V-127 ようやく到着
明日にはタイラム騎士団の中継点に到着するまでに俺達の艦隊は近付いた。
そんな昼下がり、俺達は来客と歓談している。
俺達の艦隊に近付いてきたレイドラル騎士団の御一行だ。
現在、並走して中継点へと向かっている。彼らの巡航速度に合わせて速度を落としたからメイデンさんはぶつぶつ言ってるだろうな。ガリナムの巡航速度の半分程度だからね。
「初めてお目にかかります。レイドラルの騎士団長、レオンシュタインです。こちらが副団長のカティーネ。それに筆頭騎士のドレートン。それにしても規模が大きいですね」
レオンシュタインと名乗った男はアレクよりも年上に見えるな。副官のカティーネさんもカテリナさんの歳に見えるぞ。そして、ドレートンという男には見覚えがある。
「ようこそ、おいでくださいました。ヴィオラ騎士団長のドミニクです。右が副団長のレイドラ。そして左がリオ公爵とエメラルダ姫になります」
公爵に姫と聞いて彼らが一斉に席を立って俺に頭を下げる。
俺は慌てて、彼らに席に着くように言った。
「名目だけですから、気にしないで下さい。ヴィオラ騎士団の騎士の1人です。ヴィオラ騎士団の騎士の筆頭は隣のヴィオラに乗船していますから、私達が代理ってことになってるだけですら」
「どこかでお会いした事があるような気がするのですが……」
「1年程前に、王都のクルージングでお会いしました。マクシミリアンさんと秘蔵の酒を飲んだ1人です」
俺の返答に、「あぁ、あの時の!」と言っている。
俺に親しみを覚えたようだな。俺としても悪い気はしない。
「あれから、大変でしたね」
「騎士団が危うく壊滅するところでした。戦機も5機が破壊され、どうにか1機が修理可能と言う有様です。現在の戦力は戦機6機に獣機が20機……。しかし、エルトニアは我等騎士団の発祥の地。たとえ次ぎの巨獣との戦で騎士団が壊滅することになろうとも我等は馳せ参じる覚悟でした」
古い騎士団だからな。エルトニア王国と密接に係わっているのだろう。ある意味、もう一つの軍隊としても機能してきたんじゃないかな。
その王国に重大な被害が予想されるなら、身を粉にして働く覚悟があると言う事か。
「俺達は新興騎士団ですから、スコーピオとの戦がどのようなものになるのか理解できていません。タイラム騎士団、それにレイドラル騎士団が揃っているなら安心できます」
コーヒーを飲みながら歓談していると、先のドレスダンサーとの戦いが話題に上がる。
俺達がテンペル騎士団とタイラム騎士団の協力で何とか退けた事を感心しながら聞いていた。
「ドレスダンサーをプレートワームを使って倒したと言うのはおもしろいですね。必ずしも、直接倒さずとも良いという事ですか……」
「あの巨体ですからね。ムサシで背中を切り裂いてその中に大型爆弾を投下したんですが、それでも倒す事は出来ませんでした」
さすがにあの巨体には呆れたな。
そんな話を3人がおもしろそうに聞いている。
「ですが、3隻とは凄いですね。戦機はいかほど?」
「戦姫が4機に戦鬼が2機。戦機は6機ですね。それにムサシが加わります」
戦姫が4機と聞いて彼らが驚愕する。
「では、王国の戦姫が全て稼動したと?」
「ええ、時速150kmで滑空しながらレールガンで攻撃出来ます。円盤機とムサシがバックアップしますから、かなり翻弄出来ますよ」
「後1年早く……」
「言うな。それよりも3王国の戦姫が勢揃いした事を祝うべきだろう」
副団長の呟きに団長が言葉を挟む。
確かに1年速ければ違った結果になったかも知れない。だが、それは騎士団長の言うとおり結果論でしかない。
動かぬ戦姫を見上げて歯を食いしばったのは国王自身だろう。
「それで、この大型艦ですか。確かに速度が速そうですね」
「最大速度は時速500kmです。救援艦として3カ国の援助で完成しました。元々は、隣のヴィオラに乗っていたのです」
「ならば……。なるほど、そういう理由ですか。確かに通常のラウンドクルーザーが同行するとなると速度は上げられないでしょう」
疑問に自分で答えて納得してるな
それでも、通常のラウンドクルーザーよりは速度が出せるんだけどね。
中継点での再会を互いに約束してレイドラル騎士団の連中が連絡用円盤機で帰っていく。
中継点への入港は彼らを先にするようだ。
彼らに比べれば俺達は新興騎士団だからな。それ位の礼儀はあってしかるべきだろう。
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次ぎの日の昼下がり。前方に高さ10m程の隔壁が見えてきた。
距離は10kmに満たない。先行したレイドラル騎士団の2艦が開かれたゲートから中継点に入っていくのが見えた。
「ドミニク達はブリッジだよね」
「ええ、そうよ。一応誘導ビーコンに乗れば良いらしいけど、誘導艇が案内してくれるらしいわ」
それも、好意の表れと見れば良いだろう。
だが、3隻だからな。俺達だけで桟橋を1つ占拠してしまいそうだ。
「あれが誘導艇らしいぞ。自走バージ程の大きさじゃな」
前方を双眼鏡で覗いていたローザが教えてくれた。
土煙を上げながら、ガリナムの前方に出ると、ゆっくりとゲートに向かって動き出した。
「場合によってはカンザスは邪魔にならない場所に停泊せざるおえぬな。この艦は双胴船じゃからのう」
「案内に従えば良いだろうね。その辺りはドミニクも心得ている筈さ」
中継点のゲートにある望楼には鈴なりの人で溢れている。ゲートを潜ると、停泊したラウンドクルーザーにやはり人が溢れていた。
「この艦は目立つからのう」
そんな事を言いながらもまんざらでは無さそうな顔をしている。民から慕われるというのは王族であれば嬉しいことに違いない。
俺には煩わしく思うけど、それは俺の庶民根性がそうさせるんだろうな。
案内されて停泊した場所は一番南側の桟橋だ。バージを切り離すと、タグボートがバージを牽引して隔壁の一角に移動している。
桟橋の片方にはレイドラル騎士団の2艦が停泊していた。
ドミニク達は一旦部屋に戻ってきたが、着任報告に出掛けるようだ。
礼服を着込んでレイドラと出て行く。
「どうやら、クリスとメイデンさんを連れて行くみたいよ。艦長と騎士団長って感じかな」
「状況が少しは分るかも知れないな。とりあえずはのんびりしてれば良いと思うよ」
フレイヤがローザ達を連れて部屋を出て行く。
ブリッジの最上階に出掛けて、他の騎士団の艦を見学するんだそうだ。
ここで、スクリーンで見ても同じだと思うのは俺だけなんだろうか?
