V-151 独立するのは大変だ
休暇を終えて中継点に戻ったところで、事務所に連中を会議室に呼んだ。
やってきたのは、代官職であるザクレムさんにマリアンとラズリー達と治安部隊を預かるガレオンさん、それに商会の代表者だ。7つの商会が順番に幹事を出しているらしい。
ヴィオラ側は俺とエミーにドミニクとカテリナさんが席に着く。
「中継点の経営は順調です。新たな工事区画も将来を考えれば十分な投資効果を得るでしょう。今回はどのような計画なのでしょうか?」
代表者らしくザクレムさんが俺達に聞いてくる。
「新たな中継点の概念を3カ国の国王に売りに行きました。10年も経たないでこの中継点と南の中継点の中間から西に3千km程の場所にコンテナターミナルが出来ます。更にその西2千kmほどのところに新たな中継点が出来るでしょう」
俺の言葉に、驚いたのは商会の代表者だ。
直ぐに立ち上がってその理由を聞いてきた。
「コンテナを使った物流の促進は皆さんも理解しているでしょう。そのコンテナの集約を行なう基地を作ります。利用するのは商会の皆さんでしょう。騎士団は殆ど立ち寄らない筈です」
「そうなりますと、実際に騎士団が利用する中継点は、新たな1箇所になるのですか?」
「これで、大陸の低緯度地方、中緯度地方、それに高緯度近くの採掘に弾みが付くでしょう。新たなターミナルと中継点は3カ国の機動艦隊が防衛する手筈になっています。その時には、ローザ達も新たな中継点で待機する事になると思います」
王国が運営すると聞いて、皆が少し驚いている。
王国から見れば新たな領地の開発になるだろうから、かなりの資金が投入される筈だ。
「そうなると、この中継点の拡張が意味を持たなくなる恐れが出てきます」
「その心配はないと思う。ターミナルはあくまで物流優先だ。それに新たな中継点は大きくする事は無い。騎士団のラウンドクルーザーの点検修理は俺達の中継点が利用されるだろう。王都まではかなりの距離がある」
「なるほど……。今までとは違った仕事も増えそうですな。しかし、それならこれだけの関係者を集める必要も無かったと思いますが?」
運ばれてきたコーヒーが皆に渡るのを待って口を付ける。
カップをテーブルに戻すと、バッグからタバコを取り出して火を点けた。
「物流システムの概念と新たな中継点の概念図を3カ国に提供した見返りに皆を集めた理由になる。ヴィオラ騎士団領は独立国家として認定された。この大陸の4つ目の国家だ!」
今度は目を見開いているぞ。あまりの驚きに声も出ないようだな。
しばらく唖然として身動きすらしなかったが、コーヒーを飲み込んで頭を切り替え始めた。
「あまり驚くと声が出ないと聞いた事がありますが正しくその通りですな。では、この中継点は王国の認知する所領ではなく、王国と対等の国家という事ですか?」
「そうなる。とは言え、俺達は独立国家としての運営には全く自信が無い。そこで皆に協力して欲しいのだ。法律、課税、民生、軍事……。あまりにやる事が多くてさっぱり手に負えん」
「今まで通りとはいかないかも知れませんが、協力をお願いします」
珍しくドミニクが頭を下げる。
「これは、おもしろくなってきましたな。基本的なところは王国を踏襲すれば良いでしょう。後は、国民が問題です。場合によっては二重国籍になるでしょうが、その辺りは良く考えないといけません。パスポートの発行も必要ですな」
「各国との交易は税が問題になるでしょうな。その辺りは我々で調査しましょう。2重課税が起こらないようにしても採掘の売上税は今よりも増えますぞ」
「たぶん人材が足りないと思います。その辺りは縁故で集めてください。将来的には中継点の人材で対応したいのですが……」
俺の言葉に皆が頷いている。それなりに当てはあるのかな?
