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V-126 後5日の距離


 大河を渡河したのは、5日前。

 俺達ヴィオラ艦隊は一路東に向かって進んでいる。

 丁度中間点辺りだ。後6日も進めばタイラム騎士団の中継点に到達する。


 そんな所まで来たんだけど、フレイヤ達は毎日食堂で映画鑑賞だ。

 一体、どれだけ買い込んできたんだろう?

 何回か、円盤機でラウンドクルーザーを行ったり来たりしてるから、その時にビデオのクリスタルを交換してるのだろうか?

 まあ、ここで不平を言わないだけマシだと思っておこう。


 そんな訳で、俺の隣にはエミーが座っている。

 紅茶を飲みながら何処までも続く荒野を飽きもせずに眺めていた。

 確かに、昨年まではまったく目が見えなかったからな。

 どんな光景でも新鮮に見えるのだろう。


 何も無い、たまに潅木が数本枝を伸ばす光景だが、巨獣がいなければ平和だな。

 カンザスの進む速さはそれ程速くは無いが、休み無く進み続ける。

 まだ、タイラム騎士団の中継点までは4千km程離れているのだ。


 「リオ様は、スコーピオが片付いた後はどうなさるおつもりですの?」

 「そうだね……。中継点を何とか普通の都市にしたいな。レイトンさんが温室を作っているだろう。それを更に増やして生鮮食品を自給したいね。穀物はまだ次期尚早って感じだな。遺伝子改造で緯度の高い地方でも麦が出来れば良いんだけどね」


 働く場があれば人が増える。そんな人口を賄うだけの食料調達が次ぎの課題になるだろうな。

 牧畜も良いのかも知れないが、その辺の知識は無いからな。レイトンさんは生物学にも詳しいと聞いたから、温室が軌道に乗ったら次ぎの目標としてやってもらうのも良いかもしれない。


 だが、それも急ぐ必要は無いだろう。

 将来的には自給体制を考えなくてはならないが、現状ではウエリントン王国から輸入が出来る。

 フレイヤの実家の繋がりで幾つかの農家から商会を通さずに買い付けることが出来ているのだ。

 こういうのは、長期的な信頼が大事だからな。

 今の恩義はそれを続けることで返せると思う。


 「エミーの知り合いがいたら中継点に呼ぶといいよ。出来れば畜産に造詣がある人物が良いな」

 「農業と、畜産ですね。実家がそのような関係であれば良いですよね」


 何人か心当たりがあるのかな?

 目が見えずとも、人を見る目は持っていたようだ。

 マリアン達の手腕は驚くべきものだったからな。


 「あら?……2人だけなの」

 

 カテリナさんの声だ。

 ラボから出て来たようだ。

 食事も取らずに何をしてたんだろう?


 「皆で食堂に行ってます。退屈ですから、ビデオを見ながら皆でワイワイやってるんだと思いますよ」

 「リオ君達は、そうじゃないわけね」


 俺達に微笑みながら少し離れたソファーに腰を降ろす。

 その手にはしっかりと缶ビールが握られていた。

 

 「スコーピオの弱点を調べてたわ。海生生物とはいえ空気中から酸素を得る事ができるようね。エラがあるのかと思ったら、体側に並んだ呼吸孔から空気でも、水でも良いから吸い込んで酸素分子のみを体に取り込むみたい」


 「それって、陸上で長期間活動出来るって事じゃないですか!」

 「そうなるわね。でも精々一月のようだわ。過去の例では孵化したスコーピオの災厄の期間は一月と書かれているわ」


 何らかの要因で陸上生活をそのまま続ける事が出来ないという事だな。

 

 「その理由をレイトンと衛星通信で討論してたのよ」

 「何か……」


 カテリナさんがタバコに火を点けて、考えられる理由を話してくれた。

 それによると、それ以上の成長に必要な物質を陸上で得る事が出来ないという結論に達したらしい。


 「成虫のスコーピオの表皮には、微量だけどコバルトが含まれているわ。ところが孵化した幼生の表皮には全く含まれていない。卵の中にも無かったわ。となれば、スコーピオの成虫の表皮に含まれるコバルトは海中生活で得たという事になる……」

 

 「奴等の前にコバルトをばら撒いたらどうなりますかね?」

 「見向きもしないと思うわよ。スコーピオのコバルトは海中に溶け込んだ元素を皮膚が取り込んでいるようね」


 厚さ5cm程の表皮の断面に分布するコバルトは一様ではなく、表皮に偏っているらしい。


 「大型になるには表皮の硬さを増す為にコバルト元素が必要。でも、コバルトは彼らにとって一定量以上は必要にならないようね」

 「あまり参考になりませんね……」


 そんな俺の言葉にカテリナさんが微笑んでいる。


 「そうでもないわよ。海中のコバルトイオンを測定することによりスコーピオの来襲を事前に察知出来るわ。水際で群れを減らせばそれだけ被害を少なく出来るわ」


 被害規模を小さくする事が出来るって事か?

