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V-123 中継点の決算

 中継点にも春は訪れる。

 王都は季節感に乏しいが、この地は中緯度以北だから、季節を感じる事は出来る。

 とは言っても、雪原が消え去り僅かに緑が見える位の光景だ。


 母艦の改造は騎士団の専用桟橋で急ピッチで行なわれている。

 ガリナムの改造は何とか終ったけど、ラムジェットエンジンブリッジの両側に半ば埋め込まれるようにして設けられていた。

 何か、更に居住区が減った感じがするよな。

 だが、ガリナムのクルーは、そんな事を気にするような連中じゃなかった。

 さすが、メイデンさんの集めた仲間だ。地上高さ50mを時速600kmがそんなに魅力的なんだろうか? 俺だったら絶対に乗らないぞ。


 大型艦3隻が200tコンテナバージを5台曳き、ガリナムは100tバージを2台曳く。合計1700tの鉱石を運べる勘定になる。


 「今度はカンザスも皆と隊列を組めるのじゃな?」

 「だけど、何かあればカンザスとガリナムは別行動だから、その時は曳いてきたバージをヴィオラとベラドンナで曳かなくちゃならない。その時の速度は最大でも時速30kmになってしまう」


 「そのために、ヴィオラの多目的円盤機に40mm滑腔砲を1門装備させたでしょう。爆弾だって100kgを2つ積めるから、戦機5機と合わせれば迎撃だって可能だわ」


 俺の悲観的な言葉をカテリナさんが訂正した。

 出来れば、ゼロが2機あれば良いのだが、今は中継点で訓練の最中だ。


 「ヴィオラの偵察用円盤機は将来的にはゼロに更新するわ。それまではあの2機で頑張って貰わないとね」

 

 だが、量産型のゼロが製作に入るのは後2ヶ月ほど先の話だ。

 ゼロの試作機のプロモーションビデオを見た3カ国から製作出来た物から順次買取るとの返事も来ている。

 ヒルダさんが上手く根回ししてくれたらしい。儲けの3割は仕方が無いだろうな。

 その利益で、俺達のゼロを作るのだ。


 中継点を出航して2時間。艦隊は右に回頭して南北に並んだ。

 カンザスが北に位置し、ガリナムが南に位置取りを終えると、時速30kmで地中探索を行ないながら西を目指して進んでいく。


 「何となくのんびりした旅じゃな。我は、テーブルでゲームを楽しむぞ!」

 

 ローザはそう言うと子供達を連れて、テーブルに移動した。

 たしか、ニコラとロゼッタだったよな。良いお姉ちゃんが出来て良かったと思う。

 フレイヤにライムさん達も参加するようだ。


 テーブルで騒いでいる連中を俺達は微笑んで見ている。

 

 「エミーは一緒に遊ばないの?」

 「ここで、荒野を眺めるほうが好きですわ。白い季節が去って、少しばかりの緑が芽吹く。ここが私達の故郷になるんですもの……」


 そうだな。

 ここが故郷に違いない。

 俺達騎士団の共通の故郷がここにある。

 俺達に日々の糧を与え、そして厳しい試練を与える故郷だけど、この大地がある限り騎士団はなくなら無いだろうな。


 「雪解けで、かなりの騎士団が中緯度から上に向かっているわ。中規模以下の騎士団はバージターミナルの西に進出しているみたい」

 「となると、バージターミナルはさぞかし賑やかになるでしょうね」


 商会の事務所とコンテナが100個も用意されているなら、バージターミナルを中継点のように使って鉱石採掘が出来る筈だ。100tコンテナや50tバージを連ねて採掘してる筈だから、バージターミナルとの往復は中継点の倍以上になるだろう。


 「やはり、東の方での騎士団の動きは少ないんでしょうか?」

 「そうでもないわよ。昨年の山脈崩壊で鉱石露頭がかなり見付かったらしいわ。大規模な騎士団が艦隊を率いて向かってるわ」


 各騎士団の規模に見合った場所を目指しているってことだな。

 そこには未だ名前も知らない12騎士団の連中も向かっているんだろう。西で活動している12騎士団は半分にも満たない筈だ。


 「ところで、スコーピオの卵が孵化するのは今年なんですか?」

 「2年目で孵化する筈よ。何箇所かの卵を調査して状況を確認している筈だから、10日前には知らせが来るでしょうね」


 「でも、孵化したばかりなら、王国軍の獣機部隊も有効なんでしょう?」

 「孵化して10日までなら有効よ。30mmライフル砲は容易にスコーピオの体を撃ちぬくわ。

 でも、それが過ぎると戦機の55mmライフル砲でないと難しくなるし、20日を過ぎたら75mm砲が必要になるわ。

 最初の20日が大事なの。そして相手は10万を越えるのよ」


 いったい、エルトニア王国を襲ったスコーピオの数はどれぐらいいたんだ?

