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V-121 過剰投与の後遺症?


 やってきた子供達にカテリナさんが3回目の無針注射器で薬液を注入してから5日がたった。


 MRIで脳内を検査を終えたカテリナさんが、俺達がくつろぐリビングにやってきた。

 既に2人の護衛が検査結果を知ろうと、テーブルで待機している。

 この結果で彼らの運命が変わるといっても過言ではないからな。


 カテリナさんがテーブル越しに彼らの前に座ると、2人はじっとカテリナさんの言葉を聞き漏らすまいと真剣な表情だ。

 

 「リオ君もいらっしゃいな。おもしろい結果が出たわよ」


 俺に向かっておいでおいでをしている。

 おもしろい話なら聞いても損にはなるまい。

 ソファーから歩いていくとカテリナさんの隣に座った。


 「結果から伝えるわ。戦機程度の機動は出来そうだわ」

 「「ホントですか!!」」


 「ええ、新たな脳内神経ネットワークが作られてるわ。ほぼローザと同じ部位だから、後は訓練すれば直ぐ動かせそうよ」

 

 2人の護衛騎士はほっと胸を撫で下ろしている。

 これで、彼らの王国内の地位も保証されたようなものだ。


 「ですが、おもしろいという話ではなくて、どちらかというと喜ばしい話なんでは?」

 「それをこれから話すわ」


 そんな前置きで話てくれた内容は……。

 初歩的なテレパス能力を得たらしい。

 それは2人だけの間でのみ可能だと言う。ちょっと中途半端だけど、2人だけの専用通信回線が出来たと思えば良いだろう。

 ローザを呼んで確認したらしいが、ローザとは通信が出来ないらしい。

 

 「低年齢で戦姫に乗ったのが原因かもしれないわ。別に悪い事じゃないから問題ないでしょう。相手が伝えてもそれを受ける意思がなければ通信は出来ないわ。それもおもしろい話でしょう?」


 「病気と言うわけでは無いんですね。ちょっとした副作用ではないのでしょうか? でも、それで戦姫を動かせるなら何の問題もありません」


 護衛の騎士はそう言ってるけど、当人達はどうなんだろう?

 

 「きっと秘密の話でもしてるんでしょうね。明日から、ローザが2人の面倒を見ると言ってたわよ」

 「まあ、ローザなら任せておいても安心だわ。貴方達は戦機に乗って離れて見ていなさい。不慮の事故が無いとは言えないわ」


 暴走はしないだろう。それより、倒れた戦姫を起こすのが役目になりそうだな。

 そんな、2人の護衛騎士はカテリナさんに丁寧に頭を下げるとリビングを出て行った。


 そんな2人が部屋を出たのを確認すると、直ぐにカテリナさんに顔を向ける。


 「ニードルの形成は上手く行ったのですか?」

 「ええ、ローザと同じ位ね。そこにあると分らなければ見付ける事が出来ないのは、ローザと同じ。やはり人間にはあの大きさが限度なのかしら。ローザと比べて投薬量は2倍だったんだけどね」


 やはり、薬液量を増やしてたんだな。

 となると、2人限定テレパスってのも、その辺りに原因がありそうだな。

 まあ、戦姫をそれで動かせるならあきらめて貰おう。

 

 俺達がソファーに移動したところで、ライムさんがコーヒーを皆に運んでくれた。


 「上手く行ったの?」

 「後は、ローザに任せるわ。とりあえずローザと同じように脳内にニードルが形成されたわ。あれで、動かなければ他の王国の戦姫を動かせる者はいないことになるわ。

 それより、これを見てくれない。

 ようやく、詳細設計が終了したわ。ラボで作り始めたから10日もせずに出来るわよ。カンザスへの搭載は新型獣機があるから出来ないわ」

 

 やはり母艦を作らねばならないのか。

 ラウンドクルーザーの値段は高いんだろうな……。

 そんな事を考えながら、スクリーンに映し出された機動兵器の3D画像を眺めていた。


 そうだ!

 確か駆逐艦を1隻貰ったんだよな。


 「ドミニク。駆逐艦の改修ははじめたのか?」

 「まだみたい。戦艦の受注で王都の造船所は大盛況よ」


 「なら、この機動兵器の母艦に改造しないか? 確かにガリナムがもう1隻あれば巨獣に対する安心感は倍増する。だが、メイデンさんのような人材がいないとガリナム級は使いこなせないぞ」


 「駆逐艦を母艦にするの?」

 「ああ、搭載数は8機。ブリッジを撤去して上面を全て装甲甲板に改造する。小さな操船デッキを舷側から立ち上げれば良い。2連装の40mm滑腔砲をブリッジの前後に付ければ防衛も出来るでしょう」


 「ちょっと待って。今の話を形にすると……」


 素早くカテリナさんがバッグから取り出したタブレットを操作しだした。

 スクリーンに映し出された王国軍の大型駆逐艦がたちまち姿を変え始める。

 

 そして俺達の前に姿を現したのは、まるでこれまでになかったラウンドクルーザーだった。

 

 「これが、新型のラウンドクルーザーなの?」

 「地上走行時速50kmで巡航できるわ。出来れば、ガリナム級の船がもう1隻欲しいわね。2連装の40mm滑腔砲2門で自衛は難しいわ。まあ、機動兵器で自衛する手はありそうだけど……」


