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V-137 ドロシーが選んだ休暇の過ごし方


 パーティの翌日。俺達は俺達の領土である中継点に向かう。

 3隻でやってきたが帰りはカンザスだけ先行する。ガリナムもそれなりなんだけど、低空で飛行したら他の騎士団から顰蹙を買うのは目に見えている。メイデンさんには気の毒だけど我慢してもらってヴィオラのエスコートをお願いした。

 

 「良くもメイデンが納得したものじゃ」

 「ガリナムの改造で手を打ったみたいですよ。艦首部分にガトリングを付けるって言ってました」


 フレイヤがそんな事を教えてくれたけど、ますます突撃艦になってきたな。

 

 「これで、中継点に工場を併設出来るわね。商会から資金提供の話が今朝から舞い込んでるわ」

 「造る場所が問題です。やはり西に拡張ってことになるのでしょうか?」

 

 そんな心配をレイドラがカテリナさんに聞いている。

 時速500kmで飛ぶカンザスだが、1万kmも離れているからな。着くのは明日の早朝だろう。

 それまでは、のんびりと次ぎの計画を考えれば良い。

 ローザみたいに昼寝をするのも良いだろうけど、生憎とそんな事は許されない状況だ。


 「今回の報酬って、領土の拡張と王国からの株の譲渡になるの?」

 「一応、それで手を打ったよ。中継点の中心から東西南北に50kmになる。株の額面価格は不明だけど、かなりの額になるんじゃないかな?」


 「一般公開はしていないけど、すれば額面の10倍以上で売買されると思うわ。それに、株主配当は入るから、年間の収入がかなり増えるわよ」


 あまり商会から支援を受けると後が怖いからな。少しでも俺達の資金が増える事は良い事だと思う。


 「こんな感じに西に工場を作ろうと思うの。構造計算は済ませてあるわ」


 カテリナさんがスクリーンに展開した工場は、桟橋1つ分程の大きさがあるぞ。

 これを造るとなると、現在作っている桟橋への導入路に平行してもう1つ造らねばならないな。途中の艦の転回用ホールも拡張せねばなるまい。

 ちょっと待て! この桟橋みたいな工場は何で2つあるんだ。横幅だけで100mはありそうな桟橋は全て部品加工と製造工場のようだけど……。


 「桟橋に見える2つの工場は、ラウンドクルーザーの整備工場よ。奥の部分は隠匿工場。ヴィオラ騎士団専用の工場になるわ。資金に目途が付き次第新たな艦体を造れるわ」


 「この1つで他の騎士団のクルーザーの修理も行なうのですか?」

 「そうよ。2隻同時に修理が可能な大きさだわ。大規模な補修は王都の工廟でなければ不可能よ。10日前後で修理可能なものに限定すれば十分だわ」


 多脚式走行装置等の交換は可能だが、動力炉や管制システム等は限定されるってことになりそうだな。

 だが、奥の工場で作るのは何なんだ?


 「それで、この工場の稼動時期は?」

 「来年中には部分的にも可動させたいわね」


 となれば、また穴掘りってことになりそうだ。今度は獣機の連中にも頼もうかな?小遣い稼ぎをしたい者だっている筈だ。

 しかし、ここまで拡張すると出入り口がもう1つ欲しいな。入口と出口に分ければ中継点の入港管制が楽になりそうだ。

 

 「ベラドンナはどうしてるかしらね?」

 「一応、採掘はせずに休息してる筈だよ。獣機は桟橋工事に動員されてる筈だ」


 それも重要な仕事だ。中継点の防衛と拡張は俺達の仕事だからな。

 

 「帰ったら少しは休めるんでしょう?」

 「ヴィオラの帰還に15日ぐらい掛かるでしょう。その間10日間の休暇を取らせるつもりよ。明日からベラドンナの乗員が休暇を取って、その後私達が取るわ。私達が休暇を取る前にガリナムに帰還してもらうから、中継点の守りは問題ないわ」


 3艦の艦長達とは調整が取れているみたいだな。

 先に黙って休暇なんか言ったら後でクリスに怒られそうだからな。


 「となると、休暇の予定を立てなくちゃ!」

 「前回はドリナムランドじゃったな……」


 う~ん……。

 全員が悩み始めたぞ。のんびり寝ていようなんて考えは無いんだろうか?

 

 「ドロシーに探して貰いましょう!」


 フレイヤの提案にうんうんと頷いているが、ドロシーに選べるのか?


 「……という訳で、おもしろそうな王都で開催されてるツアーを調べてくれない!」

 『……おもしろそうなですか? ハイ、分りました……』


 何時ものような快活さがないな。ドロシーも戸惑ってるみたいだ。だいたい、おもしろいというのはかなり感覚的な部分がある。自律電脳であるドロシーに感情はあるのだろうか?

 だが、ドロシーがおもしろそうなツアーを見つけることが出来れば、ドロシーには喜怒哀楽の感情が少し理解出来るという事になる。

 とは言うものの、電脳室で煙を出されても困るからな。


 「アリス、聞こえてたか?」

 『聞こえてました。おもしろそうな命題ですね。私もどんなツアーをドロシーが選ぶか楽しみです』


 「たぶんドロシーが接触してくると思うよ。上手くリードしてあげてくれ」

 『了解です』


 後はアリスに任せるか。

 温いコーヒーを飲みながら、タバコに火を点けた。


 「でも、ドロシーがちゃんと私達のおもしろいと思うツアーを探せたら、ドロシーの評価が上がるわね」

 「それって?」


 「おもしろいと感じるのは、どういうことかしら? ドロシーは電脳よ。自律電脳ではあるけど……。その電脳に私達と同じおもしろさの判断を任せたの。もし、私達が賛同出来るものを探せたら、私達と同じようにドロシーには心がアルトいう事になるわ」


 「機械の心ですか? そんな事……」

 「否定は出来ないわよ。私はその事例を2つも知ってるわ」


 フレイヤの言葉をやんわりとカテリナさんが否定した。それって、俺とアリスのことか?

