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V-120 戦姫の新たな騎士達


 4泊5日をドリナムランドで過ごし、俺達は中継点に帰る途中だ。

 カンザスのリビングには、ランドで購入した訳の分からないインテリアがあちこちに置いてある。


 そして俺も、観葉植物を数点手に入れた。リビングの窓際に飾るとさすがに見栄えがするな。急回頭しても、ひっくり返らないようにベレッドじいさんに対策を考えて貰う必要があるほど大きい物だ。

 小さいのは花瓶に入れてある。空気中の水分を吸収して育つらしい。養分はどうやって取るのかと疑問が残るが、その辺は後でレイトンさんに聞いて見よう。生物学の権威らしいからな。

 

 「カテリナ博士の話だと、2人程中継点にやって来るらしいわよ。戦姫を持ってね」

 「2つの王国には戦姫を動かせる者がいないと聞いたのじゃが?」

 

 「ヒルダさんに聞いた話だと、ようやく指を動かせる程度の人間がいるらしい。ローザの例もあるから、藁にもすがる思いなんだと思うよ」

 「確かに、カテリナ博士の薬は利いたのじゃ。たぶん動かせるようになるのじゃろうが……」


 ウエリントンは、他国より1歩先んじているからな。

 ここで、他の国の戦姫が動くとなれば、ローザの立場はどうなるんだろう?


 「まあ、上手く行けば機動砲台にはなるじゃろう。戦機並みに動かせれば、巨獣に脅える事も少なくなる筈じゃ」

 

 ローザは自分の事を振り返ってるようだな。

 ぎごちない動きで動かしていたが、今ではベラスコよりも上手く戦姫を操っている。

 だが、裏を返せばローザはそれなりに戦姫を動かすことが出来たのだ。

 殆ど戦姫を動かせない2人はどこまで動かせるようになるのか?

 初めて見た時の、ローザの動かす戦姫でも大成功ってことになるんだろうな。

 という事は、ローザの言う機動砲台的な使い方が望ましいのかもしれない。


 「また賑やかになるのかしら?」

 「それも、またおもしろいかもしれないな。ローザと年代が同じならローザも一緒に遊べるだろうしね」


 「我よりも幼い事も考えられるぞ。たぶん、王族の子供達全員を試したに違いない。本来なら、13歳で初めて戦姫のコクピットに納まるはずなのじゃ」

 

 まさか、10歳以下って事は無いだろうな。

 ちょっと心配になってきたぞ。


 新たに中継点にやってきた5人は、ラズリー達と上手くやっているようだ。

 様子を見に行ったエミー達が、「少しは休めるようになった」と喜んでいると俺に教えてくれた。


 代官となった、ザクレムさんも中継点の部署を確認しながら、仕事の内容を聞いて回っているらしい。

 先ずは全体像を確認するところからってことだろうか?

 

 「領主なのですから、私の事はザクレムと呼んで下さい。他者に示しが付きません」


 そんな事から、何時しか俺はザクレムと呼ぶようになってしまった。

 年長者にはそれなりの尊敬を払ってるんだけどね。

 確かに言われてみれば、雇い主が使用人を「さん」付けで呼ぶのはおかしいかも知れないな。


 そんな中、ベレッドじいさんが丹精込めて作り上げたガリナムの多脚走行装置が出来たようだ。

 それに交換したところで、俺達は鉱石探索に出掛ける。

 10日もしないでバージに鉱石を満載にして帰路についた。


 「巨獣をこの頃見掛けないわね」

 「良い事じゃないか。巨獣が出れば鉱石採取は中断だし、緯度が高いから大型巨獣が現れる可能性は何時だってあるんだから」


 そんな話をリビングのソファーでしている。

 中継点から西に1500km程の地点を探索していたのだが、巨獣の影も見えない。

 そして、やたらと鉱石が見付かる。

 ある意味理想的ではあるが、その理由を考えたくもなってしまうな。


 「鉱石が豊富だから、荒地に草も生えないんじゃないかしら? 当然、それを食べる草食性巨獣も少ない筈だから、大型肉食巨獣も姿を現さないと考えられるわ」

 

 カテリナさんの言葉に皆が納得してるんだけど、果たしてそうなんだろうか?

 どちらかと言えば、中緯度の荒地よりも草地が目立つような気がする。

 その草はかなりの有機金属を含んでいる筈だから、草食性の巨獣が摂取出来る許容量を超えてしまうのかもしれない。

 毒ってことになるんじゃないか?


 だが、草食性巨獣は土まで食べると言っていたからな。

 それに比べれば草が含んでいる有機金属の量はたかが知れている。何かもっと違う理由があるのかもしれないな。


 「まあ、退屈じゃったな。じゃが、中継点に戻れば例の2人がやって来るのじゃろう? 少しは退屈凌ぎが出来そうじゃ!」

 「でも、12歳とは驚きました。だいじょうぶなんでしょうか?」


 ローザは楽しみにしているし、エミーは心配そうだ。

 

 「ローザが面倒を見てくれるだろう。シリルは王族だし、ルーディは大貴族の縁続きだ。間違いなく王家に婿入りだから、俺達よりもローザに任せておいた方が良さそうだ」


 俺の話に、フレイヤ達が頷いている。

 ローザだって騎士団員ではないから、いずれは去っていくんだろう。

 新しくやってくる戦姫のパイロット候補生も同じ境遇だからな。

               ・

               ・

               ・


 俺とエミーそしてローザが座ったカンザスの会議室に、2人の子供達とその護衛である騎士が1人ずつ入ってきた。


 彼らの入室を待って、席を立つと小さいながらも自己紹介をしてくれた。

 俺達も、名前を告げて全員をテーブルに座らせる。


 「良く来てくれた。一応この中継点の領主なんだが、あまり自覚はない。リオでいい」

 

