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V-130 赤い大地


 砲撃が途絶える合間を縫って、多目的円盤機が可燃性の液体を空堀に落とし始めた。

 あらかじめ容器に入れて堀の底においていた油脂が手榴弾で飛散して燃え上がっているから、火に油を注ぐ様相だな。

 それでも、次々とスコーピオは急造の土手を上がって押し寄せて来る。

 戦機の使う50mm砲をショットガンのような弾丸に変えているから、近距離で撃てば複数のスコーピオに打撃を与えられるのだが、いかんせん数が多すぎる。


 『ヴィオラとの間隙をかなりの数が突破しています。ムサシが救援に向かいました』

 「作戦に変更は?」

 『現状ではありません。戦列の西10kmに駆逐艦3隻と円盤機8機が軍から派遣されて来ました』


 俺達の戦列を突破した奴らの対応だろう。円盤機の30mm砲でも現状なら対応できるからありがたい増援だな。

 55mm砲のカートリッジを全て使い果たして、今はプラズマビームサーベルでスコーピオを刻んでいる。アレクの側面を突破してくる奴らはかなりの数だ。

 獣機達の戦列はだいじょうぶなんだろうか? それにラウンドクルーザーの側面も心配ではある。20機の獣機と10機の新型に4機のゼロは全てヴィオラとの間隙に投入しているからな。


 「ドロシー、ヴィオラとカンザスは無事なのか?」

 『多脚走行装置の外側の足で攻撃中です。舷側の近接防衛用30mm機関砲も健在ですから今のところは持ちこたえています』


 連装機関砲ならそれなりに効果があるだろう。とは言え、弾薬の在庫が心配になる程の群れだぞ。

 砲撃の間隙を縫って、偵察用円盤機の編隊が爆弾を投下していく。その帰りには備え付けの30mm機関砲で地上を掃射しているようだ。

 アリスでカンザスの後方を走り去るスコーピオの群れを狩りとってはいるのだが、次々とやって来るな……。

 

 「援護しろよ!」


 アレクの通信が聞こえると共に、戦鬼がドラム缶程の何かを空堀に投げ込んだ。

 炸裂と共に炎が俺達の場所まで到達する。どうやら大型の焼夷弾モドキだったらしい。

 手作りらしいが効果はある。

僅かの時間、スコーピオの襲来が止んだ。その時間を利用してアレク達がマガジンを交換している。

 

 「弾薬の3割を使ったぞ。まだ、20分も過ぎてねえ!」

 『全弾を使用した後に機動攻撃に転じます』

 

 アレクの呟きにドロシーが答えた。かなり消費量が多いな。もっとも、いまだにスコーピオの群れが途切れない。2割以上が俺達の阻止線を突破しているように思える。

 多目的円盤機が、戦機の後ろに新たなマガジンを降ろして行く。まだまだ戦は始まったばかりだからな。


 「アリス、戦況は?」

 『かなりの数が阻止線を突破。西に向かっています。南方の3カ国連合の阻止線は機能しているようです』

 

 砲弾と爆弾の規模が桁違いだからな。円盤機も多いだろうし、陸戦の主力となる戦闘用獣機の数も多いはずだ。南方への移動を阻止出来るなら勝機も見えてくるな。


 突然、ゾクリっと全身が総毛立つ。違和感どころの騒ぎではないぞ。何なんだ?


