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V-145 救命艇?


 戦闘服に綿パンをはいて、自走バージから地下洞窟のホールに進んでいく。

 曳いているバッグがやたらと重い。

 何が入っているのか教えてくれなかったけど、通信機の中継機と小さなゴムボートぐらいは入っていそうな感じだな。


 穴の出口は地上から1.2mぐらいのところだった。これなら帰りもよじ登る位は出来そうだ。


 トンネルからそのまま延長上に歩いて、湖が良く見えるところに通信中継機を設置する。

 後は、問題の水中構築物に向かうだけだな。

 湖の傍に歩くとゴムボートを取出した。小さなボートだけど、電動モーターが付いている。バッグが重かったのはバッテリーのせいなのかも知れないな。

 小さなボンベを使ってゴムボートを広げている時に、なんでこんなことをしているのか疑問を持ってしまった。アリスに頼めば俺を含めてここに移動することが出来たんじゃないか?


 そんな疑問を持ったけれども、完成したゴムボートに乗って湖に向かった。

 風も無いから水面は穏やかだ。水深の浅い湖には危険な生物は発見できなかった。小さなエビと20cm程の魚を探査機が見つけたんだがどちらも目は退化していた。この湖が出来てからかなりの年月が経っているんだろうな。

 前方に探査機が放つ明かりが見える。あの真下に問題の建造物があるのだ。


 バッグからタバコを出してのんびりと楽しみながらボートを進める。万が一の時にはアリスを具現化すればいいだろうし、探査機のもう1機が周囲を警戒しているはずだ。

 

 「リオ君。聞こえる?」

 「ええ、聞こえますよ。もうすぐ、探査機の傍に着きます」


 「水中の建造物に入ったら、通信が出来ないかも知れないわ。その時はアリスを経由してくれない?」

 「了解です。そろそろ着きますから、何か分かったらこちらから通信を入れます」


 やがて、探査機の真下に着いた。10m程のロープが付いたアンカーを投げ入れると、調査の準備をする。防水コンテナを取出して、メガネを付ける。一応、宝探しツアーに使ったナイフを持って、水中に飛び込んだ。

 

 防水コンテナの重さは水より少し重い。ゆっくりと俺を湖底に沈ませてくれる。

 水温は20℃位か、少し冷たく感じる。

 5m程潜ると建造物があった。

 その中を覗くと、確かに違和感のある滑らかな物体と直径2m程の丸いハッチのようなものが見えるぞ。

 カメラで周囲を撮影して浮上すると、探査機経由でカメラの画像をカテリナさんに届ける。

 

 「やはりハッチに見えますね。開ける事が出来るか、やってみます」

 「了解。気を付けるのよ」


 心配するんだったら、俺にやらせないでほしいものだ。

 再度湖に潜ると、コンテナを掴んで今度はハッチの近くまで泳いでいった。


 確かにハッチにしか見えないが、どうやったら開けられるんだ?

 周囲をライトで照らしながら調査すると、小さなレバーを見つけた。俺が片手で握れる大きさだ。この船の乗員は俺とさほど体形が異なるわけでは無さそうだ。

 

 ここは一旦浮上して報告を入れておこう。


 「ハッチの周囲を調査してレバーを発見。曳いてみます。もし中に入れるようなら、次の通信は場合によってはアリスを経由します」

 「了解。ここにいるのは私と、ドミニク達でリオ君を知っている者達だけよ」


 イザとなれば擬態を解除してもかまわないという事だな。

 ゆっくりとハッチに向かって泳いでいく。

 ハッチに付けられたレバーを力任せに引くと、ガタンっとハッチが緩んで気泡が上がる。

 今度はハッチを手でこじ開けるようにして開くと、奥行き5m程の空間が現れる。奥に同じようなハッチがあるから、ここはエアロックに違いない。


 エアロックにコンテナを持って入ると周囲を調べる。赤いライトが点滅している場所に押しボタンが2つある。赤の真下と、隣の青の真下だ。ハッチが開いているのが異常ということであれば、青の下にあるボタンを押すべきだろうな。

