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V-134 メテオストライク


 脱皮したスコーピオの表皮は柔らかい。数百m程離れていても獣機の持つ30mm砲で十分貫く事が出来る。近距離であれば貫通して2匹纏めて葬る事も可能だ。

 だが、脱皮後1日を経過したスコーピオの表皮を30mm砲で貫通するためには100m以下の至近距離でないと不可能だ。

 動きの鈍さで判断するには時間が足りない。とにかく砲弾を浴びせ続ける他に手は無かった。


 孵化15日目、ついに2回目の脱皮を終えたスコーピオが現れた。30mm砲の弾丸を弾き飛ばす。新型獣機の40mm徹甲弾でどうにかだが、それでも数十mの至近距離だ。戦機の50mm砲や55mm砲ならまだ十分対応出来る。


 その日の戦いを終えて西に移動する。カンザスの砲撃も榴散弾ではなく通常弾を使い始めている。後10日もすればそれが徹甲弾に変わるのだろう。


 毎夜のようにソファーに座ってワインを飲む。

 騎士団員にも疲労が蓄積しているのが分る。皆口数が少なくなってきた。

 汗を流しても心の疲労は回復できない。

 

 そんなある日のこと、いつものようにヴィオラ騎士団の艦隊は東を目指す。

 そろそろ20日が過ぎようとしている。獣機部隊は今日からは外に出る事はない。30mm砲では歯の立たない奴がついに現れたのだ。

 数は少ないが今日は更に増える筈だ。いよいよ徹甲弾で勝負する相手に変わりつつある。

 

 コンテナまで後50kmとなったがカンザスでコーヒーを飲みながら出撃を待つ。円盤機とパンジーは先程爆撃に向かった。

 俺達も後30分もすれば出撃だ。軍と騎士団の必死の掃討でスコーピオの数は100万程度に数を減らしている。だが、本当の戦いはこれからなのだ。

 後1回脱皮をすれば彼らに対抗出来るのは戦鬼以上でなければ無理だろう。


 最初の頃は地を覆っていたスコーピオだが今では群れる事はない、互いに距離を取って行動している。そんなスコーピオを1匹ずつ艦砲が狙撃している。軍の軍艦ではこうもいくまい。相変わらず大口径砲で地域制圧を行なっているに違いない。まあ、それも軍ならではのことだ。

 俺達にはそんな芸当は出来ないが確実に数を減らす事は可能だ。


 最後の一口を飲み干そうと左手を伸ばした時だ。

 突然今までに無い悪寒に捕らわれた。

 そのままバタリとテーブルに倒れこむ。


 「全軍を退却させろ!……直ぐにだ!!」

               ・

               ・

               ・


 ウゥゥ……ン!

 ぼんやりと周囲が見えた。

 俺を抱え込むようにしてエミーが抱いている。


 「……どうなった?」

 「あら、気が付いたみたいね。とりあえず今日の攻撃は終了よ。まだ昼食前なんだけれど……。あれではね」


 思わせぶりなカテリナさんの言い方だが、間に合ったという事か?……だが、何に間に合ったんだ?


 「あれじゃぁ、いくら探しても無理だわ。数分前にアカデミーから連絡があったけど、それからでは間に合わなかったでしょうね。でも、被害はゼロよ。リオ君の命令に軍でさえ後退したから……」


 そう言って、飲んでいたグラスを俺に渡してくれた。グイっとあおると、モルトじゃないか。喉が焼けるぞ。

 咳込みながらエミーの膝から体を起こすと、ライムさんがマグカップでコーヒーを運んでくれた。

 氷が1片浮かんでいるのが良い。猫舌の俺にも直ぐ飲める。

 一口飲むといつもより濃いな。だが、頭がすっきりとしてきたぞ。


 「で、何があったんです?」

 「メテオインパクトよ。直径数十mというところかしら。地表300m付近で大気との圧縮熱で爆発したわ。科学衛星の観測では地表にクレーターが観測されたそうよ。スコーピオの7割が衝撃波で倒れたわ。残りは30万だけど半数以上が海側よ。爆発地点がスコーピオの孵化場所から西南に位置していたのが幸運だったわ」


 騎士団に被害は無かったのか。あれ程感じた違和感というか悪寒は全くない。危機は去ったという事になるのだろう。

 タバコに火を点けると、カテリナさんにその場面を再現して貰った。

 空の一点に星が輝いたかと思うと、火球が尾を引いてカンザスの後方に消えたかと思うと光と巨大な爆煙が上がった。

 まるで水爆の記録映画を見るような感じだ。爆煙が上空高く上がって巨大なキノコ雲を形作るのが見えた時に、衝撃波がカンザスを襲った。

1分ほど周囲が土砂で全く見えなくなったが、突然にその嵐が収まる。


 「助かったスコーピオも半数は傷を負っているわ。とはいえ、今日は一旦300km後退して明日出直すことが軍と騎士団の間で調整されたようよ。……突然の後退命令がリオ公爵の名で出されたんだからどの騎士団も驚いてたわ。でも、その後1時間もしないであの惨事だから、皆感謝してたわよ」


 名目ではあるが、公爵の名はそれ程権威があるんだな。

 改めて国王に感謝しておこう。だが、メテオインパクトのおかげで7割を葬ったのなら運が良いと思わなければなるまい。

 ちょっとした休息も団員の士気の向上に繋がるだろう。

 残りは約30万。それも手負いで中心部には残っていない。個別に倒していっても終わりが見えてくる。うまく運べば、3回目の脱皮が始まる前に終わりにすることが出来るかも知れないな。