 「アリス。至急、カテリナさんと繋いでくれ。大至急だ!」

 『了解しました……。接続中……。カテリナ博士との通信確保』


 「どうしたの。アリスが緊急って言ってたけど?」

 

 全周スクリーンの天井付近に通信画像が開くと、カテリナさんの姿が映し出された。仮想スクリーンがカテリナさんの周囲に沢山浮かんでいる。カテリナさんも忙しそうだな。


 「2日程前から違和感が続いているんですが、先程違和感を通り越して寒気がする程の感覚に襲われました。何かとんでも無い事が起こりそうです。できれば、その原因を探って欲しかったのですが……。忙しそうですね」


 俺の言葉を聞きながらも、端末を忙しなく叩いている。大陸の隅々まで異変を探しているようだ。


 「北方でスコーピオと巨獣が争っているけど、規模は小さなものよ。寒気がする程の違和感を裏付けるものでは無さそうね。王都を取巻く開拓地域にも巨獣が侵入した形跡は無いわ。……でも、継続してるのよね。しかも段々大きくなるって事だとすれば、ちょっと調べる必要があるわね」


 そう言って、カテリナさんが通信を切った。この後は任せておけば良いだろう。俺はとりあえず目先に全力を傾けよう。


 目の前の空堀からの炎が下火になると、アレクが再度ドラム缶を投げ入れる。

 炎を前にしている限り、アレクの隣にいる戦機達は何とか無事なようだ。

 体から炎を上げているスコーピオが、アレクを後方から襲おうとしているのを見咎め、プラズマビームサーベルで切り刻んでやった。

 俺達に敵対しない限り後方に走り去るのは無視する。まだ初日だからな。数を削減することに専念すればいいはずだ。


 『獣機は順次所定の艦に後退せよ。繰返す……』


 弾薬を使い果たしたようだ。一旦艦に戻って、今度は装甲甲板からの射撃に転じることになる。機動戦に移行するんだろう。


 「俺達も、残りを撃ち尽くしたら艦の後方に飛び乗るぞ。乗ったら、付属のワイヤーで体を固定するんだ。カンザスの機動は想像以上だからな!」


 アレクの叱責するような声が通信機から届いてくる。

 かなりの弾薬や急造手榴弾を用意していたようだが、既に殆ど使ってしまったということだろう。

 数分も経たぬうちに、アレク達はカンザスの艦尾に飛び乗っていた。

 

 「アリス、状況は?」

 『2艦とも損傷はありません。数機の獣機が損傷したようですが、人命を損なうことは無かったようです。獣機及び戦機は装甲甲板に移動終了、艦外で活動中の戦機は私を含めた戦姫4機にムサシそれとゼロ4機になります。他の騎士団は既に機動戦を行っています』


 まあ、機動戦と言えば聞こえは良いけど、実態はラウンドクルーザーの多脚でスコーピオを踏み潰しているようなものだ。

 左右の砲塔が無作為にスコーピオの群れに向かって砲撃を繰返している。

 一旦、戦姫をカンザスに集合させて休息を取らせると共に、弾薬の補給を行う。

 

 ハンガーに並んだ戦姫にべレッド爺さんの配下が次々にレールガンのマガジンを取り付けていく。その間の20分程が、俺達の休憩時間になる。

 

 「今度はどうするのじゃ?」

 『だいぶ西に群れが逃れています。これを刈り取ってください』


 俺達4人の前に映し出されたスクリーンにスコーピオの群れが映し出される。

 なるほど、かなりの数が逃れているな。1万は優にありそうだ。


 「駆逐艦と円盤機が頑張っているようだが、数が多すぎるな。南北に移動しながら刈り取れば良いだろう。俺達はこんな感じで対応する」


 テーブルに並んでいたカップを使って簡単なフォーメーションを伝える。俗に言う『雁行』の変形だ。斜めに並んで対応する。最後尾はムサシだが、上空のパンジーが援護してくれるだろう。


 「我等のもつ弾丸は120発じゃ。兄様を含めて全て命中させても500に未たぬぞ」

 「パンジーが250kg爆弾を2つ持っているし、30mm機関砲と40mm砲を持っている。ムサシもいるんだ。1回の出撃で1,000は行けるんじゃないか? それにレールガンは強力だ。水平射撃をすれば数匹を纏めて葬れる」

 

 だが、グランボードに乗って射撃を行うローザ達には水平射撃は難しく思えるな。精々姿勢を低くして撃つぐらいだろう。まあ、それでも上手くいけば2匹ぐらいはいけるかもしれない。