 俺の話の途中にライムさん達が飲み物を運んで来た。

 大人達にはコーヒーで子供達にはジュースとなる。

 

 「カンザスで生活して貰うことになるが、生憎と空いている部屋が少ない。護衛と同室になる事を許して欲しい。だめなら、ヴィオラの士官室を提供しよう」

 「問題ありません。リオ殿の近くで操縦を学べと国王から命を受けています」


 髪を肩で切りそろえた男の子が俺をしっかりと見据えて言い切った。

 もう1人の少女は、動かなければお人形のような感じだが、力強く頷いている。


 「もうすぐ、カテリナ博士がやってくる。ウエリントンで一番の科学者じゃ。きょうから3日間、毎日薬が打たれる。我も通った道じゃ。心配はいらぬぞ」


 投薬の日程は決めているらしい。

 上手く脳内に作用すれば良いんだけどね。


 「訓練はカテリナ博士の許可が出た後じゃ。戦姫は持参したのじゃろうな?」

 

 「『オデット』を運んで来ました」

 「僕は『リーゼル』です」


 「残念ながら動かせない状態で、カンザスに乗せるわけにはゆかぬ。お主達が、カンザスに戦姫を運び入れるのは、戦姫で巨獣を倒せるとリオが認めぬ限り出来ぬ。良いな」


 2人の子供が力強く頷く。

 護衛の騎士達も満足そうな顔をしているな。


 そんな所にカテリナさんが現れた。

 護衛の騎士が気付いて席を立つと、子供達も一緒に席を立つ。


 「そのままで良いわよ。直ぐに済むから片方の肩を出しなさい」


 子供達がTシャツから肩を出すと、バッグから取出した無針注射器を肩に押し当てる。

 プシュ!っと小さなエアが抜ける音がする。


 「はい、終ったわ。痛くはなかったでしょう。後2日間、午後に打つから公爵のリビングに来なさいね」


 そう言いながら無針注射器をバッグに仕舞い込んで空いている椅子に腰を掛けた。


 「カテリナ博士、それで結果は何時判るのでしょうか?」

 「ローザの時は……、10日程で脳内に新たな神経組織が形成されたわ。ローザですらそれ程掛かったのよ。そして投薬は3回が限度。それ以上投与しても効果はないと思う……」


 ある意味、ローザを実験体としたようなものだ。臨床試験をするわけにはいかないから、上手く行けばめっけものって所だろう。

 それでも、自信を持って使うところがマッドなんだよな。

 

 「それで、どんな戦姫なの?」

 「基本的にはウエリントンの戦姫と変わらないと教えてもらいました」

 

 やはり、3カ国の戦姫は同一型式って事だな。

 初期の惑星偵察に使われたものなんだろう。


 「腕と指を何とか動かせれば、戦姫として十分な働きが出来る。グランボードは戦姫の中からでも遠隔操縦が出来るだろう。戦姫の持つレールガンに匹敵する兵器は今の所開発されていない」

 

 「そうね。ローザの最初の動きと、グランボードについて一度見ておいた方がよさそうね。……ドロシー、頼めるかしら?」

 『了解です。ヴィオラの画像データからダウンロードしますのでそのままお待ち下さい』

 

 カテリナさん達に子供達を任せて、護衛の騎士をテーブルの端に呼び寄せる。


 「ここなら、タバコが吸えるぞ。そしてもう1杯コーヒーをどうだ?」

 「助かります。そして頂きます」


 男性の護衛騎士がバッグからタバコを取り出すと、女性の方も同じようにタバコを出した。

 俺の前に置いてあった灰皿を2人の前に移動して俺もタバコに火を点ける。


 「一応護衛任務だが、イザとなったら期待するぞ。カンザスは救援目的で作られたラウンドクルーザーだ。依頼があれば直ぐにでも出発する」

 「俺達の乗る戦機は通常タイプです。55mm砲ですが、何でもお申し付け下さい」


 「とりあえず、戦機をカンザスに搭載してくれ。カンザスの戦鬼2機はヴィオラに移す。護衛が護衛対象から離れるわけにはいくまい」

 

 俺の言葉に2人の騎士が頭を下げる。

 子供達はデイジーのグランボードを使っての訓練を興味深く見ている。

 戦機並みに動かせなくても、あれ位ならと思っているのかもしれないな。

 

 「ローザ様の操縦はあれ程だったのですか……」

 「ああ、最初はどうにかこうにか動かせる程度だった。あれでは巨獣に狩られてしまうという事で、あのグランボードという移動装置を作ったんだ。さっきも言ったがレールガンは強力な武器だ。単に移動しながら遠距離から放っても効果がある。

 だが、カテリナさんの新薬であれだけ動けるようになった。今では戦機以上の機動力があるぞ」


 俺の言葉に2人は目を輝かせている。

 果たして何処まで出来るかは分らないが、少しでも動けばそれなりに使えるんじゃないかな?


 「グランボードは時速150kmは軽く出るわ。パワーは戦姫から貰ってるから、燃料切れは無いの。落ちないように足を固定すれば荒地を自由に動けるわ」

 「戦機等は追い付けぬ。我に並ぶのは兄様のアリスのみじゃ」


 戦機の機動は精々時速40km程だ。4倍近くの速度が足を使わずに出せると聞いて子供達の顔がほころんでるぞ。


 動かせるようなら、王国の切り札になるだろうな。

 スコーピオの卵が孵化するまで後1年。

 何とか、それまでには動かせるようになってほしいものだ。



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