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V-147 ケンタウルス


 久しぶりにヴィオラに出掛けて休憩所を訪問する。

 そこにはいつものようにアレクがサンドラとシレインを両脇に侍らせて酒を飲んでいた。

 ベラスコも元気なようだ。いつの間にか隣に女の子がいるけど、新人なのかな?


 「しかし、驚いたぞ。我の妹じゃ!ってやってきたからな」

 「ホントにロボットなの? まるで人間と変わらないわ?」


 「カテリナ博士のたまものって感じですね。ナノマシンを多量に使ってますから皮膚感覚も俺達と変わらないですよ。ですけど、彼女がいないとカンザスは動きません」


 アレクに酒をご馳走になりながら、話はアレク達の前に現れたローザの妹の話で持ちきりだ。

 

 「さすがって言えばそれまでですが、あんな女の子にするのがカテリナ博士らしいと言えますね」


 ベラスコは相変わらずタバコを咥えたままだ。

 似合わないって誰も言ってあげないのだろうか? まあ、おもしろいから俺も言わないけどね。でも、ちゃんと次ぎの日には別なタバコを咥えろよ。


 「で、どうなんだ? いよいよ山麓に踏み出すのか?」

 「まだまだ先になりますね。少なくともラウンドクルーザーを特注しないといけません。傾斜地ですからね」


 傾斜はかなり緩いのだが、傾斜ちであることには変わりない。その上、長年の侵食が厄介だ。かなり深い谷もあることが分かっている。


 「確かにな。だが数年はかからんだろう。後3年で俺も戦鬼を降りる。だが、新型獣機があるから、次はあれで対応するつもりだ」

 「ちゃんと3人分の新型を揃えておいてね」


 獣機なら遺伝子異常を防げるからな。それも選択肢と言う事になるんだろう。戦機並みのスペシャル型を作ってやるか。

 だが、新型獣機はトラ族の独占場だからな。3人の空きを見つけるのは、今の内から準備しておかないと色々と軋轢が起りそうだぞ。


 アレク達と別れてカンザスに帰ると、ソファーでコーヒーを飲みながら新型獣機の改良箇所を考える。

 今のところ、新型獣機は迎撃用だ。攻撃はゼロが対応することで対処している。

 今更、攻撃用獣機を作っても……っ! まてよ。ゼロは機動状態で攻撃する事を前提としている。

 素早く動き固定した状態で攻撃すれば、さらに口径の大きなライフル砲が持てるんじゃないか?

 ノイマン効果弾もいいが、やはりAPDS弾の方が確実だからな。

 水素爆轟を利用した滑腔砲は口径40mmが新型獣機の限度だけど、更に口径を大きくして新型獣機に持たせれば攻撃型の獣機が出来るんじゃないかな?

 

 「アリス。40mm滑腔砲を60mmにした場合にどれ程重量が増すか簡単に算出してくれないか?」

 『了解しました。……簡単ですが、約2.5倍になります。砲身比は40mmを参考にしています』

 

 なるほど、40mmが限界なわけだ。戦鬼でもなければ取り回しが出来ないな。

 

 『口径50mmであれば、1.8倍で済みますが、新型獣機では発射時の衝撃を受け切れません』

 

 やはり2本足では無理か。多脚式となるわけだな……。

 待てよ。2本でダメなら4本ならどうだ? もう1機の獣機が支えれば何とかなるか?


 『可能です。反動を受ければ良いのですから、極端な話、壁に背を付ければ十分です』


 思考を読まれたか。

 ならば、思い切って4本足の獣機を作るか? 尾根への探索であれば2本足より4本足のほうが移動に便利だろうし、反動を受ける事も可能だ。


 早速、アリスに手伝って貰って概念図を描き始める。

 端末が作り出したスクリーンにアリス簡易計算結果を基に寸法を決めて描くから、そのまま基本設計に移れるほどの精度は持っている。

 一服しながら、アリスと問答をして形にしたものは、一言で言えばケンタウロスだ。

 上半身が新型獣機で下半身が少し太い足を持った馬になる。滑腔砲は両手で持つのではなく、鞍のような砲塔に作られた2連装砲だ。腰の両側から前方に突き出す形になる。


 『両手に短砲身の50mm砲を持たせても良いかもしれませんね』

 

 アリスがそんな事を言って概念図に付け加えた。

 確かに格好がいいな。獣機の上半身の外骨格をヨロイのようにしても良いんじゃないか?