 残り僅かの休憩時間を使ってタバコを楽しむ。

 次は1時間後になるだろう。

                ・

                ・

                ・


 10km程南北に移動するだけで弾丸を全て撃ちつくすとカンザスに戻ってくる。

 獣機が数機で俺達に弾丸を補給してくれたところで出撃を繰返す。

 カンザスの装甲甲板から眺めた東の台地は見渡す限りスコーピオの表皮の赤で埋め尽くされているように見える。

 そんな中、数km先に榴散弾が集中して炸裂しているのが見えた。俺達の存在が小さく感じられる光景だな。これが、10日以上続くのかと思うとうんざりする。


 『新たに、3つの騎士団が戦列に加わるそうです。タナトス級が5艦、連装砲塔は3つ。75mm砲ですが、これで30門増加します』


 戦機の50mm砲と獣機の30mm砲を合わせれば火力は更に伸びる。ありがたい援軍に違いない。

 俺達と同様にヴィオラで補給していた円盤機が今度は東に向かった。ということは、援軍の連中の円盤機がそれなりに活動を開始したって事だな。

 

 弾丸を補給した俺達は西に向かって疾走する。

 ほどなく、援軍のラウンドクルーザーを見つけることができた。

 連携しながら、スコーピオを刈り取っていく。


 スコーピオの速度は精々時速20km程でしかない。群れを刈り取ればバラけると思っていたが、どうやら、本能的に群れる性質があるようだ。数匹が20匹程の群れになり。それが集まって100匹単位となる。

 榴散弾で狙っているのはそんな集団だ。数発でかなりの数がその場に倒れる。それでもすぐに他の群れと合流して群れを膨らませていく。


 阻止線を形作っていたラウンドクルーザーが次々と戦列を離れ始めた。

 弾丸が尽きたらしい。幾ら予備を積んでいても、定数の2倍は積めないからな。1門当り50発が良いところだろう。


 『中継点が孤立しています。3艦が救援に向かったようです。ヴィオラのゼロ4機が救援に向かいました』

 

 現在地を確認してみると、中継点の南150km程のところだ。ゼロなら2時間ってところだな。ガトリング砲の威力に驚くんじゃないか?

 

 「最後のマガジンに交換したのじゃ。帰艦するぞ!」

 「了解!」


 まるで蟷螂の斧だ。数を相手にレールガンはあまりにも場違いな感じがする。

 その時、南東の地に巨大な炎があがった。10秒程して衝撃波がやって来たが、それ程のものではない。

 曳いて来た100tコンテナを爆破させたようだ。あれぐらいでないと大きな効果が望めないかもしれないな。


 俺達の帰艦を確認すると、カンザスが北へと進路を変える。

 最初の補給に向かうようだが、まだ夕暮れにはほど遠い。とは言え、弾丸が無い事には戦え無い事も確かではある。


 リビングのソファーに体を投げ出しながら、窓の外の赤く染まった大地を眺める。

 戦は数だと誰かが言っていたが、全くその通りだ。いかにアリスが強力な戦姫であろうともこの数の前にはどうしようもない。

 

 「終わりが見えませんね」

 「全くじゃ。1回で約1000匹刈っても、それを1000回以上繰り返さねばならん。1度にドカ~ンと行かぬものかのう……」


 ローザも呆れてるようだな。それでも、他国の王族達の手前平静を装っているのがおかしく思える。

 

 「王都方向の群れは何とか遮断しているみたいだから、現状では上手く運んでるんじゃないかな。200tコンテナから弾薬を補給したら、コンテナを盾に出来るだろう」

 

 とは言っても、新型獣機を使うべきだろうな。獣機は装甲甲板からの援護でいいだろう。

 ゼロがもう4機あればと思うが、無いものは仕方がない。偵察用円盤機が10機もあるのだ。それだけでも贅沢と言うものだろう。

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