「問題は軍備だ。少なくともこの中継点に王国並みの軍事力は持つ事が出来ないぞ」
「新型獣機で防衛部隊を作ります。20機あれば中型クラスならば対応できます。それにアリスとムサシがいるのであれば、この地を侵略する王国が現れる事は無いでしょう」
それに機動艦隊もあるのだ。メイデンさんを指揮官にすれば問題は無いだろう。
「今までは、3つの王国の庇護を受けていたようなものです。ですが独立国家となれば、あまり援助は期待できません。短期、中期の目標を立てて課題を見つけてください」
「それが必要ですね。各自の現在の仕事を勘案して1年と5年で目標それに付随する課題を探ってください。可能であれば他の仕事も考えてください」
ザクレムさんの言葉に皆が頷いている。これで、具体的な課題が見えてくるに違いない。
「とは言え、先ずは国民を増やさねばなりません。居住区域を整備して移民を募るのは早めに実施しても良いと思いますが?」
「ザクレムさんに一任するよ。でも、何かに秀でた人材を集めて欲しいな。その辺の審査はキチンと行なって欲しい」
「そうなると、ウエリントン王国の事務所って大使館になるの? そっちの体制も考えないといけないわね」
「その逆も考えられるわ。3つの王国が大使館を作ることになるかも知れないわよ。新たな桟橋で対応できるかしら?」
「そうですな、新たな桟橋に纏めて作れば良いでしょう。我等の事務所の一部も移転したいと思います。空いた区画は新たに商会の参入場所とすれば他の商会からの横槍を少しはかわせますからな」
桟橋ごとに行政、商業、工業、居住区画となるってことか? 横幅200m以上、高さは40mあるし、奥行きは1kmを超える。確かに巨大な構築物だ。地上だけでなく、地下を考えれば1つの桟橋が1つの町に相当するんじゃないかな。
「区画の整理と将来計画については商会の方に任せます。工場区画もありますから全体を見てくださいね。できれば居住区画は早めに対応してください」
ドミニクの言葉に、商会の代表は頷いている。
「まだ、場所は確定していませんが、ウエリントン王国がプライベートアイランドを1つ譲渡してくれるそうです。保養所の建設と高速艇を1機の譲渡を他の2つの王国が約束してくれました。この領土は過酷な土地ですから、国民の誰もがたまに無償で休暇を過ごせるような仕組みも考えてください」
「ヴィオラ騎士団領の飛地という事ですな。その運営は我等商会にお任せ下さい。元ウエリントン王国のプライベートアイランドであれば、それだけで集客効果を得られます。保養所の利用の一部を一般に開放すれば、国民の利用料金を格安にすることも可能でしょう」
タダにはならないという事かな。まあ、格安で行けるなら十分利用してくれるだろう。
「概略は理解したつもりです。ですが、独立国家ですか……。これは、私も頑張らないといけませんね。後は我等で会合を開きながら計画を進めていきます。リオ公爵には一月ごとに状況を報告しましょう。途中経過については、マリアンに会合の議事録を作って貰いますから、トトの電脳を参照してください」
どうやら、これで会議は終了だな。
俺達は立ち上がって全員に頭を下げると、彼らが慌てて席を立って頭を下げる。
そのまま、会議室を俺達は出たのだが、来客達は誰も出ようとしない。この後、激論が交わされるんだろうな。
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カンザスのリビングでのんびりコーヒーを飲む。
ザクレムさんは優秀だから、国家経営は任せてもだいじょうぶだろう。後でヒルダさんに相談して彼の立場を決めて貰えばいい。
「ウエリントンの農園を止めて、こっちに来て貰おうかしら?」
フレイヤの実家は農園だったな。それも多品種の農園だったし、家禽まで飼っていた。
「アレクと相談して欲しいな。俺もその方がありがたい。温室を更に増やそうとしてるみたいだから、世話をする人が足りないみたいなんだ」
だが、個人財産とはならないだろうな。何家族かで経営を行って貰うことになるだろう。それと、譲渡してくれると言うプライベートアイランドも気になる存在だ。大きければそこにも農園が作れるんじゃないかな。
そんな所にローザ達が帰ってきた。また、リンダ達と果物狩りに出掛けてたのかな?
「あの温室は良いのう。色んな果物が実っているのじゃ。穀物は無理じゃが、野菜と果物は自給できそうじゃのう」
そう言って2人が後ろに隠したカゴをホイってテーブルに出した。今日はメロンだな。
量が少ないところを見ると、あっちこっちに配ってきた残りなんだろう。
「午後の紅茶に丁度いいにゃ!」
そう言って、ライムさんが持って行ってしまった。たぶん一切れ位の分配だろうけど、それでも地元産ってことなんだよな。
午後のお茶の時間には皆が集まる。
俺とカテリナさんはコーヒーだけど、他の連中は紅茶を飲んでるぞ。
ライムさん手作りのクッキーと一緒に4つ切りのメロンが出て来た。早速頂いたけど、甘い果汁が口に広がる。中々の出来だな。これなら中継点のレストランに卸しても問題が無いんじゃないか。
「そうそう、ヒルダからメールが届いたわ。リオ公爵にウエリントン王国が譲渡した島が決まったそうよ。今映すからね」
カテリナさんが端末を操作してスクリーンを展開した。
そこに映し出された島は、かなり大きいぞ。
「この島は知っておるぞ。岩礁が多くて砂浜はこの入り江に大陸側の一角だけじゃ。獣機の訓練場になっておったが、今は使われておらん。大きさは5km四方はあるぞ」
「場所は、他のプライベートアイランドとそれ程離れていないわ。10kmほどのところに民間の保養所もあるわね」
フレイヤが別のスクリーンを開いて場所を確認している。不発弾の撤去から始めなければならないようだ。
「大きい島だから、一部を開放しても良さそうね。港の造成もしないといけないのかしら?」
民間の利用を考えるならそうなるだろうな。入り江があちこちにあるから、その1つに桟橋を作れば十分だろう。
海洋レジャー用にヨットやクルーザーも停泊できそうだ。
その他にも利用できそうだから、マリアン達に座標と島の名前を教えておけばいい。
「それで、明日から私達は何をするの?」
「早速、鉱石探索に出かけるわ。ジッとしてては収入が得られないでしょう」
そうだな。俺達は騎士団だから、鉱石採掘が仕事なんだ。
領土の開発は彼らに任せて、本来の仕事に専念しよう。