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V-143 トンネルの水漏れ


 10日程が過ぎて、俺達が3隻で鉱石採掘を行なっている時に、ガリナムから緊急連絡が入った。

 『新たな巨獣発見。チラノタイプ至急応援請う!』

 直ぐにヴィオラが艦隊を離れて目的地に向かう。暗号通信の内容は『戦機発見!』だ。

 

 「戦鬼じゃと良いのじゃが……」

 

 「そんなに見付からないよ。戦機でも十分だ。これでベラドンナ騎士団の戦機が増える」


 「順番じゃったな。これでベラドンナは3機目と言うことじゃな」


 ソファーに座りながら去り行くヴィオラを眺める。

 艦隊は現在停止中だ。ヴィオラが曳いていた200tバージ5台をカンザスに連結させる為に獣機が地上で作業している。

 8割程に採掘が済んでいるから、この辺りで帰還コースを取る事になるだろう。

 

 少し尾根沿いを進んでいるから他の騎士団の姿をレーダーで捉える事も無い。一番近い騎士団でさえ200km以上離れた場所だ。

 戦機は掘り出した者勝ちだから、探査装置での発見では他の騎士団に出し抜かれる可能性も無くはない。

 ちょっと大人気ないけど、他の騎士団も同じような事をしているそうだ。


 「ところで、軍から艦隊が派遣されてくるんしょう?」

 

 「ああ、でも直ぐじゃないよ。母艦の改造の最中らしい。カテリナさんがバシリスクの設計を売ったようだから、同じような高速母艦がやって来る筈だ」


 「小規模騎士団が中緯度まで進出出来るのじゃな。それは喜ばれるじゃろう」

 

 ローザが笑みを浮かべる。ウエリントン王国の王女様だからな。西への進出はウエリントンの発展に結びつくと考えているのだろう。だけど、中継点が増えればそうも言っていられないと思う。他の王国だって中継点作りに乗り出すからだ。俺達に戦姫を預けたのもそんな将来構想を持っているからだろう。


 「今回はカテリナ博士がいないのよね?」


 「ラボに閉じ篭っているそうよ。また何か始めたようね?」


 ドミニクが俺に視線を移す。教えて良いんだろうか?

 

 「この間の宝探しツアーで何か閃いたみたいだよ。皆に教えていないってのは、騎士団に係わらない研究じゃないかな」


 「そこが博士という訳じゃな。次ぎは何じゃろうな?」


 ローザは楽しみなようだ。だが、完成するとなると、微妙な問題が生じる恐れがある。

 カテリナさんの言葉をそのまま取るなら3王国と同等の関係を保つ王国を作ることで対応出来そうだ。幸いにも3つの王国から離れた場所に領土を持っている。現在はウエリントン国王に賜った称号と領土を各国が追認していることになるが、これだとウエリントン王国の一部とみなされる可能性も無くはない。

 一度公爵の称号を返却して新に騎士団領とするか……。それなら、独立勢力として3カ国に係わらないと言い切れるだろう。

 少なくとも試験飛行をする時期には独立国家体制になる事が望ましいだろうな。

               ・

               ・

               ・


 200tコンテナとバージを屋外桟橋に置いて、中継点に入る。ヴィオラは戦機を掘り出したようだ。装甲甲板に載せてヴィオラ専用桟橋に戻ると、獣機達が戦機を修理工場に運んで行く。一月もすれば動かせるようになるだろう。


 そんな光景を見ながらタバコを楽しんでいると、リビングにカテリナさんが入ってきた。静かだな。上手く行かなかったのかな?