「あら? またリオ君1人なの」
「ドミニク達は着任報告で、フレイヤ達は火器管制室で周囲の偵察って感じです」
「そう。ところで、あまり時間は無さそうよ。これを見て!」
カテリナさんが端末を操作すると中継点から東の衛星画像を映し出された。
何の変哲も無い荒地の景色のように俺には見えるぞ。
「エルトニアのアカデミーがこの地に振動センサをばら撒いているわ。その信号がこれよ」
モノトーンに見える地上の光景に色が着き出した。
振動の強弱で色を変えているらしい。より輝度が上がるほど地中の卵の動きが活発ということだろうか?
「こんなに範囲が広いんですか?」
「そうね。昔からだから私にはそれ程には感じないけど、リオ君は初めてだからそう見えるんでしょうね」
縮尺は明確になってはいないが、白く輝いている場所だけでも100km四方はありそうだ。それが王都に向かって段々と色が薄らいでいく。
「これを見て!」
王都から50km程の所に艦隊が横に並んでいる。
これが王国軍の軍艦なんだろう。他の王国軍と合わせて20隻以上の大型艦が並んでいる。
そして、その艦の間を数十の駆逐艦が動いていた。
あれに、戦機と獣機が加わるんだろうな。王都を守るというのは郡に任せておくしか無さそうだ。
「あれで、防げるんでしょうか?」
「20日は持つ筈よ。20日後は戦機の55mm砲では歯が立たないわ」
俺達が真価を発するのは20日後ってことになりそうだ。
それまでは、弾丸の浪費を抑えるべきなんだろうな。
通常弾で対応するか。最初の10日は獣機の30mm砲でも対応出来ると聞いたからな。
「獣機用の30mm砲はあるんですか?」
「戦姫なんだからレールガンにしなさい。水平発射すれば奥まで狩れるわ。一応予備もあるけど、戦姫のレールガンがあればと思う騎士団員も多いはずよ」
デモンストレーションって事かな?
ある意味、3王国の戦姫が健在であるという事を知らしめる効果は高い。
それで、士気が上がるんならニワトリを牛刀で捌く感じだがいたしかたあるまい。
「ところで、榴散弾の数は?」
「王国軍は準備出来たようね。中継点にもかなりの数が準備出来てる筈よ。直径25mmの弾丸が88mm砲弾には30発。75mm砲なら20発が地上30mで砲弾が炸裂して地上に降り注ぐわ」
巡洋艦の口径200mm艦砲なら100発を越えているな。戦艦の300mm艦砲だとどれ位入ってるのか想像出来ない。
まあ、通常の炸裂弾よりは効果がありそうだ。
「だいぶ賑わっておるぞ。タナトス級が6隻にグラナス級が2隻じゃ。それにガリナムと同クラスが数隻停泊しておる。戦機だけでも30機は下るまい」
「主砲はグラナス級は88mmだけどタナトスは75mm。小型艦は75mm短砲身を数門ってとこかしら。でもグラナス級は連装砲で4つも砲塔があったわよ」
タナトスやグラナス級ならば円盤機を何機か載せている筈だ。最低でも2機は載せているはずだから20機近くになるだろう。50kg爆弾で広範囲に爆撃が出来そうだな。
「例の、高速艇による爆撃機は何とか間に合ったんですか?」
「2機の改造が終了したみたいよ。250kgの焼夷弾を20個積めるらしいわ。たぶん王都に向かう群れを狩ることになるでしょうね」
ということは、中継点は出城って感じになるのかな。
ヴィオラの走行甲板に積んできたゼロを加えれば円盤機の襲撃の穴を塞ぐ事も出来るだろう。
いよいよ、孵化が始まる。
俺達の開発した新型機がどれだけ活躍するかが楽しみになってきたぞ。