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V-142 カテリナさんの夢


 どうにか完成した母艦の名は、『バシリスク』と命名した。時速40kmで巡航できるから、1ヶ月以内の行動期間を考えると、行動半径は5千kmを超えるだろう。問題はゼロの発進回数だ。戦闘出動は3回分らしい。小型円盤機の滞空時間を上げた監視用円盤機を合わせて作ったらしいが、高度は500m、速度は時速200km程らしい。2人を乗せて6時間の飛行が可能だそうだが、武装は全く無い。

 一応、鉱石探査装置を組み込んでいるから、発見すれば位置情報が分るだろう。

 バージを曳かないから、ガリナムと組んで先行して鉱石探査を行って貰うつもりでいる。


 マクシミリアンさんが先行して送ってきた士官2名を乗せてバシリスクはガリナムとともに中継点を出て行った。

 その士官と共に、工兵中隊の士官がやってきて俺達と新たな区画の仕様を話し合っている。


 「今のヴィオラ専用桟橋の奥に横幅300m高さ200m長さ1000mの桟橋を設けることで良いでしょう。桟橋は東に伸ばせば今の工場に併設して工場を作れます」


 工兵部隊の士官であるジゼルさんが、平面図を見ながら俺達に説明してくれた。

 俺達が考えているよりもかなり大きい。ヴィオラ騎士団のラウンドクルーザーの修理だけでなく、カテリナさんの秘密工場で大型艦まで作れそうだ。


 「問題は中継点に影響を与えないで工事をする方法ですね。最終的には中継点の出口の谷間を作る東の尾根の反対側に出入り口を作らねばなりませんから、掘削機で工事用のトンネルを先行して作ります。後はそのトンネルを基本に拡張することになります」


 やり方は中継点の新たな桟橋作りと同じだな。

 工兵部隊の宿舎は工作船を使うとの事だった。と言うことは、工作船は1隻だけではないと言うことか?


 「船は3隻やってきます。工作船が2隻に補給船が1隻です。高速艇も使えますが資材が運べませんので200tコンテナ3台を曳ける船が補給艦になります」


 そうか、別に輸送船のように船内に資材を積む必要は無いということだ。

 これは使えるな。コンテナバージを引いて母艦並みの速度が出れば輸送船として使える。それならば通常の駆逐艦をそれ程改造しなくて済むし、防衛にも役立つな。


 「お任せします。いつ頃から始まるんでしょうか?」

 「そうですね。現在王都で資材の積み込み中ですから、早ければ数日で王都を出発するでしょう。後10日もあれば工事が始まります」


 その内、中継点の中にも事務所が欲しくなる筈だ。

 俺達の事務所と宿泊施設を期間内貸与することを約束すると、ジゼルさんはホテルに引き上げて行った。明日にはヴィオラ専用桟橋の事務所に移ってくるだろう。

 後は工兵隊に任せておけば良い。


 カンザスのリビングに戻ると、宝探しツアーで感じた、違和感について考えた。

 カテリナさんは古い時代の宇宙船ではないかと思っているようだ。それを研究するのは宇宙への頚木を外す為なのか?

 だが、既に既得権益として宇宙での資材輸送を生業とする勢力もあるのだ。

 その勢力からすれば、由々しき事態として妨害に出る可能性すら考えられる。最悪、

この惑星に取り残されないとも限らない。 

 その連中と事を構えないで宇宙に進出する手を考えなくてはならないだろうな。

 

 「どうしたの。深刻な顔をして?」


 カテリナさんがテーブルを挟んだ席に坐る。俺の顔を笑みを浮かべて見ながらタバコに火を点けた。


 「ちょっと、先を考えてたんです。カテリナさんの夢は宇宙への旅立ちでしょう。なぜ、それを考えているのかと……」

 「小さなころからの夢だったのよ。何時かはあの空の彼方に行く、それを叶える為にずっと勉強したわ。でも、大人になって制約があるのが分かったの。3つの王国に属するものはこの惑星系を離れる事が出来ないというものよ。……残酷よね。そんな時に騎士団を知ったわ。少し経って制約をもう一度調べたの」


 制約があるという事か。古代の戦で敗退したって感じなのかな。


 「3つの王国に属する者は……、と明確に書かれていたわ。なら、3つの王国に属さない騎士団ならと考えたわけなんだけど……」


 宇宙船を建造できる財力を持った騎士団は、今のところはいないはずだ。

 だが、俺達なら作れるんじゃないか? 今はダメでも、中継点の運営が軌道に乗れば莫大な富を俺達は手に入れる事が出来る。

 それを使って、地表を飛立つか……。


 「1つ教えてください。カテリナさんはあれを古代の宇宙船と考えていますね。古代のものであれば今では動かないでしょう。それを調べる目的は?」


 「反重力制御装置よ。私達が使っているものは能力が小さいの。あまり高く飛べないわ。艦体の重量軽減が良いところね。カンザスはそれでも装置を増設して300m程の高さを飛ぶ事が出来るわ。でもそのために動力炉を複数取り付けねばならなかった……」


 システムが異なるという事か? それと全く異なる原理の反重力発生装置になるんだろうか?

