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V-122 種族と仕事に決まりはあるのか

 中継点は北緯50度を越えている。

 厳冬期の気温は、平均で-15℃前後。たまに-20℃を下回る時もある。


 とは言え、中継点は山腹の中にある。

 増設されて、今は3基になった核融合炉の廃熱を使った暖房で、ホールの内部気温は20℃を上回っている。

 

 「高緯度に近いと厳冬期の活動は厳しくなるわね」

 「吹雪の中の採掘は、周囲に気を使うからな。それでも、動体センサーで周囲3kmは何とか監視が出来るが、巨獣なら数分も掛からずに襲撃出来る距離だ」


 鉱石を見つけたら、東西南北にラウンドクルーザーを配置して、その中で採掘をすることになる。

 一応、偵察用円盤機を周回させてはいるが、直径100kmの範囲での監視を2機で行なうから、その監視を抜けて接近するものもいないとは限らない。


 冬季に活動する巨獣は殆どが肉食獣だ。チラノ系統だから、危険この上ない。

 

 という事で、2時間おきに俺達は交替でカンザスの走行甲板上で待機することになった。

 獣機達がバージに鉱石を積み込んでいるのを高いところで見るのはちょっと心苦しいところもあるが、この状況では仕方ないだろうな。


 『視程500mです。円盤機もこれでは巨獣を確認するのが困難でしょうね』

 「吹雪だからな……。一応、動体センサーが稼動しているけど、検知と同時に対応しないと間に合わないと思うぞ」


 そんな会話をアリスとしながら周囲を見渡す。

 白の世界だ。

 これで体色が白い巨獣だと、絶対に見分けが付かないだろうな。


 「兄様、交代じゃ!」


 元気な声がコクピットの中に聞こえてきた。デイジーが俺と交替するようだ。

 まあ、何かあれば艦内で待機しているムサシが直ぐにやってくるから任せておいてもだいじょうぶだろう。


 「じゃあ、後を頼んだぞ!」


 そう言って、デイジーの糧手を軽く叩いて交替した。

 アリスをハンガーに固定すると、長い通路を歩いてリビングへと戻る。

 

 ソファーに体を投出して、早速タバコに火を点けた。

 そんな俺に、ライムさんが温かなコーヒーをいれてくれた。


 コクピットは暖房されているが、周囲の荒地は氷点下だ。

 そんな光景を見ていると、何故か体も凍えて来るんだよな。

 熱いコーヒーは何よりもそんな気持ちを癒してくれる。


 「やはり、この季節は中緯度付近で鉱石を探した方が良いわね」

 「全くだ。中緯度に鉱石が無いわけじゃない。鉱石を採掘するたびに厳戒態勢では、ちょっと辛いな」


 そんな言葉をドミニクに返す。

 フレイヤとエミーもここで待機状態だ。

 イザとなればすぐさまここからブリッジ下部にある円盤機に移動して出撃出来る。


 カテリナさん謹製の円盤機だ。まだ、戦闘経験は無いが、イザとなれば頼らせて貰おう。

 

 「でも、結構あるのよね。やはり山に近い分鉱石が多いのかしら?」

 「とは言え、量は精々300t前後ですよ。もう少し、集積されていても良いような気がします」


 まあ、それがこの大陸の不思議なところだ。

 同じ鉱石が数km離れて同じ位の量が埋蔵されているかと思えば、1kmも距離が無い状態で全く別な鉱石があるんだからな。


 だが、これでバージも満載だろう。

 後は中継点に帰るだけだ。


 『円盤機より入電です。北西80kmに巨獣の群れが移動しています。南東方向に移動中。シュミレーションでは3時間後に距離5kmまで接近します』


 突然、ドロシーからの艦内通報が巨獣の接近を知らせてくる。

 まだ時間はあるな。

 それまでには、採掘が終るだろう。


 そして、予想通りに巨獣の最接近前にヴィオラ艦隊は回頭を始める。

 今回はバージをカンザスは曳いていないが、冬が終ればコンテナバージを引くことになりそうだ。

 核融合炉が4つは伊達ではない。

 かなり動力には余裕があるから、専用のバージを製作中だ。

 俺達が、バージを切り離して救援に向かう場合はヴィオラに任せることになりそうだが、ヴィオラの巡航速度を落とせば対応出来るとカテリナさんが言っていた。

 

