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V-138 誰に頼むか


 中継点に戻ったところで、ドミニク達はアデルのところに出掛けて行く。俺とカテリナさんは商会の責任者とザクレムさん、それにラズリーとマリアンとの会合になる。

 中継所の事務所にある会議室で、全員の顔ぶれを再度眺めながら話を始めた。


 「現在工事が進行中の桟橋の西に新たな工場を作ろうと思う。規模は片側でタナトス級が2隻以上修理できるものとする。もう片側は隠匿工場だ。カテリナさんが新型ラウンドクルーザーを開発する為のものだ。桟橋の横幅は100m。その中に部品工場とゼロの組立工場を収める。桟橋が増えることになるから現在工事中の転回ホールを広げるとともに尾根に向こう側に新たな入口を作ることになる……。工事スケジュールと工事費の積算をお願いしたい」


 大型スクリーンに概要図を示しながら説明したのだが、しばらく誰も声が出ない。

 事務員が運んでくれたコーヒーを飲みながら、タバコに火を点けて皆の反応を待った。

 やはり、新たな工事は無理か……。


 「私から、よろしいでしょうか?」


 ザクレムさんのちょっと控えめな問いに頷く事で答える。


 「現状の中継点の経営は黒字になっています。来春には新たな桟橋で騎士団の受け入れも可能になるでしょう。屋外のバージ桟橋やコンテナ桟橋も新たな桟橋によって受け入れられる騎士団の荷役に十分間に合います。この工事の意図が我等には理解できません」


 「大きくは2つの理由がある。1つは西を目指すラウンドクルーザーの修理場所が無い。王都の工廟は5千km物距離がある。ある程度の故障や大掛かりな部品更新を行なう場所を確保したい。もう1つはゼロの製造を行なうことだ。スコーピオの孵化ではかなりの戦果を収めた。騎士団からの注文も多い。王都で生産されたゼロは軍に納入されている。騎士団への販売は俺達で行ないたい。隠匿工場は次ぎのラウンドクルーザー開発に必要になる」


 「それなら、隠匿工場は東に造るべきでしょう。グラナス級を持つ騎士団も多いのです。桟橋の両側にあっても問題はありませんし、修理する船がいない場合は通常の桟橋としても利用できるはずです。ゼロと新型ラウンドクルーザーであれば秘密もあるでしょう。ヴィオラ騎士団専用区域に設置するべきと思いますが?」


 確かにそれも考えた。

 だが、その場合は工期が伸びるし、トンネル工事もバカにはできない。更に資金が必要になるのだ。


 「どうでしょう……」


 そんな前置きをして商会の1人が提案してきた。


 「工事管理を2つに分ければよろしいかと。西の桟橋は我等が資金を出しても問題ありません。更に尾根を越えた場所にコンテナ桟橋を作れば現在の2倍以上の荷の積み下ろしが可能になります。たぶん3倍に増やすことが可能でしょう。十分回収できる資金だと思います。それに桟橋の上部に居住区域も増やせますから、住民を更に増やす事も可能です。東の桟橋は大型艦1隻分で十分でしょうから、ゼロの製作工場を加えても中継点の資金で可能でしょう。問題は工事費ですが、公爵領なのですから工兵を使えば隠匿性も確保出来るでしょう」


 なるほど、それも考えられるな。

 

 「私も、西の開発は公開する場とした方が良いと思います。整備工場や、部品工場もある意味共通したものですから、ヴィオラ騎士団が必要な物は工場から手に入れれば良いのです」


 マリアンも同じ意見のようだ。出入り口がもう1つ増えるんだから、管制するライズも頷いてるな。優先件があるヴィオラ騎士団の出入港は、ある意味管制上の悩みかもしれないな。


 「西の工事を今の工事に整合させて計画してくれ。今回の遠征で王国の株が譲渡された。来年度の決算は、この配当も工事費に含められる」

 「その配当は、東の工事に使うべきでしょう。西への拡張は、修理工場と部品工場で収益を上げられます。王都の中規模工廟をまるごと移設出来ますぞ!」

 

 1人の商人の言葉に同席した商人達が頷いている。

 彼らでどうにか出来るという事か? それなら俺達は東を対応すれば良いな。


 そんな話が終わり、ザクレムさんが全体を調整してくれることになった。東の方はカテリナさんが笑顔を浮かべているから腹案があるんだろう。

 

 「それにしても、南のバージ中継所が出来たので来訪する騎士団が減るのではないかと思っていたのですが……、かえって増加しております。小規模騎士団は南を利用し、中規模騎士団がこの地を利用する機会が増えています。パスの発行枠を各国とも20枚増やしましたぞ」

 「巨獣に対処できるか否かが利用する騎士団を分けていますな。ゼロの噂は私共聞き及んでおります。スペックを変えて数種類の型とその値段を積算していただければ、我等が販売代行を行なうことに依存はありません。是非ともお願いいたします」


 「次ぎの開発費を得るために、少しまとまった数を作ろうと思います。値段は……」

 「低スペックなら獣機3体分と言うところかしら。高スペックでも4機分を越えないと思ってるけど、100機程作っても売る事は可能かしら?」


 商会の連中が顔を見合わせる。やはり高いかな? もう少し安くしないと売れないんじゃないか?


