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V-135 戦いの終わり


 孵化後25日を迎えると、スコーピオの群れは海岸を目指す。たぶん本能がそうさせるのだろう。

 俺達の掃討戦は、メテオインパクトに助けられて、9割9分まで敵を削減出来たようだ。現在の残敵数は5万匹程度にまで減っている。

 このままでも問題はないのだが、産卵にまた戻ってくる筈だから出来る限り減らしておきた伊野は理解出来る。

 今では、55mm砲は至近距離でなければ弾かれてしまうが、ヴィオラ騎士団の戦機は40mm長砲身砲を装備している。その砲弾はAPDS、そして炸薬は爆轟を使っている。

 2回目の脱皮を済ませたスコーピオの表皮の厚さは、装甲版50mmの強度を持っている。稀に見掛ける3回目を済ませた10mを超えるスコーピオは75mm装甲板に相当する。これはゼロ距離射撃でもなければ55m砲では不可能だ。

 

 軍の連中は軍艦に戦機を乗せて艦砲の直接照準と戦機の55mm砲で対応しているようだ。円盤機による爆撃は終了して、広大な荒地を徘徊するスコーピオの発見が現在の任務になっている。


 王都に迫るスコーピオは確実に軍が始末しているようだ。少なくとも王都の200km圏内に侵出したスコーピオは存在しない。

 それだけでも今回の戦は俺達の勝利と言ってよいだろう。


 現在のスコーピオ狩りの主体は俺達騎士団が担っていると言っても過言ではない。

 小口径艦砲の鉄鋼弾は現在の主力兵器だ。100隻を超えるラウンドクルーザーが東海岸に向かって掃討を行なっている。後5日も掛からずに東の海を眺められるんじゃないかな?


 「そろそろ終わりが見えてきたようじゃ」

 「騎士団長が集まって協議をしているみたいよ」


 ローザの呟きにフレイヤが応えている。

 のんびりとソファーに腰を下ろして、暮れ行く荒野を見ながらのコーヒータイムは心休まる一時でもある。

 まぁ、そんなワビ・サビの心を理解しているとは思えない連中だから、話題は必然的に互いの状況分析を確認する場になってしまうんだよな。

とは言え、1日中荒野を走っても100匹程度の戦果だ。近頃めっきり減っているから明日は50の数に達しないんじゃないかな。

 

 「後3日と言うところじゃないか? 今日の数だって、円盤機の偵察でゼロが倒したのが殆どだったぞ」

 「我は2匹じゃった。明日はリンダ達に任せるのじゃ!」


 ガリナムが先行して、スコーピオを見付け次第倒してるし、おこぼれはカンザスとヴィオラの88mm砲で倒してしまうから、接近してくるスコーピオは殆どいない。俺なんか今日はゼロだったぞ!


 「そろそろ引き上げ時かしらね。私達の拠点まで、15日以上も掛かるのよ」

 

 カテリナさんも退屈しているようだ。そろそろ何か興味を持たせないと犠牲者が出ないとも限らない。

 この状態で明日は休憩なんてしたら、犠牲者が俺になるような気もする。何とか新しいアイデアを考えないと……。


 2本目のタバコに火を点けようとしたところに、ドミニク達が帰ってきた。タイラム騎士団の中継点での打ち合わせは今まで時間が掛かったみたいだ。もっとも多目的円盤機で片道2時間は掛かってるようだけどね。


 ソファーに座ったところで、ドミニクが内容を話し出す。


 「……これが、現在の状況よ。南地区のスコーピオは殆ど駆逐されたみたい。軍は明日引き上げるらしいわ」


 スクリーンを大きく展開して大陸の東南部の地図を広げている。

 タイラム騎士団の中継所や新しく出来た隕石孔も描かれているぞ。その地図上に騎士団と軍のラウンドクルーザーが緑で表示されている。残残存スコーピオは赤で表示されているが、現在では内陸地区には殆どいないようだ。帯状に東岸地区に集まっているが渚までは後200kmはあるんじゃないかな。