 今は役に立たなくとも、将来的には群れは小さくなっていくだろうな。


 スコーピオの成体は、120mmAPDS弾をはじくらしい。

 だが、俺達が相手にするのは孵化したばかりの奴等だ。孵化10日までなら30mm砲で十分だし、20日までなら50mm砲で対応出来る。

 だが、とんでもない数が相手だ。

 榴散弾、集束爆弾それに大型の焼夷弾がどれだけの効果を与えるか。それに、俺達の使う弾薬をキチンと補給できるかが問題だな。


 「課題は兵站ですね」

 「エルトニアの高速輸送艦が総動員されるでしょうね。今も弾薬は昼夜兼行で作られてるわ。最初の10日が勝負なのよ」


 100万を越えるスコーピオをどれだけ減らせるかってことか。

 それは、獣機部隊をどれだけ集められるか、ってことになるのかな? だが、獣機の持つ30mm砲のカートリッジは5発じゃあなかったか? 予備を持つとしても1機の獣機が発射出来る弾丸は20発程度だ。新型獣機の方は、その3倍は持てる。

 弾幕でスコーピオの幼体に挑むんだから、数と数の勝負になりそうだ。


 新たに缶ビールを持ってくると、1つをカテリナさんに渡して、自分の缶のプルタブを空ける。

 一口あおったところで、端末を立ち上げるとスクリーンにタイラム騎士団の中継点の画像を映し出した。

 

 障壁で囲まれた中に3つの桟橋がある。

 停泊しているのは、中型のタナトス級のようだ。1つの桟橋の片側に2隻が停泊している。もう1つぐらい停泊できそうだから、桟橋1つの長さは1km弱って所だろう。桟橋の左右が使えるから、最大で18隻のタナトス級が停泊出来ることになる。中にはグラナス級や俺達のカンザス級も停泊することになるから、精々10隻ってことになるだろうな。

 

 「あの中継点の管理事務所と倉庫は地下にあるそうよ。いくら周囲を障壁で囲っても、破られてしまえばそれでお終い。それで、被害低減を図るために地下にしたみたいね」

 「やはり地上施設は最低限にしているようですね。問題は倉庫の大きさです。小さければ、資材の輸送がかなりの頻度で行なわれることになります」


 「これを見て! 100tコンテナが並んでいるわ。かなりの資材を集積してるように思えるけど?」


 北の隔壁沿って20個近くのコンテナが並んでいる。なるほど、コンテナをそのまま倉庫代わりにしてる。

 200tコンテナは無いみたいだ。数を揃えたかったのかも知れないな。

 南側にもコンテナが2個置かれている。

 弾薬用にしては数が少ない。何を入れてるのか気になるところだ。

 

 『南南東200kmを東に向かうラウンドクルーザーがあります。時速35kmで東に移動中です』

 「騎士団なのか?」


 『円盤機からの情報ではグラナス級の騎士団艦のようです。最大望遠で捉えた艦体ブリッジには騎士団の紋章があるようですが、明確ではありませんでした』

 「分ったら教えてくれ。たぶん目的地は同じの筈だ」


 「タイラム騎士団と同盟関係にある騎士団かしら。グラナス級となればかなりの騎士団よ。12騎士団に匹敵する大きさだわ」

 「それとも、俺達のように王国からの依頼で向かっているんでしょうか?」


 タバコに火を点けて、画像を切り替える。そこに映し出されたのは、2隻のラウンドクルーザーだった。

 大型のバージを3台曳いているのが、グラナス級と言う船だろう。その隣に見える艦はかなり小さい。ガリナムと同じ位に見えるな。


 「大型艦の装甲甲板に紋章が書かれてるわ。あの紋章は……、レイドラル騎士団に違いないわ!」

 「でも、レイドラル騎士団はスコーピオの襲来時にかなりの被害を受けていますよ」


 「それだけの蓄えがあったという事でしょうね。問題は戦機の数がどれだけ残っているかだわ」


 半減はしてるだろうな。あのツアーで戦機は10機あると誇っていたからな。中規模騎士団並みになっているのかも知れないけど、この一大事に参加しないのは彼らの矜持が許さないのかも知れない。

 ある意味、典型的な騎士団精神の持ち主って感じなんだろう。

 大型艦には88mm連装砲が3基乗せてあるし、それより小型の連装砲がブリッジの左右に2基ずつ付いている。

 小型艦の方は75mm連装砲と見える砲塔が3基付いていた。俺達の中継点の護衛用駆逐艦と同じに見える。


 「新たに2艦増えるのは望ましい限りですね。騎士団は大口径の艦砲は持ちませんから、数で補う必要があります」

 「そうね。軍用艦だと、1門辺りの弾数は精々数十ってところでしょうね。1日で使い潰してしまうわ。そしたら、王都に戻ることになるでしょうね。彼らの参加は精々3日おきってところになると思うわ」


 俺達の使う88mm砲の弾丸重量は20kg。野戦状態でも容易に自動装填装置に積み込む事が可能だ。だが、大口径砲の弾丸は100kgを軽く越える。

 積み込むには専用の荷役装置が必要になるそうだ。ちょっとした事なんだろうが、こんな時には大きな支障になってしまうな。


 「カンザスの主砲を88mmで止めといて良かったと思いますよ。105mmだと、一回り大きくなってしまいます」

 「そうね。それだけ重くなるわ。砲弾供給はリボルバー型のシリンダー装填だけど、20kgなら容易でも25kgならそれだけ負担が増えるわ」


 騎士団の団員には限りがあるし、艦の運用に必要な人員を全て揃えられるような騎士団は少ないとドミニクが言っていた。

 カンザスだって、ベレッドじいさんの部下達が2人一組で装弾を担当している。そんな連中が3組で全ての砲塔を担当してるのだ。まったく頭が下がる。

 出来ればもう2組ほど増やしたいが、中々ドワーフ族の人材を探すのは容易では無いらしい。

 

 待てよ、ドワーフ族の腕力に匹敵するトラ族ならどうだろう?

 だが、直ぐに問題に気が付いた。

 トラ族の体格は人間族を凌駕する。小柄ではないのだ。良いアイデアではあるが、実現性は小さいな。


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