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V-139 国王の考え


 今回は高速艇で王都に向かう。ヴィオラ騎士団の艦船の総点検をベレッドじいさん指揮の下で行なうらしい。

 総勢50人を越すドワーフ族の人達が4隻のラウンドクルーザーを片っ端から点検するというんだから凄いと言うかご苦労様と言うか微妙なところだな。

 そんな訳で俺達は高速艇2機に乗り込んで王都に向かって飛行中だ。

 

 「カテリナさんとヒルダさんに会うんでしょう。エミー達は連れて行かないの?」

 

 前の席から後の俺を覗き込んでフレイヤが聞いて来た。


 「一応、商談になるんだ。次ぎの日にはツアー船に送り届けて貰えると聞いてるから、待ってて欲しいな。ひょっとしたらマクシミリアンが飲めるかも知れ無いよ」

 「それは楽しみね。期待してるわ」


 俺も期待はしてるんだけど、向こう次第だからな。

 カテリナさんとドロシーが作ってくれた母艦とゼロのカタログをスクリーンで確認しながらプレゼンテーションの内容を確認する。

 自信を持って話せば良いと、商会の人に元気付けられたけど、俺はそもそも商人じゃないからな。あまり自信はないんだよな。

 とは言え、上手く行けば東の工事が楽になるんだから頑張らないといけないのは確かだ。一眠りから覚めた後は酒も飲まずにプレゼンテーションの予行を頭の中で繰り返す。


 そんな事をしている間に、王都の大きなホテルの屋上に高速艇は着地した。

 ワイワイ言いながら休暇を楽しむ連中が続々と高速艇を降りてホテルのエレベーター乗り場へと向かっていく。

 そんな中、俺とカテリナさんは迎えの円盤機へと移動する。

 ヴィオラ騎士団の多目的円盤機のような乗り物だ。塗装が蒼だから軍用なんだろう。

 軍服を粋に着こなした3人が操縦する円盤機は王都の摩天楼を縫うように走り抜け、王宮へと俺達を運んで行く。


 王都の中の緑の森林地帯。そこが広大な王宮区域だ。白亜の神殿風の建物の傍に円盤機はゆっくりと降りていった。


 「第2離宮です。歓談後、お二方を送るよう命じられていますので我等はここで待機します」

 「ご苦労様です。3時間は掛からないでしょう。申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 一応丁寧に労をねぎらっておく。俺達の遊びの場まで送ってくれるんだから、ちょっと申し訳ない気持ちだ。


 カテリナさんと第2離宮の玄関に向かうと侍女が2人俺達を待っていた。

 

 「ご案内するにゃ。総司令官殿も先程いらっしゃったにゃ!」

 「あまり待たせちゃ悪いから急いで案内してくれませんか?」


 そう言った途端に走り出したぞ。確かに急いでとは言ったけど、走る必要はないんじゃないか?


 50mほど通路を走ったところで扉の前で止まった。コンコンと扉を叩き静かに俺達を中に案内してくれた。


 「リオ公爵様御一行の到着にゃ」

 「おお、やっときてくれたか。どうぞこちらに」


 マクシミリアンさんが席を立って俺達を招いてくれた。ヒルダさんがにこにこしながら俺達が近付いてくるのを見ている。


 椅子を引いてカテリナさんを座らせて、隣に腰を下ろした。

 そんな俺を見てマクシミリアンさんが感心している。


 「中々礼儀が身に付いてきましたな」

 「直ぐに剥がれますよ。やはり元が貧乏な平民ですから」


 「それでも、だいぶ様になっていますよ。あの地では、それぐらいで良いのではと思います。貴族が全て上品ではありませんからね」

 「全くです。少しは礼儀を学んだのかと思いたくなるものも多いですからな」


 そんな事を言ってるという事は、貴族の粗暴が目立つという事なんだろうか? それはそれで面倒な話だな。


 「ところで、スコーピオの殲滅には恐れ入りました。我等王国軍も援軍を差し向けたのですが、リオ公爵の全軍撤退の合図があの時成されていなければと参加した将官どもが胸を撫で下ろしていましたぞ」


 そう言って俺の前のグラスに酒を注いでくれた。

 一口飲んでみると、マクシミリアンだ。思わず残りを飲んでしまうと、笑みを浮かべながら残りを注いでくれた。


 「でも、それは本当の事ですの? リオ公爵の勘の鋭さは、科学的な観測を上回るんでしょうか?」

 「残念ながら、そうだとしか言えないわ。かなり前から私に告げてはくれたんだけど……。直径数十mの隕石を発見するのはあの時点では無理ね。リオ君の忠告で3王国のアカデミーを総動員して観測網を広げていたおかげで落下10分前にようやくメテオストライクの危険性を確認できたわ。確かにリオ君があの号令を出してくれなかったら、かなりの損害が軍と騎士団に出てたでしょうね」


 ヒルダさんが改めて俺を見る。


 「新興宗教の開祖になれば、信者が集まるかも知れませんね」

 「ご冗談を……。ですが、あの号令を出して倒れてしまいましたから、皆には申し訳なく思っています」


 「とは言え、我等の力になることは確かです。アカデミーも、リオ殿との間にパイプを作りたがっていますよ」

 「何が起きるか分らないんでは、予言めいた事はいえませんね。可能な範囲でカテリナさんに連絡は入れるつもりです」


 俺の言葉に2人は納得したようだ。カテリナさんへの連絡ぐらいは今までもしてきたからな。それ程大変な話ではない。


 「ところで、私に話がおありになるとか?」

 「ちょっとした、商談にやってきました。ゼロはご存知ですか?」


 「もちろんです。我等も12機を差向けました。素晴らしい活躍をしたと映像を見て国王と感激したものです」

 「ならば話が早い。実は……」


 バッグから端末を取り出すと仮装スクリーンを展開してゼロのバリエーションと母艦についてプレゼンテーションを始める。

 直ぐにマクシミリアンさんは俺の話を聞き漏らさすまいとジッとスクリーンを見詰めている。

 

