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V-114 王宮の離宮


 ヴィオラ騎士団員は、2つのグループに分かれて10日間の休暇に入っている。

 今回、俺達は後の組みだ。

 

 リビングのソファーで皆が休みの予定を組んでいるけど、のんびり過ごすって選択肢は無いんだろうな。

 まあ、フレイヤ達に任せておけば良いだろう。


 そんな事を考えながら、タバコを楽しんでいた時にふと気がついた。


 「ドミニク、ラズリー達は俺達みたいに休暇を取ってるんだろうか?」


 俺の一言で、ワイワイ騒いでいた連中がピタリと静まった。

 全員の顔が俺に向かって動く。


 「分らない。……早速、確認するわ」


 そう言って、ドミニクは携帯を取り出した。

 たぶん取っていない筈だ。

 今回の休みは、彼女達の補佐と言うか、代理を見つける旅にすべきじゃないかな。

 先行して、ヒルダさんに連絡すれば使えそうな人材を紹介してくれるだろう。


 「リオの心配は当ってたわ。至急手配しなくちゃならないわ」

 「ヒルダさんを頼っては? エミーが頼めば嫌とは言わないと思うけど……」

 

 今度はエミーが携帯を取り出す。

 しばらく話し込んでいたけど、顔がほころんできたからヒルダさんは了承してくれたに違いない。


 「4人紹介してくれるそうです。そうなると、少し日程を見直さなくてはいけませんね」

 

 人材発掘が先だと思うけどな。

 何となく、エミーもヴィオラの風土に毒されてきたような気がするぞ。


 「言い出した兄様と姉様に任せて、我等はこっちに向かえば良いじゃろう。3日目に合流すれば良い」

 

 ローザの言葉にエミー以外の連中が頷いてる。

 俺と、エミーで対処するのか?

 思わずエミーと顔をあわせると溜息をついた。


 まあ、そんなことで俺とエミーで面接をすることになってしまった。

 本当なら、ラズリー達の方が良いのかも知れないけど、忙しそうだからな。


 「……と言う訳で、遅まきながら代理者を集めてくる。簡単なパンフレットと条件を纏めてくれればありがたい」

 「喜んで纏めます。明日まで待ってください」


 嬉しそうにラズリーがスクリーンの中で微笑んでる。

 早く気が付くべきだった。

 少なくとも2人ずつ増やせば交替で休む事も出来る筈だ。


 「自分達のことばかりで、中継点全体を見ておりませんでした。申し訳ありません」

 「エミーが気にする事はないよ。本来は俺の仕事だと思う。穴掘りにかこつけて見逃してたんだな。反省するしか無さそうだ」


 自分達の仕事の範囲を明確にしてるのは良いんだけど、確かに全体を見ているものがいないのも確かなんだよな。

 本来は領主の仕事に違いないが、俺は至って庶民的な人物でしかない。経営学を学んだような人物が欲しくはあるな。

 ラズリーとマリアンの仕事を統括できる人物ってことになる。

 名目的には俺の代理者ってことになるのかな?

               ・

               ・

               ・


 「代官を置く訳ね」

 「「「代官?」」」


 夕食を皆で取りながら、ラズリーとマリアンの統括者の話を始めると、カテリナさんが呟いた。

 全員が思わず、スプーンを置いてカテリナさんを見てしまった。


 「そんなに驚く事は無いわ。領地を持つ貴族の大部分はその経営を代理者に任せているわよ。でないと、好きなことが出来ないでしょう」

 「確かに、王宮付近に殆どの貴族が暮らしておるのう。自分に領地を見たことが無い者もおると父様が嘆いておった」


 それも凄い話だが、専業的に領地経営を任せられるのであれば、かえって安心できる。

 マクシミリアンさんの醸造所も意外と、代官制をとってるんじゃないか?


 「兄様、ついでに母様からその辺の事も聞いてくるが良い。変に公表すると、ぞろぞろやってくるぞ。代官は貴族の次男、三男が多い。上手く就職口があれば安泰じゃからな」

 「貴族でだいじょうぶなんでしょうか?」


 「嫡男以外は悲惨なものよ。娘なら結婚と言う事もあるけど、自分で暮らしを立てなくちゃならないわ。子供達を分け隔てなく王立学府で学ばせるまでは貴族の親達は義務として行なうけど、学府を出てから先を保障出来る親は少ないわ」


 という事は、嫡男以外は懸命に勉強するんだろうな。

 そして、その学歴を元に就職活動に励むことになるわけだ。


 「出来ればヒルダに選んで貰いなさい」


 カテリナさんがそう俺に知恵を貸してくれた。

 俺には無理だと思ってるんだろうけど、正しくその通りなんだよな。

 皆が頷いてるのも、ちょっと寂しいものがあるぞ。

 

 そんな事があって、数日後に俺達はカンザスで王都に向かう。

 今度は、王族のプライベートアイランドは使わないから、変な邪魔者が入らないとは思うんだけどね。

               ・

               ・

               ・


 王都の郊外にある離着陸場に、カンザスが降下を始める。

 やがて軽い振動が伝わり着地した事が俺達にも分った。

 カンザスの乗降口にタラップが接続されて、乗組員が次々と無人走行車に乗り込んでいく。


 「それじゃあ、2日後にホテルを訪ねること。荷物は私達が運んでいくから、リオはバッグ1つで良いわね」

 

 フレイヤがそう言うとドミニク達と一緒に無人走行車に乗り込んで市街に走り去った。


 「さて、俺達も出掛けようか?」

 「そうですね。会食が待ってますよ」

 