 「その値段で販売したら、争奪戦が起きます!」

 「2回目の脱皮を済ませたスコーピオに対応できるのです。戦機並みの働きですぞ!」

 「最低でも、獣機5機分。高スペックであれば獣機10機分でも売り出せばたちまち売り切れます」


 今度は俺とカテリナさんが顔を見合わせた。

 そんなに売れるとは思わなかったし、材料と組み立て人工費を合わせても獣機2機分で低スペックの機体は出来るのだ。獣機1機分、約5千Lを儲けと考えていたのだが……。


 「スペックを変えて3機種を作ります。仕様を開示しますから値段を決めてください。出来れば受注もお願いします。テストが終了次第お渡しするという事でどうでしょうか?」

 「十分です。ある程度まとまった数の納品でお願いします。そうですね。数機単位でお願いします。我等で割り振りを考えれば互いに足を引き合う事もありません」


 販売を独占できるという事で、少し熱くなってるな。だけど、それ程売れるんだろうか?

 ラウンドクルーザーも少し改造する必要もあるんだよな。


 彼らと別れて俺達はカンザスへと帰ってきた。

 ソファーに腰を下ろして冷えたビールを酌み交わす。


 「やはり、戦機並みの機体が欲しいという事でしょうか?」

 「そうね。数機あればそれなりに巨獣に対応出来るわ。さすがに大型は無理でしょけど、中緯度で鉱石を探すには十分だと思うわよ」


 ニーズは強いってことなんだろうな。

 だが、ダモス級なら搭載数が限定されるぞ。改造しても4機は積めないんじゃないかな?

 

 「やはり、セットで母艦も売るべきでしょう。ところで、俺達の母艦はどうなってます?」

 「もうすぐ完成よ。休暇が終れば運用を開始出来るわ。乗員の方も手配できたみたい。さっきの話だけど、母艦を売るのは考えものよ。獣機の搭載が出来なくなるわ」


 「グラナス級ならば数機は積めるでしょうが、ダモス級では精々2機でしょう。それでも走行甲板に露天駐機になりかねないと思います。そんな事をしたら嵐で飛んでいってしまいますよ。少し改造する必要があります」


 ドロシーに頼んでダモス級の改造を絵にしてもらう。

 全長を少し伸ばして、艦内に駐機スペースを確保する。伸びた分だけ走行甲板を延ばして半分に屋根を作る。これで、艦内に2機、走行甲板に2機積める筈だ。75mm砲はブリッジの前後に2連装砲塔を積んで火力の低下をカバーすればいい。


 「こんな形ですけど……」

 「延長は10m程度になるわけね。駐機区画と昇降機それに装甲甲板のカバーならそれ程金額はかさまないわ。今建造中の母艦の簡易型と、このダモス級の改装型をカタログに追加しましょう。それと、更に案があるんでしょう?」


 ドロシーの描いた図面を眺めながら、ビールを美味しそうに飲んでいる。


 「グラナス級を使うなら、20機を越えるゼロが使えます。基本は今使っている母艦と同じですが、装甲甲板を更に広げて、船体内に格納庫と弾薬庫を設ければ機動部隊として運用も可能でしょう」

 「軍がゼロの有効性をかなり評価しているわ。でも、母艦を作るまでは検討していないみたいね。これは軍にプレゼンテーションしても良いかしら?」


 「マクシミリアンさんに売り込みますか?」

 

 カテリナさんに笑みを浮かべる。

 グラナス級の母艦にガリナムのような機動性のある砲艦を加えたら巨獣の防衛にかなり役立つだろう。西に造る拠点の防衛には是非とも欲しい所だ。


 後はカテリナさんに任せておこう。商会の注文には直ぐに応えられないけど、1年後に順次引き渡す事で了承して貰えば良い。


 「そうだ! カテリナさん。これのプレゼンテーションの引換えに工兵を送ってもらうのはどうですか? アイデアとしてはいずれ誰かが思いつくでしょうけど、パテントを取れば軍もおいそれと作れないんでしょう?」

 

 「その手があるわね。任せといて。それに、マクシミリアンならプレートワームの1件で私達を知っているから話がし易いわ。ヒルダに頼んでおくけど、一緒に行くのよ!」


 まあ、それ位は仕方が無いだろう。ひょっとしたらマクシミリアンを1本ぐらい貰えるかも知れないしね。

               ・

               ・

               ・


 そんな事で20日程が過ぎていく。

 相変わらず、穴掘りの手伝いをしているが、これはこれでおもしろい。獣機の小父さん連中との休憩時間の会話が楽しいんだよな。

 アデル達は長期休暇を利用してドリナムランドに出掛けたようだ。それを知って、ライズ達も同行している。ようやくライズ達も長期の休暇が取れて嬉しそうだったな。

 大きなウサギのぬいぐるみを貰ったんだけど……、どこに置けって言うんだ!


 「早々とヴィオラの連中も出掛けたようじゃな。どこに行ったのじゃろう?」

 「ヨットでクルージングらしいよ。たぶん真っ黒けで帰って来るさ」


 ソファーでくつろいでいた俺にローザが聞いて来た。

 長期休暇をどう過ごすかについては互いに興味があるようだ。

 俺達も、後5日過ぎれば変わったツアーに出掛けることになる。フレイヤ達が着々と準備を整えているらしいが、俺には特に何も言ってないんだよな。

 


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