 ポチ!っと押すと赤の点滅が連続光に変り、俺が開いたハッチが閉じ始めた。

 バチンっという音がすると、今度はエアロック内の水が減っていく。

 

 完全に水が無くなったところで、奥のハッチを調べる。

 傍のライトは青だからハッチを開けるという事だ。赤のボタンを押すとゆっくりとハッチが開いて教室ほどの空間が現れた。

 エアロックを抜けて、ハッチを閉じる。

 小さな照明がついているから、最低限の機能がまだ維持されているのかも知れない。

 部屋の照明スイッチを探して部屋を明るくする。

 どうやら、ここは船外活動の準備室のようだ。工具棚に混じって宇宙服を入れたロッカーまで準備されている。

 その宇宙服だが……。俺が着るには少し寸法が合わないな。

 全て俺よりも小柄だ。一番大きなものでも身長が160cmを越える事が無い。

 更に、手足のバランスが変だ。足は短いけど手は長い。1着を床においてカメラで撮影する。

 キャップを被って、備え付けられた通話装置とカメラを立ち上げる。これで関係者と通話も出来るし、俺と視界を共有化出来るはずだ。


 「カテリナさん聞こえますか?」


 何度か呼びかけたけど、雑音しか入らない。


 「アリス。聞こえるか?」

 『はい。何でしょうか?』

 

 アリスとの通信は問題ないようだ。

 

 「カメラの画像を送ってくれ。この船の乗員はどうやら人類とは少し違った形をしているようだ」

 『伝送終了です。マスター、端末を見かけたら連絡してください。この船の概要を調べてみます』


 そんな通信を送ってくるけど、俺の目の前にはどう見ても端末らしきものがある。見えてるのかな?

 

 「アリス。これって端末なんだろうか?」

 『端末に見えますね。マスターの擬態を制御します。手袋を脱いで端末のキーボードらしきプレートの上に腕を伸ばしてください』


 言われるままに手袋を取って、両手をデスクと一体になったスクリーンの手前にある数十に区画が入ったプレートの上に置く。


 突然俺の指が枝分かれする。10本の指が20本以上に増えて全ての区画に指先が触れると、俺の意思を無視して指先がプレートを叩き始める。


 数秒も経たないで目の前のスクリーンに画像が映し出された。

 画像の中に見た事も無い文字が浮かび、高速でスクロールを始める。


 『調査報告001:この船は緊急脱出用救命艇のようです』

 『調査報告002:船体の合金は未知のものです。金属組成比のデータは本データの付属ファイルとしてあります』

 

 次々とアリスによる解析が報告される。たぶん報告はアリスを通してカテリナさんにも届いているんだろう。


 『……調査報告892:本船の区画データを入手しました。船内の調査が可能です』

 

 どうやら、その報告がこの端末から引き出せた情報の全てなんだろう。


 「カテリナ博士。船内を一巡してみますか?」

 「……そうね。アリスの報告書だけでも驚く内容だけど、ここに集まってる人達が見たいみたいよ」


 たぶんフレイヤ達だろう。まぁ、俺も興味はあるところだから、一巡してこの船の始末を早めに考えなくちゃならないだろうな。


 この救命艇、改めて考えてみると少し変なところがあるな。

 少なくとも数万年は埋まっている筈なんだが、部屋にも床にもチリ1つ無い。

 誰かが掃除をしているようにも思えるぞ。

 照明も、薄暗い感じはするが、俺の調査には何ら問題が無い。照明用のライトを持ってきたのだが腰にぶら下げてる状態だ。

 