 「しばらくね。理論と初期実験は成功よ。半重力場の大きさをかなり大きく出来るわ。同じ大きさの装置であれば優に50倍の出力差が生まれるわ」


 「問題は、重力場の傾斜方向の制御です。それは?」

 

 俺の問いに微笑みながらソファーに座ると、タバコに火を点ける。


 「円盤機でも重力傾斜航行は取り入れているわ。それを拡張する事で対処できると思うの。次ぎのモックアップで試してみるけど……、希望はあるかしら?」


 自信があるって事だな。なら簡単な物を頼んでみるか。


 「パンジーが大きすぎます。それなら小さく出来るじゃないですか?」


 「そうね……。今のままでは収容が面倒だわね。でも、パンジーのコンセプトは武装と滞空時間よ。『パンジーが出来れば』には次があるわね?」


 「3次元の機動が出来れば宇宙での機動戦が出来ます。それに、この世界では大型の兵器が搭載出来るでしょう。俺達には兵器制限事項が無くなりました。大型巨獣にはゼロでは少し非力です。大型巨獣を狩る武器を載せませんか?」


 そう言って、端末を操作してスクリーンに簡単な絵を描く。描いたのは、装甲板を貫通させる徹甲弾ではない。もう1つの装甲板を貫く方法……、ノイマン効果弾だ。

 速度は重視しなくていい。装甲版の面に垂直に当れば良いだけだ。


 「爆発時の衝撃波がこのライナーを一瞬で蒸発させると、この方向に絞られて放出されます……」


 「衝撃波を制御するのね。それが高温のジェットになって1点に集まる……。これはラボの連中の宿題に使えるわ。特許料は半分で良いわね?」


 使えると判断してくれたのかな?

 確か数十cmの装甲板も貫くと聞いた事があるぞ。低速で打ち出せるから、円盤機からでも発射出来るだろう。

 

 「おもしろいアイデアを貰ったから、パンジー2型はタダでも良いわ」

 

 そう言って俺の手を取る。ジャグジーで汗を流そうか……。

 ジャグジーの天井ドームに移る星空を2人で眺める。

 たぶん、このプラネタリウムはカテリナさんの見果てぬ夢を忘れない為に付けたんだろうな。

 ベッドで体を重ねながらもカテリナさんの夢を考える。夢が実現できれば良いけどね。

               ・

               ・

               ・


 中継点に工兵部隊がやってきた。東の尾根の反対側に工作線を2隻停泊させて作業を開始したようだ。

 5日ごとにカンザスへ状況報告にジゼルさんが副官を連れてやってくる。

 さすがに工兵部隊の仕事は速い。それなりに重機が整っているが、やはり兵隊の仕事に無駄は無い。

 先行トンネルを5kmほど掘り抜いて、今はトンネルの拡張工事を何箇所かで行なっているようだ。

 

 「1つ問題があります。第4工区で予定外の地下水漏洩が続いています」


 ジゼルさんの言葉に、俺とドミニクは一瞬我を忘れて宙を見詰めた。

 あちこち掘ればそのうち地下水に当ったんだな……。努力が足りなかったんだろうか? 地下水調査はしたんだけど、精々30mほどの探査機での調査だ。尾根から横に掘り進めば地表から優に500m程地表から掘り下げた事と同じになる。西側はだいぶ掘ってるけど、東側は掘ってなかったからな。水はこの地に無いものと決め付けていたんだろう。


 「……かなり悪い状況ですか?」

 

 「現在は時間当たり1㎥ほどですが、第3工区の岩の亀裂に流れ込んでいますから、止水壁を設けながら工事を進めています。このため、全体の工事に影響が出てきました。漏洩が続けば全体工程を見直さねばなりません」


 「管理事務所に地質学者のレイトン博士がいます。彼に調査をお願いしましょう。場合によっては工事全体を見直す必要もありますね」


 ジゼルさんは「よろしく」と言ってカンザスを去っていった。

 改めて、ドミニクと顔を合わせる。

 

 「私達の苦労は何だったのかしら?」


 「漏洩量が微妙だね。それに岩の割目に吸い込まれてると言うのも気になるところだ。中継点の奥底には溶岩の流れがある。単なる水脈ならいいけど、地底湖だったら工事の影響いかんで、水蒸気爆発の可能性だってあるぞ」