 「ガリナムとまでは行かなくとも、反重力装置と搭載する融合炉の出力を上げれば巡航で時速60kmは出せるでしょう。逃げ足で巨獣から逃れる手はありますよ」


 俺の言葉を聞いて、皆が頷いている。

 作る気だな……。


 「それで、機動兵器の名は?」

 「やはり、『ゼロ』が良いんじゃないかと……」


 俺の言葉にカテリナさんがうんうんと頷いている。

 あまりネーミングセンスが無いからな。期待してたみたいだけどね。


 「『ゼロ』ね。中々良い名だわ」

 「そうですか?」


 まあ、喜んでくれるならそれで良しとしよう。

 試作機はヒルダさんが資金を出してくれる筈だから、少しスペックを落として3つの王国に販売しても良さそうだ。

 その資金で母艦の改造費とそれに搭載するゼロを作れる筈だ。


 「次々と新しい機体が出来ますね。騎士団が必ずしも戦機を必要としない時代がやってきそうです」

 「でも、それを騎士団が歓迎するかしら? やはり戦機を持ってこそ騎士団と言う考えは騎士団の誰もが持っているわ」


 フレイヤの話をレイドラが否定する。

 それも分かる気がするな。

 だが、それならそれで良いような気もする。

 新型獣機とゼロで、バージターミナルの守護をさせれば良いのだ。

 そして、王国への巨獣の襲撃には有効に作用するだろう。

 

 そして騎士団は昔どおりに採掘をすれば良い。

 バージターミナルが彼らの退避所として機能するだろう。

 それは、更なる西への進出を可能とする。

               ・

               ・

               ・


 何時ものようにエミーと一緒に穴掘りを続ける。

 かなりホールが大きくなってきたな。直径500m以上は欲しい所だから、まだまだ頑張らねばなるまい。

 エミーの方も、桟橋の北部に設けるラウンドクルーザーの回頭用ホールを作っている。

 

 アリスの足元では自走バージが忙しく動き回っている。獣機も4機が切り出した石材を自走バージへと積み込んでいた。

 2時間働いたところで、作業員の詰所で休息を取る。

 コーヒーを飲み、タバコが吸えることがありがたい。


 「だいぶ広がったな。兄ちゃんのおかげでだいぶ捗るよ」

 

 現場監督も機嫌が良いな。


 「でも、まだまだですよ。ここから3方向に伸びるトンネルはまだ未拡張ですし、桟橋だってまだまだ先です」

 「だが、形にはなってきたぞ。この間は西の桟橋に進出しようとする商会が見学に来てたからな。俺達にも酒を差し入れてくれた」


 「そうだったな。結構、差し入れが多くて嬉しい限りだ。家族もここに呼ぶことが出来たし、ここで仕事が続けばありがたい話だ」


 そんな話をしてきたのは工事用獣機の獣機士の親父さんだ。

 カンザスのリビングでは味わえない、現場の声がここでは聞く事が出来る。

 

 「また、鉱石採掘から帰って来たら手伝いますよ。俺も、それなりに稼がなくちゃなりませんし……」

 「あの姉ちゃんか? 中々の美人じゃねえか。確かに色々と入用だろうな。監督もその辺りは色を付けてやらねえと可哀相だぞ」

 

 「それは考えてるさ。上の方も気を使ってるようだ。なんて言っても戦機で工事をするなんて聞いた事がねえからな」


 獣機士達にそんな事を言って、酒を注いでいる。まだ15時でこれから一仕事なんだけどだいじょうぶなのか?


 そんな感じで俺なりに楽しんで仕事をしている。

 仕事をしただけどれだけ進んだか分かるのも何となく嬉しく思う。


 穴掘りから帰って、ソファーにのんびりと横になっていると、ローザがリビングに入ってきた。

 子供達に操縦を教えているらしいが、どれ位動くようになったんだろう?


 「どんな具合なの?」

 「あの2人ならどうにか戦機の初心者程にはなったのじゃ。今日はグランボードの乗り方を教えて来たぞ。時速20kmでリミッターを掛けておるから、暴走しても安心じゃ。一応念のためにバージターミナル近くの谷間で練習しておる」


 予想した以上に操縦出来るようだな。

 各国の国王も喜んでいるだろう。

 ローザ並みに巨獣に接近せずとも、レールガンの遠距離攻撃が可能なら万々歳だ。


 「おもしろいのは、1人で操縦するより、2人で一緒に動く方が動きが滑らかじゃ。れいのテレパスとか言うもののせいなのかも知れぬ」

 「なら、常に2人で行動させれば良いだろう。巨獣の前でグランボードから落ちるのだけは願い下げだ」


 「十分承知しておる。カテリナさんが固定治具を作ってくれたのじゃ。あれなら安心できるが、我には必要ないぞ」


 スキーのビンディングみたいなものだろう。

 俺は着けておいた方が良いと思うけどね。


 「そうなると、カンザスに搭載することになるのかしら?」

 「ローザの時と同じで、グランボードに乗って機動状態でレールガンを使えなければ載せるわけには行かないだろうな」


 「我もそう思う。まだまだ練習せねばなるまい。それよりカンザスから護衛騎士の戦機を降ろしておいた方が良いぞ。我等が出掛けても戦機がいるなら安心して練習ができるじゃろう」


 そんな訳で、俺達が鉱石採取の航行に行っている間は、子供達は自習って事になった。

 継続は力だから、10日も過ぎて戻ってくる頃には更に動きに磨きが掛かっているだろう。


 そして、次ぎの航行から帰って来た時。

 俺達を出迎える2機の戦姫がグランボードで出迎えてくれた。リミッターの設定を上げたのだろう。時速50km以上は出ているようだ。

 次には設定を時速100km程に上げねばなるまい。

 

 更に一月が過ぎると、グランボードの最大速度でもレールガンを扱えるようになった。

 カンザスから戦機を降ろしてヴィオラに搭載する。

 そして2人の戦姫をカンザスに搭載した。

 かなりの戦力上昇だな。これでレイトンさんの手伝いをしている新型獣機が搭載されたら、ちょっとした巨獣の群れならカンザスだけで対応出来そうな気がするぞ。


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