 「引き上げる前にこの群れに高速艇で爆撃をするらしいわ。軍艦で砲撃するのが一番なんだけど、足が遅いから仕方が無いわ」


 「この北の奴等はどうするのじゃ? それなりに数があるように思えるのじゃが」


 ローザがスクリーンの上部に、やはり帯状に連なる群れの存在を指摘した。


 「こっちは巨獣に任せましょう。たぶん3回目の脱皮を追えれば海を目指すというのが大方の意見だったわ。この群れから数十kmの地点まで巨獣が侵出していると偵察機からの報告よ」


 テリトリーを荒らす余所者ってところになるのかな。チラノクラスなら十分にスコーピオと渡り合えるだろう。


 「それと、かなりの数のサンドワーも目撃されているわ。明日は、新型獣機、それに戦機の攻撃は装甲甲板からに変更よ。ゼロは飛べるから空中からの攻撃をしてもらうわ。そんな攻撃を後3日。それで今回の戦を終えるわ」


 「後3日すれば残存スコーピオは全て海に帰るわ。この北の群れも円盤機のデータを整理すると少しずつ東に移動してるの。本能に従えば移動速度は速まるでしょうね。こちらの群れはガリナムとゼロに任せたいわ」

 「ガリナムではゼロの母艦になりませんよ」


 カテリナさんの意見に、俺が指摘をした。

 そんな俺に笑みを浮かべているのが不気味なんだよな。


 「そこで、ヴィオラ騎士団を2つに分けることにしたの。ガリナムとヴィオラで北を叩くわ。群れから50km離れてヴィオラが母艦の役割を果たせば問題はないはずよ。88mm砲を6門それに戦鬼と戦機がいればヴィオラを守る事も容易な筈よ」


 「すると、我等はカンザスとこのまま東なのじゃな。ゼロの代わりを我等がすれば広範囲にスコーピオを狩れるぞ!」


 ローザが嬉しそうに確認している。ローザ達の移動速度は時速100km以上だ。カンザスを中心に数kmの範囲を掃討出来るだろう。アリスやムサシもいるから万全じゃないか。新型獣機はリンダ達の戦機とともに半数を装甲甲板に展開しておけばカンザスに接近するスコーピオは皆無だろう。40mm滑腔砲があるから至近距離の防御は十分だ。


 「サンドラ達に40mm滑腔砲を2門預けてあるし、タイラム騎士団のダモス級ラウンドクルーザーがヴィオラに同行するわ。単装だけど88mm砲を3門積んでるそうよ」


 もう何隻か同行しそうだな。弾薬を運んでくれるだけでもありがたいと思う。

 だが、これで長い戦も終るんだな。……後3日か……。

               ・

               ・

               ・


 3日間の掃討戦が終ると、広大な荒地で動いているのは俺達騎士団とサンドワームだけになった。

 荒地の掃除屋はさぞかし忙しいだろうな。最終的には数千匹のスコーピオが海に帰って行ったけど、半数は傷ついている。そんなスコーピオを海で待つ狩人もいるらしい。


 「前回は20万以上が海に帰ったらしいわ。今回はその十分の一にも満たないし、手負いだから、次ぎの産卵に岸を目指すスコーピオを狩るのは容易になるわよ」


 こんな殲滅戦を数回やったら、スコーピオと言う種が根絶するんじゃないかな?

 だが、種を根絶させるのはどうかと思う。スコーピオにだって何らかの役割があるはずだ。生態系を十分に調査して、ある程度の数を許容することになるんじゃないかな?