 1万を越えているなら、半数が雌で卵を産んだとしたら、その数は……。


 「スコーピオの雌は1体で20個程の卵を3回産むわ。襲来した数は推定で2万。その3分の2が雌なの……。だから、大陸の東岸には400万個近い卵が産み付けられたという事になるわ」

 「バローズ騎士団が卵の監視をしているようです」


 「エルトニア王国の特命を受けたのね。12騎士団の1つだから、彼らの呼び掛けに答える騎士団もいくつかいる筈よ」


 タバコに火を点けて彼らの任務を想像した。

 孵化する前に出来る限りの卵を始末しているんだろう。だが、その数はあまりにも多く、そして探すのに手間が掛かる。

 どう考えても、1割以上は見落とすことになりそうだ。

 カテリナさんの10万と言う数字は最低値と思っていた方が良さそうだ。

 10万以上100万以下というのが正しいような気がするぞ。


 「カテリナさんは気化爆弾という兵器をご存知ですか?……あるいは集束爆弾という兵器でも良いですが?」

 「無いわ……。説明して?」


 簡単に2つの爆弾の性質を説明する。

 気化爆弾は広範囲な破壊と二次的な酸欠で殺傷させる爆弾で、集束爆弾は空中でばら撒く子爆弾のようなものだ。

 ついでに、榴散弾についても説明した。榴散弾は使い方が難しいけど、大軍を相手にするなら効果が高い。


 「そういう兵器もあるのね。これも役に立ちそうだわ。プレートワームにも使えるなら3つの王国からも引き合いがきそうね」

 「威力は、それなりです。巨獣に効果があるかは疑わしいですが、獣機の30mm砲で対応出来るような相手ならかなり期待できます」


 俺の話を聞きながらドロシーと意見を交わして簡単な基本仕様と効果をシュミレーションしている。

 その結果を見て、ゆっくりとタバコに火を点けて俺を見詰める。


 「ドミニクには感謝しきれないわ。リオ君をヴィオラ騎士団に加えてくれたことをね。これはヒルダを通して王族の会議に諮る必要がありそうよ。

 悪い意味ではなくて、孵化対策の目途が立ったと言う報告になるわ」


 そう言うと、俺にキスをしてリビングを出て行った。

 カンザスの右舷にある自分の城に戻るのかな?

 

 「行っちゃいましたね……」

 「何か考え付いたのかな?」


 「さっき、説明した兵器の有効性を再度確認するのでしょう。私も聞いていましたが、そのようなコンセプトの兵器は聞いた事もありません。ですが、スコーピオの孵化直後の幼体ならば極めて効果的だと思いました」


 レイドラがそう言って、まだスクリーンに展開されたままのシュミレーション結果を眺めている。

 

 そんなそれほど先の話でもない戦の事を考えながら、俺達の鉱石採掘の旅は続いていった。

               ・

               ・

               ・


 初夏を向かえる頃。中継点の改修工事が形になって見えてきた。

 アリスとムサシのおかげだと思うな。

 俺の穴掘りが終って、現場監督から貰った臨時ボーナスは結構な金額だった。

 

 工事の連中は引き続き仕上げ作業に入るらしい。

 そして、それが終ると屋外のバージ用桟橋を新たに西に作るそうだ。

 全く仕事が途切れないな。

 獣機の連中も、継続した仕事を歓迎しているようだ。


 「土建が終れば、新しい桟橋での仕事があるらしい。兄ちゃんも、他の現場に行くんだったらここにいた方が良いぞ。何ていったって俺達が作ったような場所だからな。子供達にも自慢できる!」


 尊敬される親父さんになれるってことなんだろう。

 それも大事なことに違いない。それに子供達だって、桟橋に並ぶ騎士団の船を見るのは楽しみに違いない。王都では身近にこんな場所は無いからな。


 そんなある日、中継点の代官であるザクレム氏よりメールが届いた。

 早速添付書類をスクリーンに表示して皆で眺める。


 「現在の収支は黒字に成ってるわ?」

 「かなり工事に出費した筈なのにね……」


 「ドロシー。トトのデータを再確認してくれ!」

 『了解です。……データ照合中……データ確認結果その数値に問題はありません』


 合ってるってことか?

 収入の項目を調べてみると……。鉱石の取引税が予想を遥かに超えている。

 確か3%だったよな。もう少し下げるべきなんだろうか?


 「この資金で5カ年計画を考えてるのね。株主への還元を行なってもかなり残るわ。民生と温室造りを始めるようね」

 「いよいよ大型プールが出来そうじゃな。じゃが、新しく作った桟橋の中に作るらしいぞ」


 「ザクレム氏はヴィオラ専用桟橋はそのまま維持する考えみたいだ。共用化を考えると問題があるのかもしれないね」

 「治安対策でしょうね。確かにその方が問題は起こりにくいでしょう」


 温室は予想外だったな。

 だが、作ればそれだけ将来的な自給率を上げられるだろう。俺としても賛成だ。

 

 そして、次ぎの5カ年計画の1つに工場の誘致が上げられていた。

 これは俺も気が付かなかったが、ラウンドクルーザーの修理ってことだろう。簡単な修理は自前のドワーフ達が行っている筈だが、それは応急的なものだ。

 多脚式走行装置等はどうしても定期的な部品交換は必要になる。それを桟橋でやるわけにはいかないから、ドッグの建造は必要になるだろう。そしてそれに隣接した中規模の部品製造施設……。たぶん、これがザクレム氏の描く工場になるんだろうな。

 

 工場の概念と規模の説明を求める返信をしたためて、ザクレム氏の労をねぎらう言葉を添えた。


 「設備が次々と増えてゆくのう」

 「周囲に何も無いからね。ある程度自立出来ないと困ることになる。

 それに、この中継点を3つの王国は試験してるんだ。中継点の望ましい姿と管理の仕方についてね」


 そのノウハウが次ぎの中継点の経営に役に立つ。

 南に作ったバージターミナルにしてもそうなるだろう。


 王族達が何も期待せずに金を出す訳が無い。

 そこにはしたたかな腹つもりがある筈だ。

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