V-129 数との戦いが始まった
3時間ごとに爆撃が行なわれる。
夜になると、焼夷弾の炎がかなり広がってきたようにも思える。パンジーが高度を上げると、南北に赤い線が伸びているのが分る。集まった騎士団の円盤機による爆撃の炎が暗闇に細い線のような形で見える。そして、北東の大きな炎は高速艇による爆撃だろう。
「後1回で今夜の爆撃は中断よ。明日もあるから休ませないとね」
「現在距離は180kmまで接近しています。9時間後には接触します」
一眠りは出来るって事だな。そして、朝食ぐらいは取れるだろう。食事が終れば果てしない戦いが始まるってことになる。
寝る前にライムさんがワインのグラスを配ってくれた。
スクリーンに映し出される衛星からの画像を見ながら、俺達は無言でワインを飲む。
集まった戦機は精々数十機だ。獣機が200機、それに円盤機が20機足らず……。
本来なら逃げ出すところだな。
だが、誰も避難しようとは言わない。イザとなればラウンドクルーザーの装甲甲板に獣機や戦機を搭載して、ラウンドクルーザーで機動戦を行う事が出来るからな。そのタイミングを計るのがそれぞれの艦長の務めになる。
グラスを空にしたところでそれぞれの部屋に戻る。明日は朝が早いのだ。
次ぎの朝。胸騒ぎのような違和感で目が覚めた。直ぐに起きてジャグジーに入り、戦闘服に着替える。
リビングに向かうと、既に皆が揃っている同じように戦闘服姿だ。俺と同じように軽く短パンにシャツを着てる。既に準備は出来てるって事だな。
「遅かったわね。皆食事が済んでるわよ。そして、これが現状になるわ」
リビングの窓の外をドミニクが指差す。遠くに津波のような姿で迫ってくるスコーピオが肉眼でも見えるぞ。あの違和感はこれか? だが、俺の中で何かがそれを否定する。
「凄いな。それで作戦は?」
「接触まで1時間とドロシーが言っているわ。30分前に戦機と獣機を降ろして、迎撃態勢を取る手筈よ。ゼロは獣機の援護をして、円盤機は数十km先を爆撃させるわ。既に円盤機の本日第1回目の爆撃は終了してるのよ」
ライムさんが運んでくれたサンドイッチを食べながら、フレイヤの話を聞いている。
円盤機も大変だな。そんな事を考えながらマグカップにコーヒーを飲む。
「我等はベラスコの隊を援護しながら救援要請に応えるつもりじゃ」
「リオはカンザスの後備にいるアレクの隊を援護して欲しいの。ヴィオラとカンザスの間は新型獣機とゼロがいるから何とかなるわ」
「という事は、砲撃主体ってことになるね。ヴィオラは2連装砲等が4つ。そしてカンザスも片舷だから一緒だ。合計16門の88mm砲になるね」
「ちょっと、違うわ。ヴィオラの装甲甲板でムサシが75mm砲を使うし、カンザスのもう片舷の砲塔4つも直接照準でなく、奥を狙えば十分使えるわよ。アレクも75mm砲を使うだろうしね」
88mmが24門に75mm砲が2門で対応するのか。継続射撃が何処まで可能かだな。6発毎に砲身の冷却をするのだが、そのタイミングが難しいぞ。
タバコを取り出して火を点ける。次に吸えるのは何時になるかだ。
「軍の高速艇の爆撃はこっちにも対応してるんだろうか?」
「向うは向うで手一杯って所でしょうね。爆撃ポイントが100km程奥だから、少しはこちらに来るスコーピオが減るかも知れないけど……」
「騎士団の円盤機が我々の頼みの綱です。50kg爆弾ですが、1度に20個以上落としていますから、その戦果も期待出来るでしょう」
通常弾だから、どれだけ期待できるかだな。250kg爆弾を50個ほど持ってきた筈だが、限られてるから使い場所が難しいかもしれない。それでもパンジーには2個積んでいく筈だ。
「さて、時間よ。検討を祈るわ。そして、ドロシーの通信をちゃんと聞いてね」
ドミニクの言葉に頷くと、俺達は一斉に席を立った。
壁を開いてカプセルに乗り込むと、カンザスの左舷先端部にあるハンガー区域に向かう。アリスのコクピットに急いで乗り込むと昇降装置で装甲甲板へと向かう。
「武器は?」
『55mm砲とレールガンです。55mm砲は炸裂弾装備ですが、5発入りマガジンが10個ありますよ』
最初は炸裂弾を使うか……。レールガンよりはアレクの後ろで適当に撃っても当たるんじゃないかな?
装甲甲板から飛び降りて、艦尾に移動するとアレク達が中継点の駆逐艦が曳いてきた100tコンテナを盾にして戦機を配置していた。
「援護は後ろからで良いですか?」
「リオか? ああ、それでいい。ここは俺達の拠点だからあまり邪魔をするなよ。だが期待はさせてもらうぞ」
そう言って、胸に片手を移動させてコクピットを開く。俺もアリスを戦鬼の隣に移動させて同じようにコクピットを開いた。
片手に飛び乗って双眼鏡で様子を見る。
「まだ見えませんね。10kmは先じゃないでしょうか?」
「と言う事だ。お前達も、銃を置いてコクピットを開いてのんびりしていろ。後30分もたたずに始まるんだ。今から気を張っていると持たんぞ!」
そう言って腰のバッグから小さなフラスコを取り出して一口飲んだ。俺にポイって投げて寄越す。一口飲んでみると……、ウイスキーじゃないか!
