V-118 機動兵器
フロントカウンターに向かってフレイヤが手続きを始める。
俺達はホールに沢山あるソファーに腰を下ろして、そんな後姿を見ている。
もっとも、ローザとエミーは楽しそうに近くのカウンターにあったパンフレットを眺めている。
明日の計画でも話し合ってるのかな?
どうやら、手続きが終ったらしく、小さな袋を手にして俺達のほうにフレイヤが駆けて来た。
「東の6階よ。3部屋続きの特別室だから期待できそうね」
「東は初めてじゃ。何時もは西じゃったからな」
ローザにはちょっとした違いが嬉しいようだ。
手荷物を持って近くのエレベーターに乗り込む。
凝った内装のエレベーターだな。
緻密画で森の風景が描かれている。
まるで、森の中にたたずんでいるような錯覚を覚えるのは、かすかな木の香りが漂っているからなのだろう。
エレベーターが止まり、俺達は最上階のエレベーターホールに出た。
そこは一面のお花畑の風景だ。
花畑の中に道が続いているように真直ぐに通路が続いている。
「まぁ……」
エミーの呟きの後には。「何て綺麗」と続くのだろう。
そんな小道を俺達は歩いて行く。
ガラガラと音のするフレイヤのキャスター付きバッグがちょっと興ザ絵醒めなんだけどね。
15分程歩いたろうか?
少し疲れたころに、ようやく俺達の部屋に辿り着いた。
扉を開けると、まるでおとぎの国だ。
ソファーはキノコだし、テーブルは切り株を模している。
床の絨毯は緑で所々に草花が咲いているような模様が付いている。
「「素敵ね!」」
エミー達は感動しているようだ。
レイドラもまんざらじゃないようだな。うんうんと頷いている。
そんな部屋の片隅に俺達の大きなバックが並べられている。
「え~と、奥から、エミーとローザ、次ぎの部屋がドミニクとレイドラ、その次が私と、カテリナ博士で一番奥がリオで良いわね」
「ここに来るなら、ローザよりも詳しく案内出来るわよ」
そう言って、奥の部屋から出て来たのはカテリナさんだった。
やはり……。と言うような顔を皆がしているけど、そんな事は気にも止めないようだ。
「1泊だけよ。明日の夜にはクリスと代わるわ」
そんなカテリナさんの話を、ホッとした表情で聞いているのもちょっと大人気ないぞ。
早速、部屋割りに従って荷物を置いてくるようだ。
ぞろぞろと皆が移動していく。
そんな中、俺は例の件をカテリナさんに相談してみる。
「実は……」
「エルトニアから来たお妃様の話でしょう。ヒルダから連絡があったわ。私は悪い話じゃないと思うわよ」
「ですが、上手く行くんでしょうか?」
「何処まで動かせるかは分らないけど、最初の頃のローザ並みにはなれそうね。移動砲台の構想で良いんじゃないかしら?」
「それと、もう1つ。戦機を越える機動兵器の構想を持っているんですが……」
俺が話し終える前に両腕で首を押さえられた。
引き締めるように俺の首を持ち上げながら、早く話せと催促している。
それなら、早く離して欲しいぞ。
それでも、どうにか俺の首を絞めているのに気が付いてくれたみたいで、にこりと笑みを浮かべて手を離してくれた。
部屋に備え付けの冷蔵庫からビールを運んできて俺の前に置く。
自分でもプルタブを引いて空けると、一口飲んで俺を再度眺めている。
「機動兵器と言うからには、素早い動きをする兵器になるわね。……どんなコンセプトなの?」
「ヒントはカテリナさんから貰いました。ガリナムの改修で行なった反重力装置の改造、それに重ガルナマル鋼の多脚と爆轟カートリッジで放つ弾丸……。
どうです。これを円盤機に全て組み込んだとしたら?」
「小型水素タービンエンジンで発電すれば必要な電力は得られるわ。その排出ガスを推力にする事も可能ね……。なるほど、巨獣を倒すのに人型を取る必要なんて無かったんだわ」
「大型は無理でも中型以下なら、新型獣機以上の戦力になると思いませんか?」
俺の顔を真剣な表情で眺めてる。
ビールをあおると、タバコを取り出して火を点ける。
タバコケースを俺に向けてくれたから、1本頂くとカテリナさんが火を点けてくれた。
ふーっと煙を吐き出す。
「リオ君には驚かされるわ。利益の3割で良いかしら?」
「ヒルダさんが試作機の予算を出してくれるそうです」
俺の言葉に笑みを浮かべる。
「3人で山分けね。リオ君がアイデアを、ヒルダが資金を、そして私が形にするわ」
「問題は輸送です。出来れば高速艇を1つ手に入れられませんか? 母艦となるラウンドクルーザーが必要です。
運用方法も考えないといけないでしょう。出来れば8機積みたいところです」
「他に、アイデアは無いの?」
「後は、40mmの滑腔砲ですね。数門を束ねて回転させながら発射することで見掛けの連射が可能でしょう。無理にAPDS弾とせずに、通常の徹甲弾も使用出来るんじゃないですか?」
「巨獣に合わせてカートリッジを交換すれば可能性が出て来るわ。円形に束ねるのもおもしろそうね。名前も考えてるんでしょう?」
「ガトリング砲……。でどうでしょうか?」
カテリナさんが端末を取り出すと、早速仮想キーボードを叩き始める。
俺達の前にスクリーンが展開して、俺の考えが形となって現れた。
「簡単な仕様が計算出来たわ。可動時間は3時間程度。地上走行速度時速80km。最大飛行高度150m。その高さでの飛行速度は時速300kmね。
形は円盤機に見えるけど、多脚だからまるで昆虫に見えるわ。
これに、40mm滑腔砲を3本束ねたガトリング砲を2個付けると、こんなシルエットになるわ。20連マガジンを使わずに大型弾倉から電動給弾方式を取り入れるのは簡単だから、1個に100発は積めそうね」
「トリケラクラスなら群れで狩れますよ」
俺の言葉にカテリナさんが頷く。
「名前を考えときなさい。試作機の製作にそれ程時間は掛からないわ」
「あまりネーミングセンスはないんですけどね」
「それじゃあ、私はここで帰るわ。皆にはよろしく伝えておいて」
カテリナさんはそう言うと、扉の傍に置いてある自分のキャスター付きのバッグを持つと扉を開けて出て行った。
早速始めるんだろうか?