 「最大のラウンドクルーザーが、バージを曳いていないのは問題よね」

 「春が来る頃には新型バージが出来上がるらしいぞ。それにコンテナの製作も順調らしい。南のバージターミナルは4つある桟橋の半数をコンテナ用にすると商会の連中が言っていた」


 「中継点の野外桟橋もそうなるの?」

 「西側をコンテナ用にすると言っていた。更に西に桟橋を作るのも視野に入れているらしい」


 利便性を彼らなりに理解したらしい。

 ウエリントン王国の基準に合わせて、自分達の工場でも製作を始めたと言っていた。

 流通用にするにはウエリントン王国の刻印がいるから、その時に僅かな税金と特許料を納めるらしい。

 

 「莫大な特許料がリオ公爵に流れてきます」

 

 自分の事のように興奮して商会の連中が教えてくれた。

 だが、それらは中継点の維持費の補填と新型獣機や機動兵器のゼロを製作するために使われてしまいそうだ。

 あまり、自分に還元されないのも考えてしまうが、やはり儲けは有意義に使ってこそ意味が出るだろう。


 「コンテナってリオが考えたのよね……。そんなに便利なのかな?」

 「便利だよ。それに携わらなければ分らないと思うけどね。例えば、今回運んで来た鉱石だって、コンテナにそのまま入れて保管出来るんだ。ニーズに合わせて中継点から出荷できるから、積み換えの手間が要らないし、コンテナを積むクレーンの治具も共通化出来るから、沢山の荷役用重機が必要じゃなくなるんだ」


 「その辺りに目を付けられるリオの先眼には驚くわね」

 「でも、そのおかげで中継点の施設が充実するんだから、感謝してるわよ」


 あまり、コンテナ流通を理解はしていないようだな。

               ・

               ・

               ・


 2回の鉱石採掘航行を終えると、5日間の休息期間だ。次ぎの航行を2回行なえば今度は10日間の休みを交替で取る。

 さすがに5日では、王都に行く事も出来ないが、10日間は高速艇で王都に向かう者達が殆どだ。


 俺達が王都に出掛けるのも、この長期の休みを1回おきに利用している。

 この前ドリナムランドに出掛けたから、今度の休みは中継点で過ごすことになりそうだ。

 また、穴掘りになるのかな?


 「我は、ニコラとロゼッタを連れてパトロールをするのじゃ。まだまだあの2人を巨獣狩りに使うには……な」

 「そうだね。ローザがグランボードをしっかり教えてくれたら俺達も安心だ」


 俺の言葉にローザの目が輝く。


 「そうじゃろう! 早速出かけるのじゃ」


 そう言うと、ソファーから立ち上がるとパタパタとリビングを走って扉から出て行った。


 「私は、パンジーの練習よ。エミー、行きましょう!」


 あの円盤機に名前を付けたのか?

 ヴィオラの親戚みたいな花の名前だったよな。

 だけど、あの性能でパンジーは合わないような気がするぞ。


 「私達は艦長同士の集まりがあるわ」

 

 今度はドミニクとレイドラがリビングを出て行った。残ったのは俺だけか?