 

 頭に疑問符を乗せてフレイヤが首を傾げている。心は人間だけのものって言う感じかな。だけど、高度な類推機能を持つアリスやドロシーには心があると俺は思っている。

 普段の会話なら、姿を見せない女性と女の子だからな。

 

 1時間程経って、ライムさんが新たなコーヒーと紅茶を淹れてくれた。

 皆、どんなツアーをドロシーが選択するかワクワクしているみたいだ。これに味をしめなければいいんだけど。


 『ツアーを選びました!』


 唐突にドロシーの声がリビングに響く。結構時間を掛けたみたいだからな、ようやく選べたのを自分でも喜んでいるみたいだ。

 

 「どんなツアーなのか、私達に説明してくれない?」

 『了解です。これを見てください!』


 そんな軽いノリでドロシーのプレゼンテーションが始まった。

 先ずは、そこにいたるフローが示される。

 最初にドロシーが選んだのは、『暗算ツアー』らしい。そんなツアーに参加者がいるのだろうか?

 たぶん、ちょっとした旅行に簡単な暗算が付いているんだろうけど、2、3問でめげてしまいそうだ。計算はドロシーが得意だから、これは自分にとっておもしろいと感じたツアーなんだろう。

 次に選んだのは農園での芋掘りツアーだった。

 太陽の下で労働して、収穫を得るのは確かにおもしろそうだが、それならばフレイヤの実家に皆で出掛けて手伝ったほうが良いんじゃないか?

 だが、最初に比べればこっちの方がおもしろそうではある。


 『色々評価検討を重ねた結果、最終的にたどり着いたのがこれになります!』

 

 自信があるのだろう、声のトーンが上がったぞ。

 ババーン!っという感じのエフェクト付きでスクリーンに現れたのは……。


 「良いじゃない!」

 「そうね。これにしましょう!」


 そんな声が聞こえるけど、ツアーの名前は『宝探しツアー』だぞ。かなり胡散臭い感じがぷんぷんするな。


 『期間は5日間。参加費用はお1人1万Lになります。獲れた真珠は全て探した者の持ち物になります。参加者が平均的に見つけられる真珠の数は3から8個、過去のレコードは22個だそうです。ごく稀に黒真珠が見付かるそうです……』


 ドロシーの言葉を真剣に皆が聞いているぞ。

 値段的には金貨1枚だからツアー的には上級になるんだろうな。5日間の食事付きだし、ツインの船室はホテル並みだ。前に乗ったツアー船より一回り大きな船を使うらしい。船室だけで35室もある。

 確かにおもしろそうだ。上手くいけばツアー代金を回収出来るんじゃないか?


 「ドロシー、1つ調べてくれ。ツアー船のコースとそのコースで遭遇する可能性のある危険な海生生物だ」

 『既に調査済みです。肉食性の生物及び毒を持つ生物は確認出来ませんでした』


 なら、ローザ達を連れて行っても問題無さそうだ。とは言え、海水で錆びないナイフをベレッドじいさんに頼んでおこう。


 「なら、これで決まりね。ローザ達はどうするのかしら?」

 「我等も参加じゃ。おもしろそうなツアーなのじゃ!」


 全員で参加ってことだな。用意するものはツアーまで10日もあるのだ。十分に準備出来るだろう。


 「ドロシー。全員参加するわ。この部屋の全員をリストにしてツアー会社に届けて頂戴。代金はリオの口座からお願い」


 カテリナさんがドロシーに依頼してるけど、俺の口座って俺以外でも出し入れ出来るのか? そっちの方が気になるぞ。

 それに、この部屋の全員分って、ちょっと多すぎないか? そんなに預金があるとは思えないんだが……。


 「大丈夫よ。例の薬のパテントの一部を送金しておいたわ。リオ君1人では使い切れない程貯まってる筈よ」

 

 嬉しいような、悲しいような話だけど、確かにあまり給料を使っていない気はする。預金残高を確認して有効利用を考えないといけないかも知れないな。


 あくる朝、目が覚めると一緒だった筈のドミニクとレイドラがいない。

 どうやら中継点に近付いているようだ。俺も衣服を整えると急いでリビングに向かう。

 ソファーに腰を下ろして窓から眺める風景もどことなく見覚えがあるように思える。


 「後1時間程で入口が見えるって言ってたにゃ」


 コーヒーを運んでくれたレイムさんが、そう教えてくれた。

 そろそろ降下が始まるのだろうか?

 カンザスは、巡航速度の時速500kmで空中を飛んでいた。


 一服を終える頃に、皆がソファーに集まりだす。降下はそれなりにリスクがあるんだろう。ドロシーがシートベルトの着装のアナウンスを始める。

 軽いショックを感じるとカンザスは地上走行に切り替えて進んでいる。窓から見える尾根の奥に小さく中継点の入口が見えてきた。


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