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V-141 マクシミリアンさんとの交渉





 中継点に戻り、何時もの日常が始まる。

 10日程の行程で鉱石探索を行い5日間の休憩を取る日々が続くのだ。とは言っても、4回の鉱石探索を行なえば10日間の長期休暇がまた始まる。

 単調な日々が続くと士気が下がるから、王都で羽を伸ばすのは必要な事なんだろうな。


 「マクシミリアンさんがやってくるわよ」

 

 カンザスのリビングで何時ものようにソファーでくつろいでいる俺に、ドミニクが教えてくれた。

 俺の隣に座ると肩を預けてくる。


 「たぶん、例の件だと思うよ。工兵を貸してくれる筈だ。だが、それには条件が付く」


 「母艦へ士官を送る話ね。それ位は問題ないわ。新しい艦長も軍隊経験者だから、上手く対応してくれるとメイデンさんが言ってたわ」


 メイデンさんが推薦してくれた艦長も、メイデンさん並みの人だった。元はメイデンさんの部下だったらしいが、しっかりとメイデンさんの薫陶が染み付いている。それに、元々行動的な人だったんだろうな。名前はサンディと言って、フレイヤと同年らしい。装舵手はライトネンという男性だった。

 総員100名だが、ゼロの乗員と機体整備等の関係で、トラ族とドワーフ族それにネコ族の連中が殆どだ。人間族は数人しか乗船していないのも、ちょっと異質ではあるな。


 「ひょっとして、交渉を俺に任せるなんて言わないよね?」

 

 「一応、エミーと2人で交渉に当れば良いわ。2人なら問題ないでしょう。工兵は1個小隊を希望しておくわ」


 そんな事を一方的に俺に伝えると俺にキスをしてジャグジーに向かった。当直明けだから、一眠りするんだろうな。

 確かに、エミーが一緒ならば向こうだって無碍には出来まい。

 元王女の存在は王国軍にとっても無視出来ないものがあるだろう。ちょっとズルイ考えではあるが足元を見られないようにする手ではある。


 10日程が過ぎて、中継点で過ごしていると、夕食時にドミニクからマクシミリアンさんの来訪が明後日だと知らされた。俺とエミーで対応して欲しい旨の話をすると、エミーは2つ返事で了承している。穴掘りに飽きたのかな?


 「いよいよ東側の拡張工事が始まるのね。こちらは私達の区画だから嬉しいわ」

 

 「じゃが、工場と大型の実験区画のようなものじゃ。あまり利用することが出来ぬと思うが?」


 「そうでもないさ。区画を仕切れば桟橋としても利用できる。現在は4隻だけど、母艦が増えるからね。出来ればガリナムをもう1隻作りたいと思ってるよ」


 救援目的ではあるが、西の大陸を巡航すれば先行して鉱石探査が行なえる。ヴィオラに搭載した高精度の探査装置ではなくても地下10m位の探査装置を積んでおけば、鉱石採掘が有利に行なえる筈だ。


 「確かに、あの武装ではのう……」


 たぶん皆の考えも同じだろう。40mm滑腔砲が2門に30mm連装機関砲が2門だからな。だけど、時速50kmは出せるから、基本的には巨獣が現れたら逃げる事を考えれば良い。後はガリナムとゼロが対応してくれる筈だ。

               ・

               ・

               ・


 俺とエミーでは心許ないと思ったのかカテリナさんが同席してくれた。

 カンザスの応接室でマクシミリアンさんを待つ。非公式な訪問であっても、随行者が数人いるらしい。何と言ってもウエリントン王国軍の総司令官だからな。


 ライムさんがマクシミリアン一行を案内してくれた。来室を報告してくれたので俺達は席を立って出迎える。


 「だいぶ大きくなりましたな。これほどの規模だとは知りませんでした」


 そう言って、俺達に握手をすると、随員を簡単に紹介する。工兵軍団の団長や陸戦軍団の団長までいるのは驚きだ。

 席を勧めながら俺達3人の紹介をすると先方が意外な表情をする。


 「騎士団の中継点に向かうとだけ告げていたのですよ。彼らにとっては少し意外なところでしょう。これは土産です。後でお楽しみ下さい」


 随員の1人が大きな箱を俺達のところに運んで来た。たぶんあれだな。アレク達にも分けてあげよう。

 

 「わざわざ済みませんでした。総司令官殿が遠路中継点を訪れたということは、俺達との取引を了承して頂いたということでよろしいのでしょうか?」


 ライムさん達がコーヒーを運んでくれた。この部屋での喫煙は問題ない事を告げて、俺は一服しながらマクシミリアンさんの答えを待つ。


 「国王が乗り気では、私が反対等すれば更迭されますよ。各軍団長を集めて新しい兵科を説明したところ反対する将軍はいませんでした。私も基本的には賛成です。

 そこで、取引という事になるわけですが、2個中隊の工兵隊を派遣しましょう。期間はカテリナ博士の設計した区画工事が終るまで……」


 俺達が強請ろうとした工兵の8倍だ。これはとんでもない難問を要求してくるぞ!


 「我等には新しい兵科の運用があまり理解出来ません。ゼロの有効性は誰もが認めていますが、効率よく運用する為の考えがいまひとつなのです。他の王国も同じでしょうが、我等が少し先んじればそれなりに役に立ちます。誤解無きように願いたいのですが、我等は他国を侵略する考えはありません。現在3つの王国は互いに密接に結びついていますから、互いに相手を侵略する考えはありません」


 航空部隊の運用を教えてくれって事か?