 コツコツと通路を歩き、通路の両側の扉を開けて室内を確認する。

 この区画は居住区のようだ。低いテーブルや、ベッドのようなものがあるが、興味を引くものはない。

 キャップに取り付けてあるカメラでカンザスの連中も見ているはずだから、何か気が付けば連絡を入れてくるだろう。


 居住区を抜けてブリッジに入った。ヴィオラのブリッジを小型化した感じだ。ガリナムのブリッジはたぶんこんな感じなんだろうな。

 シートは硬質だ。坐ってみると何か安定し無いな。座高が高い連中だったらしいからか?コンソールまでの距離も遠いぞ。腕は俺より遥かに長かったようだ。


 「あまり違和感が無いブリッジね。これで恒星間を渡れるのかしら?」

 「どちらかと言うと惑星間が精々でしょうね。この船は脱出艇だとアリスの報告にもあったでしょう」


 カンザスの連中の感想が聞こえてくる。

 

 『マスター。あのコンソールに坐ってくれませんか? あれがナビゲーションコンソールだと推定します。この船の航路が分かるかも知れません』


 アリスの指示に従って先程同様にアクセスを始めた。

 目の前にスクリーンが展開されると、わけの分からない曲線が沢山表示される。


 『調査報告893:本船の射出位置確認。母艦の出発位置確認。母艦の到達予定地確認。全てファイル化しました』


 どこからどこに行く予定だったかが分かったという事か。

 次ぎは動力区画に行ってみるか。


 「これは、何とか物にすべき技術だわ」

 

 動力炉は極めてコンパクトだった。とはいえ俺にはあまり興味が無い代物だ。見た目は直径10mほどの球体にしか見えないからな。


 『マイクロブラックホールを応用した動力炉のようです。いまだに低出力で動いています。完全自動化のようですね』

 「危険性はないのか?」


 『どんな動力炉も危険は伴います。この動力炉の場合はブラックホールを維持させる為に高出力の重力場でアシストしているようです。アシスト重力場が消失した場合はブラックホールが消えてしまいます』

 

 一応、自己安全性を確保しているわけか? だが、そうなるとこの区画の重力バランスはめちゃくちゃにならないか?


 『動力炉の外郭構造体に反重力装置が組み込まれています。最大出力で動力炉が稼動しても、この区域を出入禁止にする必要は無かったでしょう。調査報告902で動力炉の報告書を作成完了です』


 そろそろ帰ろうかと俺が入ってきたエアロックに向かって歩きながら、通路の左右の部屋を一通り見て歩いていた時だ。

 扉を開けるとその部屋は今までと様相が異なる。


 『病院でしょうか?』


 薬品棚や用途不明の機材もあるが、中心にあるのは手術用のベッドに見える

左右に幾つかのベッドが並んでいる。

 

 乗員は数百人というところだろう。治療設備も必要になるんだろうな。

 そんな事を考えながら戻ろうとして通路側に体を向けると、部屋の隅にカプセルが立てかけられてある。

 思わず足を向けると透明な窓を覗いてみた。

 

 『カプセルは稼動しています。生命反応はありませんが、何かを保管してあるようですね。付属の電脳にアクセスしてみます』

 

 とは言っても、動くのは俺の手なんだよな。

 小さなスクリーンに文字が浮かぶのだが俺にはさっぱりだぞ。


 『隠匿報告001:ナノマシン集合体』

 『隠匿報告002:ナノマシン治療に使われたものと推定。推定確立98%』

               ・

 『隠匿報告088:外部アクセスにより構造を変えることが可能です』


 俺と同じってことか?

 少し異なるのは、俺のナノマシンよりも数世代以上前のものらしい。当然、ピコマシンは無いから、ナノマシンを目的に応じて機能を作りかえる事が出来ないようだ。俺のナノマシンよりも大きさ的には数倍大きく、その種類は100種を超える。

 

 確かに、カンザスの連中に話すには早いかも知れない。カテリナさんと相談してからでも良さそうだ。


 「アリス持って帰れるか?」

 『問題ありません』


 その言葉とともに目の前からカプセルが消えた。

 後は特に何も興味があるものは見当たらない。俺はゆっくりとエアロックに向かって歩き出した。




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