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V-146 残されたカプセル


 調査から帰ってきた俺はとりあえずジャグジーで疲れを癒す。

 リビングに戻ってくるとソファーには皆が集まっていた。俺と同じ映像を見ていた筈だから十分に興味は満たされたと思うんだけど、後何を聞きたいんだろう?


 ソファーに腰を下ろして、ライムさんの入れてくれたコーヒーを飲む。

 何となく落着くな。タバコに火を点けたところで、ドミニクが早速質問をしてきた。


 「あの宇宙船は動くの?」

 

 たぶん皆が同じ思いなんだろう。一斉に俺を見詰めてきた。


 「俺にはさっぱりだ。上手い具合にアリスがあの船の電脳にアクセスして情報を引き出している。カテリナさんに送ってあるから、数日もすればカテリナさんが教えてくれると思うな」

 「でも、誰も乗ってないのよね。宇宙人が乗ってると思ってたんだけど……」


 「たぶん皆、降りたんじゃないかな。死体すらなかったから無事にこの惑星に下りたんだと思うよ。周囲の石造建築もあるから、文化を退化させながらある程度はこの惑星に生存出来たんじゃないかな」


 だが、降りた位置が不味かった。巨獣に襲われて滅んだに違いない。地球からの入植者がやって来るころには地殻変動で今の場所に埋まったんだろう。


 「危険性が無ければそれでいいわ。後の措置は母に任せるとして、隠匿工場には使えそうね」

 「地底湖を水源として利用できるように調整すれば工事もはかどるだろうね。上水のパイプラインは中継点の工事にしても良いだろう。だが、ヴィオラ専用桟橋までは工兵隊に工事をして貰うことになりそうだ」


 それでも、大幅に工期を削減できるだろう。

 パイプとポンプを多重化しておけば、後々の管理もしやすいだろうな。


 10日間の行程で鉱石探索を終えて帰って来ると、直ぐにジゼルさんが工事の進捗を報告してくれる。

 入口となるトンネルを大きくしているようだ。全長5kmのトンネルは現在直径50mまでになっている。大型重機が使えるから、一段と工事の規模が大きくなっている。


 「地底湖には驚きましたが、この地では必要になるでしょう。このように岸壁を作って隔離しますから、岸壁が完成しだい中継点への送水設備を据えつけます」

 

 一月ほどでだいぶ工事が進んでいる。さすがは工兵隊という事だろう。

 工事の労いを述べると、互いに握手をしてジゼルさんは帰っていった。


 何か、鉱石採掘をしている方がのんびりできるな。

 ソファーに座ってタバコを楽しんでいると、ワイングラスを2つ持ってカテリナさんが俺の隣に腰を下ろした。


 「だいぶ分かってきたわ。使える技術が沢山あるけど、一番の宝物はあの動力炉ね。どうにか理解できたから、将来的には私達の船に積み込むつもりよ。反重力駆動についても制御理論を学ぶ事ができたわ。どうやらクライン機関に似たシステムらしいんだけど、2つのクライン機関をメビウスコイルで結ぶのは目から鱗の発想だわ」


 そう言いながら、ワインを飲んでいる。もう1つのグラスを手に取ると一口飲んでみた。かなり極上だぞ。


 「落ちてたものですから、俺達で使う分には問題ありませんが……。実証試験は必要ですよ」


 俺の言葉に笑い声を上げると、ゆっくりと俺の顔を覗き込んだ。


 「それぐらいの常識はあるつもりよ。まぁ、それはさて置いて、リオ君の船内カメラの映像にちょっと作為的な場所があるんだけど?」


 ドキ!っとしたけど、表情に出て無いよな。

 あれを画像から削除したのがバレてるのか?