 円盤機はあるが、積極的な利用はされていない。偵察と連絡が主だからな。武装も貧弱だ。まあ、小型だから反重力装置の制限がある以上仕方が無いのかもしれない。戦闘用円盤機でも小型の巨獣が精々だからな。

 だが、ゼロは今までの常識が通用しない。機動兵器だから中型クラスまでは巨獣に対抗できる。問題は行動半径と補給なんだが、その辺りの考えに常識が入ってしまうんだろうな。


 「離宮では、士官を同乗させるという事で学ばせようと思っていたのですが……、いっその事、母艦込みでお預けしたい。兵科としては新規ですが、一応戦闘用という事で陸戦軍団に組み込もうと思っています」


 それで、陸戦軍団長が同席してるんだな。

 だけど、俺の一存で決めて良いのか?


 『リビングに皆さんが集まっています。マクシミリアンさんの提案に賛同していますから、騎士団として了承しても問題無いとドミニク騎士団長が伝えて欲しいと……』


 覗いてるのか?

 まあ、それでも意見が一致してるなら問題ないだろう。


 「1つ条件があります。こちらにいる間は騎士団の指示に従って頂きたい。ゼロを中核とした機動艦隊の打撃力はある意味、戦艦を上回ります。とは言え、それはちゃんとした運用が出来ればの話。緯度の高いこの辺りには中型巨獣以上の物まで現れます。被害を低減する為にそれだけは守って頂きたい」


 俺の言葉に相手の緊張した表情が穏やかになった。条件と言っても危険性を減らす為なら当然の事と納得してくれたようだ。


 「一応、ここに書類を用意しました。内容の確認と出来れば署名をお願いしたいのですが」

 「先程の条件は付則してもよろしいですか?」

 

 直ぐに用意した書類にマクシミリアンさんがペンを走らせる。

 改めて俺達に運ばれてきた書類に目を通すと、カテリナさんとエミーの確認を取る。

 エミーが頷いて渡してくれた書類にペンでサインをすると机越しにマクシミリアンさんに手渡した。

 さらに、もう1つの書類が渡される。内容は全く同じ。両者で持つためにそうしているらしいがコピーで良いような気がするな。形式って奴だろうけど必要なんだろうか?


 「それでは、工兵部隊は10日後にやってきます。工作艦を同行させますから、グラナス級の停泊場所を確保願います。

 それと、出来れば簡単にゼロの運用と母艦それに随伴する艦船の考え方をご教授願えませんか?」


 それがこれだけトップを連れて来たもう1つの理由なんだろうな。

 ここはマクシミリアンさんの顔を立てねばなるまい。


 「簡単で良いですよね。前もっておっしゃって頂ければ、それなりに用意出来たんですが……。」


 アリスに手伝って貰いながら、スクリーンを展開して説明を始める。

 俺の思考を追いながらグラフィックを作り上げるから、カテリナさんが感心して見ているぞ。


 「今までは戦艦を主体にした作戦考えていた筈です。大口径の艦砲の直撃を受ければ、超大型巨獣でもない限り殲滅出来ます。ですが、戦艦の設計思想の1つに搭載する艦砲の直撃に堪えるというのがある筈です。これを守る限り全体重量が増して速度が遅くなります……」


 そんな感じで大艦巨砲主義の考え方を復習する。俺の考え方で自分達の戦闘艦に対して改めて思い出しているようだ。


 「次ぎにゼロを搭載する母艦ですが……」


 アウトレンジ攻撃と言う考え方を説明する。戦闘半径が20km程から500km程に拡大する。さらに、艦そのものが相手に近付かないから装甲を増やす必要が無い。結果的に巡航速度を大幅に上げる事が可能になる。


 「とは言え、ゼロで対処出来ない巨獣が現れた時を考慮する必要があります。そのために母艦より速度のある砲艦を随行させる必要があります」


 簡単に説明したところで、ライムさんが改めて飲み物を運んで来た。

 ちょっとしたコーヒータイムだから、雑談じみた質疑で緊張を解す事が出来るな。


 「正に完璧な考えですな。最初にこの艦隊を作れば大陸を統一出来るのでは?」


 「簡単に敗れますよ。目には目をの考えで十分です。母艦を破壊されたらそれで終わりです。円盤機に搭載した爆弾で十分でしょうね」


 装甲を持たないというのは、そういうことだ。

 それに相手が対艦ミサイルでも開発すれば、レーダーや円盤機野探知距離外から攻撃出来る。

 それに対応する兵器は作れるだろうが教えないでおこう。


 「強力ではあるが脆弱でもあるということですか……」

 

 皆が一様に考え込んでいるな。万能な兵器なんて無いからな。覇権なんて考えないようにしておかねばなるまい。


 「もし、リオ殿が王国軍の私の立場なら、編成をどのように考えますかな?」


 「そうですね。あくまで西への進出を考慮すればの話ですが……」


 小型母艦2艦と駆逐艦5隻の艦隊。ゼロが16機あれば十分中型巨獣を群れで狩れる。巡航速度は50km程を出せるだろうから、西に2千km以上進出しても作戦行動が取れるだろう。

 大型母艦1隻と小型母艦2隻に巡洋艦2隻と駆逐艦が5隻。この編成なら周囲500kmを作戦半径に出来るだろう。補給艦の随行も可能だ。優に3月程の航行が出来るだろうし、大陸の西岸までもが艦隊の行動域になれるかもしれない。


 「国王が大型母艦を戦艦に変えて作る事を検討せよと言ったのは、それを考えていらっしゃったのですな。正に先を捉える目を持っている」


 西への進出を図る上では騎士団に頼ってばかりでも困る。まだ見ぬ巨獣だっているだろうからな。

 それに対応出来る軍が荒野で作戦行動を取っていれば騎士団も安心出来るだろう。

 いよいよ西への進出が現実味を帯びてきたな。

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