折角来たのに……。
「あれ! カテリナ博士は?」
フレイヤが荷物を整理して部屋から出て来た。
辺りを見渡して俺1人なのを不思議がっている。
「急用が出来たみたいだ。全く、疲れ知らずだよな」
「ホントね。でも、そこが博士のいいところだと思うわ。私達の方が年上に感じる時もあるもの」
まあ、それが良いところでもある訳だ。
興味のあるものに熱中する。それが若さの秘密なんだろうな。
肉体は老化防止が可能でも、考え方はそうはいかない。
どうしても、年齢を重ねる度に思考は膠着してしまうのだ。
だが、カテリナさんにはそれがない。何時までも斬新な考え方を持つことが出来るのだ。
そんな事を考えながら、のんびりと一服を楽しんでいると、皆が集まってきた。
夕食には間が有るし、かといって広い園内を楽しむには少しばかり時間が足りない。
「あら、母さんは?」
「ちょっとしたアイデアを披露したら、飛んで帰ったみたいだ」
「どんなアイデアを出したの?」
「アリス。再現できるか?」
『可能です。……部屋に備え付けの端末でスクリーンを展開してください。それで、説明します』
スクリーンが展開され、先程の俺とカテリナさんの話が、スクリーンでアリスによって再現される。
そして、スクリーンには風変わりな機動兵器の姿が現れた。
「なに、これ!」
「これを観たら……、帰ったんだ」
呆気にとられて、そこに映し出された機動兵器を眺めている。
「出来るの?」
「たぶん。カテリナさんもそのつもりだ。戦機の時代が終るかもしれないぞ」
それは、騎士団の終焉になるんだろうか?
たぶんそんな事を考えているんだろう。
だが、それは新たな俺達の旅の始まりでもある。
荒地を中級規模の騎士団に譲り、俺達はまだ見ぬ北の山脈に足を踏み入れられるんじゃないかな。
たぶん、ラウンドクルーザーも姿を変えねばなるまい。
それはどんな姿になるか、まだ分らないけど……。かなり変わった姿になるに違いない。
カテリナさんと考えるのもおもしろそうだな。
運用できる者は大勢いる。
どんな形になっても、俺達を退屈させる事はない筈だ。
「でも、これだけでは役に立たないわね」
『マスターは母艦を提案していました。この機動兵器の効率的な運用には、どうしても必要になります』
アリスの言葉が終ると同時にスクリーンが閉じられた。
「新たな時代が始まりそうね。騎士団の未来はどうなるのかしら?」
「また、新たな場所が出てくるわ。皆が辿り着けない場所が私達の居場所なのよ」
そこは俺達のシャングリア……。
見果てぬ世界……ってことになるんだろうな。
「まあ、我等の時代にはそれ程変わるだろうな。それは我等が孫、いや曾孫の時代になると思うぞ。その変化を作ったのが我等だと思うと愉快じゃが」
ローザの言葉がたぶん真実なんだろう。
いずれ変化は訪れる。
だが、それが急激に訪れるとは思わないな。
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ちょっと湿っぽい一時があったけど、今は食堂のテーブルを囲んでいる。
真中には色とりどりの花が飾られて、天井のシャンデリアは眩しいくらいだ。
食事は、……まあ、それなりって感じだけど、雰囲気に呑まれた客には丁度良いかも知れないな。
ワインが配られ、今日が誕生日のお客を皆で祝福するのも、こんな場所だからだな。
着ぐるみの妖精が現れ、フレイヤとローザはご機嫌だ。
カテリナさんなら抱きつきそうだな。
そんな事を考えてたら、ドミニクとレイドラが抱きついていた。しっかりとその姿をエミーが動画で撮影している。
騎士団内のHPにでも載せるのかな?
2時間にも満たない夕食を済ませると、急いで部屋に戻る。
今度はドレスパーティのようだ。
シャワーで軽く体を洗って、フレイヤ達がドレスに着替えてメイクを始める。
ローザも出掛けるようだ。
何と言っても、老若男女が楽しめる場所だからな。
だけど、王国のドレスってビキニの上にシースルーのドレスなんだよな……。
俺は騎士団の礼服だから、直ぐに終る。メイクは無縁だしね。
刀は、マントでぐるぐる巻いておく。一応持っているのが礼儀だそうだ。ガンベルトを着けて準備は完了だ。
備え付けの冷蔵庫から、ビールを取って切り株のテーブルにおいた。
キノコのソファーに座ると、マントを切り株においてビールのプルタブを開ける。
まだまだ、フレイヤ達は出てこない。
ドレスパーティは20時からだから、まだ30分以上ある。
俺はのんびりとタバコを楽しむことにした。