 「たぶん、後で私に見せようとしたんじゃなくて?」


 そこまで分かってるんじゃしょうがないな。

 改めて、タバコに火を点ける。

 

 「実は、ナノマシンの入ったカプセルを医療区画で見つけました。100種類程のナノマシンが入っているとアリスは言っています」

 「用途が不明ね……。分別して入れるなら分からなくもないけど、同じカプセルに入れるなんて、何らかの意図があるのかしら?」


 『どうやら、実験の最中に事故があって、医療区画に運んだものの、それっきりになったと考えられます。カプセル付属の電脳には実験の途中経過までのデータが保管されていました』


 アリスの言葉を聞いてカテリナさんが微笑んだ。


 「どんな実験だったのかしら?」

 『人間のシナプス回路を模擬した電脳の開発と推察しています』


 あれでか? それにカプセルの中にはまだ形が無かったぞ。


 「どこまで進んでるの?」

 『私を作ろうとしましたが、ナノマシンの性能が低すぎます。現在ドロシーの人格を取り込むための準備を継続中です。プログラムの完成でドロシーを外部化できます。現在の電脳はドロシーのライブラリー用補助電脳に格下げになるでしょう」


 「いいわね。進めて頂戴。完成は何時頃かしら?」

 『3日後になります』


 アリスを持ってしてもそれだけ掛かるってことか?

 とんでもない作業量だぞ。


 「全く、少しぐらい教えてくれても良さそうなものだけど……。スキンシップが足りないのかしら?」

 

 そんな事を言いながら俺を立たせると、ジャグジーに歩き出した。

 けっしてそんな事はないと言いたいけど、黙ってたからな。もう少し解析に時間が掛かると思っていたけど、アリスは先に進んでいたようだ。


 星空の下でひさしぶりにカテリナさんを抱く。

 カテリナさんの夢は確実に現実味を帯びてきたな。


 「おもしろい事をアリスは考えたわね」

 「そうなんですか? 外部に電脳を持つという事がそれ程奇異には思えませんが?」


 「単なる箱にはならないわ。そうね……。少し協力してあげようかしら」


 そんな事を言いながら俺を求めてくる。

 皆は中継点の商店に買出しに行ってるみたいだから、今はカテリナさんと楽しもう。

               ・

               ・

               ・


 「何じゃ? 我等を集めて。何か新しい巨獣でも現れたのか?」


 主だった連中がリビングのソファーに集まっている。

 ライムさんが運んで来た紅茶を飲みながら、カテリナさんが来るまでは次ぎのバカンスの相談をしていたんだが、誰も俺には意見を求めないんだよな。


 そんな所にカテリナさんがやってきたから、さっきのローザの質問になったと言うわけだ。


 「今の所は平穏無事よ。ヴィオラ騎士団関係者には伝えておかなくちゃと思って集まって貰ったんだけど……」


 そんな前振りをしながら、コーヒーを飲んでいる。レイムさんが俺とカテリナさんに持ってきてくれたんだ。ドミニク達にはライムさんが改めて紅茶を注いでいる。


 「前に発掘した戦機はベラドンナ騎士団に渡したわ。アデル達もそろそろ2隻目のラウンドクルーザーを購入すべきね。同盟期間内に更に戦機が増えたら搭載できないわよ」

 「そうですね。リオ公爵と相談してみます」


 猫なで声が怖いな。相談と言う以上、既存のラウンドクルーザーではないという事か?

 

 「アデルも中規模騎士団になるわね。狙い目は何かしら?」

 「大型駆逐艦が払い下げになるらしいの。一応、競売に参加するつもりよ」


 ガリナムより一回り大型になるのか。200tコンテナを搭載するバージを3台は曳けそうだな。将来的な西への進出には十分だろう。


 「それともう1つお知らせがあるの。前から私達の仲間だったけど、誰もあった事が無い人を紹介するわ。……もう良いわよ。隠れてないで出てきなさい」


 カテリナさんがミニバーに向かって呼び掛けると、ゆっくりとカウンターの扉が開いた。誰だろうって感じで、皆の視線が扉に向かう。


 ひょこんっと小さな頭が顔を出す。

 どっかで見た顔なんだが思い出せないな。

 こっちをジッと見ていたが、ようやく姿を現して俺達の方に恐る恐る近付いてくるぞ。


 「可愛いわね。こっちにいらっしゃい!」


 そんな事をフレイヤは言っているけど、そのほかの連中はポカンと口を開けたままだ。


 「母さん。児童保護法って知ってるの? ニコラとロゼッタもまだ子供だけど、一応王国の許可が下りてるわ。でもこの子はあの子達よりも小さいわよ!」


 ドミニクの抗議にもカテリナさんは笑みを浮かべるだけだ。

 