 突然に訪ねることになったのだが、ヒルダさんは機嫌よく出迎えてくれるようだ。

 とは言え、場所は王宮ってことだから、俺達は騎士の正装に身を固めている。

 マントはクルクルと丸めて、それに刀を差し込んでおいた。これを持っていれば、基本的には騎士の正装と言うことになるらしい。

 まあ、暑いからねぇ……。


 タラップに乗ると、そのままゆっくりと床板が下に降りていく。

 便利ではあるが、少しは体を動かさないと人間がダメになりそうだな。

 

 タラップを降りると、1台の高級車が止まっている。

 無人車ではなく、運転手が付いているぞ。


 「リオ公爵殿ですね。ご案内いたします」


 車の前で俺達を出迎えてくれた紳士が、扉を開けて俺達を中に乗せてくれる。キャリーの付いたバッグは車の後ろのトランクに入れてくれた。

 紳士が助手席に乗り込むと、車がゆっくりと走り出す。

 何か、VIP待遇に思えるな。

 ちょっと相談に来ただけなんだけどな。


 良く見ると、運転手は車を運転してはいないようだ。

 握っているのはハンドルではなくて、マシンガンだぞ。運転手と思った人物は警護隊員らしい。

 治安は良い筈なんだが、万が一を考えてるのか?

 まあ、エミーは確かに王女様だから、ある程度の護衛を考えているのかも知れないな。


 摩天楼の区画を出ると、少し低層の建物が建ち並び始め、それと共に緑が多くなる。

 ちょっとした、公園区画なんだろうか?

 そんな事を考えていると、建物が全く見かけなくなった。広葉樹の森が道路の両脇に広がっている。


 やがて、道路の正面に大きな建物が見える。

 緑の中の白亜の殿堂だな。空の蒼と周りの緑、そして建物の白が際立って、まるで絵本の中の風景のようだ。

 

 エミーが目を真ん丸くして正面の風景を見てるけど、目が見えるようになってから初めて見る光景なんだろうな。


 「こんな場所だったんですね」

 「ここで暮らせないのが残念だと思うよ」


 「貴族の方々は、この光景を少しでも似せようと努力していますよ。でも、やはり規模が違いますからね」


 確かにそれは理解出来るな。

 俺達の領土では諦めざる得ない気はする。レイトンさんに期待はしているが、気候風土も違うし、何より水が貴重だからな。


 前方に守衛所が見えてきた。

 やはり警戒がないというのもおかしな話だからな。

 ここで俺達の身分が確認される。

 と言っても、騎士団員のブレスレットと騎士である証の指輪。そして俺の場合は公爵としての指輪がプラスされる。


 「問題ございません。ヒルダ王妃は第2離宮でお待ちしておられます」

 

 そう言って、警備兵が守衛所に携帯で連絡すると、道路を塞いでいた頑丈な門がスライドしていく。

 その先数十mに十字路が見えた。

 大きな施設だから、道は1つでは無さそうだ。


 車が再び走り出す。

 十字路を右に曲ると、その先は大きくカーブして森の中へと続いていく。

 

 「さすがに王宮となると大きいな」

 「それが、皆の悩みの種でして……。王宮を取り巻く広大な森は1辺が15kmの正方形です。その中に建物が点在していますから、普段はイオンクラフトで皆さん移動してますよ」


 空いた口が塞がらない話だ。

 ひょっとして全く会う機会もない使用人同士ってのもあるかも知れないな。


 「見えてきました。あれがヒルダ様がお住まいの第2離宮です」

 

 前方に見えてきたのは、どう見てもパルテノン神殿だぞ。

 あれが離宮なのか?

 そして、第2と言うからには第1もあるはずだよな。

 

 「離宮って、いったいいくつあるんですか?」

 「全部で5つです。後宮は1つですけれど……」


 作れば良いって物じゃなさそうだけど、離宮でこの規模なら、道路から見えた王城はどれだけ大きいんだろう。


 離宮の前に作られたロータリーに車が止まると、待っていたネコ族のお姉さん達が俺達を離宮内に案内してくれた。

 キャリーバッグはそんなお姉さんの1人が後ろから持ってきてくれる。


 数段の横にやたらと長い石段を上って、離宮内に入る。

 大きな屋根を支える柱は石造だし、エンタシスだぞ。地球からの移民だから古い記録に残された建物を再現したのかも知れないな。


 玄関を入ると体育館のようなホールが作られていた。左右に2階への階段が作られている。

 そんな階段を上っていくと、2階の小さなホールに着く。どうやら、どちらの階段を上ってもここに着くようだ。

 建物の奥に向かって広い通路が延びている。

 ふかふかの絨毯を踏みながら歩いて行くと、お姉さんが1つの扉の前で立止まった。


 「ここがお部屋になるにゃ。会食は20時からにゃ。その前にお茶をお持ちするにゃ」


 そう言って、俺達を部屋に入れてくれた。最後に部屋の中へと、キャリーバッグを運び込むと、俺達2人に頭を下げて部屋を出て行った。


 「大きな部屋だね。カンザスのリビング並みだ」

 「招待するのは限られた貴族のみ。自然とそうなるのでしょう。私の昔の部屋はこの離宮の1階にありました。もう、2度とこの離宮には戻れないと思っていたのですが……」


 戻ってくるようでは困るからな。

 昔の部屋も整理されているに違いない。元々エミーはあまり衣装を作らなかったと聞いている。

 世捨て人のような生活だったんじゃなかろうか?


 窓際のソファーに座って外の森を眺めようとしたら、そこには大きな池が広がっていた。水鳥達が水草の茂った水面を泳いでいる。


 カーテンを開けて、エミーがそんな風景をぼんやりと眺めている。

 本来なら、この風景を見知っている筈だ。

 だが、エミーがこの風景を眺めるのはこれが初めてになる。

 ヒルダさんが俺達を招いてくれたのは、エミーに自分が育った場所を見せたかったからに違いない。


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