 溶岩流と水脈の接触の可能性を調査して貰わねばなるまい。

 直ぐに、カテリナさん経由でレイトン博士に状況を教えて調査の依頼を行なった。

 

 でも、時間10㎥ほどの水量なら、遥々大河まで水を汲みに出掛ける必要が無くなる。仮に続けたとしても、それによって農業を行なう下地を作ることが出来る。レイトン博士は肥料を必要としないほどの土地だと言い切っている。

 上手く行けば、この地で自給できる体制を組む事が出来るかも知れない。それは、3つの王国と距離を保つ言い訳にも使えるはずだ。


 「レイトン達は明日にも向かうそうよ。それにしても、おもしろいわね」


 夕食後にソファーで皆とビールを飲んでいた俺に、カテリナさんが教えてくれた。


 「上手く行けば架台が1つ無くなります」

 「でも、火山と水脈って危険じゃないの?」


 「出会えば極めて危険だわ。でも、今までそんな兆候はまるで無し。レイトンの調査もどちらかと言えば水脈の調査が主目的よ」


 温泉でも見付かればいいんだけどね。まぁ、1日20㎥の水であっても貴重には違いない。

 

 「ところで、例の兵器だけど、標準装甲版の500mmを貫いたわ。いけるわよ!」

 

 「後は発射装置ですね。軍の装備にも無かったんですが……」


 そう言って、スクリーンを展開してロケット兵器の概念をカテリナさんに伝える。大砲はあるんだけど、ロケットが無いのが不思議なんだよな。かなり科学が偏って発達している感じがする。


 「なるほど、爆発力で一気に砲弾を撃つ出すのではなく、緩やかな爆発を維持する事で推力とするのね」


 「ダメな場合は、このようにカウンターマス方式にします。飛距離は砲弾より落ちますが、発射筒を保持する部分に反作用が生じません」


 2つの方式を提案しておけば、後はカテリナさんが引き受けてくれるだろう。

 タバコを咥えて火を点けるのを待ちかねたようにフレイヤが俺に聞いて来た。


 「何の話なの?」


 「ああ、パンジー2型を作ろうと計画してるんだ。ちょっと小さくなるけど、戦鬼を超える武装を考えてる」


 「爆弾でしょう? 250kgを用意したとベレッドじいさんが話してたわよ」

 

 「ちょっと、違うんだ。でも、威力は保障するよ」

  

 そんな俺達の話にローザが入り込む。

 

 「戦機ではなくて戦鬼なのじゃな? それだと戦姫と遜色が無くなるではないか?」


 「戦姫を超えるのは難しいよ。今のところはレールガンを小型化することは不可能だ。1発だけなら、40mm爆轟で打ち出すAPDS弾よりも貫徹能力が高い。標準装甲版50cmを貫くぞ」


 俺の言葉に一瞬皆が静かになった。直ぐにカテリナさんを見る。


 「本当よ。それをどうやって飛ばすかを先程リオ君が教えてくれたの。いよいよ山麓地帯の鉱石探索が出来るようになるわよ」


 山麓部は北緯55度以北になる。北緯70度付近の山岳地帯からなだらかに広がる斜面ではあるが長年の侵食で谷が多い。

 たぶん本格的な探索は、ラウンドクルーザーそのものを改良しないといけないかも知れないが、今までよりも緯度の高い地方を探索できる事は確かだ。大型巨獣の住処でもあるから、武装は今まで以上に充実させなければ簡単に巨獣の襲撃を受けかねない。


 「冒険好きな騎士団が北緯60度まで進出できたと聞いたぞ。じゃが、通信が送られてきただけで、帰っては来無かったとも聞いておる」


 明日にでも出掛けたいような言い振りだな。だが、そう簡単にはドミニクは行動を起こさない筈だ。冒険は暴挙とは違うのだ。入念な準備をして、自分が始めて納得できた状態で行動を起こすに違いない。


 

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