 「今夜はパーティなのよね……」

 「タイラム騎士団も大変じゃのう。王国が資金援助しているとはいえ、300人を超えるぞ」


 タイラム騎士団の中継点の大型倉庫を使って戦勝パーティをするらしい。だが、騎士団や騎士達の数が半端ではないからな。騎士団長や副官、それに船長や騎士……、招待状を貰ったんだけど、これを書くだけでも大変な労力だと思うぞ。

 

 「一応私達は全員参加よ。ドレスは持ってきたんでしょう?」

 「持ってきたというか部屋にあるからそれでいいんだけど、本当に300人も集まるの?」


 「たぶん500人は来るでしょうね。軍だって指揮官はやってくるでしょうし、指揮官が1人とは思えないわ。それとそろそろ準備しなくちゃならないわよ」


 スクリーンに表示した時計をカテリナさんが気にしている。

 パーティは1800だと言っていたから、後3時間も無いぞ。カテリナさんの言葉に慌ててジャグジーに向かってる。


 「さて、我もそろそろ準備じゃ。兄様もちゃんとマントを羽織るのじゃぞ!」


 そんな事を言いながらローザがリビングを出て行く。

 ところで、ローザの場合は俺と同じような礼服になるんだろうか? それともフレイヤのようなビキニになるのか? 何となく気になりだしたぞ。


 一服しながら考えている俺の後をフレイヤ達が自室に急ぐ。今度は衣装変えとメイクになるんだろうな。

 タバコを灰皿で消して、今度は俺がジャグジーに向かった。

 軽く汗を流して、礼服に着替える。ネクタイをちゃんと閉めてマントを羽織れば俺の準備は完了だ。刀は手に持っていけば良いだろう。向こうではマントに包んでおけば邪魔にならないと思う。


 「馬子にも衣装にゃ!」


 そんな感想をライムさんが言ってる。まあ当ってるんだろうな。

 

 「そうだ。ライムさん。ちょっと頼まれてくれないかな?」


 そう言って、急いで自室に取って返すと数本の酒瓶を持ってきた。

 

 「これを、獣機の連中に渡してくれないかな。俺達は向こうで飲めるけど、獣機士達は飲め無いからね」

 「わかったにゃ。ヴィオラにもちゃんととどけるにゃ!」


 結構高い酒だったけど、それ位はしても良いだろう。俺達と同じように頑張ってくれたんだからな。たぶんドミニク達も差し入れをしているに違いない。


 ソファーに座ってタバコを楽しむ。

 まだフレイヤ達の準備には時間が掛かるだろうな。

 明日には俺達も領地に帰る。向こうはアデル達に任せたきりだけど、どうなったか心配でもある。トラブル発生ならば連絡があるだろうけど知らせが無かったという事はそれなりに対処できたという事だろうけどね。


 そんな事を考えてると、フライヤ達の仕度が出来たようだ。

 やはり、ビキニにシースルートハイヒールだぞ。小さなバッグには何が入ってるんだろう?


 「あら、30分前なのね。リオもちゃんとしてるから問題なし! 後10分で迎えが来る筈だわ」

 「姫様を呼んでくるにゃ!」


 ドミニクの言葉にライムさんがリビングを出て行った。

 直ぐに、ローザ達がリビングに現れる。リンダはフレイヤ達と一緒の格好だが、男性は正装だ。この正装も何とかならないものかな。あまりにもフレイヤ達と乖離してるぞ。

 

 「辺境の中継点じゃが、料理の材料は王都から空輸しているに違いない。楽しみじゃな」

 

 そんな事を戦姫仲間と笑みを浮かべて話している。

 ローザはちょっと緊張気味だな。同じように緊張してるのはシリルの護衛をしている女性の騎士だ。護衛対象が子供だから苦労してるに違いない。


 「装甲甲板に円盤機が2機やってきたにゃ!」


 レイムさんが俺達に迎えが来た事を知らせてくれた。


 「さあ、出かけましょう。リオ、威厳を持って歩くのよ!」


 フレイヤが先頭になって俺達は部屋を出る。でも威厳なんて注文されてもなぁ……。


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