなのだろうか? 返り討ちに合いそうな感じがするけど、リンダ達が拳銃を持っているから何とかなるのかな?
ベラスコ達は水着に水中銃を担いでる。足ヒレはまだ履かなくても良さそうだが、ペタペタと歩いている。
アレクは俺と同じような格好だが大きな竿ケースを担いでいるし、サンドラ達はビキニで大きなクーラーを担いでいた。
フレイヤ達は網とバールのようなものを持っている。
皆、直ぐに始めるつもりのようだぞ。
「保養所のロビーにマリアン達がいる筈だから、リオはそっちをお願いね」
「いいけど、それが終ったら適当に暇を潰すよ」
「でも、夕暮れには浜辺に来るのよ。今日はバーベキューだからね」
そんな話をしてると、軽いショックでカンザスが島に降り立った事が分かった。
直ぐに皆が出口に向かう。
そんなに慌てなくても良いと思うけどね。
ライムさん達もいつの間にかビキニ姿だ。足にナイフケースが付けてあるのがちょっとだけど、エミーやローザの護衛だからかな。
俺にコーヒーを出してくれると、2人とも出て行ってしまった。
保養所は数百mも離れていない。コーヒーを飲んでゆっくりと部屋を出たのだが、あれほどいた騎士団員が誰もいなくなってる。先を争って出てったようだ。
南国だから日差しが強い。ローザ達はちゃんと帽子を持って行ったのかな?
保養所は4階建てのホテルのようだ。10人程の従業員が維持管理を行なっていた。
サンダル履きで、保養所のホールに入っていく。何組かの騎士団員がフロントで手続きをしているようだ。
館内をきょろきょろと見渡したが、まだマリアンは来ていないようだ。ロビーのソファーに腰を降ろして、砂浜を見ながら一服を楽しむ。
保養所は浜辺に隣接しているが10m程標高が高いようだ。ロビーから砂浜全体を眺める事が出来る。
100人以上が浜辺や小船で楽しんでるな。フレイヤ達もあの中にいるに違いない。
「お待たせしました!」
マリアンはビキニにTシャツだな。肩から小型の防水ケースを担いでいる。
「ドミニクから言われて来たんだけど、お客は何時ごろ来るの?」
「もうすぐの筈です。ほら、あのクルーザーがそうだと思いますよ」
腕を伸ばした先には確かに2隻のクルーザーがこちらに向かっている。
「大きい方が旅行代理店でしょう。小型の双胴船が私達のクルーザーです。ヨットも購入していますが、まだ製作中のようですね」
そんなお金があったんだな。マリアン達のことだから無駄遣いはしないと思うんだけど、クルーザーって安くはないんじゃないか?
「これ、ありがとうございます。ラズリーも喜んでました。こんな高価なアクセサリーは私達には手が出ませんから」
そう言って髪を少し上げると耳もとに黒真珠のピアスが輝いてる。
似合ってるな。あげた方だって喜んでもらえるなら嬉しい限りだ。
段々クルーザーが近付いてくると、海中からボコンっと桟橋が現れた。浮体を使った桟橋らしい。砂浜から100mほど沖に一直線に浮かんでいる。
「保養所で制御するのだそうです。普段は沈めておくと聞きました」
桟橋の両側にクルーザーが停止すると、数人の男女が下りてきた。そのまま、この保養所にやってくるらしい。
「会議室の準備が出来たにゃ。案内するにゃ」
ネコ族の娘さんの後に付いて会議室に移動する。教室より2回りほど広い部屋だ。20人程の会議が行なえるようだが、今日は小さくまとめられているから10人程がすわれるようになっている。
上座に坐って、タバコを楽しんでいると、数人の男女が入ってくる。最後に入ってきたのはカテリナさんと確かガネーシャさんだな。女性が全員ビキニだけど男性はサーフパンツ姿だから俺の服装もこれで良かったに違いない。
軽く互いの紹介をすると、早速商談が始まる。
「カテリナ博士の紹介が得られたので私共がやってきました。元プライベートアイランドであれば来客効果は極めて高いものとなります。毎日の来島者数を限定する形で運用を我々に任せて頂きたいのですが……」
アレクと同い歳に見える青年が俺達に告げた。
限定という事に意義はない。だが、それで採算が取れるのか?
「俺達の領土は北の果てにあります。たまにこのような地でのんびりと休暇を過ごしたい事は確かです。それを加味した限定利用という事なら、商談を進めましょう」
俺の言葉に相手方がホッとした表情になる。
これからが大変なんだけど、マリアンの手腕に任せようかな。