ありがとう!と言葉を添えてアレクに投げ返す。
俺には、やはりこれだな。そんな事を考えながらタバコに火を点ける。
鈍い音が聞こえてくる。遠くで聞く打ち上げ花火のようだな。
「近付いてきたな。円盤機もがんばっているようだ」
「ヴィオラ騎士団だけで10機はいますからね。他の騎士団と合わせて波状攻撃を仕掛けてるんでしょう。そろそろ主砲の出番ですよ」
そんな話をしているうちにカンザスの砲撃が始まった。88mmの最大射程は15km。右舷の8門を使っているようだ。
「全門でないとすると、間引きだな。ヴィオラが撃った様子も無さそうだ」
フラスコを傾けていたアレクが、最後の一口を飲み終えると、タバコに火を点ける。
まだまだ、俺達からはスコーピオの姿が見えない。
2本目のタバコを終えて吸殻を携帯灰皿に入れてバッグにしまいこんだ時、1機の戦機が前方に腕を振る。その先にはピンクがかった壁のようなものが見える。少しずつ俺達に近付いてくるのが分った。
「リオ! 来たぞ。その55mmで適当に俺達の前方を間引いてくれ!」
「了解です。無理はしないでくださいよ」
俺の言葉に手を振って答えると、アレクが急いでコクピットに潜り込む。俺もコクピットに移ると、アリスが直ぐにコクピットを閉鎖した。
『10kmを切りました。8kmで全門攻撃に移るようです』
「88mmは利いてるのか?」
『20mの範囲でスコーピオを刈り取っています。ですが……』
相手が多いって事だな。
1分程の砲身冷却が終ると、再び8発の砲弾が6回発射される。それが終了すると、一斉射撃に備えて、砲撃が中断した。ベレッド爺さん達はシリンダーへの弾丸装填に忙しく働いてるに違いない。
俺も、55mm短砲身砲の装填ボルトを引いてカートリッジからバレルに初弾を装填して前方を凝視する。
コンテナの後ろに3機の戦機が並び、アレクの戦鬼は一番右端だ。そのやや後ろに俺が位置する。
落雷の酔う轟く砲声が響くと、それが連続する。
全周スクリーンの上部を双眼鏡モードに変えて弾着を観測した。
地上20mほどで砲弾が炸裂し、散弾を弾着地点周囲に散布するのが分る。
地上では直径30m程の範囲のスコーピオの表皮に穴が空いた。
「結構利いてるな。榴散弾は正解だったな」
『ムサシも攻撃に参加してます。75mm砲は直径20m程の範囲で効果が見られます』
それなりって感じだな。アレクも俺の前で撃っている。
俺の55mm砲は砲身を切り詰めてるから、精々3km程度だろう。アリスがまだ射撃の用意を言いつけてこないから、距離は数km以上離れ手いるって事だろうな。
戦機の連中を見ると、コンテナの屋根に手榴弾や予備のカートリッジを並べている。手榴弾は軍からの横流しなんだろうか?
「あれか? あれは半分は軍からの供与で、もう半分は手作りだ。火薬の周囲を20ℓの油脂で包んである。即席の焼夷弾さ」
「火ですか……。使えると良いですね」
大型ではないから、威力は期待できないまでも、相手を怯ませるぐらいの効果はあるんじゃないかな。カートリッジ交換の時間稼ぎが出来るんなら都合がいい。
ガシャンっとアレクが音を立てて、カートリッジの交換を行なう。5発のカートリッジでは直ぐに尽きてしまう。
ついに戦機の50mm砲が発砲を始めた。後5kmを切ったようだ。3機の発射は同時ではない。1発毎に数が増えていく。同時にカートリッジ交換を行なわないように時間差を作っているようだ。
『あと3分で3kmを切ります。45度の角度で発射してください。狙いよりも方向を優先願います』
「了解。2,800で射撃を始める」
『距離3.2……3.0……2.9、2.8射撃!』
1発目を合図と同時に放つ。自動装填が行なわれターゲットスコープに緑にランプが点灯すると同時に次を放つ。軽いショックを感じながら5発を撃ちつくすと、素早くカートリッジを交換した。
55mm砲は炸裂弾だ。離れたところで申し訳ない程の炸裂煙が上がる。まぁ、スコーピオの群れの中だから少しは数を減らせたんじゃないかな。
カートリッジ3個を撃ちつくしたところで、距離は500m程に接近している。
「後ろからレールガンを使います。少し左にずれますよ」
「そうしてくれ。いくら戦鬼でもレールガンを受けては貫通するからな。俺はコンテナの左隅に移動する」
アレクはカートリッジを交換しながらコンテナに移動する。今度の弾丸は榴散弾ではなく、散弾だ。75mm砲のバレルを潰すのは覚悟の上って感じなんだろうな。
『ライフル交換終了です。40mmレールガンは20発カートリッジですから、注意してください。30個カートリッジを保管しています』
レールガンの出力を最大に設定する。秒速6kmの速度だ。この速度では空気の圧縮熱で弾丸が気化してしまう。直線距離で3kmが有効射程になるが、弾丸の周囲50ccm程は衝撃波で刻まれるだろう。
アレクから20mほど離れて膝撃ちの姿勢で初弾を放った。スコーピオの群れが射線に沿って浮かび上がる。
空掘りに突入したところに、戦機が一斉に手榴弾を投擲すると空掘りから炎が上がる。