 そう思ったら直ぐにそれらしい形に変化した。

 中世の騎士のようにも見えるな。【ナイト】と名付けようか。

 一服を楽しみながら、ナイトが荒野を駆ける様を想像していたら、俺の横に強引に座り込んできたのはカテリナさんだった。


 「何なのこれは……?」


 そう言って俺を睨む顔は笑みを浮かべているけど、肉食獣を至近距離から見ているような迫力があるぞ。


 「ちょっと、新型獣機を考えてました。攻撃型とした場合にはどんな形になるのだろうかと……」

 「滑腔砲の口径を大きくしてるのね。新型獣機では反動を受けられないから、4本足でふんばるってことね……」


 そんな事を言いながら、概念図を自分達の電脳に送ってるぞ。作るつもりなのか?

 

 「たぶんアリスが絡んでるから、概略の強度計算は終了してるわよね。アリス、これでどれ位の速度で動けるの?」

 『動力用のタービンエンジンは2割り増しになります。個数は2基必要です。連続可動時間は最大機動1時間、60%機動3時間の4時間として体内燃料タンク容量を想定しました』


 ゼロよりも稼働時間が長いという事か。胴体部分に容積があるからな。色々と詰め込めそうだ。

 

 「4割で良いかしら?」

 「えっ?」


 「パテント料よ。1機作ってみるわ。予算は余ってるし、デモをすればヒルダ経由で軍に売り出せるわ」


 売れるのか? かなり変わった機体だぞ。でも、4割は魅力的だ。互いに笑みを浮かべて握手を交わす。


 「ところで、何の用だったんですか?」

 「そうそう、あの救命艇の動力炉を取外したんだけど、動かすための制御システムに手こずってるのよ。アリスに協力して貰えたならとやってきたんだけど、リオ君がおもしろいものを見てたから……」


 アリスなら動かせるという事だろうな。たぶんアリスも興味半分にカテリナさんのラボの電脳を覗き見してるに違いない。

 

 「アリス。出来そうか?」

 『問題ありません。制御回路のシステム構成図と構成するモジュールの回路図、全体の制御プログラムをカテリナ博士のファイルに転送しました。ですが……、初期制御は極めて短時間に行われますから、人間の介在は不可能と推測します』


 「解決策はないのか?」

 「ドロシーなら可能です。後は私が遠隔で制御する事もできます』


 ナノマシンだからねぇ……。となると、俺でも可能なのか?

 そんな事にはカテリナさんは気が付かないようだ。

 うんうんと頷きながらタバコを咥えていた。

 

 「ドロシーに頼んでみるわ。でも、アリスにも緊急時介入要員として控えて欲しいわ」

 『時間をマスターに教えていただければ対応可能です』


 これで、カテリナさんの来訪目的は達成したかな?

 そんな思いでライムさんに2人分のコーヒーを頼む。


 「でも、リオ君のひらめきは素晴らしいわ。山裾で鉱石採掘を行う為のラウンドクルーザーの概念も考えてくれると嬉しいんだけど」

 「そう簡単ではないと思いますよ。考えていたデザインはあるんですが果たして……」


 「先ずは小型艦で試験してみれば? 最初からヴィオラクラスは無理よ」


 運ばれてきたコーヒーを飲みながら今の言葉を考えてみる。

 確かに最初から大型艦は無理がある。ガリナムクラスよりも小型な艦を作ってこの地で試験をするってのも良いかも知れない。

 尾根の根元に中継点があるから、中継点の北は緩やかな裾野だ。

 