 30分程のプレゼンテーションを終えると、酒で喉を潤し、タバコに火を点けた。

 いつの間にかヒルダさんとカテリナさんは紅茶を飲んでいる。


 「これは、とんでもない思いつきですな。大型巡洋艦に数機を載せて運用しようと考えておりましたが、このような使い方も出来るのですな」

 「機動艦隊になるでしょうね。時速50km以上で荒野を巡航すれば西へ進出している騎士団の大きな助けになります」

 

 「場合によっては戦艦を凌ぐものになるでしょう。戦艦の主砲の射程は約30km。ゼロの作戦半径は500km程あるでしょうから、影響範囲が20倍近くになるでしょう。その資金も戦艦を作るより遥かに安くなります」


 「当然、パテントは取ったのでしょう?」

 

 いたずらっぽい目で俺達をヒルダさんが見ている。


 「取ってあるわ。それで相談なの。マクシミリアンさん。王国軍に必要かしら?」

 「必要です。ウエリントン王国が西への版図を広げる上でも必要になるでしょう。いずれ我が国の中継点を西に作るのであれば当然のごとく、その防衛を考えねばなりません。戦艦を作らずにこの艦隊を作るよう具申するつもりです」


 つかみは出来たか。これでここに来た目的が言えるな。


 「パテントは3つの王国とも尊重しています。そのパテントが得られなければ工廟も製作を行う事が出来ません。最初から大型母艦を作るのは色々と問題もあるでしょう。この12機を搭載する母艦とその護衛用砲艦のパテントを2艦隊分提供します。その代わりと言っては何ですが、工兵をお貸下さい。中継点にゼロの製作工場とラウンドクルーザーの試作艦を作る桟橋を作りたいんです」


 「大型母艦ではなく小型母艦の2艦隊ということか……」

 「先ずは運用を学ぶべきかと。それなら小型母艦でも十分です。大型母艦を手に入れた時のゼロの運用が容易になるでしょう」


 俺の言葉に、ヒルダさんがマクシミリアンさんから俺に視線を移した。

 

 「運用の練習……。練習艦隊とするという事ですか?」

 「そうです。たぶん、軍の中には戦艦や重巡洋艦の砲撃こそ一番と考えるものが多いはずです。それを駆逐艦程度の船で巨獣と遣り合おうというんですから、最初から大型母艦は無理でしょう。もし作ったとしても従来の艦隊に組み込まれてしまいます。それでは目的とした機動性が失われてしまいます」


 「なるほどな……。確かにその可能性はあるかもしれん。やはり国王と相談せねばなるまい。結果は数日内に……」


 「今でも良いぞ!」


 そう言って、部屋に入ってきたのは国王とトリスタンさんだった。


 「そのままで良い。たまたま来ていただけだからな。公式ではない」


 そう言って、トリスタンさんが近くにあった椅子を運んで俺達のテーブルに着いた。


 「この面子を見れば、ゼロの話だと直ぐ分る。それで、総司令官がワシに相談とは珍しいと思ったのだが?」

 「ゼロを12機載せた母艦のパテントと引換えに工兵を貸して欲しいとのこと。スコーピオとの戦いでゼロの活躍は戦機と同等以上の活躍を見せております。ただ、運用的にはいささか問題がありまして、艦船に多くを載せられません。それを駆逐艦を母艦化して12機を載せるというのは目から鱗ではありますが、交換条件については兵を動かす事となります。私の一存では……」


 「マクシミリアンが役に立つと思えばその通りに致せ。パテントと引換えなら安いものだ。工兵の訓練にもなろう。更に付け加えるなら、ヴィオラ騎士団にはもうそろそろその母艦が出来上がるのではないのか? その母艦に士官を派遣して運用を学ばせるぐらいはお前の一存で構わぬぞ」


 こういうのを鶴の一声って言うんだろうな。

 士官の育成はちょっと以外だったが、それ位は構わないだろう。

 

 「ところで、記録は撮っていただろうな?」

 

 国王の言葉に、溜息を付きながらカテリナさんがクリスタルを2個国王の前に差し出した。


 「一応、メテオインパクトの画像も入っています。まじかであの隕石を観測できましたから」

 

 トリスタンさんと顔を見合わせて微笑んでいる。戦闘記録が目的でこの部屋にやってきたのかな?

 そんな国王に再度プレゼンテーションの画像を映して簡単な説明をする。

 

 「マクシミリアンよ。戦艦は必要か? この大型空母を我等が持った方が遥かに軍備が充実すると考えるのだが……」 

 「幕僚に検討させましょう。戦略シュミレーションで確認もしてみます」


 「戦艦の時代が終るという事か……。だが、記録に残る巨獣の大きさは巡洋艦級の大きさを持っている。それをどう対処するかについても考える必要があるぞ」


 目先の利益だけを追うんじゃないと言う事か? 確かにそれも重要だ。まだ見ぬ巨獣だっているんだからな。

 タバコに火を点けて考え込んでいた俺の顔を、いつしか全員が見ている。俺に答えを求めているのか? だけど、そう簡単な話では無さそうだ。

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