 だが、アリスは重力勾配を自由に作れるぞ。それにムサシも平面であれば勾配を帰ることが可能だ。

 戦姫を分解して調べればもう少し分るかも知れないけど、各国とも1機だけだからな。承認はしないだろう。

 発掘して調べたいというのはその辺りに理由がありそうだ。


 「素朴な疑問なんですが……。重力制御システムは、この惑星に入植してから発展しなかったんですか?」

 

 「小型化されたわ。出力も小さくなったわね。でもそれで終わり。元のシステムがどうだったかは何時しか資料が失われてしまった。現在の反重力システムはラウンドクルーザーに搭載された物を基にしているの。大電力を使うから発電炉が大型になるのが問題ね」


 宇宙船とは全く違ったシステムで反重力を生み出しているようだ。惑星で実用化することで今のシステムが確立してしまい。それ以外の使用目的がなかったのかも知れないな。場合によっては、争いの中で禁書扱いになったことも考えられる。


 「でも、それ以外に、もう1つの方法がありますね」


 「リオ君が許可してくれないでしょう?」

 

 そう言って俺を見て微笑む。やはり狙っていたんだな。

 

 「いや、そうじゃなくて、もう1つの方法です。アリスに聞いてみるという選択肢が残ってますよ!」


 俺の言葉に、ポカンと口を開けている。

 

 「出来るの?」


 俺の言葉を聞いて、しばらくしてからようやく小さく呟いた。


 『教える事は可能ですが、理解出来るかは判断出来かねます』

 

 「この世界の物理学では理解できないという事かしら?」


 『私の重力勾配は体内に生成した4つの反重力装置の出力を変化さえる事により重力勾配を作っています。地上から宇宙空間に直接飛立つ事も可能です』


 「今、生成したとと言ったわね?」


 何時の間にか、何時ものカテリナさんに戻っている。

 タバコを楽しみながら、ぼんやりを俺を見てるようだが、頭の中はとんでもない勢いで思考が回転しているようだ。

 

 「ひょっとして、アリスの反重力装置は、マイクロブラックホールを応用してるという事かしら?」


 『正解です。任意の大きさに生成する事により重力勾配の向きを変えることが出来ます。グランボードやラウンドクルーザーのようなメビウス回路は使っておりません』


 「正に究極のシステムね。でも、それなら莫大なエナジーを必要とするのではなくて?」


 『高次元からの介入で物理定数を書き換えることにより空間そのものを変化させる事が可能です』


 「数理演算推進システム……。それで、アリスが異次元に隠れる事が出来る訳ね。リオ君が瞬間移動したように見えたのもそれを使えば可能だわ。……でも、残念ではあるわね。まだその理論をシステムとして形には出来ていないのよね」


 理論はあるようだ。だが物理科学技術がそこまで発展していないという事だろう。

 となると、アリスの方法は使えないという事になる。良いアイデアだとおもったんだけどなぁ……。


 「やはり、発掘して恒星間航行を可能とした推進システムを調べないといけないようね」


 『今の反重力装置よりも出力が大きければ良いのですか?』

 

 アリスの言葉にカテリナさんが首を傾げる。


 『私の推進システムは理解できなくとも、ムサシのシステムなら応用が可能ではないでしょうか?』


 そう言えばムサシも滑空出来たんだよな。でも、平面だけで高度はそれ程取れないぞ。

 あれって、グランボードの反重力装置と同じなんじゃないのか?


 「グランボードはメビウスコイルを使った反重力装置よ。ムサシは違うの?」


 『メビウスコイルから進化したクライン機関です。3次元構造のメビウスコイルを想像して頂ければ理解出来ると思うのですが……』


 突然、カテリナさんが端末をテーブルに取り出して、仮想キーボードを叩き始める。

 俺の目の前に投影されたスクリーンに、目まぐるしく文字列と数字が列をなし始めた。

 

 文字列は記号なんだか、数式なんだかさっぱり理解できないけど、カテリナさんの目はそれを瞬きもせずに追い掛けている。


 これは放っておくしか無さそうだ。

 タバコを咥えて火を付ける。終るまでは話しかけても返事は期待できそうもない。

 

 「どうなってるの?」


 『私の言葉でヒントを掴んだようです。さすがはこの世界の科学の重鎮ですね』


 ライムさんに頼んでコーヒーを作ってもらう。

 2本目のタバコが終っても、まだカテリナさんの作業は終わらない。いつの間にか最初のスクリーンの隣にサブスクリーンまでが展開している。


 呆れ果てて、カテリナさんの顔をマジマジと見た時だ。

 突然、俺に顔を向けるとニコリと笑い顔に変わった。

 ゾゾォーっと背筋に寒気が走る。何となくネコの前のネズミの自分が思えて来たぞ。


 「リオ君!」


 「ハ、ハ、ハィ!!」


 自分でも声が裏返ってるのが分る。これはいよいよ食べられるのか?


 「出来るわ!出来るわよ!!」


 そう叫んだかと思うと、リビングを飛び出していった。

 コーヒーカップを運んで来たレイムさんが、呆気に取られてバタンと閉じられた扉を見ている。

 まぁ、元気になったことは良い事に違いない。ラボに閉じこもっていれば犠牲者を出さずに済むはずだ。



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