 まあ、こんな時もあるだろう。

 明日からまた穴掘りを始めるから、今日はのんびりと過ごすのも良いかもしれない。


 そんな事を考えながら、温くなったコーヒーを飲む。

 ライムさん達もいつの間にか姿を消している。


 端末のスクリーンを展開してニュースを見る。

 ヴィオラのカンナイニュースだけど、ヴィオラ騎士団の艦船なら何処でも見られるものだ。


 「……と言うわけで、何時ものアナウンサーのお姉さんは休みを利用して王都に出かけたにゃ。その間は私がニュースを伝えるにゃ……」


 結構人気があるみたいだ。

 最初は聞いてるのが俺だけかと思ってたけど、中継点にヴィオラが入港するたびに、中継点で放送をホール内に展開しているらしい。

 定期的に王都に出掛けているし、友人達からの連絡等でニュースソースに事欠かないらしいから、ニュースに飢えた中継点の連中には嬉しい放送なんだろうな。


 ニュースの内容そのものは、王都のスポーツの結果や、3流のゴシップそれに最新載る流行を紹介している感じだな。

 目新しいものは特にないが、代役のネコ族のお姉さんが一生懸命、ニュースを紹介している姿に好感が持てるぞ。


 「あら? 何を見ているの」


 そんな事を言いながら隣にカテリナさんが腰を降ろす。

 

 「1人なんで、ちょっとニュースを……」

 

 と呟いた時に、しまった!と思った。

 ギギギ……と音を立てるようにカテリナさんを見ると、俺を見て微笑んでいる。


 まあ、期待してるんなら。

 ソファーから腰を上げるとミニバーの冷蔵庫からビールを取り出す。

 そしてカテリナさんを連れてジャグジーに向かった。


 2人でのんびりと星空を見上げながらビールを飲むのも良さそうだ。

 そんなまったりとした時間を2人で過ごす。


 「ゼロの試作機が出来上がったわよ。トラ族のパイロットを4人雇ったから、3日後にはテストが出来るわ」

 「今度もトラ族なんですか?」


 獣機もそうだが、トラ族はあまり騎士団への進出は行なわれていない。

 適正が無い訳ではないが、何故かどの騎士団もそうなのだ。


 「彼らにだって暮らしはあるわ。殆どが軍に流れているけど、軍だけでは吸収できないのよ。ネコ族のように他業種に進出するには、彼らの1歩が大事になるわ。新型であれば、彼らの進出にそれ程他の種族からのクレームは来ない筈よ」

 

 ある意味、既得職種と言えるのかな。

 そんな風に社会的に認知されるならば、他の種族がその職に就くには既存種族にある程度の遠慮が付き纏う。

 現在のトラ族がそんな遠慮によって社会に進出出来ないのであれば王国にとっても悲劇ではあるな。


 「意外と、王国内では仕事の世襲制が残ってるんですね」

 「基本的には自由なんだけど、そう考えない人が多い事は確かね」


 そんな事を言いながら、俺の目の前で乱れた服装を整えている。

 そして、俺の前から姿を消すと、直ぐにコーヒーのマグカップを持って現れた。


 「母艦のクルーも全てトラ族にするわ。メイデンも賛成してくれたし、良い艦長と操舵手を紹介してくれるそうよ」

 「メイデンさんの推薦ですか?」


 メイデンさん以上の過激な人じゃなければ良いんだけどね。

 だが、人材不足は俺達の唯一の欠点だ。

 ここは、メイデンさんの常識にすがろう。


 「で、とりあえずヴィオラ用に4機を続けて製作してるわ。それを使ってプロモーションのビデオを作ってヒルダに送れば、注文が殺到するわよ。

 場合によっては桟橋の下部にある戦機の整備工場を拡充する必要が出て来るわ。

 先行して、東にもう1ブロックの空間をベレッド達が作り始めたわ。

 10人程ドワーフ族が増えるわよ」


 「予算はだいじょうぶなんですか?」

 「例の薬の売り上げとコンテナシステムのパテントで十分お釣が来るわよ。母艦も新造出来る位だわ」


 そんなに俺は持ってるのか?

 実感はまるで無いんだけどね。

 


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