 「そうですね。少し考えてみます」

 

 俺の言葉を聞いて微笑んでいる。

 そんなところにローザがドロシーを連れて帰ってきた。

 しっかりと手を繋いでいるのは、余程嬉しいのだろうか? そのドロシーは俺が貰ったでっかいウサギを抱いている。身長の半分ぐらいあるんだけどやはりドロシーには感情があるようだな。


 「うむ? カテリナ博士がいるという事は、次ぎの獣機でも考えていたのか?」

 「そんな感じね。試作機が出来たら教えてあげるわ」


 カテリナさんの話を2人で目を輝かせているのは、教育上問題かも知れないな。

 だが、ドロシーを学校に行かせることも出来ないし、情操教育をキチンとするにはどうしたらいいんだ?


 「外の連中はどうしたのじゃ?」

 「中継点の事務所に出掛けたぞ。ウエリントンさんの温室で果物の収穫をするって言ってたな」


 「何じゃと! ドロシー出かけるぞ。こうしてはおれん」

 

 ローザが突然ソファーから立ち上がるとドロシーを抱えるようにしてリビングを出て行った。ポイってドロシーが俺に投げてくれたウサギのぬいぐるみをとりあえず俺の隣に置いておく。


 「全く行動的だな。フレイヤ達から聞いてなかったのかな?」

 「ドロシーで舞い上がっているからでしょう。もうすぐヒルダ達がやってくるわ。ゼロの母艦が出来上がったから、訓練の様子を見るっという名目ね」


 「例の話ですか。そういえばバシリスクはどの辺りなんでしょうね?」

 『西南西1200kmを東に巡航中です』


 すかさずアリスが答えてくれた。中規模騎士団を見守っているみたいだな。

 軍の派遣してきた母艦を合わせればゼロを16機使える。北緯45度辺りで西を遊よくしていれば騎士団も安心できるに違いない。


 それから10日程過ぎた頃、中継点に2隻の大型駆逐艦が入ってきた。

 その片方の駆逐艦のブリッジは片舷からセリ上がった小さな物だ。前後に30mm連装機関砲の砲塔が付いている。

 バシリスクよりも火力は無さそうだな。駆逐艦も75mm連装砲塔が3つだ。まあ、とりあえずの護衛は出来そうだな。


 中継点の中央桟橋の東側を臨時に使って、資材の積み込みと燃料の補給を行なっている。軍の艦長とメイデンさん達が集まって次ぎの航行経路を話し合っているようだ。

 特に、重点的に航行する場所は無いから、鉱石の反応があれば送って貰う事だけをメイデンさんにお願いしている。


 一緒にやってきたヒルダさんと他国のお妃様達はカンザスのリビングで俺達とのんびり雑談中だ。

 お妃様達の興味は次ぎの中継点だが、これはもう少し先になりそうだな。


 「……ということで、中継点の建設はもう少し先にすべきだと思っています」

 「ローザ達が次ぎの中継点を守護するという事ですか。確かにもう少し待ったほうが良いでしょうね」


 「グランボードを使った行動半径は周囲500kmを超えます。戦姫3機があれば確かに中継点の維持は容易でしょうね」


 最初は驚いていたが、どうやら納得してくれたようだ。

 3カ国の戦姫が守るという事は、その中継点の守りが鉄壁だと言うようなものだ。更に西に向かう騎士団が増えるに違いない。


 「となると、カンザスとの素早い合流も必要ですわ。戦機6機それに新型獣機を1分隊搭載する高速艇が必要でしょうね」

 「我等で作ってあげましょう。ローザ姫への感謝の印が必要ですわ」


 そんな話をしている。俺としては戦機6機を搭載できるグラナス級が良いような気がするな。新型獣機ではなく、ゼロを積むべきだろう。新型獣機は中継点の防衛用に残すべきだな。

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