 「まさか! カテリナ博士の子供ではあるまいな?」

 

 ローザの言葉に今度は全員が2人の顔を見比べてるぞ。

 

 「そんなわけはないでしょう。ドミニクの弟か妹はもう少し先になるわね。ホントに分からないの?」


 何気に爆弾を落としてるけど、誰も気には留めないようだ。改めてカテリナさんの背中に隠れてる女の子を眺めてる。


 「どちらかと言うと、ローザに似てるわね」


 フレイヤの言葉に俺も慌てて女の子を眺めてみた。

 肩を過ぎた辺りまで伸ばした巻き毛に大きな蒼い目。ちょこんとした鼻と薄い唇は確かに似てるな。


 「我の方が鼻が高いぞ!」


 そんな事を言ってるけど、どっちもどっちって感じだな。

 ローザに妹がいるなら、たぶんこんな感じになるんじゃないか? 不思議とエミーには似ていない気がする。


 「分かったかしら?」

 「降参じゃ。じゃが、本当に我等の誰もが知っているのじゃろうな?」


 「そうね。さあ、みんなに名前を教えてあげなさい」


 最後の言葉は後を振り返って女の子に呟いた。

 ゆっくりとカテリナさんの背中を離れると、俺達の前に全身を現わした。

 青いギンガムチェックのスカートだ。胸元まで続いているな。下のブラウスはゆったりとした白だが、ちょっと古風にも見える。白いロングソックスに黒のエナメル靴は、どことなく絵本の登場人物だ。


 「ドロシーです。よろしくお願いします……」


 小さな声で、はっきりとそう言うと、ととと……と、カテリナさんの背中に隠れてしまった。

 だいぶ人見知りする子供の人格を持ったようだ。でも、大人は怖いから誰にでも付いて行くようでも困るからこれぐらいでいいのかもしれない。


 「ドロシーって、カンザスの電脳でしょう?」


 ドミニクが立ち上がってカテリナさんに指を向けてるけど、驚いてるのか、怒っているのか微妙な表情だぞ。

 そんな娘の前で、優雅にタバコに火を点けるカテリナさんも中々度胸があるな。


 「ドロシーは人格を持ったわ。人格にあわせた体を作ってあげたの。カンザスの制御は今まで通り行なえるわ。ブリッジに彼女の席を用意してるから、そこが彼女の仕事場になるわ。カンザスで機動戦を行う場合以外は船内を歩き回っても問題ないし、停船してるなら船を離れても問題ないくらいよ」


 ある程度は離れても固定した電脳とリンクできるという事だろう。

 となると、この子は比較的自由に俺達と過ごせることになるな。


 「ローザ。妹が欲しいって言ってたわね。ドロシーに色々と教えてくれないかしら? 貴方と一緒に暮らしても何ら問題はないわ」

 「ホントじゃな! 我の妹でいいのじゃな?」


 大きく開いた目はキラキラと輝いてるぞ。嬉しさを全身に表現するとああなるんだ。そんな感じでローザを見てたけど、ドロシーの手を引いて、リビングを飛び出して行った。

 あっちこっちを飛び回りながら、新しい妹を紹介しに出掛けたに違いない。

 そんな事を皆が思い浮かべたのだろう。穏やかに笑みを浮かべたんだけど、次ぎの瞬間吹き出してしまった。

 ローザの紹介を聞いて戸惑う相手の顔が目に浮かぶぞ。


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