 「兄様!」


 大きな声でやってきたのはローザだった。

 俺にハグすると、直ぐに立ち上がって話を始める。


 「凄かったのじゃ。突然倒れたから姉様達がオロオロしていたぞ。あまり、好き嫌いをするのもどうかと思うのじゃ。セロリは残さず食べるが良いぞ」

 「ああ、心配掛けた。もう大丈夫だから明日は頑張ろうな!」


 ちょっと的がずれているような気もするけど、心配してくれたのは確かなんだろう。エミーの妹だけ会って優しい性格のようだ。お転婆だけどね。


 段々と人が集まってきたな。フレイヤがやってくると、俺の具合を確認してレイドラと手分けしながらあちこちに通信を入れている。

 でも、最初に通信を入れたのは実の兄貴のアレクだった。かなり心配させたようだ。

 カテリナさんはアカデミーと通信をしているようだ。やはり真近にメテオインパクトを見たことからかなりハイに成っている。科学衛星の画像分析と直近の観測データを色々と付き合わせながら考察を入れている。


 その夜の夕食が済んだところで、カテリナさんの状況報告が始まった。どうやら通信回線で、今回参加した騎士団や軍にまで放送されるらしい。カテリナさんはある意味有名人だからな。


 「スコーピオ孵化対応作戦、作戦名『蒼の6号』に参加している3王国の軍隊、並びに騎士団の皆さんに現状を説明します……」


 そう言って背中に展開した大型スクリーンに画像を映しながらレーザーポインターで説明を始めた。だけど、この戦いに作戦名があったとは初めて知ったぞ。

 

 最初に映し出されたのは上空から飛来した隕石の落下映像とその後のキノコ雲それに衝撃波だった。

 

 「……隕石は地上300mで大爆発を起こしましたが、破片の一部でクレーターが出来ています。直径600mのクレーターはスコーピオクレーターと今後呼ばれる事でしょう。この爆発と衝撃波によりスコーピオの7割が壊滅しました。

 3割が生存していますが、半数は手傷を負っています。さらに、落下位置がスコーピオ大量発生区域の南西区域にずれていたおかげで私達が対応していたスコーピオについては8割以上壊滅しています。明日以降の戦いは手負いのスコーピオの掃討になりますから、機動運用で対応してください」


 機動運用となると、戦機は装甲甲板で個別撃破になりそうだな。新型獣機とあわせれば2時間交替で休息出来そうだ。もっともゼロは燃料補給のタイミングを取るのが難しそうだな。やはり早急に母艦を作らねば運用に制限が掛かりそうだ。

 俺達戦姫は後方の落穂拾いをしなければなるまい。


カテリナさんの状況報告が終ったところで、ドミニク達がヴィオラとガリナムと回線を開いて作戦会議を別に始めている。ヴィオラが一番鈍足だからな。ヴィオラに艦隊速度を合わせて3艦縦隊のまま明日は進むに違いない。


 俺達がジャグジーに入り湯上り姿でビールを飲んでいると、ドミニクとレイドラが打合せを終えてやってきた。


 「明日は円盤機を別行動させるわ。グラナス級のラウンドクルーザーを持つ騎士団が協力を申し出てくれたの。ゼロも護衛に4機回すことにしたから、私達で運用するゼロは4機になるわ。先鋒をガリナムにしたクサビ型に艦を配置するわ。ヴィオラとカンザスの距離を10kmに保って20kmの範囲を掃討していく手筈よ。カンザスの後方にもう1艦が付くから、時速30kmになるわね。先鋒のガリナムは私達の列から30km以上離れないことが条件だから、メイデンさんはストレスが溜まるかもね」


 そんな事を言いながら、ビールを飲んでいる。これから風呂に入るのに大丈夫なんだろうか?

 

 「ゼロはヴィオラの後方に横隊で展開します。戦姫部隊はカンザス後方でやはり横隊を組んでください。後方のグラナス級の援護が主たる任務になります」


 レイドラが同じようにビールをあおりながら俺達の配置を告げる。となると、パンジーはカンザスの前方ってことになるだろうな。周辺偵察を長時間行なえるのは今のところパンジーのみだ。いよいよ新型獣機と40m滑腔砲の本領が発揮出来るだろう。


 「あまり、パッとしない位置じゃな」

 「そうでもないよ。カンザスとヴィオラがいくら頑張っても打ち漏らしは出て来るし、俺達の前で展開しているゼロは左右に展開するはずだ。場合によっては俺達も2隊に分かれて対応しなければならないだろうな。どう分けるかはローザに任せるよ」


 俺の言葉に目を輝かせてリビングを去っていった。たぶん同室のリンダと相談でもするんだろう。

 そんな妹の様子を微笑みながらエミーが見ている。


 「ほんとに元気一杯ですね」

 「まったくだ。だけど悪い事じゃない。俺達まで元気が貰えるよ」

               ・

               ・

               ・


 クサビ形と言うよりは菱形とかダイヤ形と言うんじゃないかな。数km先に左右に展開したカンザスやヴィオラのブリッジが小さく見える。

 円盤機の母艦として協力してくれた騎士団のラウンドクルーザーは後方2kmにいるが、艦の前方500mにムサシが護衛に当っているから、向こうの騎士団長も安心できるだろう。

 この配置に映ってから4回ほど、ムサシがイオンビームサーベルでスコーピオを両断している。あの動きは迫力があるからなぁ。あっちの騎士団長が感激してお礼の通信をしていたとアリスが教えてくれた。


 「ローザ、左前方に2体いるぞ!」

 「了解じゃ。あれは我に任せるがよい!」


 デイジーがまだ動いているスコーピオに向かって加速する。カンザスでアレク達もがんばっているようだが、やはり撃ち漏らしは多いようだ。


 

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